Curtain raiser
Bonn Climate Change Conference - June 2019
今回のボン気候変動会議では、会合期間内会合としては2005年以降で初めて、2つの補助機関会合のみが開催される。国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の実施に関する補助機関(SBI)及び科学的技術的助言のための補助機関 (SBSTA)にとり、第50回目という記念の会議でもある。パリ協定の「ルールブック」となる一連の決定書及びカトヴィチェ気候パッケージが採択されて以来、初めての会議である。
本会合に対する期待感
ボンでは、SBI及びSBSTTAの会議参加者が、カトヴィチェ気候パッケージで最終決定されていないパリ協定関連の未決問題について、進展を図るものと期待される。さらに締約国は、条約や京都議定書及びパリ協定の主要な実施問題も議論する予定である。
パリ協定のルールブックに関し、SBIは、国家決定貢献(NDCs)の共通時間枠に関する審議を再開する。SBSTAは、パリ協定6条の下での協力的手法に関する残りの作業を行う。この作業には、国際的に移転可能な緩和成果(ITMOs)、市場メカニズム、非市場手法が含まれる。第6条関係の交渉は、カトヴィチェ気候パッケージの他の分野とリンク付けされる。2019年12月、チリのサンチャゴでの第25回締約国会議(COP 25)までに第6条の交渉が終了するなら、適応基金などパリ協定の他の部分もパリ協定で役割を果たせるようになる。
さらに締約国は、パリ協定の技術的な実施問題という新しい議題項目も議論する。これらの問題の多くは、国別インベントリ報告に関する共通フォーマットなど、透明性枠組に関係する問題であり、緩和の進捗状況の追跡及びどのような支援が提供され授与されるかという問題も含まれる。
2つの補助機関の議題には、条約の実施に関する問題も数件含まれる。SBSTAは、近く予定されている気候変動の影響に伴う損失と損害のためのワルシャワ国際制度(WIM)のレビューに関し、委任条件を審議する。SBSTA及びSBIは合同で、農業に関するコロニビア共同作業の一環としてワークショップを開催するほか、条約と京都議定書及びパリ協定で役割を果たす対応措置の影響に関するフォーラムについても議論する。さらにSBI及びSBSTAは、条約の下での長期世界目標に関し、次の定期レビューの範囲を審議し、目標達成に向けた進捗状況も議論する。
SBSTAは、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が完成させた1.5℃の地球温暖化に関する特別報告書を「歓迎する(welcome)」か、それとも「留意する(note)」かという、カトヴィチェでの未解決問題についても、議論を再開する。
数件の義務化イベントも行われる予定である。義務化ワークショップには、次の問題に関するものが含まれる:ジェンダー、地域社会及び先住民のプラットフォーム、気候エンパワーメント行動のダイアログ。推進的な意見交換も行われ、先進国の国別報告書の作成についても議論する。緩和に関する技術専門家会合では、スマート・エネルギーのためのオフグリッド及び分散型エネルギー解決策を議論するほか、農業―食料チェーン(agri-food chain)における水の利用についても議論する。
UNFCCCプロセスの原点及び関連の条約
気候変動に対する国際政治の対応は、1992年の国連気候変動枠組条約の採択から始まる、この条約は、「気候系に対する危険な人為的干渉(dangerous anthropogenic interference with the climate system)」を回避するため、温室効果ガス(GHGs)の大気濃度安定化を目指し、国際的な気候変動協力の基本的な法的枠組及び原則を規定する。この条約は1994年3月21日に発効、197の締約国を有する。
UNFCCCの効果性向上を目的とする京都議定書は、1997年12月に採択された。この議定書で、先進工業国及び市場経済移行国は、6つのGHGsバスケットについて、数量化された排出削減目標を達成すると約束する。京都議定書は、2005年2月16日に発効、192の締約国を有する。その最初の約束期間は、2008年から2012年であった。2012年ドーハ改定文書は、2013年から2020年の第2約束期間を確立した。この改定文書は、批准書の数が144に達したところで発効する。2019年5月8日現在、128の締約国がドーハ改定文書を批准した。
2015年12月、締約国はパリ協定を採択した。この協定の規定によると、全ての国はNDCsを提出し、緩和や適応及び実施手段に関する全体的進捗状況を、5年ごとのグローバルストックテイクでレビューする。パリ協定は、2016年11月4日に発効、これまでに185の締約国がこの協定を批准している。
最近の重要な転換点
ダーバン・マンデート:パリ協定の交渉マンデートは、2011年、南アフリカのダーバンにおける国連気候変動会議で採択された。締約国は、強化された行動のためのダーバン・プラットフォームに関する特別作業部会(ADP)を立ち上げることで合意した、そのマンデートは2015年より遅くない時期に「条約の下で、全ての締約国に適用可能な議定書、他の法的文書、もしくは法的効力を有する合意成果を作成する(to develop a protocol, another legal instrument or an agreed outcome with legal force under the Convention applicable to all parties)」こと、並びにこれを2020年に発効させることとされた。加えて、ADPには、2℃目標と関係するプレ2020年の野心のギャップを埋める行動を探求するというマンデートも与えられた。
リマ:2014年、ペルーのリマにおける国連気候変動会議は、「気候行動のためのリマ宣言(Lima Call for Climate Actions)」を採択した、この宣言は、交渉文書草案の要素を推敲し、国別約束草案(intended nationally determined contributions)の提出及び統括プロセスを検討すると同時に、プレ2020年の野心についても論じている。
パリ:フランスのパリで開催された2015年国連気候変動会議では、12月12日、パリ協定を採択するに至った。この協定は、地球の平均気温の上昇を産業革命前水準比で2℃を大きく下回る温度に抑えるという目標、並びに1.5℃で抑えるための努力を追及すると記載する。さらにこの協定は、気候変動の悪影響に適応するための各締約国の能力を向上させ、低GHG排出及び気候耐性型の開発に向けた経路に合わせた資金フローの構築を目指す。この協定は、各国の異なる状況に鑑み、平等及び共通するが差異のある責任及びそれぞれの能力という原則を反映する形で実施される。
パリ協定の下、各締約国は、自国のNDCsを、毎回野心を高める形で、5年間隔で通知することとする。2025年までの時間枠を含めるNDCsを有する締約国は、2020年までに、新しいNDCを通知することが求められ、2030年までの時間枠を含めるNDCsを有する締約国は、2020年までに、自国の貢献分を通知するまたは更新することが求められる。
パリ協定の主要な特徴には、透明性枠組、及びグローバルストックテイクと称されるプロセスがある。締約国は、緩和、適応、実施手段における全体的な進捗状況をレビューするため、このプロセスを、2023年を皮切りに5年間隔で開催する。この協定には、適応、資金、技術、損失と損害、遵守に関する条項も含まれる。
パリ協定採択の際、締約国は、パリ協定作業プログラム(PAWP)を開始した、このプログラムは、パリ協定特別作業部会(APA)、SBI、SBSTAを通すなどして、この協定の運用上の細則を策定する。締約国は、パリ協定の長期目標に向けた全体的な進捗状況を評価するため、2018年に促進ダイアログ(a facilitative dialogue)を開催することで合意した。このプロセスは現在、タラノア・ダイアログ(Talanoa Dialogue)と称されている。
パリにおいて、締約国は、パリ協定の目標達成には、全ての締約国及び非締約国の利害関係者による強力かつ野心的な気候行動の推進が必要であると合意した。数名の非締約国利害関係者は、リマ-パリ行動アジェンダに基づき、パリでユニラテラルな緩和プレッジを行い、1万件以上の行動を登録した。非締約国利害関係者の行動に対する注目は、2016年に立ち上げられたグローバルな気候行動のためのマラケシュ・パートナーシップにも継続された。このパートナーシップは、国家と非国家行動者の間の協力関係強化を目指している。COPの現議長及び次期議長は、自主的かつ協力的行動を促進するハイレベルなチャンピオン(High-level Champions)を、各年で任命する。
マラケシュ:マラケシュでの国連気候変動会議は、2016年11月7-18日に開催され、この会議には第1回パリ協定締約国会議(CMA 1)も含まれた。締約国は、他の決定書の中でも、PAWPに関する交渉を2018年までに終了すべきことで合意した。
フィジー/ボン:フィジー/ボン気候変動会議は、2017年11月6-17日、フィジーをCOP議長国として、ドイツのボンで開催された。COPは、タラノア・ダイアログを開始し、プレ2020年の実施及び野心に優先度を与える「実施のためのフィジー・モーメンタム(Fiji Momentum for Implementation)」を設置した。さらにCOPは、PAWPの完成に向けたガイダンスを提供し、適応基金はCMA 1-3までに決議されれば、パリ協定でも役割を果たすと決定した。締約国は、地域社会及び先住民プラットフォーム、WIM執行委員会、資金常任委員会、適応基金に対するガイダンスを提供、またはその作成を推進した。
カトヴィチェ:カトヴィチェ気候変動会議は、2018年12月1-14日、ポーランドのカトヴィチェで開催され、PAWPの作業推進を目的として交渉会合が追加開催された多忙な一年を終えた。COP 24において、締約国は、カトヴィチェ気候パッケージを採択した。このパッケージは、PAWPのほぼ全ての作業について最終決定するもので、この中には、NDCsの緩和セクション、適応報告書、透明性枠組、グローバルストックテイク、資金の透明性などにおける共通の解釈を行う決定書、パリ協定の実施を推進する決定書などが含まれる。協定の第6条の下での協力的手法に関する作業では結論が出なかった。締約国は、2019年のチリにおけるCOP 25を、この作業の最終期限とすることで合意した。COPは、1.5℃の地球温暖化に関するIPCC特別報告書を「歓迎する(welcome)」のか、それとも「留意する(note)」のかで、合意できなかった。
会合期間外のハイライト
気候とSDGsのシナジー会議:パリ協定と2030年持続可能な開発アジェンダの間のシナジー強化:持続可能な開発目標(SDGs)と気候行動を横断して実施をリンク付けし、共同便益の最大化を図るという第1回グローバル・コンファレンスは、2019年4月1-3日、デンマークのコペンハーゲンで開催された。この会議は、気候とSDGプロセスを合致させ、共同便益を最大化するため全レベルの利害関係者の行動推進を目指した。ここでの議論は、2019年7月9-19日、ニューヨークの国連本部で開催される持続可能な開発に関する2019年ハイレベル政治フォーラムにおいて、気候行動に関するSDG 13の詳細レビューの一環として審議される。
IPCC 49:IPCCは、2019年5月8-12日、日本の京都で会合した。IPCCは、2006年IPCC国別温室効果ガス・インベントリ・ガイドラインの2019年精緻版(2019 Refinement)における概要の章を採択した。少数の参加者は、報告書における石油及びガスの採掘による漏洩排出量の扱いと、石炭採掘からの漏洩排出量の扱いに一貫性がないとして、異議を登録した。意見の一致がなかった事実は、報告書に記載された。インベントリ・ガイドラインの共通の利用に基づく報告書及びレビューのプロセスは、パリ協定の下での強化された透明性枠組を実施する上で必要な信頼構築のカギである。各UNFCCC締約国は、この2019年精緻版をGHG報告の技術的根拠として用いるかどうかを決定しなければならない。
第10回ピーターズバーグ気候ダイアログ:第10回ピーターズバーグ気候ダイアログは、2019年5月13-14日、ドイツのベルリンで開催された、そのテーマは「パリの約束を果たす(Fulfilling the promise of Paris)」であった。35か国の代表は、各国が2020年までに気候目標及び長期戦略の改訂版を提出することへの期待感を表明した。