Summary report, 2–15 December 2019
Chile/Madrid Climate Change Conference - December 2019
直前にサンチャゴからマドリードへと開催場所が変更されたが、2019年チリ/マドリード気候変動会議は、主に第6条(市場及び非市場メカニズム)へのガイダンスなど、2,3の重要問題の交渉終了の期待感と共に、開会された。この他の重要問題には、気候変動の影響に伴う損失及び損害に関するワルシャワ国際メカニズム(WIM)のレビュー及び資金の問題が含まれた。しかし、そううまくはいかなかった。人々や科学の要求と、このプロセスで実現可能なものとは乖離し、未来志向の国と、過去に注目する国との分断もあり、チリ/マドリード気候変動会議は、40時間近く会期を延長したにも関わらず、結局、期待に応えられなかった。
第2週では、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)締約国会議の第25回会合(COP 25)の議長でチリの環境大臣のCarolina Schmidtが、ハイレベル協議を開催、保留された政治問題及び技術問題での進捗を図った。閣僚らとCOP議長職メンバーとの二者間協議では、議題が次の2つの路線に分けられた:1つは、第6条問題、もう1つは、WIM、対応措置、総体的成果の決定書(1/CP.25)である。
12月14日土曜日の夜、これらの保留問題に関する閣僚主導の議論が長々と続き、今回のCOPはUNFCCCの歴史でも最も長い会合となった。12月15日日曜日、多数の参加者及びオブザーバーは、国連事務総長のAntônio Guterresを含め、採択された少数の決定書、及び「チリ/マドリード行動の時」と称する文書での野心に関する表現に対する失望感を表明した。数か国は、多数の議題項目に手順規則草案の16項が適用される予定と指摘した。この16項は、締約国が議題の審議を終了できなかった場合に適用され、その多くは、内容で意見が一致しなかった場合、もしくはプロセスが進行中の場合である。この16項が適用された場合、その議題は、自動的に次の会合の議題書に含まれる。
各国は、第6条に関し、合意に達せなかった。その文書は、2020年6月の補助機関会合に回され、他にも数件の議題が未解決のまま残された、この中には、共通の時間枠、長期資金、パリ協定での透明性問題、適応委員会の報告、専門家諮問グループの報告が含まれた。
本会合で結論に至った議題には、WIMのレビュー、ジェンダー、そして地球環境ファシリティ(GEF)及び緑の気候基金(GCF)に対するガイダンスなどの資金関連問題が含まれた。さらに締約国は、それぞれチリ/マドリード行動の時と称する3つの決定書も採択した。このうち、パリ協定に関係する決定書では、野心引き上げを特に求めていないものの、締約国の気候野心引き上げの検討が示唆された。
COP 25の出席者は、総勢26,700名を超え、そのうち政府関係者は13,600名、オブザーバーは1万名近く、メディアは3千名を超えていた。
チリ/マドリード気候変動会議では次の会合が開催された:
- UNFCCCのCOPの第25回会合(COP 25);
- 京都議定書締約国会議の第15回会合(CMP 15);
- パリ協定締約国会議の第2回会合(CMA 2);
- 実施に関する補助機関の第51回会合(SBI 51)及び科学的技術的助言のための補助機関の第51回会合(SBSTA 51)。
チリ/マドリード気候変動会議の簡易分析
2019年12月15日日曜日の午後、チリ/マドリード気候変動会議の終わりを告げる槌が打たれ、半ば空になったプレナリー会場を後にする参加者の間には、隠しようもない失望感が漂っていた。多くのものが実質的な「勝利」と言えたのは、せいぜい損失と損害及びジェンダーの成果ぐらいであった。他のものは、温室効果ガス排出量の緩和に関する市場メカニズム及び非市場メカニズムを扱う第6条で成果は無かったが、これは、大きな抜け穴がある、特に環境十全性で抜け穴がある決定をするよりましだったと主張した。しかし、これらの成果は、今回の締約国会議会合にかけられた期待感を、あらゆる面で下回るものであり、世界にシグナルを送るという観点からすると、大きな問題となるのは間違いない。
では、失望感は何が原因だったのか、それを分析するのは、さらに難しい。COPは、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)プロセスの継続について、比較的穏健な野心を抱いている:主な課題は、パリ協定発効の2020年を前に、パリ協定のルールブックの最終決定だとしている。同時に、この会議は、これまでの進捗状況を省みる時でもあり、さらに全ての国によるポスト2020年期間への参加に必要なメカニズムを、評価する機会でもある。この点、一定の進捗はあったが、最終成果は、ほとんどのものが否定的な反応を示し、グタレス国連事務総長さえ、「国際社会は、(中略)気候危機に取り組む重要な機会を失った」と宣告した。
この簡易分析では、COPで橋渡しを試みた、2つの大きなギャップを考察する。最初のギャップは、「気候の非常事態」への野心的な政治対応を求める、科学者社会及び市民社会と、UNFCCCの多国間主義の限界とのギャップである。第2のギャップは、パリ協定時代の未来を見据えるものと、過去の実施及び野心の記録に注目するものとのギャップである。これらのギャップの存在は、今回の会合成果を弱め、パリ協定発効の2020年のCOP 26にも影響を及ぼす。
期待感のギャップ
市民社会は、COP 25の閉会時、次のように締めくくった:「COPは、人々と惑星を裏切った」と。彼らの評価は、「外の世界」の期待感に比したものだったが、そもそもCOP 25は、そのような期待感に応え得るものだったのか?
毎年の気候変動交渉に対する一般の期待感は、マスコミ報道が増す中、爆発的に高まり、「気候の非常事態(Climate Emergency)」が多くの国で報じられる昨今、さらなる高まりをみせている。温室効果ガス排出量は、2018年に最高記録に達したが、UNFCCCの報告書によると、経済移行国を除く附属書I諸国の排出量は、1990年から2017年の間、1.8%減少したに過ぎない。2019年9月の国連事務総長気候行動サミットでは、国家決定貢献(NDCs)を強化する意図があると67か国が発表したが、これら諸国は、世界の温室効果ガス排出量の8%を占めるに過ぎない。9月以降も発表する国が増えたが、EU以外の主要経済国が全て沈黙していることは、衝撃である。
2019年は、科学から暗澹たるメッセージを受けた年でもあった、気候変動に関する政府間パネルの最新の報告書によると、気候変動の影響は、過去の予想よりも深刻なものであり、現在の行動では、世界の平均気温の上昇を全体合意の2%を大きく下回るレベルで抑制するような道筋には立てない。この科学的な意見の一致から情報を得、力づけられた市民社会からは「道筋の変更と野心の引き上げ」を求める声、特に排出削減を求める声があがり、この一年間、高まり続けた。若い活動家は、他の組織の構成員を引き込み「気候ストライキ」の頻度増加に成功した。会議半ば、50万人もの人がマドリード市街に繰り出し、さらなる野心をと、COP 25の交渉担当者たちに直接呼びかけた。
とはいえ、1回のCOPでは、世界の野心にも、気候体制に係るものたちの野心にさえも、応えられないのが現実である、特に締約国が設定したマンデートに拘束されるものは、なおさらである。UNFCCCプロセスの観点からすると、COP 25は、COP 26に情報を提供する確固とした一連の決定書を打ち出すことが、漠然と期待されていた、しかもその議題項目のうち緩和関係は極めて少数で、野心を論じる項目は皆無とみられていた。
チリのCOP議長職は、野心引き上げに正式な注目がなされていない問題を取り上げようと試みた。同議長職は、このCOPで、科学、農業、資金、運輸、エネルギーなど多様な部門の閣僚を招集し、会合した;各会合では、閣僚たちが、より野心的な気候プレッジ策定に、どれだけ貢献できるかが焦点となった。非国家行動者たちの役割も、かなり注目を集めた。グローバルな気候行動のマラケシュ・パートナーシップは、今回の会合期間中、多様な題目別の会合で、気候行動年鑑に書かれた結果を提示した。COPの成果である決定書では、その価値が認識され、ハイレベル・チャンピオンのマンデートを2025年まで延長し、パートナーシップのさらなる改善を求めることで、このパートナーシップの未来を強固なものにした。正式な交渉の議題項目からは著しく外れているが、これらのイニシアティブへの注目は、UNFCCCは野心を議論できるとするシグナルを、世界に広めるものとなろう。
しかし、結局、そのような追加努力も、マルチラテラルな気候プロセスの限界を補えるものではない。パリ協定の下では、国の野心度は国レベルで決められる。より多くを行うよう締約国を説得できるのは、倫理道徳に基づく、ソフトな影響力ぐらいしかない。COP 25では、これらの限界が、締約国自体の定義づけで、議題に入れられた。このCOP 25の控えめなマンデートは、各国の国益に基づく交渉を経て、何年も前に定められたものである。
この会議の議題に通じている交渉インサイダーは、この会議の成功は、次の2つの項目を実現できるかどうかにかかっていると述べた:損失及び損害、及びパリ協定第6条の市場ベース・メカニズムの2項目における十分かつ確固としたガイダンス。損失及び損害は、脆弱な諸国が確信のもてる支援を必要としているという問題である、特に排出量の多い国の排出削減野心が低いという事実からすると、これらの脆弱な諸国は、増大し続ける気候変動の影響に向き合うことになる。この点、最終成果は、非公開の議論で出てきたものよりはましだった。気候変動に伴う損失と損害に関するワルシャワ国際メカニズムは、今や、損失と損害の回避、最小化、対応のためのサンチャゴ・ネットワークという形で、一部のものが「実施の武器(an implementation arm)」と揶揄するものを備えることになる。このネットワークは、たとえば、災害リスクの軽減など関連分野の組織を招集、脆弱な国に技術支援を提供する。さらにこの決定書は、行動と支援に関する新しい専門家グループを設立、緩慢に発生する現象(たとえば海水面上昇)に関する専門知識へアクセスしやすくなるほか、その作業については、多国間の開発銀行などUNFCCC以外の組織を通して入手可能と噂される資金にアクセスしやすくなる。開発途上国にとり重要なことは、この決定書の数か所で、損失及び損害活動のための資金援助及び技術支援の規模拡大に言及していることである。
第6条に関し、締約国は、依然としてある本質的な意見の食い違いを議論しようとマドリードにやってきた、この意見の食い違いには、京都議定書の下で発生した「繰り越し(carryover)」クレジットをパリ協定のプレッジの計算に入れるかどうか、入れる場合は、どのように入れるかが含まれる。この問題及び他の基本設計問題の多くは、どうすれば市場メカニズムが野心のインセンティブになれるかという問題に絞られる。結局、交渉は、合意に達せず、この項目は、2020年6月の会合期間内会議で審議される予定である。多くのものは、おそらく直感には反しても、この成果はこれに代わる別な結果よりもましだと考えた:別な結果とは、すなわち、国際的な炭素市場の環境十全性を損ないかねない抜け穴つきの文書の採択である。COPの最終日、31か国のグループは、「国際的な炭素市場での十全性と高い野心のサンホセ原則(San Jose Principles for High Ambition and Integrity in International Carbon Markets)」で、これら31か国の第6条のビジョンを設定した、これは世界的な排出量の総体的な緩和の実現を規定し、排出削減量の二重計上を回避するいわゆる「対応調整(corresponding adjustments)」の必要性を論じ、プレ2020年ユニットの使用を禁止するもので、いずれも第6条の下での強力な環境十全性を支持する国にとり、重要な要求事項である。
2020年及びそれ以降のギャップ
パリ協定は、2020年、つまり、ほんの数日のうちに発効する。一部のものにとり、COP 25は、パリ協定が統治する新しい時代の入り口である。他のものにとっては、COP 25は、過去の行動及び無為無策が将来を形作り続けることを、考える時でもあった。
過去のストックテイキング(進捗状況検討)は、重要な機能であり、締約国がプレ2020年行動に関する一連のラウンドテーブル開催で合意していることから、今後も重要な機能であり続ける。多くのものは、開発途上国への緩和及び支援の提供という観点から、先進国の行動は「失われた10年(lost decade)」であると指摘した。
プレ2020年行動の議論継続を求める声が最も大きかったのは、有志途上国(LMDCs)であった。これらの中所得開発途上国は、他の開発途上国と共に、プレ2020年行動の2年作業計画を含めるよう求め、COPの下での長期資金に関する議題項目の議論を2020年を超えて延長すること、戦略的観点から気候資金を議論するフォーラム、さらには2020年までに1千億米ドルという先進国の気候資金目標に関し状況を報告することも求めた。これら諸国は、困難な状況に置かれている:排出削減及び支援提供の責任は先進国にあるが、これらのLMDC諸国の多くは、現在、排出伸び率が最も高いレベルにあり、LMDC諸国の行動に期待する声が高まっている。
プレ2020年の期間への注目は、これらの期待感を決定づけるものである。全ての開発途上国による実施は、これまでに受け取った支援、または支援の欠如で限られてくる。これら諸国は、何年間も資金や技術移転及び開発、そしてキャパシティビルディングが提供されない中で弱まった土台しかなく、2020年になった途端に、そこから行動に飛び移り、確固とした緩和結果の達成を期待されるものではないと主張する。
先進国にとり、さらに一部の開発途上国にとり、そのような要求は、パリ協定の書き直しに危険なほど近い道に行き着きかねない。この協定は、共通するが差異のある責任及び各国の能力という条約の原則を含め、条約の下のものではあるが、「国情の違いに鑑みた上での(in light of different national circumstances)」全ての国の参加を前提としている。これら諸国は、2020年では、全てのNDCsの野心引き上げに焦点を当てる必要があると強調する、これは必要な排出削減量を確保するためでもあれば、パリ協定は実施する用意があると世界に知らしめるためでもあると強調した。パリ協定締約国会議(CMA)の下での最後の決定書は、「チリ/マドリード行動の時」と称され、全ての締約国による野心引き上げを奨励するという決意表明の一方で、直接的で明確な呼びかけは控えている。その代わり、この決定書は、明確ではないものの、関係するCOP 21決定書に言及しており、締約国に対し、遠まわしながら、2020年の野心的なNDCs提出を想起している。
過去が投げかける限界を考慮せずに、前を見据えた結果、数件の項目では、進捗が損なわれた。長期資金では、意見の一致が得られず;国別報告書作成のためのパリ協定の強化した透明性枠組の下での作業も、同様に、暗礁に乗り上げた。透明性は、先進国、特に米国にとり重要な項目である、というのは米国は長年、全てのものに同様な報告書作成を要求するよう求めてきたためである。2007年以後、共通報告枠組の議題項目は、単なるアイデアから、開発途上国に柔軟性を付すとともに、全てのものが用いる一連の詳細な表の議論へと移ってきた。数か国の開発途上国、特に最も強く主張するのは中国及びアフリカングループであるが、これら諸国は、適応及び資金問題への政治的な関心には限界があること、及び進捗が限定的であることと並行して、透明性の進捗のアンバランスを指摘した。これら諸国は、資金関連の問題が依然として進展せず、適応の世界目標の議論も進まない中、なぜ締約国は、先進国の優先策の議論を進め続けるのか?と問うた。
これに加えて、2020年以後の問題では、だれもが口に出さない問題が控えている、米国のパリ協定脱退が近いことだ。今後11か月以内、COP 26開催日より1週間もない日にちに、(米国の)脱退は有効となる、その影響は既に感じられている。多数のものが、将来の脱退者が第6条のルールや損失及び損害のルールの策定に口を出すことへの怒りを表明した、このようなルールは、米国は協定に再加入しない限り、これらのルールの対象にはならないのである。さらに参加者は、パリ協定の将来の信用にも疑問があるとした。この前の京都議定書同様、米国という世界で最も一人当たり排出量が大きい国の不参加にも関わらず、米国の要求に合わせた設計の気候合意になるのではないかとの疑問である。リーダーシップも疑われかねない、もしEUが、一部の加盟国による気候約束への躊躇感で内側から妨害されたら、あるいは中国が、自国の発展に焦点を当てたらという深刻な懸念は、より気候野心の高い未来への道筋への先導の信頼性に、疑問を投げかける可能性がある。
COP 26の前に、ギャップを埋める
COP 25における進捗を損ない、さらにはUNFCCCの評判を落としたともいえるギャップは、すぐには消滅しない可能性が高い。COP 25議長のSchmidtに言わせると「総体的なバランス(overall balance)」をとったに過ぎない、COP 25の政府間の成果は、温暖化を1.5℃以下どころか、2℃でも抑えることができなくしている。COP 25の参加者の大半が合意したことは何かというと、政府間プロセスには限界があり、締約国間で割れてもいるが、必要な野心を生み出す能力はあるということだ。今、これらのギャップを埋める責任は、COP 26へ向かう締約国の肩に重くのしかかっている。