Summary report, 16 May 2017
International Conference on Seafood Transparency and Sustainability
国際シンポジウム「水産物の透明性と持続可能性」は、国立研究開発法人水産研究・教育機構(FRA)、早稲田大学地域・地域間研究機構(ORIS)、ザ・ネイチャー・コンサーバンシー(TNC)の共催により、2017年5月16-17日、日本・東京で開催。政府関係者、民間セクター、学界、メディア、政府間組織(IGO)、非政府組織(NGO)からの代表者、約300名が出席した。
日本は水産資源の消費国かつ生産国として世界有数の地位を占める。本シンポジウムは日本の水産業関係者に対し、「違法・無報告・無規制」(IUU)漁業の影響や水産物の透明性と持続可能性に関する諸外国の取組みに関する情報共有を行い、日本国内における透明性と持続可能性の向上に向けて今後の方策を議論するために開催された。
1日目のシンポジウムでは、IUU 漁業の監視・検知技術の利用についてパネル討論が行われ、IUU漁業対策における国際協力の展望について議論が行われた。2日目のパネル討論では、水産物の透明性促進や持続可能な漁業の実現、水産物認証制度の活用といった各種の政策や取組みを模索することがメインテーマとなった。
本レポートは本会議に関連するテーマを整理し、過去の経緯を紹介しながら本会議中の議論の内容を総括する。
これまでの経緯
国連公海漁業協定協議 (UNFSA): アジェンダ 21の要請を受け、ストラドリング魚類資源(分布範囲が排他的経済水域の内外に存在する魚類資源)及び高度回遊性魚類資源に関する国連公海漁業会議は、公海上のこれら魚類資源の捕獲に関する問題に対応するべく、国連総会(UNGA)によって開催されることとなった。1993年から1995年にかけて計6回の会議が行われ、1995年8月の「国連公海漁業協定」の採択に至った。本協定は2001年12月11日に発効、現在83の締約国を有する。
寄港国措置協定(PSMA): 2009年、国連食糧農業機関(FAO)会議で「寄港国措置協定」(PSMA)が採択。本協定は寄港国(ポートステート)におけるIUU漁業の積極的な防止、抑制および廃絶の実施を主たる目的とし、寄港国たる締約国は入港を希望する外国籍船または自国港に入船した外国籍船に対して効果的に本協定を適用する資格を有する。本協定は2016年6月5日発効。第1回PSMA締約国会合は2017年5月下旬に開催予定。
持続可能な海の人材育成に関する国際シンポジウム: 日本財団、日本国政府、TNCの共催により日本・東京で2016年7月に開催。国際機関、国連機関、学界、地域コミュニティのリーダー、政府関係者らが出席した。漁業管理や海洋環境の保護、気候の強靭性(レジリエンス)、意思決定の科学、教育、セクター横断的なトレーニング、国際/地域におけるマルチステークホルダーの関与等、世界の海洋に関する能力構築が重点テーマとして取り上げられた。また、同シンポジウムの重要な論点としては、海洋科学の重要性、科学と政策の連携、各国政府と地域コミュニティとの繋がり、適切な法整備、社会経済的な問題の考察などが挙げられた。
国際シンポジウム「違法漁業から水産資源・水産業を守る」: 2016年11月、GR Japan主催で行われた。欧米のIUU漁業対策の紹介とともに、持続可能な水産資源の消費促進と日本市場に対する取組みが討議された。
会議報告
本シンポジウムは5つのセッションで構成され、2日間の日程で開催された。1日目は開会スピーチに続き、2つのセッションが行われた。2日目は午前中の東京築地市場への見学ツアー後に3つのセッションが行われた。
(以下、敬称略)
5月16日(火)
ウェルカム・スピーチ
マリア・ダマナキ(TNC海洋部長)がウェルカム・スピーチを行い、官民とNGOや市民社会といった社会全体の部門間協力を通じてIUU漁業対策を行うことが一番の方策だと述べた。また、最近、PSMA批准が日本の国会で承認されたことは朗報だと賛辞を送った。弦間正彦(早稲田大学地域・地域間研究機構(ORIS) 機構長)は、今回のシンポジウム共催者の立場から、早稲田大学は意思決定者がこの会議に参加していることを歓迎すると述べた。
セッション 1: 日本を取り巻くIUU漁業(違法・無報告・無規制)の現状と水産物の透明性促進に向けたテクノロジー
宮原正典(FRA理事長)がセッション1のファシリテーターを務めた。大関芳沖(FRA審議役)が北西太平洋上の中国漁船の監視のための衛星画像処理の分析結果を紹介した。一部精密さが欠けるところはあったとしても、多数の中国船が魚の冷凍・加工処理・輸送を含むIUU 漁業を行っていることが分析結果に示されていると述べた。さらに、海上交通を追跡するための船舶自動識別装置(AIS)と合わせた光学センサによる衛星リモートセンシング技術を用いて夜間に漁船団を検知できることを報告した。
白石広美(トラフィック・プログラムオフィサー)は「台湾発のIUU漁業が“蔓延”している」と強調し、問題解決には漁業国と消費国の双方が重要な役割を果たさなければならないと述べた。違法漁業対策については、責任ある水産資源の利用を実現させるための手段に過ぎないと語り、各国が協力して行動を起こすよう要請した。また、中国におけるIUU 漁業の操業がしばしば注目されるが、日本も独自のIUU漁業の課題に取組み、中国や台湾から多くの水産物を輸入している国だという立場を認識しなければならないと述べた。
クエンティン・ハニック(オーストラリア ウーロンゴン大学・国立海洋資源・安全保障センター助教授)は、漁業管理・監視用AISの革新的な利用法について述べ、中西部太平洋まぐろ漁業に関する事例を紹介した。AISのデータは漁獲量や漁獲強度、漁場を示すことが可能であり、 IUU漁業絡みの洋上転載(積み替え操業)の他、トロール(底曳)網、延縄(はえなわ)、巻き網といった漁法までも検知可能であると伝えた。その一方で、特に漁船が意図的に誤った位置情報を送信した場合は不正確になるとも強調した。
トニー・ロング(ピュー慈善基金 違法漁業廃止プロジェクト・ディレクター)は、 IUU 漁業が 奴隷労働や脱税といった要素も絡んだ国際安全保障問題であると指摘し、“Eyes on the Seas(海上の目)” プロジェクトではAIS衛星モニタリングと船舶モニタリングシステム(VMS)を合わせ、不審な行動を検知していると伝えた。例えば、AISの機能を停止させて洋上転載(積み替え操業)を行っている漁船については、近くで不審な動きをしている他の漁船の速度と方向を監視することで実際に検知できると述べた。
各スピーカーによる報告の後、パネリストと聴衆による質疑応答が行われた。ハニックは、船主に対する起訴に持ち込んだテクノロジーの成功例について議論し、その一つがAISとVMSのエビデンスだけで示談解決に至ったものだと紹介。また、大関の解析手法は中国に圧力をかけるために利用できるかという質問に対して、同氏は現時点で解析は実証段階であり、未だ交渉の土台として活用することはできないと述べた。ロングは、技術は漁獲行為や洋上転載が行われたかが解る点では有効だが、許可証との相互参照をしなければその行為が必ずしも違法行為か否か示せないと説明した。宮原は、できるだけ早急に政府間のダイアログを開く必要があるとし、セッション中に紹介された解析方法はIUUの個別事例について議論する際に必要なデータを提供するものだと話した。ロングは、AISは国際海事機関(IMO)が管理しているもので、安全制度として推進されており、漁業監視制度としてはみなしていないため、AISのIUU漁業対策利用において摩擦が起きていると指摘した。 また、白石は質問を受けて、中国からアフリカへの水産物の輸出に関する統計は今のところ特に存在しないと答えた。
セッション 2: IUU漁業対策に向けた国際協力の強化
チャールズ・ベッドフォード(TNCアジア太平洋地域マネージングディレクター)がセッション 2のファシリテーターを務めた。ステファン・デピュピュレ(欧州委員会(EC) 海事漁業局長)は、IUU漁業に対する国内協力および国際協力を促進する措置が重要だと強調した上で、グローバルなレベルで多国間交渉を通じたルールづくりが求められる一方で、ローカルレベルでは法律を実効的に施行する措置が必要だと述べた。さらに、日米欧の間の協力関係を築く今回の会議のようなイニシアティブを称賛し、合法的な漁業に報酬を与える一方でIUU 漁業活動に罰則を与えるために様々な国で共通のガイドラインを設けることが重要だと強調した。
ジョン・ヘンダーシェッド(米国海洋大気庁(NOAA)国際・水産物検査室ディレクター)は、IUU 漁業対策とは、国際的な取組み、施行の強化、パートナーシップの強化、水産物トレーサビリティを包含する“関係行政機関全体”のイニシアティブであるとし、日本の国会が今般PSMA批准を承認したことを称えた。また、国際協力においては多様な政府の枠組みや異なる社会経済的な立場を認識しながら共通の目標を促進しなければならないと述べた。さらに、漁獲地点から市場に入るまでの流通を追跡し、輸入業者にルール遵守の責任を課すNOAAの水産物輸入モニタリングプログラム(SIMP)にスポットを当てた。
フィリップ・ミショー(セーシェル共和国副大統領府ブルーエコノミー省特任アドバイザー)は、国際的なIUU漁業対策の成功事例として、インド洋委員会地域漁業監視プログラム、 PSMA、 EU のIUU規制、西インド洋「FISH-i-アフリカ・タスクフォース」を挙げた。また、 IUU漁業に対抗する国内のインセンティブが国際協力の成功に欠かせない重要な礎であると話した。さらに、様々な国や地域の政府職員同士の個人レベルでの繋がりがIUU漁業対策にとって重要であると強調した。
長谷成人(水産庁次長)は、 カニのIUU 漁業防止に関する日露二国間協定について論じ、同協定によって2014年以降、違法に捕獲されたカニの日本の輸入量は3分の1減少したと述べた。また、地域漁業管理機関(RMFOs)ならびにPSMA批准の重要性を強調し、IUU漁獲の大半は中国の国内市場に出回ることから中国で操行する当局の船舶が中国政府にIUU漁船を規制するようプレッシャーをかけていると話した。さらに、日本も参加する北太平洋漁業委員会(NPFC)は、中国といった他国との二国間プロセスを補完する多国間プロセスだと述べた。
スフェン・ビエーマン(水産業透明性イニシアティブ(FiTI)ディレクター)は、FiTIが政府、学界、企業、市民社会など複数のステークホルダー間で築く本当の意味でのパートナーシップに基づく自主的な国際イニシアティブであるとし、一当事者が主導する協議とは対極に位置すると説明した。また、公平な立場を築くため、漁業のガバナンスにおける透明性改善とイニシアティブへの参加拡大を狙って、インドネシア、セーシェルをはじめとする5カ国がパイロット国としてイニシアティブに取組んでいると述べた。透明性自体は出発点であり、イニシアティブの目標達成には横の連携及び垂直の連携が等しく重要であると語った。
その後の議論で、 ミショーは、「誰も取り残されないように」市民社会と漁業従事者が関与していくことが重要だと述べた。太平洋における透明性の進展が逆行しているかとの質問に対し、 ビエーマンは、例えば企業や政府間での新たな契約や協定が公表されれば透明性が高まるという期待があると明かした。デピュピュレは、漁獲の合法性を証明する上で旗国に責任を課すことは重要ではあるが、太平洋諸国にとっては特に契約に盛り込まれた一定の情報は専有情報であるとの認識があるため、そのような責任を課すのは難しいと強調した。長谷は、特に日本では、市場メカニズムを活用すべきだと述べ、規制や罰金制度を実施するため段階的なアプローチを講じる必要があると話した。ヘンダーシェッドは、警察当局を拡大することで捜査手法の改善につながる可能性があると話した。
閉会挨拶
堀口健治(日本農業経営大学校校長、早稲田大学名誉教授)は、IUU漁業の問題について二国間および多国間で素晴らしい成果と進展があったことに感銘を受けたと伝え、初日のイベント終了を締めくくった。
5月17日(水)
ウェルカム・スピーチ
マリア・ダマナキ(TNC海洋部長)は参加者に歓迎の辞を述べ、様々なステークホルダーが日本の持続可能な漁業に向けて協力、前進していくために、地域に特化した方策を見つけることが重要であると強調した。
鎌田薫(早稲田大学総長)は、早稲田大学の学術的な実績を振り返るとともに、日本政府の支援を受けて現在も継続されている本学の海洋イニシアティブを通じて研究の質・量を高め、グローバルリーダーの育成に取り組んでいると強調した。
基調講演
石破茂(衆議院議員、自民党水産基本政策委員長)は、日本は自動車や工業技術品を多く輸出しているものの農産品や水産物については未だ競争力が高くないと述べ、生産コストの引下げや漁業従事者の収入アップ、新たな漁業従事者の誘致、流通チャネルの多角化、船舶免許制度の改善等を行うよう求めた。また、日本はIUU漁業対策に決意をもって取組んでおり、PSMA批准の承認は今後の重要な一歩になると歓迎し、日本には国際的にIUU漁業対策に取組む重責があると述べた。
佐藤一雄(水産庁長官)に代わって、長谷成人(水産庁次長)は、魚は栄養食品としても収入源としても重要であると述べ、北西太平洋地域の諸機関と連携していく意向を示した。また、日本のPSMA批准の承認ならびにIUU漁業規制に関する日露協定を賞賛した。
カルメヌ・ヴェッラ(欧州委員会 海事・漁業担当大臣)はビデオメッセージを寄せて、2010年以降、IUU漁業対策はEUの優先課題であったことを伝え、一国だけでは実現不能な共通責任であると語った。 また、IUU漁業対策に関する協力拡大を導く米・EUおよび日・EU間の共同声明(2011年署名、2012年署名)について強調し、こうした国々が一丸となって市場力を行使し、変革を促すよう示唆した。
三宅香(イオン(株) 執行役 環境・社会貢献・PR・IR担当)は、イオンの水産物調達原則が世界20,000店舗に影響を与えていると話し、2020年までに同社の販売する水産物の大半を海洋管理協議会(MSC)や水産養殖管理協議 (ASC)の認証制度を取得したものにするという目標を掲げたと述べた。また、MSC やASCといった認証制度によって小売業者が消費者に前向きな方法で影響を及ぼせると述べた。
アルベール2世公殿下(モナコ公国大公)は、ビデオメッセージにより、本シンポジウムは対話のため独自のプラットフォームを提供するものだと賛辞を送った。また、地球の海洋資源を枯渇させることなく世界に食料を供給するためには、日本にはIUU漁業対策における役割があると強調した。
1日目の概要報告
宮原正典(FRA理事長)は、前日の議事を振り返り、地域協力の下でIUU漁業をモニタリングする新技術を採用することが重要だと強調した。また、PSMAはIUU漁業対策において効率的なツールを提供するが、これを適切に履行するには今後のさらなる検証と広範な採用が必要であると述べた。
セッション 3: 水産物の透明性と持続可能性の実現に向けた政策・取組み
本セッションのファシリテーターは、太田宏(ORIS/国際学術院教授)が務めた。井田徹治(共同通信社編集委員)は、日本でのIUU漁業が “多発”しており、2015年には少なくとも7,000件の密漁が報告され、その大半がシラスウナギの密漁であると伝えた。また、IUU漁業が漁業資源の枯渇を招き、それが価格高騰につながり、さらなるIUU漁業を招くという悪循環が起こっていることを指摘した。 PSMAを履行するための効果的な措置やIUU漁業行為に携った者に対してさらに強い抑制策を講じ、法規制を施行するための十分なリソースを担保することが重要であると呼びかけた。また、 MSCやASCは優れた措置だが、日本の水産物については未だ“トレーサビリティがほぼ皆無である”と述べた。
マーク・ジムリング(TNCインド太平洋マグロプログラムディレクター)は、重要な漁業に関する情報格差を解消する先進技術やデータ解析手法について説明した。これまでは目視が必要だった中核的なデータの情報格差を解消する新たな電子モニタリング法を高く評価し、オーストラリアの延縄漁業やブリティッシュ・コロンビア州の底釣り漁業などで取組まれている電子モニタリングプロジェクトの成功例を紹介し、中国と日本での活動や試験的なプログラムについて言及した。また、技術は政策立案者がデータを現場の漁業管理に利用することで初めて有効性を持つと述べた。。
トーマス・クラフト(米国ノルパック水産輸出合同会社CEO)は、サプライチェーンを通じて水揚げ・加工された魚の追跡技術を導入したインドネシアにおける民間セクター主導のプロジェクトについて紹介した。また、こうした多数のステークホルダーによる取組みによって、業界、政府、科学者、消費者がリアルタイムで情報にアクセスできるシステムが構築されたと説明した。漁獲された魚種や体長、数量、漁場などの情報を得ることで政策立案者は乱獲海域を正確に把握できると同時にサプライチェーンを遡って購入者まで情報を送れると述べた。また、消費行動を変えるには“水産物にストーリーをもたせる”ことが重要であると強調し、メニューにQRコードを活用することによって消費者がどんな魚を食べていてどこで獲れたものかが正確にわかるようになると説明した。
山本泰幸(イオンリテール株式会社グループ商品戦略部)は、日本産の水産物の基準をMSCのような現行の国際基準に合わせる形で遵守する同社の取組みを紹介した。グローバルな小売業者として、イオンは、食品の安全性を担保し、不法労働や人権侵害を防止するサプライチェーン全体の調達プロセスを必要とする認証制度を採用しており、将来的には国産有機食品の調達を拡大するよう努める意向を示した。
花岡和佳男(株式会社シーフードレガシー代表取締役社長)は、IUU漁業対策となる市場メカニズムについて紹介した。多くの国ではNGOがレストランやスーパーと提携しているが、そうしたパートナーシップは日本ではほぼ皆無だと述べ、パートナーシップについて強調した。米国の消費者が漁船で奴隷労働が行われていたと申し立て、小売業者を提訴した事例を挙げて、水産物トレーサビリティの欠如が企業にとって大きなリスクになると語った。また、トレーサビリティに関しては、データを検証する第三者機関との連携を求めた。
セッションに関するコメント発表のコーナーでは、クエンティン・ハニックが、グローバルな水産物の供給国かつ消費国として、日本はIUU漁業対策におけるより共同的な取組みを主導していく立場にあると述べた。
また、プレゼンテーションに関する所感として、本間靖敏(北海道漁業協同組合連合会 代表理事常務)は、違法漁業は人類の海洋資源という預金を使い果たす銀行強盗のようなものだとし、北海道では自治体レベルで違法な漁業活動をモニタリングするための監視措置を導入するとともに、横行するナマコ密漁を食い止めるべく夜間の漁業を禁止したことも伝えた。
認証制度の導入による価格への影響について質問を受け、山本はイオン側が認証制度の実施コストを吸収しており、顧客に対して価格を転嫁していないと回答した。
セッション 4: 水産認証制度の活用による水産物の透明性と持続可能性
太田宏(ORIS)がセッションのファシリテーターを務めた。牧野光琢(FRA)中央水産研究所水産グループ長)は、サステナブル(Sustainable)、ヘルシー(Healthy)、ウマイ (“Umai”) 日本の水産物(Nippon Seafood)の頭文字を取って名付けられたSH“U”Nプロジェクトについて紹介した。消費者が水産物資源の状態を理解し、情報に基づいた商品選択ができるようにするため研究者が設計したものだと説明し、全評価基準が公表され、消費者が個人的に重要だと思える基準を選べるようにしたと強調した。
ジョッシュ・マデイラ(モントレー水族館フェデラルポリシーマネジャー)は、モントレー水族館が導入している啓蒙プログラムについて紹介。持続可能な漁業に関する知識と水産物に関する知識を統合させ、水産製品のサステナビリティ―を格付けすることにより、来場者と消費者の意識向上を目的とする同水族館のシーフードウォッチ・プログラムについて詳説した。また、このプログラムの水産物の持続可能性に対する格付評価については、さらに多くの組織と協働する意欲をみせた。
石井幸造(MSC日本事務所プログラムディレクター)は、MSCのような認証制度は消費者の影響力を活用したIUU漁業対策であると話した。MSCは漁業認証制度として認証を付与するか否かを選択する際に認証対象の漁業においてIUU漁業のレベルを評価していると述べた。また、IUU活動によって資源もしくは管理に損失を与えているとみなされる場合、認証を得るのは極めて困難だと説明した上で、地域漁業管理機関(RMFOs)にはIUU漁船のリストを保管し、IUU漁船からの漁獲が認証を受けたり、認証済みの製品に混入したりすることがないよう担保するという役割があると強調した。
垣添直也(マリン・エコラベル・ジャパン協議会会長)は、持続可能な水産物に対する様々な認証制度に関する国際認識がどのように変遷したか振り返り、日本の水産物エコラベル制度について説明した。また、水産業界が単に魚を獲る産業から全ての消費者に持続可能性の価値を奨励する産業へと転換する必要があると訴えた。
阪口功(学習院大学教授、ミドルベリー国際大学院モントレー校客員研究員)は、政策の失敗により民間の認証制度が必要とされていると述べた。一方で、各種認証制度の弱点についても論じ、評価にかかる費用が低すぎると申請者に有利になり“ごまかしの環境保護(ブルーウォッシング)”を認定することにつながりかねないと指摘した。厳しい評価基準を守らなければ認証制度の信頼性は損なわれるとした上で、MSCのような国際基準は地域特有のローカル基準を認識する必要があると強調した。
岡田久典(早稲田大学環境総合研究センター上級研究員)は、W-BRIDGE (早稲田(株)-ブリジストン) イニシアティブを紹介。一般市民、大学、他勢力を巻き込んで地球環境問題の新たな解決策を見つけるべく、過去9年間で150件のプロジェクトを開発したと説明した。
日本の報道関係者からは評価や格付において様々なアプローチがある中で、どのアプローチを選択するべきかという質問があり、これを受けて、牧野はFRAの主たる業務として科学情報を収集して一般市民に提供していると述べ、一般市民がどの評価基準を採用するか決めていると説明した。マデイラは、異なる評価基準を使っていくことで、その経験が新たなアライアンス構築に役立つと答えた。MSCの制度が途上国で価値の押し付けになっていないかという質問に対して石井はMSCは様々な地域とグローバルな水産業を代表する多様なメンバーを有していると答え、零細漁業団体が当制度から除外されるべきではないと強調した。東京海洋大学からのある参加者は、今回のシンポジウムの意義について語り、日本は水産物の輸入大国としてIUU対策でリーダーシップをとり始めたことを示すものだと述べた。
セッション 5: まとめ
宮原正典(FRA理事長)は、IUU漁業は日本にとっても世界にとっても脅威であると強調し、IUU漁業対策において特にPSMA批准承認をもって日本が強固な政治的リーダーシップを発揮することを期待すると述べた。また、今回のシンポジウムはNGO、大学、政府(TNC、早稲田大学、FRA)の共催で実現した初の会議であると強調し、参加者に謝意を述べた。また、日本は、PSMAや他の関連措置が実効的に履行されるよう米欧と共にリーダーシップを発揮していくことが期待されていると述べた。しかし、日本はそうした期待に沿うためには独自の国内措置を再検証し、整備を進めていく必要があると警告した。さらに、IUU漁業に終止符を打つには、国際協力が不可欠だと再度強調し、対話の場に中国を参加させることが必要だと主張した。また、日本にとっては開催国として2020年オリンピック・パラリンピックがIUU漁業終了に向けたアジェンダを前進させる絶好のチャンスになるとの見方を示した。
太田宏(ORIS/国際学術院教授)は、本会議が様々なセクターの関係者を一堂に結集し、IUU漁業について意義深い対話を行う日本で初の試みになったと述べ、2日目のセッションをまとめ、日本の主要課題は世界の漁業資源の現状についての意識を高めることだと指摘した。また、複数の認証制度が競合することはプラスであるとし、2020年の東京オリンピックは水産物の持続可能性とIUU漁業に関するメッセージを普及するプラットフォームとして活用されるとして、宮原の期待感に共鳴する発言を行った。
チャールズ・ベッドフォード(TNCアジア太平洋地域ディレクター)は、漁業の道具は釣り針や槍に始まり、網、底引き網と進化していったと語り、水産物もあらゆるセクター、あらゆるレベルで対応が必要なグローバルなサプライチェーンの一部になったと指摘した。また、日本のPSMA批准承認を歓迎し、三大水産物市場の一つとして日本がPSMA批准を諸外国に働きかけるなどして、今後もIUU 漁業対策で主導的な役割を果たしていくよう期待すると述べた。「我々は箸やフォーク、ナイフをなかなか置くことができないが、最後の一口を食べ尽くしてしまうような世代にはなりたくはない」と締めくくり、自制の精神と持続可能性へのコミットメントを呼びかけた。
閉会挨拶
石山敦士(早稲田大学 副総長(研究促進)理事)は閉会の挨拶を行い、2日間の会合の成果は、様々な文化圏や国、セクターからのアイディアを引き出し、将来の世代に海洋資源を継承するという一つの希望につなげたことだと称えた。また、築地市場への午前のツアーは参加者同士の親睦を深め、会議での人的ネットワーク強化にも役立ったと強調した。 午後6時5分に閉会となった。
今後の会合スケジュール
IWC科学委員会: 国際捕鯨委員会 (IWC)の科学委員会が行う年次総会は、IWCの二大フォーラムのひとつ。今年はスロヴェニア・ブレッドで開催。 日程: 2017年5月9-21日 開催地: スロヴェニア・ブレッド 連絡先: IWC事務局 TEL: +44 (0) 1223-233-971 FAX: +44 (0) 1223-232-876 www: https://iwc.int/sc67a
2009年FAO 「寄港国措置協定」第1回締約国会合: 違法・無報告・無規制(IUU)漁業の防止、抑止および廃絶のための寄港国措置協定(PSMA)は2016年6月5日発効。 日程: 2017年5月29-31日 開催地: ノルウェー・オスロ 連絡先: Matthew Camilleri(FAO) email: matthew.camilleri@fao.org www: http://www.fao.org/fishery/psm/agreement/en
国連ハイレベルSDG 14実施支援会議: 持続可能な開発目標SDG14の実施を目指す国連ハイレベル会議は世界海の日に合わせ、フィジー政府とスウェーデン政府の共催で行われる。 日程: 2017年6月5-9日 開催地: ニューヨーク国連本部 連絡先: フィジー政府代表部・スウェーデン政府代表部 TEL: +1-212-687-4130 ( フィジー); +1-212-583-2500 (スウェーデン) www: https://oceanconference.un.org /
BBNJ PrepCom 4: 「国家管轄権外区域の海洋生物多様性準備委員会(BBNJ PrepCom)」第4回会合は、国連総会決議 69/292 (国家管轄権外区域の海洋生物多様性の保全及び持続可能な利用に関する国連海洋法条約の下の国際的な法的拘束力のある文書の作成)により設置された。本会合は、海洋遺伝資源、地域に根ざした管理ツール、 環境影響評価、 キャパシティビルディング、 海上技術移転、横断的問題等を取り上げる。また、第72回国連総会(UNGA)で合意文書の文言作成に向けた政府間会合を開催するか否かを決定するべく、総会に送る提言を準備する予定となっている。 日程: 2017年7月10-21日 開催地: ニューヨーク国連本部 連絡先: UNDOALOS TEL: +1-212-963-3962 email: doalos@un.org www: http://www.un.org/depts/los/biodiversity/prepcom.htm
Our Ocean Conference 2017: 欧州連合(EU) が今年第4回目となる‘アワオーシャン会合’を主催。海洋や気候変動、海洋汚染、持続可能な漁業、潮力波力発電技術を含む持続可能な“ブルー・グロース”(環境に優しい海洋利用)等の課題が中心テーマ。また、前回会合で行われた公約の実施状況について報告、再検討を行い、新たなコミットメントを探る。 日程: 2017年10月5-6日 開催地: マルタ共和国 連絡先: Ramon van Barneveld TEL: +32 229-84602 email: Ramon.VAN-BARNEVELD@ec.europa.eu www: http://urocean2017.org/
追加会合についての情報はIISDのURLを参照: http://sdg.iisd.org /