Curtain raiser
Chile/Madrid Climate Change Conference - December 2019
2019年気候変動会議は、特別な状況の下で開催される。会議開始4週間前、この会議のホスト国であるチリ及びその大統領は、同国での社会的混乱状況を理由に、この会議の中止を発表した。スペインは、短い準備期間での会議開催を申し出、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)議長団もこの申し出を受け入れた。
会議への期待感
最終段階で開催都市が変更された結果、この会議に対する期待感は、かえって高まった感がある。多数のものは、この注目される会議の継続を希望、合わせて2019年9月開催の国連事務総長気候サミット終了後のモーメンタムを高め、2020年のパリ協定実施開始を前に、新たな気候プレッジ及び資金貢献の発表を希望した。
参加者は、第1週に、一連の技術会議を開催、2020年を前に、気候行動の実施及び野心における進捗状況を議論、第2週には、緩和・適応・供与された支援、及びグローバル気候行動のマラケシュ・パートナーシップを議論するハイレベル・イベントが開催される。
この会議には数件の注目すべき議題項目がある。パリ協定締約国会議(CMA)が初めて全議題の実質的討議及び決定を行う会議となる予定であり、開発途上国、特にアフリカ及び中南米の開発途上国に特有のニーズ及び事情を考察することになる。
主な成果として期待されるものの一つは、パリ協定第6条の規則に関する交渉を終了することである。この議題に関しては、国際的に移転可能な緩和成果(ITMOs)、市場メカニズム、非市場アプローチなどが議論される。第6条の交渉は、2018年のカトヴィチェ気候変動会議で審議未了のまま残されたもので、これが終了すれば、パリ協定のルールブックが完成する。
締約国は、気候変動の影響に伴う損失及び損害のワルシャワ国際メカニズム(WIM)のレビュー終了も期待している。その他、地球環境基金(GEF)及び緑の気候基金(GCF)へのガイダンスも主要な議題項目である。
2019年気候変動会議は、2019年12月2-13日、スペインのマドリードで開催される。この会議では(UNFCCCの)全ての統治組織及び補助機関の会合が開催されるが、この中には、UNFCCCの第25回締約国会議(COP 25)、京都議定書の第15回締約国会議(CMP 15)、パリ協定の第2回締約国会議(CMA 2)、科学的技術的助言のための補助機関(SBSTA)及び実施に関する補助機関(SBI)の第51回会合が含まれる。
UNFCCCプロセスの原点及び条約
気候変動に対する国際政治の対応は、1992年の国連気候変動枠組条約の採択に始まる、この条約は、「気候系に対する危険な人為的干渉」を回避すべく、温室効果ガス(GHGs)の大気濃度安定化を目指し、国際的な気候変動協力の基本的な法的枠組及び原則を規定する。この条約は1994年に発効、197の締約国を有する。
UNFCCCの効果を高めようと、1997年12月、京都議定書が採択された。この議定書において、先進工業国及び市場経済移行国は6種のGHGsバスケットにおける排出削減数量目標の達成を約束する。京都議定書は、2005年2月16日に発効、192の締約国を有する。その第一約束期間は2008年から2012年に行われた。2012年ドーハ改定文書は、2013年から2020年の第二約束期間を設置した。この改定文書は144か国の批准達成後に発効の予定である。2019年10月18日現在、134の締約国がドーハ改定文書を批准している。
2015年12月、締約国はパリ協定を採択した。協定の規定により、全ての国は国家決定貢献(NDCs)を提出、グローバルストックテイクにおいて、緩和・適応・実施手段の全体的進捗状況を、5年ごとにレビューする。パリ協定は、2016年11月4日に発効、これまでに187の締約国が批准している。
最近の重要な転換点
ダーバン・マンデート:パリ協定の交渉マンデートは、2011年、南アフリカ、ダーバンでの国連気候変動会議で採択された。マンデートと共に、締約国は、2020年の発効を目指し、2015年より遅くない時期に、「議定書、他の法的文書、もしくは合意成果を作成するため」、強化された行動のためのダーバンプラットフォームに関する特別作業部会(ADP)を発足させることで合意した。さらにADPは、2℃目標とプレ2020年の野心の間のギャップを埋める行動を探求することが求められた。
リマ:2014年、ペルー、リマでの国連気候変動会議は、パリ協定に向けた交渉の進展を図る「気候行動のためのリマ宣言」を採択した。この宣言は、交渉文書草案の要素を推敲し、約束草案(INDCs)の提出及びとりまとめも推敲し、同時にプレ2020年の野心も論じる。
パリ:2015年、国連気候変動会議は、フランス、パリで開催され、12月12日、パリ協定の採択に至った。この協定は、地球の平均気温を産業革命前より2℃を十分下回る温度で抑制するとの目標を記載、1.5℃で抑制する努力の追及にも言及した。さらにこの協定は、気候変動の悪影響に適応する各締約国の能力向上を目指すほか、低GHG排出量及び気候耐性型開発経路に合わせた資金の流れ構築も目指す。この協定は、国により異なる状況を考慮し、公平性及び共通だが差異のある責任及び各国の能力の原則を反映する形で実施される。
パリ協定の下、各締約国は、5年間隔で野心を段階的に高めるNDCsの通知をし続けるものとする。自国のNDCsに2025年までの時間枠が含まれる締約国は、2020年までに新しいNDCsを通知し、自国のNDCsに2030年までの時間枠が含まれる締約国は、2020年までに自国の貢献分を通知する、もしくは更新することが求められる。
パリ協定の主要な特徴としては、透明性枠組、及びグローバルストックテイクと称されるプロセスがある。締約国は、このプロセスを2023年から開始、以後、5年間隔で緩和・適応・実施方法の全体的進捗状況をレビューする。この協定には、適応、資金、技術、損失及び損害、遵守に関する条項も含まれる。
パリ協定採択時に、締約国は、この協定の詳細な運用規則を策定するためのパリ協定作業計画(PAWP)も設立した。締約国は、2018年に推進ダイアログを開催、パリ協定の長期目標に向けた全体の進捗状況を検討することで合意した。このプロセスは、現在、タラノア・ダイアログと呼ばれる。
パリ会議で、締約国は、パリ協定の目標を達成するには、全締約国及び非締約国利害関係者による強力かつ野心的気候行動をおこす必要があることで合意した。数名の非締約国利害関係者は、パリで、リマ-パリ行動アジェンダに基づき、ユニラテラルな緩和プレッジを打ち出し、1万件以上の行動を登録した。非締約国利害関係者による行動は、2016年発足のグローバルな気候行動のマラケシュ・パートナーシップでも引き続き注目を集めた。
マラケシュ:マラケシュでの国連気候変動会議は、2016年11月7-18日に開催され、CMAの第1回会合も含まれた。締約国は、PAWP関係で数件の決定書を採択、この中には次のものが含まれた:PAWP作業は2018年までに完了すべき;キャパシティビルディングに関するパリ委員会の委任条件;協定第9.5条(先進国による事前の隔年資金報告書)に則り提供されるべき情報の特定プロセス開始。他にも次に関する決定書が採択された:WIMの5か年作業計画承認;技術メカニズムの強化;ジェンダーに関するリマ作業計画の継続及び強化。
フィジー/ボン:フィジー/ボン気候変動会議は、2017年11月6-17日、フィジーのCOP議長職の下、ドイツのボンで開催された。COPは、タラノア・ダイアログを発足し、プレ2020年の実施及び野心に優先度を与える決定を行い、「実施のためのフィジー・モーメンタム」を設置した。さらにCOPは、PAWPの完了に向けたガイダンスを示したほか、CMA 1-3での決定を前提に適応基金はパリ協定でも役割を果たすと決定した。締約国は、地方社会と先住民プラットフォーム、WIM執行委員会、資金常任委員会、適応基金を、さらに発展させるか、もしくはガイダンスを提供した。
カトヴィチェ:カトヴィチェ気候変動会議は、2018年12月2-14日、ポーランドのカトヴィチェで開催され、PAWPの議論推進を目的とする交渉会合が追加された多忙な一年を締めくくった。COP 24において、締約国は、カトヴィチェ気候パッケージを採択した。このパッケージは、PAWPのほぼ全項目を最終決定するもので、この中にはNDCsの緩和セクション、適応報告書、透明性枠組、グローバルストックテイク、資金の透明性などでのパリ協定共通の解釈及び実施推進の決定書が含まれた。協定第6条の下での協力アプローチに関する議論は終了せず、締約国は、2019年のCOP 25をこの議論の最終日とすることで合意した。さらにCOPは、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の1.5℃地球温暖化特別報告書を「歓迎する(welcome)」のか、それとも「留意する(note)」のかでも合意できなかった。
会合期間外のハイライト
IPCC-49:IPCCの第49回会合は、2019年5月8-12日、日本の京都で開催された。IPCCは、国別温室効果ガスインベントリのIPCCガイドライン2006年版の2019年精緻版(2019年精緻版)における概要の章などを採択、その基となる報告書を受け入れた。少数の参加者は、石油及びガスの採掘による漏洩排出量を一方とし、石炭の採掘を他方とすると、両者の扱いに一貫性がないとして報告書に異議を唱えた。
ボン気候変動会議:2019年6月17-27日に開催されたボン気候変動会議の参加者は、WIMのレビューに関する委任条件を定め、第6条の交渉を進展させ、パリ協定透明性枠組の報告様式の考察を開始した。交渉担当者は、適応基金理事会のメンバー及び共通時間枠では進展できず、SBSTA会合でIPCCの1.5℃地球温暖化に関するIPCC特別報告書を歓迎できなかったことでも、焦燥感があった。
IPCC-50:IPCC-50は、2019年8月2-7日、スイスのジュネーブで開催された。IPCCは最終日に、気候変動と土地に関する特別報告書(SRCCL)の政策立案者向けサマリー(SPM)を採択、その基となる報告書を受け入れた。SRCCLは、初めて土地と気候系全体の包括的考察を行うものであり、重要な資源である土地、砂漠化と土地の劣化、食糧安全保障、土地の気候系に対する反応を論じる。
国連事務総長の気候行動サミット:国連事務総長のAntónio Gutteresは、2019年9月23日、気候行動サミットを開催した。この気候行動サミットには、国内小地域の政府や民間部門の指導者に加え、 65か国から国家元首または政府の首長が参加した。次の主要題目について会合した:カーボン・ニュートラルな世界を志向する計画;気候資金;石炭からクリーンへとパワーアップする未来世界;気候行動での自然のポテンシャルを解放;耐性のある将来を志向する;小島嶼開発途上国;グリーンに生き、働き、動く;今こそ温室効果ガス排出量を削減し、同時に冷却し、エネルギー効率を上げる;今こそ適応を;人々の安全性向上;後発開発途上国;今こそ人間中心の行動を;経済をグレーからグリーンへと移動。
IPCC-51:IPCC-51は、9月21-24日、モナコで会合し、気候変動の下での海洋及び雪氷圏に関する特別報告書(SROCC)のSPMを採択し、その基となる報告書を受け入れた。SROCCは、気候変動の科学的根拠及び海洋、沿岸地帯、極地、山岳の生態系、及びこれらの生態系に依存する人間社会への影響に関し、最新の科学知識を評価する。この報告書は、海洋及び雪氷圏における「前例のない(unprecedented)」永続的変化への対応が緊急に必要だと強調する。