Summary report, 2–15 December 2018

Katowice Climate Change Conference - December 2018

カトヴィチェ気候変動会議は、2018年12月2-15日、ポーランドのカトヴィチェで開催された。この会議には、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)、京都議定書、パリ協定という3つの統治組織、及び3つの補助機関の会合も含まれた。カトヴィチェ気候変動会議には、2万2千人を超える参加者が集り、このうち1万4千名近くが政府関係者であり、国連組織や政府間組織、市民団体の代表は7千名、報道関係者は1千5百名にのぼった。

カトヴィチェ気候変動会議は、パリ協定の規則書(rule book)策定など大半の課題を達成した、気候の危機に対応するため野心を引き上げるよう求める声が高まる中、パリ協定実施に向けた各国の努力を促進するパッケージも策定した。

この会議の注目は、パリ協定の運用開始に向けた一連の決定書であるパリ協定作業計画(PAWP)の審議を終了できるかどうかであった。この目的に関し、締約国は、カトヴィチェ気候パッケージを採択、PAWPの一環として委任されたほぼ全ての問題で決定に至っている、この中には次のものが含まれる:

  • 緩和に関し:国家決定貢献(NDCs)に関する追加ガイダンス、共通時間枠、対応措置実施の影響に関するフォーラムのパリ協定の下でのモダリティ、作業計画、機能;
  • 適応に関し:適応報告書に関する追加ガイダンス;
  • 資金に関し:協定9.5条(事前資金の透明性)に則り締約国が提供する情報の特定、適応基金関連問題、資金に関する新しい全体的数値目標の設定;
  • 技術に関し:技術メカニズムの定期的評価の範囲及びモダリティ、技術枠組;
  • 行動及び支援の透明性枠組のモダリティ、手順、指針;
  • グローバル・ストックテイク;
  • 実施推進及び遵守促進委員会の効果的な運営に関するモダリティ及び手順。

カトヴィチェ気候変動会議の簡易分析

「これからは、意識した選択をし、熟慮した政策を行ってはじめて、人類の生存が可能になる(From now on it is only through a conscious choice and through a deliberate policy that humanity can survive)- ローマ法王 ヨハネパウロII世

 

気候変動の破滅的な影響が広がりを見せる世界において、カトヴィチェ気候変動会議は、重要な転換点をもたらした。パリ協定の「規則書(rulebook)」を最終決定する期限が迫る中、締約国は、長年の意見の食い違いを克服する必要があり、さらにはポスト2020年気候体制を確固とした野心的なものにするため技術的な詳細を打ち出す必要があった。

しかしパリ会議から3年、大きな変化がみられた。科学は明確な警告を発し、世界各地で極端な天候現象による災厄が続いているにも関わらず、2017年、世界の排出量は増加した。政治的概念も変化し、世界は多国間主義からポピュリズムへと大きく舵を切り、時には科学的な証拠に背を向けている。ゼロ排出経済への転換は十分進んでいないが、この事は、カトヴィチェというポーランドの採炭地域の中心が気候会議の開催地になったことでも明らかである。

このような政治的な逆風、長年にわたる各国間の意見の食い違い、複雑な技術的課題への取り組みにも拘わらず、COP 24は結果を残したのである。12月15日土曜日の深夜に採択された「カトヴィチェ気候パッケージ(Katowice Climate Package)」は、一連の実施ガイドラインを定めており、多数のものはこのパッケージでガイドラインが十分確立されたとみなした。しかし、これは、パリ協定が必要とする強固で安定した制度枠組を確立したのか?緊急性の高まりを示す兆候が見られる中、ポスト2020年という時代の野心を示せているのか?この簡易分析は、規則書を詳細に検証し、特に成功のカギとなるパラメター、すなわち意見対立のある政治的問題の解決、ダイナミックな枠組構造とするための効果性の高いガイドラインの提供、野心を引き上げる基礎の構築に注目する。

規則書への道筋

COP 24には一つの明確な目標があった、すなわち「規則書」の策定である。3年間に及ぶ難しい交渉の末、締約国は、パリ協定における広範な約束を、緩和を計測し、資金を計算し、透明性を確保するために必要とされる詳細な技術ガイダンスに変換すべく、最後の2週間を迎えた。マラケシュでのCOP 22においてCOP 24という期限が設置されて以降も、各国はそれぞれの交渉上の立場から一歩も引くことはなかった。2018年9月にバンコクで追加の交渉期間も設けられた、しかしそこでの236頁の文書でも本質的な意見の相違を解決することなく、参加者はカトヴィチェに到着した。

これらの意見の違いには、長年のもの、つまり責任と指導力という歴史的論争に根差すものもあれば、パリ協定自体の解釈の違いという今回の会議に特有の意見の相違もあった。第一の対立点は差異化であった。開発途上国は、自分たちの緩和努力に柔軟性を与えるべきと長年主張してきたが、先進国は、全てのもの、特に新興経済国が公平な負担をするという共通の規則を求めた。パリ協定は、この問題をあまり明確に定義づけしていない。この協定は、附属書Iと非附属書Iの二分化は打ち破ったが、その代わり、あいまいな表現、あるいは条項により異なる表現が用いられた。たとえば、資金の条項で、パリ協定は「その他の締約国(other parties)」という概念を導入、これらの締約国による自主的な支援の提供を奨励した。このため、「確固とした(robust)」規則書を設定するには、開発途上国により異なる能力に対応する一方で高い野心を確保するという、明確かつ共通のガイダンスとバランスをとることで、曖昧さを克服する必要があった。

さらに締約国は、開発途上国が野心を高める上で最も重要と考えていた資金支援の問題、それが十分であるかどうか、そしてその予見可能性について、開発途上国間でくすぶっていた不信感も克服する必要があった。過去1年の間に、協定9.5条(資金供与の提示情報)及び新しい長期資金目標設定のプロセスをめぐる論争の形で、この不安感が具象化した。第1週の交渉のペースは遅く、第2週は非公開で混沌とした交渉が行われたことから、一部のものは、差異化と資金に関する意見対立の溝は埋めるには深すぎるのではないかと懸念し、コペンハーゲンの悪夢の再来を恐れるものもいた。

このような不安感の最中、締約国は成果を出すことができた。では、カトヴィチェ気候パッケージはどれだけ強力なものなのか?規則書できたは、少なくとも次の4つの方法による野心の引き上げを期待する。第1に、パリから続く政治的に困難な問題を解決することで。第2に、拘束力があり規範的なガイダンスの必要性と、柔軟性の必要性とをバランスさせ、効果性を最大限に高め、全ての国による参加の可能性を最大限にすることで。第3に、強固な集団のそして個別のレビュー・メカニズム、及びガイドライン再検討のタイムラインにより、ダイナミックに変化する合意を可能にすることで。第4に、関連する全ての問題を将来の交渉に残すのではなく、今、審議を行うことでである。

バランスのとれた規則書

長年の問題を解決するのが成功の前提条件であり、締約国がバランスのとれたパッケージと受け止めるものでなければ、合意はありえない。第2週の閣僚交渉は、差異化と資金という二つの最も意見対立がある問題での合意のカギを握る極めて重要な交渉であった。最終的な合意では、先進国が協定の根幹と考える一貫性があり緩和中心のNDCガイダンスと、開発途上国への資金支援のプロセス改善とのバランスを図っている。

緩和目標の報告及び計算のガイダンスにおいては、絶対的排出削減量または相対的排出原単位目標など、各国がそれぞれのNDCのタイプに基づき適用する共通要素を策定するというのが大多数の意見であり、この意見が、先進国と開発途上国用に分かれた二つの規則を策定するという有志途上国及びアラブグループが支持する長年の要請を圧倒した。有志途上国とアラブグループは、NDCs用のガイダンスについて、各国が緩和の意図と共に適応の計画及び実施手段も報告する「全範囲(full scope)」手法を求めた。合意されたガイダンスは、緩和に焦点を当てる一方で、これらの諸国に配慮し、適応に関する情報や適応行動及び経済多角化計画の結果として得られる緩和の共同便益を、NDCsに含めることを認めている。

先進国の資金供与提示報告書を評価し、レビューする明確なプロセスを求める開発途上国の要求は留意された。この(パリ協定9.5条)分野で合意されたガイダンスは、資金情報、及びその十分さの情報に焦点を当てる統合報告書、ワークショップ、閣僚会議を提供する。

さらに開発途上国は、2020年での、ポスト2025年の新しい全体的な資金数量目標(長期資金目標)設定の審議開始という合意を歓迎した。パリ会議の成果書で、各国は、この目標の設定では合意したが、先進国はこれまで議論開始の日付設定に消極的であった。このような立場をとる理由は明確に表現されていない、しかし多くのものは、新しい資金目標の議論開始が躊躇されるのは、米国の協定脱退、及び多数の先進工業国での政治的、経済的な課題に起因するとみている。

開発途上国は適応資金を最優先事項と考えていたことから、適応基金の最終決定も、開発途上国にとり重要な項目であった。適応基金は、現在は京都議定書の下で役割を果たしており、同議定書のオフセット・メカニズムから収入の一部を得ているが、パリ協定のオフセット・メカニズムからの収入の一部が利用可能になったところで、パリ協定の下でのみ役割を果たすことになる。さらにこの基金は、官民の自主的な財源からも資金を供与される予定である。

効果ある規則書

差異化と資金という政治的に難しい課題で妥協できたことから、締約国は、拘束力があり、十分な詳細を提供し、参加性を高めるガイダンスの策定作業に焦点を当てることができた。多数のものは、法的拘束力のある表現、たとえば「shall」や「should」といった表現を含める一方で、各国の報告する情報の明確性や比較可能性を確保できる規範性ガイダンスで合意に至ることは期待していなかった。しかし、カトヴィチェで実現した97頁の運用指針は、この両方を満たす称賛されるべき成果というのが大半のものの意見であった。

透明性枠組は、グローバルストックテイクと共に、パリ協定の「野心的メカニズム(ambition mechanism)」の根幹となる構成要素と考えられる場合が多く、全てのパラメターを論ずる:各国の報告及びレビュー義務に関する詳細なガイダンスは、全ての締約国は2年ごとに透明性報告書を提出するものとする(shall)と規定する。透明性ガイドラインには、共通の報告書作成表や、2024年まで最初の報告書を提出するとの要請など、全ての締約国に共通する要素が含まれている、しかしこのガイドラインは、開発途上国に対し、報告の範囲や頻度、詳細度における柔軟性も認めている。他方、開発途上国には、なぜ柔軟性が必要か、その理由を説明することが求められ、さらに報告を改善するための自主決定の時間枠を提出するよう要求される。透明性など規則書の多くの分野で、ガイドラインは、最も脆弱な諸国、具体的にはLDCsやSIDSに対し、いつどのようにこのガイダンスを適用するかという点で柔軟性を追加している。

カトヴィチェで登場したガイダンスは、パリ協定を本来あるべきダイナミックで野心的なメカニズムにすることができるかどうかも、極めて重要であった、しかも一方では、各国が国家決定計画またはNDCsを5年サイクルで提出し、その実施をレビューするための包括的な規則、他方では、集団の進捗状況を検討する確固としたシステムの提供も伴う必要があった。グローバルストックテイクは、この後者の目的の中心的なメカニズムであり、正式運用が可能となったが、一部には失望感が残った。環境NGOや研究者コミュニティ出身の多数のオブザーバー、さらには多数の開発途上国も、ストックテイクのインプット及びアウトプットの中での公平性の考え方に対するガイダンス不足を感じていた。さらにオブザーバーは、非締約国利害関係者がプロセスからほぼ外されているとして嘆いた、たとえばストックテイクからのアウトプットの審議に参加するのではなく、提出文書作成という役割に縮小されている。一部のものが恐れているのは、公平性の考えを取り入れず、非締約国利害関係者を参加させないのであれば、グローバルストックテイクの効果は薄れ、各国は責任を取らず、グローバルな努力に関する十分包括的な概要報告を提供できなくなることである。

カトヴィチェ会議で出されたガイドラインは、実施及び遵守委員会にも一定の取っ掛かりを提供する、この委員会はパリで設立されたときは促進的な役割しかなかったが、今は、特定の場合には、委員会自体で不順守の審議を開始する権限を与えられている。これら特定の場合には、ある一つの国がNDCを報告していない、もしくは保持していない場合、透明性報告書を提出していない場合、あるいは先進国が資金提示報告書を提出していない場合が含まれる。

協定のダイナミズム(動的であること)にこの規則書がいかに貢献しているか、その別な側面としては、時間の経過につれ規則を調整するよう委任していることがあげられる。カトヴィチェ・パッケージの多数のセクションにおいて、ガイダンスのレビューや改定可能性に関する時間枠が設定されている。その一例は、緩和に関係する情報及び計算に関するガイダンスであり、2028年での調整が求められいる、たとえAOSISのような一部のグループがそれでは遅すぎると感じているにしてもである。

最後に、カトヴィチェ会議の成果で最も重要な実績の一つが、パリ協定作業計画の大半の要素における締約国の合意である。合意できない場合、この協定の実施に向けた各国の決意に対する外部の評価は低下し、UNFCCCプロセス自体の信用も損なわれるところであった。合意の唯一のしかし重要な例外は、協定6条の下での協力的手法に関係するガイダンスであり、緩和成果の国際取引、協定のカーボン・オフセット・メカニズムの規則、非市場ベースの手法の作業計画に指針を与えるものであった。これら全ての項目に関する決定書は、次回2019年のCMA会合まで延期されたが、多くのものに言わせると、その理由は、ある一国が排出削減量の二重計算での厳格な規則に反対したためである。この一国の拒否のため、交渉は土曜日遅くまで延長され、各国は、この会合で達成できた作業を救おうとし、市場や民間部門に継続性のシグナルを示す上で重要と感じられた主要な規則や制度アレンジでの合意を探求した。

COP 24においてパリ協定の制度構造における市場の将来的な役割を解決できなかったことは、必ずしもこの会議の成果を弱めるものではない、しかし締約国はこの問題を速やかに解決する必要がある。

野心を可能にする規則書

COP 24議長のMichał Kurtykaがパッケージの可決を示す槌を打った際に指摘したとおり、カトヴィチェで採択された規則書で合意に至ろうと、「各国が共に1千もの小さな一歩を歩み続けた(1,000 little steps countries took together)」ことは、「パリ協定に掲げられた野心の実現に向けさらなる一歩を踏み出させる(move us one step further to realizing the ambition enshrined in the Paris Agreement)」のは間違いない。規則書自体は、パリ協定は健在との重要な政治的メッセージを送り出す。しかしそのことは、野心的な気候行動推進において、どういう意味があるのか?

ポーランドにやって来た多くのものは、野心に関するさらなる政治的シグナルの発信を期待した、一つは強力な成果の形であり、さもなければおそらく、フィジーのCOP 23議長が太平洋諸島の語り部の伝統に基づき始めた一種の「プレ・グローバル・ストックテイク(pre-global stocktake)」と考えられるタラノア・ダイアログを継続する形である。さらに各国に対し、2020年までにそれぞれのNDCsの強化を奨励する決定書を求める声もあがった。その要望とは異なり、「カトヴィチェ気候パッケージ(Katowice Climate Package)」という、パリの規則書を含めるほか別なセクションでは政治的なメッセージを含める決定書となり、ダイアログについてはただ単に「留意する(takes note)」とし、締約国に対してはNDCs作成時に、パッケージの成果を検討するよう求めるものとなった。一部のものは、前回までのCOPsと比較し新たな気候資金供与の発表が少なかったと指摘、これは開発途上国の野心支援に対する先進国のコミットメントが減っていることを示すとの感触を持った。

非締約国利害関係者は、交渉プロセスの透明性を高めたり、気候行動に対する重要な貢献を行ったりといく二つの面で、野心引き上げを推進する極めて重要な参加者であると考えられる。多数のオブザーバーは、第2週の交渉が全て非公開で行われ、閣僚協議の結果報告も少なかったとして嘆いた。一部のものは、2014年に、意思のあるものの広範な連合を指揮し、行動者を本来は政府間体制にのみ取り込むため立ち上げられたグローバル気候行動アジェンダ(Global Climate Action Agenda)への注目が減衰していると指摘した。透明性の減衰は、このCOPにおける最も政治的に困難な問題の解決できるようにする上で必要だった可能性がある、しかし一部のものは、長期にわたり広範な行動者の参加を得る制度を制定できるかどうか、UNFCCCの能力に対する疑念を表明した。

特に脆弱な諸国は、多くの小島嶼国が生存の問題と考える1.5℃以下での地球温暖化の抑制という決意に関し、政治的なシグナルが出ることを希望していた。この点、第1週の交渉において、IPCCの1.5℃特別報告書を「歓迎する(welcome)」ことに対する、4つの諸国、すなわちサウジアラビア、米国、ロシア、クウェートの抵抗は、メディアの津波のような攻撃を引き起こした、しかし最終パッケージの決定書ではこの報告書に関する強い表現はなく、やわらげられた可能性がある。後発開発途上国及び小島嶼途上国も、その言によれば、損失と損害の問題が依然として脇に押しやられていることに失望し、実際の資金支援供与の緊急性を強調した。

カトヴィチェでのCOPは託されたものを実現した、今、締約国は、実施と高い野心という新しい時代のページを開く必要がある。会合の閉会時、UNFCCC事務局長のPatricia Espinosaが代読した国連事務総長のAntónio Guterresのスピーチが指摘するとおり、今の優先事項は、緩和、適応、資金、技術協力、キャパシティビルディング、革新に関する「野心、野心、野心、野心、そして野心(ambition, ambition, ambition, ambition, and ambition)」である。この点、多数の参加者は、慎重ながらも気持ちを引き立てて、カトヴィチェを後にした、さらに第2週の交渉を個人的にも推進してきた国連事務総長が2019年に開催する気候サミットに目を向けていた、このサミットは、2020年という重要な年、多くの国がNDCsを更新し、パリ協定がその最初の真のリトマス試験を受ける重要な年に先立って、野心を高めることを目指す会合である。

 

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