Summary report, 26 July – 6 August 2021
54th Session of the IPCC (IPCC-54) and 14th Session of the Working Group I (WG I-14)
地球の表面温度は、少なくとも2050年までは上昇を続ける、過去及び将来の温室効果ガス(GHG)排出量による変化の多くは、数世紀から千年紀の間、不可逆的であり、特に海洋、氷床、地球の海水面の変化において不可逆的である。自然科学の観点からすると、人為的な地球温暖化を特定の水準に抑えるには、少なくともネットゼロの二酸化炭素(CO2)排出量を達成し、他のGHG排出量の強力な削減が必要である。
これが、気候変動に関する政府間パネルの第6次評価報告書作業部会I報告書の警告である。2021年8月6日に承認された政策立案者サマリー(SPM)は、過去、現在、未来の気候変動の根拠となる自然科学の総合的な評価を提供する。多数の参加者は、このSPM及びその基となる報告書は2021年11月にスコットランドのグラスゴーで開催される予定の国連気候変動枠組条約第26回締約国会議における政府間交渉に対し、極めて重要なインプットになると強調した。
全ての多国間プロセスと同様、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、COVID-19のパンデミックの中、作業の調整を余儀なくされた。最初に、IPCC評価報告書に貢献する執筆者らは、自分たちの報告書草案に関し受理したコメントを論じる会議を、バーチャル方式で行う必要があった、さらにパネル自体、その第53回会合(IPCC-53)をオンラインで開催、最初は短期間の手順上の会合であり、その後「53-bis」会合を再開、その結果、第6次評価報告書(AR6)の完成に向けた戦略計画スケジュールについて、実質的な決定を行うに至った。
しかし、IPCC-54は、真に新しい天地を開拓した:参加者は、AR6に対する作業部会I(WG I)の報告書のSPMを承認する会合を、完全なバーチャル方式で開催した。IPCC事務局長のAbdalah Mokssitが閉会プレナリーで指摘したとおり、このバーチャル方式の意思決定プロセスの規模及び野心は、IPCCだけでなく、より広範な国連のシステムにおいても、前例のないものとなった。11日間にわたる会議で、約300名の参加者は、WGI SPMの行ごとの承認に従事した。多数のものは、これがうまくいくかどうか懐疑的であり、通常の状況下でも承認プロセスは課題が多いと指摘したが、承認作業は予定通りに終了、元々の閉会時間を1時間未満、超過しただけであった。最終プレナリーで、ノルウェーは、「(この承認プロセスは)パネルがこれまで見てきた中で最も良く組織されたプロセス(the most well-organized approval process the Panel has ever seen)」であったと指摘、多数の参加者は、この会合での学習事項を活用し、将来の承認会合の企画に情報を提供するよう求めた。
SPMの重要なメッセージには、他にも下記が含まれる:
- 人間の影響で気候系が温暖化してきた;
- 気候では、広範で急速な変化が発生してきた;
- 最近の変化の規模は、何世紀から何千年もの間、過去に例を見ないものである;
- さらなる地球温暖化で、全ての地域が変化を経験すると予測され、豪雨雨などの極端な現象がその頻度も強度も増すことになる;
- 地球表面温度は、検討された全ての排出量シナリオにおいて、少なくとも今世紀半ばまでは上昇し続ける;
- 今後数十年間にCO2及び他のGHGの排出量が大幅削減されない限り、21世紀中に、(産業革命前比)1.5°C及び2°Cを超える上昇となる;
- 地球表面温度の傾向という意味で、強力で急速、かつ持続的な排出量削減の効果が出るのは、約20年後からである。
IPCC-54、及びWG Iの第14回会合は、2021年7月26日から8月6日、IPCCの下、バーチャル方式で行われた。
IPCCの簡略史
IPCCは、世界気象機関(WMO)と国連環境計画(UNEP)が1988年に設立した政府間組織であり、人為的な気候変動及びその影響可能性、適応並びに緩和のオプションを理解すべく、関連の科学的、技術的、社会経済的情報を、包括的、客観的、オープンで、透明性のある形で評価することを目的とする。IPCCは、195の加盟国を有する政府間科学組織である。新規の研究をすることはなく、気候関係のデータをモニタリングすることもない、むしろ出版され、ピアレビューを受けた科学技術文献に基づき、気候変動に関する知識の状況を評価する。IPCC報告書は、政策関連性を意図し、政策規範性は意図しない。
IPCCには次の3つの作業部会(WGs)がある:
- WG Iは気候変動の自然科学的根拠を論じる。
- WG IIは気候変動の影響、適応、脆弱性を論じる。
- WG IIIは、温室効果ガス(GHG)排出量削減及び気候変動緩和のオプションを論じる。
各WGは、2名の共同議長及び7名の副議長で構成されるが、WG IIは例外で副議長が8名である。共同議長職は、テクニカル・サポート・ユニット(TSUs)の支援を得て、各WGsがそのマンデートを達成しているか指導する。IPCCは、これらに加えて、国別温室効果ガス・インベントリに関するタスクフォース(TFI)を有し、同じくTSUの支援を得て、IPCC国別GHGインベントリ・プログラムを監督する。このプログラムの目的は、各国のGHG排出量及び除去量の計算と報告を行うための国際的合意を得た手法論及びソフトウェアの開発と精緻化を行うほか、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の締約国によるこれらの利用を推奨する。
パネルは、各評価サイクルの期間を任期とする議長団を選出する、この評価サイクルには5年から7年を擁するIPCC評価報告書の作成が含まれる。議長団は、全ての地域を代表する気候変動専門家で構成され、IPCCの議長及び副議長、各WGの共同議長及び副議長、並びにTFIの共同議長を含める。IPCCには常設の事務局があり、スイスのジュネーブを本拠とし、そのホスト組織はWMOである。
IPCC制作品
パネルは、発足以来、一連の包括的な評価報告書、特別報告書、テクニカルペーパーを作成し、国際社会に気候変動に関する科学情報を提供してきた。
IPCCは、これまでに5件の評価報告書を作成し、それぞれ1990年、1995年、2001年、2007年、2014年に完成させた。AR6は、2022年の完成が期待される。評価報告書は、3つのWGごと1部の3部構成である。各WG報告書は、政策立案者向けサマリー(SPM)、テクニカル・サマリー、及びその基礎となるWG評価報告書本文で構成される。各報告書は、専門家及び政府による徹底的で厳しい査読プロセスを経る、これには次の3つの段階が含まれる:第1段階は専門家による査読、第2段階は専門家と政府による査読、第3段階は政府による査読である。各SPMは、それぞれの担当WGによる1行ごとの承認を受け、パネルによる採択が行われる。
統合報告書(SYR)は、評価報告書全体に対し作成され、3つの作業部会報告書及び当該サイクルの特別報告書で、最も関連性のある部分を統括する。パネルは、その後、SYRのSPMの行ごとに承認作業を行う。
IPCCは、気候変動関連問題に関し一連の特別報告書も作成する。AR6サイクルには、次の3つの特別報告書が含まれる:
- 1.5℃地球温暖化に関する特別報告書(SR1.5)、これは2018年10月のIPCC-48で承認された;
- 気候変動、砂漠化、土地の劣化、持続可能な土地管理、食料安全保障、陸上生態系の温室効果ガス・フラックスに関する特別報告書(SRCCL)、これは2019年8月、IPCC-50で承認された;
- 変化する気候における海洋及び雪氷圏に関する特別報告書(SROCC)、これは2019年9月のIPCC-51で承認された。
加えて、IPCCは、手法論報告書も作成する、この報告書は各国のGHGs報告書作成を助けるガイドラインを提供する。グッド・プラクティス・ガイダンス報告書は、2000年及び2003年に承認され、国別GHGインベントリのIPCCガイドラインは、2006年に承認された。国別GHGインベントリの2006年ガイドラインの精緻版(2019 Refinement)は、2019年5月のIPCC-49で採択された。
2007年、ノーベル平和賞が、IPCC及び前米国副大統領Al Gore氏に授与された、これは「人為的な気候変動について更なる知識を構築し、普及し、そのような変動への対処に必要な基礎を敷いた」両者の実績及び努力に対する賞である。
第6次評価報告サイクル
IPCC-41からIPCC-43:IPCC-41(2015年2月24-27日、ケニア、ナイロビ)は、AR6サイクルに関連する決定書を採択した。IPCC-42(2015年10月5-8日、クロアチア、ドブロブニク)は、AR6サイクルの議長団メンバーを選出した。IPCC-43(2016年4月11-13日、ケニア、ナイロビ)は、2件の特別報告書(SRCCL及びSROCC)を作成することで合意、AR6サイクル中に2019年精緻版を作成することでも合意したほか、UNFCCC第21回締約国会議の招請に応え、地球温暖化を産業革命前水準より1.5℃の上昇で抑える場合の影響に関する特別報告書を作成することでも合意した。パネルは、都市に関する特別報告書をAR7サイクルの一環として作成することでも合意した。
IPCC-44:この会合(2016年10月17-21日、タイ、バンコク)において、パネルは、SR1.5及び2019精緻版のそれぞれの概要を採択したほか、特に気候変動と都市に関する会議についても、決定書を採択した。
IPCC都市及び気候変動の科学の会議:この会議(2018年3月5-7日、カナダ、エドモントン)では、気候変動が都市に与える影響、及び地方当局が気候変動への対応で果たせる重要な役割について、理解を深めるための研究アジェンダが作成された。
IPCC-45からIPCC-47:IPCC-45(2017年3月28-31日、メキシコ、グアダラハラ)は、 SRCCL及びSROCCの概要を承認し、特に右記について議論した:AR6サイクルの戦略計画スケジュール;短寿命気候強制力(SLCFs)を考察するとの提案;IPCCの資源確保オプション。IPCC-46(2017年9月6-10日、カナダ、モントリオール)は、AR6の3つのWG報告書における各章の概要を承認した。IPCC-47(2018年3月13-16日、フランス、パリ)において、パネルは、特に右記について合意した:ジェンダーに関するタスクグループの設置;パリ協定の下でのグローバルストックテイク(GST)に鑑みた、IPCCの将来作業の構成に関するタスクグループの委任事項草案。
IPCC-48:この会合(2018年10月1-6日、韓国、インチョン)において、IPCCは、SR1.5及びそのテクニカル・サマリーを受理し、そのSPMを承認した、これには特に次の結論が含まれる:地球の平均気温を1.5℃の上昇で抑えることは、依然可能である、しかし社会のあらゆる面で「過去に例を見ないほどの(unprecedented)」転換が必要である。
IPCC-49:この会合(2019年5月8-12日、日本、京都)において、IPCCは、2019年精緻版の概要の章を採択するとともに、その基となる報告書を受理した。IPCC-49では、ジェンダーに関するタスクグループの委任条件についても、決定書が採択され、AR7サイクルにおいて完成すべきSLCFsに関する手法論報告書についても、決定書が採択された。
IPCC-50:この会合(2019年8月2-7日、スイス、ジュネーブ)において、IPCCは、SRCCL及びそのテクニカル・サマリーを受理し、そのSPMを承認した。TFLとの協力で開催されたWGsの合同会合では、SPMでの合意達成を目指し、行毎の検討が行われた。
IPCC-51:この会合(2020年9月20-24日、モナコ)では、WGs I及びIIの合同会議での(SROCCのSPMの)行ごとの承認に続いて、SROCC及びそのテクニカル・サマリーの受理、SPMの承認が行われた。
IPCC-52:この会合(2020年2月24-28日、フランス、パリ)において、IPCCは、AR6 SYRの概要を採択した、この概要には、前段となる序論と次の3つのセクションが含まれた:現状及び動向;長期的な気候及び開発の将来;変動する気候に対する近未来の対応。パネルは、IPCCジェンダー政策及び実施計画も採択、ジェンダー行動チームが設置されるなどした。さらにGSTの観点からみたIPCCの将来作業の組織体系が議論され、IPCC統治原則も議論されたが、合意には至らなかった。
IPCC-53:この会合(2020年12月7-11日、オンライン)は、COVID-19パンデミックのためバーチャル方式で開催され、IPCC信託基金プログラム及び予算が取り上げられた。パネルは、(賛成の場合は)沈黙する手順を採用し、2020年の改正予算及び2021年の予算案の改定を承認した。
IPCC-53 bis:この会合(2021年3月22-26日、オンライン)で、IPCCは、次の項目に関し、第6次評価報告書(AR6)サイクルの戦略計画スケジュールを調整した:COVID-19パンデミックに鑑みた、WG I報告書承認プレナリーのモダリティ;AR7サイクルの議長団メンバー選出の準備。さらにパネルは、オープンエンドのメンバーシップとするアドホック・グループを設置、AR7のIPCC議長団の人数、構造、構成に関しパネルに推奨案を提出することとした。
IPCC-54及びWG I-14の報告
IPCC事務局長のAbdalah Mokssitは、会議を開会、IPCCはバーチャル方式でWG I承認会合を行うという道を切り開いたと指摘した。
WMO事務総長のPetteri Taalasは、IPCC報告書には政治的に高い関心が寄せられているとし、AR6 WG I報告書はUNFCCCの第26回締約国会議(COP 26)に極めて重要なインプットを提供すると強調した。同事務総長は、極端な天候現象の頻度が増していると指摘し、早期警戒システムの重要性を強調、適応及び野心的な緩和行動に投資するよう求めた。
UNEP次席専務理事のJoyce Msuyaは、パンデミックという大きな課題の中、重要な仕事を続けているとして、IPCCを称賛した。同次席専務理事は、各国に対し、COVID-19からのグリーンなリカバリーを確保し、ネットゼロの約束を具体的な行動に転換するよう促した。同次席専務理事は、重要な優先事項として次の項目に注目した:適応のための資金;パリ協定の国家決定貢献(NDCs)の更新においては、自然に根ざした解決策への注目を高める;気候アジェンダと自然のアジェンダの統合。
UNFCCC事務局長のPatricia Espinosaは、今、極端な天候現象の増大を経験しているが、科学はそのことを一貫して警告してきたと想起し、現在の排出量水準では世界は地球平均気温が3℃以上上昇する経路に立っていると指摘し、経路を変更する必要があると強調した。同事務局長は、COP 26を見据え、各国政府に対し、2030年までに排出量の45%削減を達成し、2050年までにネットゼロの排出量に達するための戦略を提出し、より野心的なNDCsを提出するよう促した。
IPCC議長のHoesung Leeは、パンデミックや、対象となる文献の量の増加、第6次評価サイクルで3つの特別報告書を作成するという前例のない作業量にも関わらず、比較的速やかに作業を進めたとして、WG Iを称賛した。同議長は、気候変動を政策の本流とするなら、科学に対する要求は高まり、IPCCの価値も高まると述べた。同議長は、次のものなど、WGIの貢献を強調した:気候変動を起因とする極端な天候;地球規模及び地域規模の気候プロセスを特定;WG II及びWG IIIの根拠を提供。
暫定議題書の承認:事務局長のMokssitは、暫定議題書(IPCC-LIV/Doc.1)、暫定注釈付き議題書(IPCC-LIV/Doc.1, Add.1)、及び作業構成書案(IPCC-LIV/INF.1)を提出した。パネルは、コメントなしで暫定議題書を採択した。
IPCC-53報告書及びIPCC-53 bis報告書の採択:事務局長のMokssitは、IPCC-53報告書草案(IPCC-LIV/Doc.2)及びIPCC-53 bis報告書草案(IPCC-LIV/Doc.3)を提出した。パネルは両方の報告書を採択した。
Chair 議長のLeeは、その後、WG I-14の作業を開始できるよう、IPCC-54を金曜日まで中断した。
WG I SPMの審議及び承認
WG I共同議長のValérie Masson-Delmotteは、参加者を歓迎し、今回の会合は2017年に開始されたWG I報告書の共同設計プロセスの最終段階であると説明した。同共同議長は、最初の2つのSPM草案について大量のコメントを受け取ったと指摘、今回の会合での審議及び承認のため参加者と共有するSPM改訂版を作成する際には、これらのコメントについて慎重に検討すると述べた。
サウジアラビア及び中国は、開会ステートメントで、政策規範性を避ける必要があると強調した。サウジアラビアは、報告書において定義されていない用語が使われた箇所を指摘、モデル及び展望の使用に関する不確実性を明らかにするよう求めた。中国は、温暖化のスピードは誇張されているとし、1.5℃の温暖化に達するタイムスケールでの計算方法を明確にするには、平均気温の変化を10年単位ではなく、20年から30年間の基準で示すよう求めた。インドは、数字について細かい議論が必要だと強調した。タンザニア、南アフリカ、ザンビアは、提示された情報の地域バランス、特に干ばつに関する情報の地域バランスを確保するよう主張した。インドネシアは、報告書にあるそれぞれのパラグラフは、一つの主題に焦点を当てるべきで、明確さのため、数字や専門用語を避けるべきだと述べた。
共同議長のMasson-Delmotteは、コメントを歓迎、事実の記述に非校正の表現を用いるのはこれまでの慣習を反映したもので、数字の多様な要素については冒頭ステートメントと関連付けて説明していると指摘した。
会議の間中、SPMの異なるサブセクションは、最初にプレナリーで審議され、参加者はサブセクションの異なるパラグラフ及び冒頭ステートメントについてコメントした。その後、執筆者は、参加者のコメントの扱い方を検討し、文章の改定を提案した。続いて、サブセクションの審議が、コンタクトグループで行われ、さらに必要な場合、ハドルでも議論された、その後、承認のためプレナリーに戻された。執筆者会議、及びコンタクトグループやハドルでの議論は、会議場ペーパーにまとめられ、会議運営プラットフォーム上で発表された。
A. 気候の現状
A.1:このサブセクションは、気候系に対する人間の影響を論じる。数名の参加者は、「人間の影響が気候系を温暖化し、気候は広範かつ急速な変化が起きている(human influence has warmed the climate system, and widespread and rapid changes in climate have occurred)」との冒頭ステートメントの表現を強めるよう要請した。ルクセンブルグは、オランダ、フランス、英国、セントクリストファー・ネービス、ジャマイカ、アイルランド、その他の支持を得て、「人間の影響が気候系を温暖化した(human influence has warmed the climate system)」を「気候系で観測された温暖化は、明らかに人間の影響を原因とする(observed warming of the climate system is unequivocally caused by human influence)」に置き換えるよう提案したが、サウジアラビア、中国、インドは反対した。一部のものは、変化を経験している気候系の部分を特定するよう求めた。執筆者らは、「人間の影響が気候系を温暖化したのは明らかだ(it is unequivocal that human influence has warmed the climate system)」とし、「海洋、大気、雪氷圏、生物圏では広範かつ急速な変化が起きている(widespread and rapid changes in the ocean, atmosphere, cryosphere, and biosphere have occurred)」とすることを提案した。さらなる議論において、これら2つの文章は、次のように修正された:「人間の影響は大気、海洋、土地を明らかに温暖化している(human influence has unequivocally warmed the atmosphere, ocean, and land)」。サウジアラビアは、「明らかに(unequivocally)」に異議を唱えた。参加者は、「気候系(climate system)」ではなく、人間の影響に関わることが明らかな「大気、海洋、土地(atmosphere, ocean, and land)」の温暖化と、明確に言及する妥協案に留意した。インドは、この3つ全体での人間の影響の確信度は多様であり、可能性の程度も多様だとして嘆いた。共同議長のMasson-Delmotteは、これは事実を述べただけであり、執筆者らも同意していると述べた。多少の議論の後、サウジアラビアは、妥協案方式に多少の編集上の修正を加えた表現を受け入れ、冒頭ステートメントは、承認された。
A.1.1:十分混合されたGHGで観測された濃度上昇に関するこのパラグラフについて、フランスは、スイス、アイルランド、英国の支持を得て、1750年以降のCO2、メタン、亜酸化窒素の大気濃度の推移を示すグラフを含めることを提案した。数名の参加者は、1850年ではなく1750年への言及に疑問を呈した。
他のものは、「十分混合されたGHGs(well-mixed GHGs)」の代わりに主要GHGsのリストを求めた。さらに参加者は、人間の活動に起因する程度に関係して「圧倒的(overwhelmingly)」を使うことに疑問を呈し、定量化を要請した。参加者は、これを「明らかに(unequivocally)」に変え、「AR5」以降ではなく、「2011年」と特定することで合意した。カナダは、CO2の正確な割合を特定するよう要請し、合意された。脚注で他のGHG濃度を特定するとの執筆者の提案は、受け入れられた。サウジアラビアへの対応として、別な脚注が追加され、土地及び海洋はCO2以外のGHGsの相当量の吸収源ではないと明記された。インドは、アマゾンはもはや吸収源とは考えられないと指摘し、吸収能力は減少しているとの記述を提案した。執筆者は、この記述は地球レベルでの吸収割合を指すと明言した。さらなる議論の後、参加者は、カッコ書きに「気球規模での(globally)」を加え、1年間で吸収されるCO2排出量の割合を特定することを受け入れ、文章の最後に「地域的な違い(regional differences)」を入れることも受け入れた。このパラグラフは追加の修正なしで承認された。
A.1.2:地球平均温度の上昇に関するパラグラフについて、少数の国は、10年単位ではなく、20年または30年とするよう提案した。執筆者は、SR1.5も含め、10年単位の予測が前例となっていると指摘した。ルクセンブルグは、最新の情報を提供する必要があると強調した。ドイツは、「気温上昇(temperature increase)」及び「地球温暖化(global warming)」 における明確性及び一貫性を求め、他の少数の国と共に、「地球表面温度(global surface temperature)」、「地球表面平均温度(global mean surface temperature)」、「地球表面大気温度(global surface air temperature)」という表現についても、明確性及び一貫性を求めた。サウジアラビアは、地球平均表面温度及び地球表面大気温度の動向に関する脚注は、報告書本文をさらに反映するものにすべきだと述べた。
主に2003年から2012年のさらなる温暖化を原因とするAR5以降の地球表面温度上昇の推測値に関し、セントクリストファー・ネービスは、スイス、ルクセンブルグ、米国、トリニダード・トバゴ、英国、ドイツの支持を得て、気温の推測値における変化の一部について、自然の温暖化の結果というよりも、手法論の変化が原因であると特定する表現を提案した。インドは、AR5以降の温暖化推測値の上昇を推進している腫瘍要素は、追加の温暖化であり、データのセットの更新や新規のデータのせいではないと認めるよう求めた。これら2つの提案は脚注に入れられた。英国は、現在の温暖化率に関する情報を求めた。執筆者らは、このことは報告書本文では取り上げられていないと述べたが、図SPM.1に視覚的な情報が示されていると指摘した。1850年以降、過去40年間のそれぞれの10年間は、それまでのいかなる10年間よりも温暖であり続けてきたとの文章が、パラグラフの初めに加えられた。執筆者らは、地球表面温度の上昇の測定を変更し、現在特定された異なる年度の数値を反映するようにした、1995年から2014年では0.69˚C-0.95˚C、 2001年から2020年では0.85˚C-1.10˚Cである。
図SPM.1:この図は、地球表面温度の変化を論じる。総論コメントとして、参加者は、次の項目を要請した:図に示されたデータについて観測されたものと予測されたものを区別する;確信度を加える;追加された期間に関する情報を含める。フランスは、アイルランド、スイス、ベルギー、ルクセンブルグ、日本の支持を得て、大気中のGHG濃度の動向に関するビジュアルな情報を提供することが重要だと強調し、これを図SPM.1に含める、または新しい図に入れるよう促し、そのような図はこれまでの報告書でも含まれていたと指摘した。
共同議長のMasson-Delmotteは、このプロセスの現段階で図を追加する、または大幅に修正することは困難だと強調し、これらの図は本文を繰り返すのではなく、追加の情報提供を意味すると述べた。中国は、地球表面温度とGHG濃度は直線的な関係ではないと指摘し、執筆者らもこれを確認した。執筆者らは、図SPM.2はGHG排出量の役割に関する情報を示すものだと指摘した。WG I副議長のGregory Flatoは、図SPM.2は気候変動を推進するGHG排出量の役割について、確固とした評価を提供すると述べた。
フランスはそのような図は以前の報告書に記載されていたと指摘したが、共同議長のMasson-Delmotteは、これに応じて、AR5 WG I SPMでは世界平均CO2濃度の変化を示す図は無く、AR5 SYRではないかと指摘した。フランスは、IPCC報告書に対する一般の関心は高まっていると強調し、GHG濃度の変化の動向を熟知していない読者に対し、重要なメッセージを提供する教訓的な重要性を指摘し、テクニカル・サマリーの図TS 2.2に基づく新しい図を提案した。執筆者らは、そのような図の作成はこの報告書のいくつかのセクションの根幹をかえるものだとし、これらの図は例えばメタンの役割を無視していると指摘した。フランスは、WMOがそのような図を毎年作成していると指摘し、報告書本文の図を指し、これらをSPMに入れるのが難しいというのは疑問だと指摘した。ノルウェーは、図SPM.1に報告書本文にある参照箇所のリスト、すなわち報告書本文にある関連の図と結びつける情報を追加するよう提案した。執筆者らは、この引用付けに「TS.2.2」を加えることとし、受け入れられた。
太陽及び火山の現象を外的な自然変動とすることに関するスイスの質問に対し、執筆者らは、この図に示した第6期結合モデル相互比較プロジェクト(Coupled Model Intercomparison Project Phase 6 (CMIP6))のシミュレーションは全て、人類と自然の要素の両方を反映しており、このため追加情報は必要ないと明言した。フランスは、ノルウェーとともに、最終的にはSPM.1の現状どおりでの承認に同意した、しかしSYRにはGHG排出量の経過に関するグラフを盛り込むよう求め、さらにこの発言をWG I報告書及びIPCC-54報告書に記載するよう求めた。この図、意図、題目は変更することなく承認された。
A.1.3:このパラグラフは、人間に起因する地球表面の温暖化を論じる。カナダ、ドイツ、ハンガリーは、「成層圏低層の冷却化(lower stratospheric cooling)」を「成層圏低層における冷却化(cooling in the lower stratosphere)」に変更するよう提案し、執筆者らはこれを支持した。ドイツは、アイルランド、英国、インドの支持を受け、「地球温暖化(global warming)」よりも「気温上昇(temperature increase)」を希望した。これら2つの提案は受け入れられた。米国は、「最善の推計値(best estimate)」はどのように決められるのか質問し、執筆者らは、平均値を意味すると指摘した。オランダは、十分に混合されたGHGsを、1979年以降の対流圏の温暖化における「主要な(main)」推進要素ではなく、「優勢な(dominant)」推進要素とするよう提案した。サウジアラビアは、「優勢な(dominant)」はIPCCで較正される表現ではないと主張し、「主要な(main)」の保持を希望、さらに 「50%以上(more than 50%)」は、何かの「可能性が非常に大きい(very likely)」ではなく「可能性が大きい(likely)」を意味すると論じた。このパラグラフは、追加修正なしに承認された。
図SPM.2:2010-2019年に観測された温暖化の 1850-1900年比の貢献分評価に関する図について、インドは、観測された温暖化に対する「人間の影響(human influence)」への言及に疑問を呈した。共同議長のMasson-Delmotteは、この表現はAR5 WG I報告書で用いられたもので、承認されたAR6 WG I概要の一部でにあると明言した。カナダは、エアロゾル排出量はその直接的な放射効果においても、雲との相互作用においても変動を推進する要素であると特定する文章を提案した。執筆者らが提案する図の変更に関する議論で、インドは、題目でエアロゾルの冷却効果がGHGの温暖化を覆い隠していると抜き出した理由を尋ねた。執筆者らは、気候変動に対するエアロゾルの主要な貢献は覆い隠すことであると明言し、この題目はSPMの別な箇所に示した一部の特性を説明する役割を果たすとも述べた。図のパネル(b)と(c)の関係を質問したノルウェーに対し、執筆者らは、次の2つの相互補完的評価から得られた証拠ラインに基づき、温暖化への貢献度を示したものだと応えた:一つは起因性の研究、もう一つは放射強制力の研究である。この図は、最終的に、パネル(b)の題に多少の編集上の変更を加えて、承認された。
A.1.4:このパラグラフは、降水量の変化を論じる。ベルギーは、極端な降水現象、例えば2021年7月に世界各地で見られた現象では大気中水分量の役割が大きいと指摘した。韓国は、北半球では嵐の移動経路が変化していると指摘した。マダガスカルは、南半球への言及を分けるよう求めた。これは受け入れられた。1980年代以降、中緯度の嵐の経路が南北両方の半球で局地方向にシフトしている可能性が高いとする文章について、ノルウェーは、人間の影響に言及がない理由を尋ねた。共同議長のMasson-Delmotteは、人間の影響については南半球に関する新しい文章において言及されていると説明した。この点、及び別な若干の変更を加えて、このパラグラフは、承認された。
A.1.5:このパラグラフは、氷河の後退、北極海の海氷面積縮小、北半球の春季冠雪面積を論じる。少数の国は、グリーンランド及び南極で観測された氷の質量喪失、さらに氷の質量喪失の最近における急激な加速に言及するよう要請したが、執筆者らは、これはセクションA.4.3で扱われると指摘した。サウジアラビアに対する回答において、執筆者らは、南極での海氷面積の変化は顕著ではない、このため、ここに入れなかったと述べた。しかし、追加の議論の後、新しい文章が受け入れられた:グリーンランドの氷床で過去20年間にわたり観測された表面の融解については人間の影響が貢献している可能性が極めて高いが、南極の氷床の質量喪失に関する人間の影響を示す証拠は限定的なものしかない。ドイツは、永久凍土の融解を取り上げることも要請し、永久凍土は北半球の50%を構成すると述べたが、執筆者らは、このパラグラフはこれまでの報告書同様、氷河の氷の削減に特化したパラグラフであると指摘した。
スイスは、「雪氷圏(cryosphere)」が外されたことを嘆き、永久凍土はスイスの面積の3%を占めると指摘した。Masson-Delmotteは、この用語は簡明さとSROCCの結論との重複を避ける目的で選んだと述べた。ベルギーは、政策立案者たちがSROCCを読んだとの想定に警鐘を鳴らした。Masson-Delmotteは、サウジアラビアの発言に応じ、1979年を初年としているのは、この年に人工衛星による観測が始まったからだと述べた。カナダは、このパラグラフは一貫性に欠けているとし、定量的な情報では変動要素の全てではなく一部が変更されていると述べた。執筆者らは、入手可能な数値は限られているとし、メッセージの簡明さと読みやすさに重きをおいたと述べた。Masson-Delmotteは、SROCCの情報を繰り返すのではなく、最新のものにすることに力点をおいたと述べた。このパラグラフは、グリーンランドの氷床表面の融解及び南極の氷床の質量喪失への言及をつけて承認された。
A.1.6:海洋における変化のパラグラフについて、オランダは、ドイツの支持を得て、人間を起因とするCO2排出量は現在の地球規模での酸性化の「主要推進要素(main driver)」であるとの表現を強め、「優勢な推進要素(dominant driver)」とするよう要請した。執筆者らは、「主要要素(main driver)」は50%以上を意味すると説明、これはAR5での表現より強めていると発言した。
ベネズエラ、ドイツ、サウジアラビアは、人間の影響の起因性を明確にするよう要請した。執筆者らは、全ての変動が人間の影響に期する訳ではないと応え、多数の海洋上層域での酸素レベルの低下に関する文章を、「この低下には人間の影響が貢献している(human influence contributed to this drop)」との表現に変更した。その他、ドイツ及びサウジアラビアからも変更を求める声があがったが、この中には、酸性化の別な推進要素として自然の炭素循環への言及を求めることも含まれた。執筆者らは、酸性化の原因は100%人間であるというのが最善の推計値であるとし、自然のプロセスは変動にそれほど貢献していないと明言した。このパラグラフは、他の変更なしで承認された。
A.1.7:地球の平均海水面の上昇に関するパラグラフについて、米国は、海面上昇の原因を紹介するA.4.3の文章をこのパラグラフに移すよう提案した。ジャマイカは、海面上昇に関する重要なメッセージが多数のパラグラフの中に埋もれかねないと警告した。少なくとも1971年以降の海水面上昇を押し上げている要素は人間の影響である可能性が極めて大きいとする箇所について、ベルギーとドイツは、「そしてその加速化(and of this acceleration)」を加えることを提案した。これは同意がなかった。インドは、人間の影響は「主要な推進要素である可能性が極めて大きい(very likely the main driver)」とするよりも、「単独の(sole)」推進要素、または「単独の原因(sole cause)」とすることを提案した。共同議長のMasson-Delmotte及び執筆者らは、海面上昇に貢献する要素は多様であり、海洋の熱吸収量、氷河の質量喪失、グリーンランドからの水の流れ出しや融解などがあると述べた。このパラグラフは、変更なしで承認された。
A.1.8:陸上生物圏の変化は大規模な温暖化と一致しているとのパラグラフに関し、数名の参加者は、この文章は曖昧すぎるとし、特にこれが「高い確信度(high confidence)」であることを考えると曖昧だと述べた。スイスは、「大規模な(large-scale)」温暖化を「地球規模の(global)」温暖化に置き換えるよう提案し、ランダは、成育季節の日数増加について、その定量化を要請した。これらの変更は受け入れられ、承認された文章では、北半球の熱帯以外の地域では成育季節が1950年代以降、平均で10年あたり最大2日まで延長したと指摘した。インドの発言に応えた執筆者らは、陸上生物圏への影響の大半は地域特有のものだとし、一つの大規模な影響である成育季節に焦点を当てたと説明した。このパラグラフは追加の変更なく、承認された。
A.2:このサブセクションの焦点は、気候系を横断する最近の変動の規模である。この見出しの文章にある「最近の(recent)」という用語などの定量化を求めるタンザニア、サウジアラビア、英国の要請については、簡明さの観点から合意がなされなかった、このステートメントは、変更することなく承認された。
A.2.1:このパラグラフは、GHG濃度の上昇に関係する。CO2及びメタン濃度の上昇は、少なくとも過去80万年間にわたる氷河期と間氷期の千年紀単位での自然変動をはるかに上回っており、亜酸化窒素の濃度上昇はこれに匹敵するとの文章に関し、オランダとザンビアは、何と比較したのかを問うた。この文章は、この点を明確にするよう編集された。サウジアラビアは、現在の大気中のCO2濃度は少なくとも過去200万年間、「前例を見ない(unprecedented)」ものだとの表現は曖昧さがあると指摘した。参加者は、「前例を見ない(unprecedented)」を「より高い(higher than)」に置き換えることで合意した。このパラグラフは、これらの変更と他の若干の変更を経て承認された。
A.2.2:このパラグラフは、地球表面温度の上昇に関係する。米国とアイスランドは、 10年間を何世紀もの平均と比較することに警鐘を鳴らした。中国は、十年ではなく、「産業革命後の時代(the Industrial Age)」と比較するよう提案した。執筆者らは、10年間と、極めて長い期間と比較することに問題はないとし、現在の10年間は、今後の何十年間や何世紀にわたる世界の底辺に存在すると指摘した。アイルランドは、「最後の間氷期(the Last Interglacial)」のような科学的専門用語の使用に警鐘を鳴らした。このパラグラフは、表現を簡明にする少数の編集上の修正を加えた上で、承認された。
A.2.3:このパラグラフは、氷河及び北極海の海氷に関係する。1950年代以降の地球規模の氷河の後退は、少なくとも過去2000年間に例を見ないほどだとの文章について、サウジアラビアは、「例を見ない(unprecedented)」や、1950年代を起点とすることに疑問を呈した。ノルウェーは、氷河の喪失を数値化するよう要請した。執筆者らは、地球規模での計測が1950年代からの評価の開始を可能にしていると述べた。結局、このパラグラフは、変更されることなく承認された。
A.2.4:このパラグラフは、地球の平均海水面の上昇及び海洋の温暖化に関係する。サウジアラビアは、上昇率や温暖化の数値化を促した。チリとケニアは、温暖化が熱膨張を呼んでいるかどうか、このため海面が上昇しているのかを問うた。執筆者らは、関係性は強いが、氷河など他の要素も関係すると述べた。米国、英国、ベルギー、カナダ、セントクリストファー・ネービスは、以前の草案にあった海洋酸性化への言及を再度入れるよう求めた。この要請は受け入れられ、長期にわたる公海表面のpHは過去5千万年の長期にわたり発生しており、最近の数十年間のように低いpHは、過去200万年間では異常であるとの文章が追加された。この変更を持って、このパラグラフは承認された。
A.3:このサブセクションは、天候及び気候上の極端な現象を論じる。世界全体の人間が居住する全ての地域において、人為的な気候変動は既に多数の天候上、気候上の極端な現象に影響を与えているとの冒頭の最初の文章に関し、米国とアイルランドは、「居住する(inhabited)」の削除を提案、影響は非居住地域や海洋でも実際に起きていると強調した。執筆者らは、本文での評価は主に居住地域に関するものだと指摘したが、変更には同意した。トリニダード・トバゴは、「特に極端な干ばつやサイクロン(in particular, extreme droughts and cyclones)」の挿入を求めた。執筆者らは、「多数の天候上、気候上の極端な現象(many weather and climate extremes)」には干ばつや熱帯サイクロンが含まれるとし、詳細は、パラグラフの中に示されていると述べた。極端な現象で観測された変化の証拠及びこの起因となっている人間の影響はAR5以降、強まっているとの2番めの文章に関し、多数の国が、証拠の高まりの例を記載するよう提案した。執筆者らは、「例えば熱波、豪雨、干ばつ、熱帯サイクロン(such as heatwaves, heavy precipitation, droughts, and tropical cyclones)」と指摘することで合意した。これを追加した上で、この冒頭ステートメントは承認された。
A.3.1:このパラグラフは、極端な高温及び低温で観測された変化及びその原因を論じる。インドネシアは、海洋の熱波の頻度が増したのは20世紀のいつからか、特定するよう求めた。ジャマイカは、この表現にテクニカル・サマリーの表現を用いるよう提案した。米国は、極端な高温現象が増加した起点というのが、単独のデータではなく、1950年頃の複数以上のデータからきているのであれば、「1950年(1950)」ではなく「1950年代(the 1950s)」とするよう提案した。タンザニアは、海洋の熱波に関する原因の文章での2006年への言及について質問した。執筆者らは、極端な現象に関する観測データは1950年に始まっており、文献では数回言及しているが、海洋の熱波への人間の起因に関する文献は、2006年からしか利用可能になっていないと説明した。
ロシアは、「高い確信度(high confidence)」が極端な高温及び低温現象の頻度増大に関係するのか、それとも人間の影響に関係するのかを質問した。執筆者らは、「高い確信度(high confidence)」は人間の影響に関係すると明言し、極端な高温及び低温現象の変化は、「ほぼ確実(virtually certain)」であると述べた。スペインは、「優勢な(dominant)」を「主要な(main)」推進要素に置き換えるよう要請した。執筆者らは、「主要な(main)」は少なくとも変化の50%の原因となっている推進要素を指すと強調した。ノルウェーは、この定義を脚注で示すよう提案した。サウジアラビアは、「主要な推進要素(main driver)」という表現が登場するたびにその定義づけや数値化を行い、単独の脚注で済ますことがないよう要請した。共同議長らは、この表現が使われるセクションごとに、1回、脚注で定義づけることを提案した。この提案は受け入れられた。最近観測された極端な高温現象の一部は、気候系への人間の影響がない場合には、極めて可能性が小さいとする文章に関し、執筆者らは、南アフリカの発言に対応し、「最近(recently)」とは過去5年間を意味すると述べた。インドは、全ての地域で極端な高温を経験しているわけではないと指摘し、(地域を)特定するよう求めた。執筆者らは、日本、北米、シベリアでの熱波を分析したいくつかの現象の起因を調べる研究に言及した。これらの変更点を加味し、このパラグラフは承認された。
A.3.2:このパラグラフは、豪雨現象、及び農業面及び生態学上の干ばつに関係する。スペイン、ロシア、タンザニアは、農業面及び生態学上の干ばつと、気象上、水性学上の干ばつとの関係性を問うた。ロシアは、今文章の削除を求め、これはWG IIの範疇に入ると述べた。執筆者らは、農業面の干ばつや生態学上の干ばつは水の入手可能性に関するものであり、農業面の干ばつは湿度限界に関係し、報告書本文第12章で固有の気候影響推進要素(specific climatic-impact driver (CID))と定義づけられる、生態学上の干ばつは、それが生態系に与える影響を指すと述べた。執筆者らは、エジプトの発言に応じ、砂漠化では、これらの干ばつとは異なる尺度を用いると述べた。
米国は、降水量の減少がそのような干ばつを引き起こしているとの表現を求めた。日本は、豪雨が増加している証拠について質問し、「蒸発散(evapotranspiration)」を「土地及び植生より放出された水蒸気(water vapor released from land and vegetation)」に置き換えることを提案した。インドは、豪雨は「大半の(most)」ではなく「多くの(many)」陸地域で増加したとの表現を提案、このことは、図中の45の地域のうち20の地域で真であるからだと述べた。ある執筆者は、「大半の陸地域(most land area)」としたのは、十分なデータがある地域では、その地域内の大半で増加が見られたという事実があるからだと明言した。
サウジアラビアは、起因の程度を科学的に数値化し、豪雨豪雪現象の増加に関する記述に関し、1.5℃と2℃(の温暖化で)の間で、可能性の程度や確信度がどのように異なるのかを明らかにするよう求めた。タンザニアは、一部の地域のデータには問題があると指摘するよう提案した。ボツワナは、極端な降水現象の報告では、最低値と最高値の両方のバランスをとるよう促した。スイスは、蒸発散量の増加は「高い気温が原因である(is due to higher temperature)」と強調し、人間の影響は明らかだと述べた。執筆者らは、これは湿度や放射強制力、風の変化とも関係すると述べ、その定義を脚注に加えると述べた。このパラグラフは、多少の追加修正を加えて、承認された。
A.3.3:陸域のモンスーン降水量における変化, に関するパラグラフについて、ウクライナは、数年から数十年の範囲を示す場合に「多年度(multi-annual)」及び「10年単位(decadal)」の両方の使用を提案した。執筆者らは、マルチ10年単位は、10年以上から数十年の範囲を示すと指摘した。インドネシアは、一部の地域に言及されていない理由を問うた。執筆者らは、これらの地域ではデータが不十分であると指摘した。米国は、タンザニアとともに、モンスーン降水量の「限定的な(limited)」変化が「顕著だが小さい(significant but small)」変化を意味するのか、それとも「無視できる(negligible)」変化を意味するのか尋ねた。タンザニアは、東アフリカのモンスーンに言及していない理由も尋ね、執筆者らは、テクニカル・サマリーの附属書V(モンスーン)にモンスーン地域を選んだ正当な理由を記載したとし、(当該地域の)モンスーンをモンスーンと認めるかどうか、今も文献上で議論されていると説明した。執筆者らは、東アフリカの降水量の変化は別な章で扱っているが、モンスーンとしては扱われていないと述べた。このパラグラフは、明確さのため多少編集上の変更をした上で、承認された。
A.3.4:熱帯性サイクロンに関するパラグラフについて、スペインは、ノルウェーの支持を得て、カテゴリー3-5の熱帯サイクロンの発生数増加及び緯度のシフトがおき、北太平洋西部における熱帯サイクロンの強度が最高に達するというのは、地球内部の変動性だけでは説明がつかないとし、人間のインプットが理由であることを明確に記載するよう提案した。セントクリストファー・ネービスは、熱帯サイクロンの緯度のシフトに関する記述を明確にするよう求め、熱帯サイクロンに関する一般的な記述から始め、その後で北太平洋地域に特定した表現をするよう提案した。スイスは、熱帯サイクロンの「発生(occurrence)」という表現を「頻度(frequency)」に置き換えることを提案した。韓国は、「地球内部の変動性(internal variability)」というSPMの表現と、報告書本文の「自然の変動性(natural variability)」という表現との間で一貫性を求めた。多数の国が、熱帯サイクロンに関する明確性を高めるよう求めた。執筆者らは、「地球規模での熱帯サイクロンの頻度(frequency of tropical cyclones at the global scale)」とは、全てのカテゴリーのサイクロンの全総数を意味することを明らかにし、この点の明確化を追加した。サウジアラビアからの質問に応じ、執筆者らは、このパラグラフと報告書本文との間に矛盾点はないと述べ、多数の研究で(サイクロンに)関係する降水量は人為的な活動からきていることを示しているが、長期の傾向に関するデータは不十分であると述べた。サウジアラビアは、この説明をパラグラフに入れるべきだと述べた。このことは受け入れられた。
サウジアラビアは、全てのカテゴリーの熱帯サクロンにおける長期の頻度の傾向に関する確信度の低い記述が含まれていることに疑問を呈した。共同議長のMasson-Delmotteは、確信度は低くても政策関連性の可能性がある科学的な結論に言及するのは、これまでも行われてきたと確認しSROCC SPMの場合を指摘した。同共同議長は、熱帯サイクロンではどの側面が変化しているか、誤解されている場合が多いとし、サイクロンの全てのカテゴリーの発生頻度が変化しているのか、それとも最も強いサイクロンの強度が変化しているのかを例として挙げ、この文章はこの点を明らかにしてほしいとの特別な要請に応えるものだと述べた。これらの明確化を行った上で、パラグラフの全体が承認された。
A.3.5:複合的な極端な現象に関するパラグラフについて、タンザニアと南アフリカは、「火災天気(fire weather)」の明確化を求めた。多数の国が、火災天気の頻度増加に関する特定地域のリストについて質問し、南アフリカは、草原やサバンナなど、他のアフリカのバイオーム(生物の集団)も火災天気の増加で影響を受けていると指摘した。このパラグラフは、特定地域リストの代わりに「居住可能な全ての大陸の一部の地域(some regions of all inhabited continents)」とすることで承認された。
図SPM.3:共同議長のPanmao Zhaiは、天候及び気候の極端な現象における地域別の変化で観測されたもの及び原因となるものを示すこの図は、6角形の「地域(regions)」の地図を図案化した3つのパネルで構成され、極端な高温現象、豪雨、農業及び生態系での干ばつのそれぞれで観測された変化を統合評価している。気候変動は、既に地球全体の居住可能で人間の影響を受けている全ての地域に影響を与えており、天候及び気候の極端な現象で観測された多くの変化に貢献していると記述する表題について、関し、スイスは、人間の影響は観測された変化の「多く(many)」ではなく、「一部(some)」に貢献しているとするよう提案したが、受け入れられなかった。米国は、この図は表題が示唆するように「気候(climate)」現象に焦点を当てているわけではなく、天候現象に焦点を当てていると述べた。サウジアラビアは、データが利用可能なのは一部の地域にすぎないとの表現を求めた。多数の参加者は、灰色で示された地図上の六角形は証拠が不十分なことを示していると指摘、一部の地域、特にカリブ海地域や太平洋諸島及びアフリカでは、特定の変化のタイプを示すのに、「証拠が不十分(insufficient evidence)」なのか、その理由を尋ねた。執筆者らは、ここで示された規模での情報を提供するため、島しょ部は一つのグループにまとめたと述べた。トリニダード・トバゴは、報告書本文ではカリブ海地域と太平洋地域をあるところでは一緒に、別なところでは分けて扱っているのか、その理由を尋ね、冒頭ステートメントでは、このような懸念を反映させるよう求めた。同代表は、タンザニア、アンゴラ、アルジェリアの支持を得て、ピアレビューされた文献がない場合は、他の文献を使用するよう求めた。アンゴラは、AR5の場合、アフリカの降水量の情報があり、一般的に降水量は減少することが示されたが、図SPM.3はAR5とは矛盾しており、証拠が不十分だとしていると指摘した。執筆者らは、次のように発言した:これらの地域はサブ大陸レベルで集約され、モデル化により良い証拠の基礎を築けるだけの大きさを持つとされたため、文献での証拠と照合され、報告書本文の章ではそれだけの地域的な証拠が評価された、しかしこれらの証拠は図SPM.3で使われている規模で集約した場合、不十分とみなされた。
チリは、干ばつに関するパネルに水性学的干ばつを加えるよう求めた。サウジアラビアは、農業の干ばつ及び生態学的干ばつの考察は、WG IIに任せるべきだと述べた。タンザニアは、地域的な特性の表現方法がアンバランスで不適切だとして警告し、アフリカは何十年も干ばつに見舞われていると指摘した。米国は、干ばつのパネルを主要なSPMの文章及び第11章と明確に関係付けるよう求めた。同代表は、1950年以降に観測された変化のみを示している理由についても尋ねた。執筆者らは、一部の地域ではより後の時期でも変化を経験したと指摘した。Zhai氏は、TSUは地域の概況報告書を作成できると述べた。Masson-Delmotte氏は、特に極端な現象の場合、利用可能なピアレビューされた科学文献は限定的だと指摘した。執筆者らは、SPM.3は表題及び新しいインタラクティブ・アトラス(interactive atlas)に規定された各AR6地域の評価を記述しており、報告書本文及びインタラクティブ・アトラスではさらに局地化された変化がレビュー可能であると説明した。参加者は、意見の一致が限定的なため確信度が低いものと、証拠が限定的なため確信度が低いものとを区別するため、さらには変化のタイプや限られたデータそして/または文献のため意見の一致度が低い場合を区別するため、凡例を改定することで合意した。この図及びそのタイトルは、改定無しで承認された。議論に基づく図及び凡例の変更を説明するため、表題は改定された。
A.4:このサブセクションは、平衡気候感度の範囲を論じる。冒頭ステートメントは、知識の高まりにより、平衡気候感度の範囲がAR5と比較し狭まったと記述する。ドイツ及びフランスは、このステートメントとこのサブセクションの異なるパラグラフの内容との関係付けを強めるよう要請した。南アフリカは、「過去の気候の状態(past climate states)」について問い、 ドイツ及びアイルランドの支持を得て、「狭まる(narrowing)」の数量化を促した。執筆者らは、「過去の気候の状態(past climate states)」は鮮新世及び最終氷期極大期を指すと明言した。承認されたステートメントは次の通り:「気候プロセス、古気候の証拠及び放射強制力の増大に対する気候系の反応についての知識の高まりにより、AR5と比較し狭い範囲で、3℃の平衡気候感度に関する最善の推計値が得られる(improved knowledge of climate processes, paleoclimate evidence and the response of the climate system to increasing radiative forcing gives a best estimate of the equilibrium climate sensitivity of 3°C with a narrower range compared to AR5)」。
ノルウェーは、サブセクション全体に関しコメントし、このサブセクションの放射強制力レベルとシナリオで用いられた注釈書の中の放射強制力レベルとのリンク付けを求めた。フランスは、このパラグラフは自然科学の遡及に基づくのか、別なものに基づくのか尋ねた。南アフリカは、このサブセクションは全てのGHGsを扱うのか、それともCO2だけかを尋ねた。参加者は、AR5以降の放射強制力の最近の増加への言及を要請し、GHGsがもたらす放射強制力に関するパラグラフではさらなる詳細を示すよう求めた。執筆者らは、報告書本文とテクニカル・サマリーで他の放射強制力媒体、特にエアロゾルの強制力についてさらなる情報を提供していると述べた。
A.4.1:人間を原因とする放射強制力に関するこのパラグラフは次のように記述する:2019年の人間を原因とする放射強制力は1750年と比較し、気候系を温暖化している、その主な原因はGHG濃度の上昇であり、その一部はエアロゾル濃度の増加による寒冷化で削減されている;放射強制力は、AR5と比較し増大しており、その主な理由は2011年以降のGHG濃度の上昇である。数名の参加者は、このパラグラフは政策立案者たちには複雑で技術的過ぎると述べた。ドイツは、ノルウェーの支持を得て、このパラグラフを他のパラグラフ、特にA.4.2、及び報告書本文のクロス・チャプターのボックス9.1とリンク付けるよう求めた。このパラグラフは、より明確なものにするため改定され、2011年以降のGHG濃度上昇を、科学的な理解が進んだこと、さらにはエアロゾルの強制力の評価が変化したことによるGHG濃度計測での濃度上昇から区別するために改定された。
A.4.2:気候系で観測された熱上昇及び海洋の温度上昇の役割などに関するパラグラフについて、少数の国は、「1平方メートルあたりのワット数(watts per square meter)」の代わりに、エネルギー測定法を用いるよう求めたが、受け入れられなかった。ルクセンブルグは、少数のものと共に、「気候系の加熱(heating of the climate system)」の代わりに、「気候系におけるエネルギーの蓄積(energy accumulation in the climate system)」を用いるよう提案した。執筆者らは、後者は現在、文献の共通用語だと述べたが、この2つの用語をリンク付ける文章を、冒頭に追加し、これは人間を原因とする正味プラスの放射強制力があるからだと述べた。オランダは、2006-2018年は1971-2018年と比較し、気候系の熱上昇が「高まっている(increase)」とする文章について質問した。執筆者らは、先の期間を変更し、「1971-2006年」の熱上昇で観測された平均上昇率と規定、両方とも平均上昇率であり、このため異なる長さの期間であっても比較を妨げることはないと明言した。執筆者らは、サウジアラビア及びルクセンブルグの発言に対し、熱上昇で観測された平均上昇率の増加は高い確信度であると特定し、改定されたパラグラフは承認された。
A.4.3:気候系の熱上昇が海面上昇に与える役割に関するパラグラフについて、チリは、熱膨張は各緯度により異なると指摘するよう提案した。英国は、過去10年間の海面上昇に対する貢献度のバランスは熱膨張と比較し氷喪失の優勢を示していると明らかにするよう求めた。このパラグラフは修正され、氷床及び氷河の質量喪失はともに、2006-2018年の地球平均海面上昇における優勢な貢献要素であると特定した。このパラグラフは、修正された通りに承認された。
A.4.4:このパラグラフは、平衡気候感度の推計値を示す。ノルウェーは、スイス及びウクライナと共に、「平衡気候感度(equilibrium climate sensitivity)」は、政策立案者にとっては複雑すぎると述べ、用語での一貫性を求めた。スイス及びウクライナは、これをここで定義づけし、比較のため、AR5の最善の推計値を加えるよう提案し、ドイツは、AR5では一連の証拠を通して一致したものがないため、最善の推計値を有していないと指摘した。アイルランドは、ウクライナと共に、AR5と同じ分析ラインを用いているのかどうかを尋ねた。執筆者らは、「平衡気候感度(equilibrium climate sensitivity)」は定量的な意味があると述べ、このパラグラフの中でのこの用語の定義づけを提案した。ドイツは、「新規の制約条件(emergent constraints)」の定義づけを求めた。日本は、この概念について質問し、「気候モデルの研究結果を分析する新しい手法(new methods for analyzing climate model results)」への言及を希望した。執筆者らは、この用語は観測結果を用いてモデルから得られた気候感度の制約を意味すると説明し、明確な説明が加えられると述べた。
日本は、平衡気候感度は長期的な時間規模での反応に関係すると指摘し、アイルランドの支持を得て、より短い時間規模での反応を対象とする一時的な気候反応へも言及することを提案した。これは受け入れられなかった。このほか、次に関係するコメントがあった:温度指標を概数にするかどうか;5℃を超える数値も排除できないと指摘する;テクニカル・サマリーに記載する観測結果に基づく一連の証拠の情報を追加する;冒頭ステートメントにこのパラグラフの情報を含める。執筆者らは、温度指標は概数になっていると確認した、これは一連の証拠がより高い精度を裏付けるにはいたっていないためである、さらに執筆者らは、一連の証拠は観測結果だけに依存しているわけではないが、モデル結果は全て取り入れられていると指摘した。執筆者らは、AR5以降、平衡気候感度の評価は進展しており、これにはさらに多くの証拠や最善の推測値を求める能力が含まれると強調した。このパラグラフは、平衡気候感度の定義づけから書き始め、AR5ではこの数値に関する最善の推計値が含まれていなかったことに注目し、脚注で証拠ラインを特定するように修正された。このパラグラフは、修正通りで承認された。
B. 可能性ある気候の未来
ボックスSPM.1:シナリオ、気候モデル、予測:共同議長のZhaiは、このボックスを紹介し、SPMは共有社会経済経路(Shared Socio-economic Pathways (SSPs))の高、中、低の範囲を対象としており、このモデルはGHG排出量における可能性ある将来の傾向を反映していると強調した。
ボックスSPM.1.1:シナリオ:スペインは、SSPsの明確な説明を要求した。サウジアラビアは、タンザニアとともに、社会経済要素を扱うのはWG Iの発信範囲外であるとし、2050年までのCO2排出量低下のみに言及するのは政策規範的だと警告した。ルクセンブルグ及びノルウェーは、排出量シナリオの技術的なラベルではなく、高い、中程度、低いとの表現で統一するよう要請した。ドイツは、使用したモデルの境界線の状況について質問し、排出量シナリオを、極めて低い(very low)、低い(low)、中くらい(intermediate)、高い(high)、極めて高い(very high)の5つに分類するよう提案した。インドは、社会経済面の想定条件の根拠について質問し、全ての経路シナリオに対し共通の想定条件とするよう提案し、AR5で使われた代表濃度経路(Representative Concentration Pathways (RCPs))の方が明確であったと指摘した。同代表は、最も低い排出量シナリオを追加した正当な理由を尋ねた。
南アフリカは、新しい用語、特にネットゼロ(net zero)という用語の明確な定義付けを用語集に入れるよう求めた。サウジアラビアは、この用語の削除を要請した。執筆者らは、モデル研究社会が作成した文献を評価する場合、シナリオの想定条件については調べず、想定条件に基づいたシナリオに対する自然科学的反応のみを調べるというIPCCの手法に従ったと指摘した。執筆者らは、実質マイナス(net-negative)の排出量という表現は特定のシナリオにのみ適用されるとし、反応の選択範囲をシミュレーションする目的でシナリオを一つ追加したと述べた。米国は、将来の排出量に注目することは重要であり、ボックスではより目立つ扱いをすべきだと述べた。ベリーズは、排出量の動向に対するCOVID-19の影響を記載するよう提案した。執筆者らは、WG IのマンデートにはCOVID-19からの回復経路の検証は含まれていないと述べた。
議論で取り上げられた主な問題の一つが、シナリオの選択とそのラベル付けであった。多数の参加者は、シナリオをどのように選んだか、明らかにするよう要請し、文献では選ばれた5つ以上のシナリオが含まれていると指摘した。執筆者らは、文献のうち代表的な一連のシナリオ説明を用いるというIPCCの実施方法に従ったと説明、利用可能な気候予測の範囲全体を対象とし、データの利用可能性が最大となるようなシナリオを選んだと指摘した。
議論では、シナリオの使用について、さらには「基幹(core)」シナリオという説明について、特にインドから、異論が噴出した。インドは、サウジアラビアの支持を得て、「SSPs」という表現に反対し、ステートメントを「シナリオ(scenarios)」に限定することにも反対し、次のように述べた:SSPsの社会経済面はWG IIIのマンデートの範囲に入り込む;SSPsは緩和に関する政策規範的な表現のように聞こえる;CMIP6は多数のモデルで構成されるが、ここでの5つのシナリオは、比較できるよう、限られた数の同じ想定条件を用いて相互の調和を図っており、SSPsの使用は分析に必要とされる多様性を高めてはいない;スコーピング文書ではSSPsを評価する必要があるとは規定しておらず、SSPsは「世界が評価できる唯一の方法ではない(not the only way the world can be assessed)」。長時間の議論の後、共同議長のZhaiは、ラベルに関する疑問が多数のパラグラフで表面化する中、この点での合意はSPMの他の部分での合意に向けた扉を開くものだと強調し、「SSP」というラベルは、文献から受け継いだものだと指摘した。
フランス及び他の多数の国は、SSPsは科学的に確固とした、追跡可能、再現可能、政策立案者に対し関連性を有し、IPCCのコントロール下にはない表現であると主張した。WG I副議長のGregory Flatoは、SSPsはCMIP6でも同じ規格で使われており、その規格は前回の評価報告書で用いられたRCPsをベースに構築されたモデル研究結果の調和マルチモデルセットを作成するため全てのモデル研究センターが順守していた規格であると付言した。同副議長は、資源が限られていたため、限られた数のシナリオしか評価することができなかったと指摘した。執筆者らの説明では、各国政府からCO2を気候変動の主要な推進要素とするシナリオの特性をついかするよう要請があり、シナリオは情報の入手可能性に基づき選定され、SSPsの基となる想定条件の評価はされていない。執筆者らは、この点の表現をSSPの脚注に加えるよう提案し、その次の文章で代案に言及すると指摘した。IPCC議長のLeeは、「IPCCはSSPsの基となる想定条件に関し中立の立場である(the IPCC is neutral with regard to the assumptions underlying the SSPs)」と特記するよう提案した。オランダは、「SSPsで世界の味方が出尽くすわけではない(SSPs do not exhaust the way we see the world)」を加えるよう提案したが、これは米国が受け入れなかった。共同議長のMasson-Delmotteは、WG Iの用語集ではシナリオを「将来どういう展開をする可能性があるかのもっともな説明(plausible descriptions of how the future may develop)」と定義づけていると述べた。
さらなる議論の後、参加者は、5つのシナリオを「例示的(illustrative)」とし、ボックスSPM.1.1の冒頭パラグラフに序文の文章を加えること、このシナリオは2015年に始まり、異なるレベルのGHG排出量を示す5つのシナリオが含まれ、それぞれの説明がつくとするステートメントを加えることで合意した。共同議長のZhaiは、脚注の終わりに議長のLeeの文章を追加し、続いて「代わりのシナリオが考察される、または策定される可能性がある(alternative scenarios may be considered or developed)」とすることも提案した。サウジアラビアは、インドの支持を得て、SSPsは全てのGHGsを対象としているが、SSPsの説明はCO2のみに関係しているとの理由で、SSPsの説明を削除するよう要求した。英国は、CO2は重要な特性であると主張した。共同議長のMasson-Delmotteは、気候変動の他の推進要素はこの次の文章で扱われていると指摘した。執筆者らは、このボックスの目的はWGI報告書を通して、そしてその中でもSPMにおいて、用いられた例示的なシナリオを紹介することであり、異なる排出要素や軌跡の全てについて詳細を説明することが目的ではないと説明した。執筆者らは、報告書本文に全ての情報が示されていると指摘した。SSPの脚注に関する提案は受け入れられた。英国は、サウジアラビアなどの少数の国の支持を得て、「これらのシナリオは2015年に始まり、CO2排出量が現在の水準から2100年まで、及び2050年までにほぼ2倍になるという、高いGHG排出量及び極めて高いGHG排出量シナリオを含める(they start in 2015, and include high and very high GHG emission scenarios in which CO2 emission roughly double from current levels by 2100 and 2050)」を「これらのしなりおは2015年から始まり、GHG排出量及びCO2排出量が現在の水準から2100年まで、及び2050年までにほぼ2倍になるという、高いGHG排出量及び極めて高いGHG排出量シナリオを含める(they start in 2015, and include scenarios with high and very high GHG emission and CO2 emission that roughly double from current levels by 2100 and 2050)」に置き換えるよう提案し、他の4つの排出量シナリオでもこれを繰り返すよう提案した。このパラグラフは、これらの修正を経て承認された。
ボックスSPM.1.2:モデル:CMIP5と比べたCMIP6の変化に関するパラグラフについて、タンザニアは、物理的、化学的、生物学的プロセスの「新しい(new)」代表というのはどういう意味か、明らかにするよう求めた。サウジアラビアは、モデルののもととなった想定条件に関係する限界や不確実性は報告書全体を通して明確にされるべきだとし、AR5とAR6でのモデルの変化を説明するよう求めた。ドイツは、アイルランド及び英国の支持を得て、モデルは科学者社会が作成したものでIPCCが作成したわけではない、IPCCはCMIP6の結果の評価を行うと明らかにするよう提案した。米国は、英国の支持を得て、CMIP6プロジェクトはまだ終了していないと記述するよう求め、CMIP6マルチモデルの「平均値(mean)」への言及に警告した。これは「平均値アンサンブル(ensemble mean)」に置き換えられた。アイルランドは、英国の支持を得て、評価報告書でのCMIP6の役割を明らかにする序文を加えるよう提案した。この提案で合意された。
スイスは、「気候変動の大規模指標(large-scale indicators of climate change)」の意味を明らかにするよう要求、地球の気温や大気中のGHG 濃度などの例示を指摘した。英国は、多様な手法がモデル予測の制約に用いられていると指摘することを提案した。執筆者らは、このパラグラフの論拠は、最新世代の気候モデルに見られる重要な展開に注目することであり、この点はSPMに記載するには詳しすぎると指摘した上で、テクニカル・サマリーにはこれらの新しい展開について、多数の例が紹介されていると述べた。このパラグラフは、このほかの変更なしに、承認された。
ボックスSPM.1.3:気候感度:ドイツは、ルクセンブルグの支持を得て、平衡気候感度の「評価された最善の推計値(assessed best estimate)」について質問し、実質マイナスのCO2排出量は実質マイナスのCO2排出量について説明する脚注において「CO2除去量とも言う(also referred to as CO2 removal)」と規定するのか質問した。ノルウェーは、「平衡気候感度(equilibrium climate sensitivity)」ではなく「気候感度(climate sensitivity)」という用語を一貫性して用いるよう求め、脚注でこの用語を明確化するよう求めた。ルクセンブルグは、この用語のボックスSPM.1.3からの削除を希望、これは技術的過ぎるとし、気候感度の政策関連性はボックス1.4で議論されていると指摘した。この点では合意された。スウェーデンは、これは気候感度の最新の表現であり、CMIP6モデルにはないものだと明言するよう要求した。
韓国は、テクニカル・サマリーとの一貫性を要求、高い平衡気候感度の数値をたどると、雲のフィードバックのプラスの変化に行き着く場合があると説明、これは一部のモデルで誤解または推計ミスとなっている可能性があることを意味すると述べた。
英国は、CMIP6の平均値について話す難しさはボックスSPM.1.2で議論されているとコメントし、CMIP6での平衡気候感度はCMIP5よりも広い範囲を用いるモデルと重なることを明確にするよう要求した。CMIP6の「平衡気候感度の平均値(mean equilibrium climate sensitivity)」への言及は削除された。このパラグラフは、追加の修正無しで承認された。
ボックスSPM.1.4:制約条件:米国は、一部の数値に関し、制約条件を予測する手法は「未だに(yet)」存在しておらず、科学者はこれを積極的に探求していると特記するよう要求した。これは合意された。与えられた地球温暖化レベルにおいて多数の変動要素の確固とした地理学上のパターン予測を特定することが可能である、これはシナリオや当該地球温暖化レベルに達するタイミングとは関係がなくであるとするステートメントの中で、執筆者らは、「シナリオやタイミングとは無関係で(independent of scenario and timing)」を「全てのシナリオに共通し、タイミングとは無関係で(common to all scenarios and independent of timing)」に置き換えることを提案した。これは合意され、修正されたパラグラフが承認された。
図SPM.4:この図は、将来の追加の温暖化を論じる。参加者はこの冒頭の次の文章について長時間議論した:「将来の排出量が将来の追加の温暖化を決定づけ、CO2排出量が優勢である(future emissions determine future additional warming, with CO2 emissions dominating)」。インド、サウジアラビア、ブラジル、ケニアは、過去の排出量の重要性を強調、部分的な情報提供を避けるため、累積排出量への言及を求めた。スイス、米国、英国、オランダ、カナダ、スペイン、セントクリストファー・ネービス、ロシア、チリ、その他は、執筆者らの冒頭文の保持を主張、これは「追加の(additional)」温暖化に関係するもので、重要な結論を示していると指摘した。中国は、インド、サウジアラビア、タンザニアの支持を得て、「決定づけ(determine)」を「貢献する(contribute to)」に置き換えるよう提案した。スイス及び他のものは、これは誤解しやすいと指摘、焦点は人為的な温暖化であり、それにはCO2が重要であると強調した。ノルウェーは、ドイツ、デンマーク、タンザニア、英国の支持を得て、CO2は「未だに(still)」優勢であると指摘するよう提案した。ドイツは、ベルギー、英国、ロシアの支持を得て、過去の排出量の役割に関する脚注の追加を提案した。メキシコは、パネル(b)は「温暖化全体(total warming)」を表していると指摘し、この点を冒頭ステートメントに入れるよう提案した。執筆者らは、ここでは「累積の(cumulative)」排出量というのは正確でないだろうと明言し、評価報告書本文の第4章を指し示し、ここでは排出量がゼロまで削減された後は実質的な温暖化はないとし、このことは科学的に重要な進歩であると指摘した。執筆者らは、将来の排出量が将来の追加の温暖化を決定づけるを「温暖化全体は過去及び将来のCO2排出量が優勢である(total warming being dominated by past and future CO2 emissions)」と指摘することを提案した。
多数の参加者は、冒頭ステートメントの原案保持を希望したが、執筆者らの提案する修正を認めるにやぶさかではないと述べた。ベルギーは、将来の追加の「地表(surface)」温暖化に関係するとの明示を提案した。執筆者らは、温暖化は気候系のあらゆる部分に影響すると説明、地表の温度だけでなく海洋の上層及び深層も含まれると述べた。参加者は、最終的にこの図を承認、表題は次の通りとした:「将来の排出量は将来の追加温暖化の原因となり、温暖化の総計は過去及び将来のCO2排出量が優勢となる(future emissions cause future additional warming, with total warming dominated by past and future CO2 emissions)」。
化石燃料の利用、産業、土地利用変化からのCO2排出量の軌跡に言及するパネル(a)の表題の文章に関し、サウジアラビアは、これら排出源への言及に異議を唱え、WG Iのマンデートは、排出量のみの考察であると述べた。共同議長のMasson-Delmotteは、次のように言及する文章に置き換えることを提案、全ての国がこれを受け入れた:「全ての部門からのCO2排出の軌跡(emissions trajectories for CO2 from all sectors)」。人為的な推進要素グループの温暖化への貢献を扱うパネル(b)の表題に関し、日本は、ハイドロフルオロカーボン(HFCs)への言及を含めることを提案した。執筆者らは、このパネルの目的はCO2が優勢な推進要素であることを示すことだが、図SPM.2は、作用する多様な推進要素を示すことだと説明した。これらの修正及び文章構成に関する他の若干の訂正を行ったうえで、この図は承認された。
B.1:このサブセクションは、近未来の地球表面温度の上昇を扱う。
冒頭ステートメントでは、地球表面温度は考察された全ての排出量シナリオにおいて少なくとも今世紀半ばまでは上昇を続けるとし、さらに今後数十年間にCO2及び他のGHG排出量の大幅な削減が起きない限り、地球温暖化は1.5°C及び2°Cを上回ると記載している、このステートメントに関し、サウジアラビア及び中国は、排出量の「大幅な削減(deep reductions)」という表現は政策規範的であるとし、特定の排出量シナリオへの言及に置き換えるよう求めた。タンザニアは、「大幅な削減(deep reductions)」の概念の数量化を求め、オランダと共に、「今後数十年間(the coming decades)」の案出方法を明らかにするよう求めた。執筆者らは、「大幅な削減(deep reductions)」という表現は文献で広く使われているほか、SR1.5でも使われていると指摘した。冒頭ステートメントは、修正なしで承認された。
サブセクションに関する一般的なコメント発表において、セントクリストファー・ネービスは、COVID-19による制約や回復計画が近未来の排出量に与える影響可能性を指摘し、特定の温暖化レベルとの交差に関するサブセクションで数回用いられている「50%以上の可能性(more than a 50% likelihood)」の代わりに、IPCC規定の表現を用いるよう求めた。アイルランドは、サウジアラビア、タンザニア、中国の支持を得て、温度は上昇する「であろう(will)」よりも、「と予測される(is projected to)」と,サブセクションを通して記載するよう求めた。
韓国は、時間枠の表現を報告書全体で統一するよう求め、「世紀半ば(mid-century)」などのフレーズよりも近未来、中期、長期という時間軸表現を希望した。インドは、SPM全体を通し、きわめて高い、高い、中程度の、低い、きわめて低い排出量という表現で統一するという自身の提案を再度繰り返し、表SPM.1では、カーボンバジェットの情報を追加するよう求めた。ノルウェーは、執筆者らが最善の推計値(best estimates)と表現する場合もあれば、現在の範囲(present ranges)と表現する場合がある理由を明らかにするよう要求した。
執筆者らは、「50%以上の可能性(more than a 50% likelihood)」は「可能性がないというよりは可能性がある(more likely than not)」というIPCC規定の表現と正確に同等の表現であると明言した。執筆者らは、前回コメントを求めた際、数か国が「50%以上の可能性(more than a 50% likelihood)」の方が政策立案者にとってはわかりやすいとして、この表現を用いるよう求めたことを想起した。執筆者らは、WG I報告書ではCOVID-19パンデミック関連の当面の影響は議論していないが、WG IIIで考察される可能性があると指摘した。
B.1.1. このパラグラフは、異なる排出量シナリオにおいて予測される地球表面温度の上昇を論じる。ノルウェー、フランス、サウジアラビア、中国は、地球表面温度は多様なシナリオにおいて1.0-5.7°C上昇する「可能性が極めて高い(very likely)」と記載しているが、テクニカル・サマリーではこの範囲を「最善の推計値(best estimate)」としているとし、このように記載する正当性を問うた。フランスは、 2.5˚C以上の地球温暖化が「持続する(sustained)」というのはどのくらいの期間を意味するのか、明らかにするよう求めた。インドは、SSPラベルを除去し、報告書で考察された「最も低い(lowest)」及び「最も高い(highest)」排出量シナリオに言及することを提案した。承認されたパラグラフには、中間の排出量シナリオが含まれ、シナリオはもっとも低い、中間の、そして最も高いとされたが、SSPラベルも用いられた。さらに、2.5℃以上の地球温暖化持続への言及が明確化された。
表SPM.1:排出量シナリオを横断する2100年までの地球表面温度20年平均値における変化を2021-2040年、2041-2060年、2081-2100年に分けて示す表に関し、ベリーズは、米国及びドイツの支持を得て、観測された変化とシナリオ予測との間の比較及び表示をより明確にするよう求めた。米国は、1995-2014年という近未来の歴史的期間及び産業革命前以来の期間で観測された温暖化からシミュレーションした温暖化に関し、明確なメッセージを求めた。執筆者らは、SPMでの単純性を求める各国政府の要請に基づきこの表のデザインを選んだと説明、このため執筆者らは1850-1900年と比較した変化にのみ関わったと説明した。執筆者らは、テクニカル・サマリーの第4章にある表4.5には二つの参照期間(1995-2014年及び1850-1900年)と比較した変化の全範囲を示していると指摘した。
インドは、各シナリオ予測に対応するカーボンバジェットを含めるよう求めた。同代表は、シナリオのラベルを極めて高い、高い、中間、低い、極めて低いとするとの提案を再度述べ、この表の題「用いた排出量シナリオ(emissions scenarios used)」は「考察した排出量シナリオ(emissions scenarios considered)」と変更すべきだと提案した。承認された表は、AR5の参照期間である1986-2005年で観測された歴史的な温暖化の評価の改定を含めるとし、最近の参照期間である1995-2014年と比べた変化の計算に関する言及は、これまでの脚注から本文に移動する。
B.1.2:このパラグラフは、異なるシナリオの下で、2°C温暖化を超えるかどうか、超える場合はいつになるかの情報を提供する。セントルシア、米国、英国などの数か国は、その不確実性を指摘し、いつ超えるかは中間点ではなく、範囲で示すべきだと述べた。韓国は、超える時期のシナリオは可能性の表現で特定し、表現の一貫性を求め、サウジアラビアは、全ての文章の最後に確信度レベルを挿入するよう求めた。サウジアラビアは、インド及び中国と共に、シナリの説明はボックスに入れられており、このパラグラフからは削除されるべきだと指摘した。インドは、シナリオの説明は参照例リストの一部であり、このためパラグラフで説明する理由はないと指摘した。
サウジアラビアは、予測が用いられる場合は、「であろう(will)」を「と予測される(projected to)」に置き換えることを提案した。執筆者らは、「であろう(will)」の使用は慎重に選んだ結果であり、与えられたシナリオにおいて、もしくはシナリオと無関係に、何かが「起きるであろう(will happen)」という意味だと説明した。執筆者らは、「と予測される(projected to)」を用いることは誤解を招きかねない、これは将来の地球の気温変化が予測だけでなく、観測を含めた多角的なラインの証拠に基づき、評価されるためであると述べた。
2020年代以降、世界のGHG排出量が低下し、2050年頃にCO2排出量が実質ゼロになるという最も低いGHG排出量シナリオの下では、21世紀中の地球温暖化は、2℃以下の上昇を保持する可能性が極めて高いとする文章は、意見が対立した問題の一つであった。英国は、「2020年代以降(from the 2020s onwards)」という表現に関し、さらなる精緻さを求めた。スウェーデンは、実質ゼロの排出量への言及を補うべく、マイナスの排出量に言及することを提案した。ノルウェー、スイス、FRIENDS WORLD COMMITTEE FOR CONSULTATION (FWCC)は、このパラグラフ全体の保持を支持し、スイスは、プレゼンテーションを改善するよう求めた。
参加者は、極めて低い排出量シナリオの下でのCO2の軌跡を説明することは政策規範的かどうかで長時間の議論を交わした、このシナリオの下では、世界のCO2排出量は2020年代に低下しはじめ、2050年頃または2050年以後に実質ゼロに達し、その後CO2排出量は多様なレベルの実質マイナスを示す。中国、サウジアラビア、インドは、この表現の削除を促し、インドは、これは1.5℃と関係するので、このパラグラフとは関連性がないと指摘した。他の多くの参加者は、この表現の保持を希望し、この情報は政策関連性があると強調した。
最終的に承認されたパラグラフは、(2℃上昇を)超える時期ではなく範囲として提供する。さらに極めて低い及び低いGHG排出量シナリオの下では、2℃の地球温暖化を超える可能性は、それぞれ極めて可能性が低い、または可能性が低いとし、CO2排出量低下及び実質ゼロという表現を脚注に移す。
B.1.3:このパラグラフは、異なるシナリオにおいて、地球温暖化が1.5°Cを超えるかどうか、超える場合はいつかを論じる。少数の国は、地球温暖化を1.5℃以下で抑制する可能性について、最も低い排出量シナリオだけでなく、全てのシナリオの内容において表示するよう求めた。ドイツは、1.5℃以内にとどまる可能性をこの(最も低い)シナリオのみで表示するなら、誤解を生むリスクがあると強調した。フランスは、この文章を現状のまま維持することを支持し、これは新しい情報を提供していると指摘した。スウェーデンは、温暖化を1.5℃以下で抑制する可能性は「シナリオの排出量が増えるにつれて低くなっていく(becomes successively lower with increasingly high emissions scenarios)」との記述を提案し、残りのパラグラフで最も低い排出量シナリオに焦点を当てることができると指摘した。ドイツは、「1.6°C」への言及に反対し、この文章は温暖化を1.5℃で抑え、気温の上方向へのブレは0.1℃を超えないというSR1.5の表現を反映させるべきだと示唆した。サウジアラビアは、最も低い排出量のシナリオでは1.5℃以下にとどまる可能性が50%以下であるとの文章に時間枠を追加するよう求め、執筆者らはこれに応えて、これは時間を横断する事例であると説明した。インドは、1.5℃の地球温暖化は「達成されるまたは一時的に超すことになる(reached or temporarily exceeded)」との表現に異議を唱え、これらのシナリオは範囲を例示しただけであり、それぞれの独自性に焦点を当てるべきではないと指摘した。最終的に承認されたパラグラフは、全てのシナリオの内容において、地球温暖化を1.5℃以下に抑える可能性が記載され、極めて低いGHG排出量シナリオでは、地球表面温度は一時的に1.5℃の地球温暖化を0.1℃超えた後、21世紀末に向け、1.5℃以下の上昇まで戻る可能性がないというよりはあると記載する。
このパラグラフは、最終的に削除されたパラグラフ草案に基づき、脚注がつけられ、SR1.5とAR6の違いを説明する。スイスは、米国と共に、SR1.5とAR6の間では、1.5℃の線を超える時間枠に10年の差が出る計算となった手法論上の違いに関し、脚注を入れるよう提案した。日本は、サウジアラビア、米国、英国の支持を得て、(1.5℃の)線を超える時点はAR6の方がSR1.5より10年早いとの推計について、このことは必ずしも予測された影響が10年早く出てくることを意味するものではないとの記述を求めた。セントクリストファー・ネービスは、SR1.5は超える時点を20年範囲で示しており、中間点は示していないと指摘した。同代表は、超える時点の推計を削除し、パラグラフB.1.2の確率の使用を希望した。オランダは、このパラグラフ及び新しい推計がどのように得られたかの説明を強力に支持すると表明した。米国は、英国とともに、SR1.5は人為的な地球温暖化に注目しているが、このパラグラフは表面の温暖化の数値を論じていると指摘し、線を超える時間で見られる両報告書の差は手法論の決定によるものだとのステートメントを求めた。同代表は、ここでのSR1.5への言及は比較不可能であるとして削除し、将来予測ではなく、観測記録に関し、脚注を入れるよう提案した。新しい脚注は2つの報告書の間で(1.5℃を)超える時期で10年の差があることには言及しない。
B.1.4:このパラグラフは、地球表面温度の年間変動性の20年平均を扱う。中国は、年間推計値にまつわる不確実性は全て20年平均値に基づくものであり、報告書本文では20年平均値から年間推計値を計算する方法が示されていないと述べた。同代表は、20年平均の推計値には大きな不確実性があることから、これは誤解を生みかねないと指摘し、20年平均を論じるときは単年度の年間変動には言及しないことを提案した。2030年頃では、単年度の地球表面温度が1.5°C以上上昇する可能性は40%-60%であるとのステートメントに関し、トリニダード・トバゴは、この情報には特定の時間要素を含めるべきでないと述べた。同代表は、「2030年頃(around 2030)」の意味を尋ね、1.5℃を超える個々の温暖化は発生する可能性があるが、このことは20年平均に達成されたことを意味するものではないとする文章を提案した。
単年度の地球表面温度は相当程度、自然の変動性の影響を受け、いくつかの単年度では、20年平均が1850-1900年より1.5℃上昇する前に、1.5℃を超えるだろうとの文章に関し、中国は、1.5℃上昇まで戻すことは可能だと述べ、英国は、レベルは変わる可能性があることを示すため、「一時的に(temporarily)」を加えるよう提案した、他のものは「であろう(will)」を「かもしれない(may)」に変更することを提案した。米国及びドイツなど一部の国は、20年平均への言及を削除するか、ただ単に「地球温暖化(global warming)」に言及することを提案した。スイスと米国は、両方向への揺れを反映させるよう求め、米国は、誤解されかねない単一の数値ではなく、「プラスとマイナスの(plus and minus terms)」範囲を提供するよう提案した。ロシアは、年間の異常性や季節性の異常への言及を提案した。英国は、単年度の推計値の計算をB.1.3に示す20年平均の線を超える時間と一致させるよう求めた。執筆者らは、単年度の推計値は20年平均ではなく年間平均値に基づいていることから、異なるものとなると応じた。
最終的に承認されたパラグラフは、いかなる単年度の地球表面温度も長期の人為的動向の上下で多様な数値をとりうる、これは相当な自然変動性があるためであると記載する。個別の年度で特定レベル以上の地球表面温度変化が発生しても、この地球温暖化レベルが達成されたことを意味するものではない。
B.2:このサブセクションは、気候系の変化の増大と温暖化の増大との直接の関係性を論じる。冒頭ステートメントに関し、多数の国は、熱帯性暴風雨の変化を含めるよう提案した。キューバは、熱帯性暴風雨では頻度と大きさだけでなく、強度も増大すると強調した。少数の国は、気象学上の干ばつを入れるよう求めたが、ドイツは、「干ばつ(droughts)」全般に言及するよう提案した。ドイツは、英国の支持を得て、全ての反応が直線的になるわけではないと指摘し、「直接(direct)」の相関性への言及を置き換えるよう求めた。執筆者らは、ここでハイライトされた変化は、排出量経路とは関係なく、温暖化レベルに直接比例すると明言した。冒頭ステートメントは、強い熱帯性サイクロンの割合増加への言及を加えた上で、承認された。サブセクション自体の一般コメントで、サウジアラビアは、このサブセクション全体を通し、「多数の(many)」や「より大きい(larger)」という表現を定量化した情報に置き換えるよう求めた。インドは、暴風雨における変化を取り上げるよう提案し、どの地域及び流域が特に大きな影響を受けるか特定するよう提案した。南アフリカは、沿岸地域における熱帯性サイクロンと内陸の熱帯性サイクロンを差異化するよう求めた。
B.2.1. このパラグラフは、土地及び海洋表面の温暖化並びに北極の温暖化及び地球表面温度に関する展望を示す。ドイツは、最初の文章で事実を述べるのではなく、土地表面は海洋表面より大きな温暖化を継続することは「ほぼ確実(virtually certain)」であるとした理由を尋ねた。執筆者らは、これは事実を述べたステートメントではないと明言し、評価では近未来において、あるいは低いレベルの地球温暖化においては、地球内部の変動性が大きく、一時的に温暖化を隠す可能性があると結論づけているためであると述べた。
北極は地球表面温度以上の温暖化を続けていくことがほぼ確実であるとのステートメントに関し、ノルウェーは、温暖化レベルの数値化を要請した。執筆者らは、高い内部変動性があり、推計値は比較的大きな不確実性の影響を受けると指摘した。執筆者らは、サウジアラビアのコメントに応え、このステートメントは観測を含める複数以上の証拠ラインに基づいていると指摘した。「であろう(will)」の代わりに「と予測される(projected to)」にするとの提案の議論は熱を帯び続け、共同議長のMasson-Delmotteは、マルチモデルの結果については「予測される(projected)」という用語を用い、たとえば古気候の証拠や歴史上の観測など、多角的な証拠ラインに基づいた結果には「であろう(will)」を用いるのがこれまでのやり方であると想起した。インドは、多角的な証拠ラインはモデルからのアウトプットに制約をかけるため用いられたと指摘、結果がモデルに基づくものである限り「予測される(projected)」を用いるべきだと述べた。
最終的に、このパラグラフは、陸地表面が海洋表面以上の温暖化を続け、北極は、地球表面温度以上の温暖化を続けるのは、ほぼ確実であると記す。このパラグラフは、温暖化率をそれに伴う確信度レベルと共に、数値化する。
B.2.2:このパラグラフは、たとえ1.5℃の温暖化であっても、地球温暖化が0.5°C上昇するごとの、極端な高温現象の強度及び頻度の上昇、並びに極端な現象発生の強度及び頻度の上昇を明確に認識できる限り論じる。セントクリストファー・ネービス、ベリーズ、その他多数のものは、より小さい増分であっても変化を検知することは可能だと強調し、「全ての割合(every fraction)」の温暖化が問題であると強調した。米国は、0.5°C を「ステップ(steps)」に置き換え、「一部の(some)」極端な現象を特定することを提案した。執筆者らは、0.5°Cへの言及は閾値の意味ではなく、たとえ0.5℃の地球温暖化であってもリストにある極端な現象が明確に認識可能な形で上昇することを例示することを明らかにした。サウジアラビアは、「明確に認識可能(clearly discernible)」科学的な情報や数値化された情報を追加するものではないと述べ、インドは、「認識可能(discernible)」を「検知可能(detectable)」に置き換えるよう提案した。執筆者らは、ここでの「認識可能(discernible)」は観測や属性、モデルにより裏付けられる実質的な変化があるとの意味で、ここでは適切な用語であると明言した。フランスは、熱波、 requested clarifying “” of heat waves, 降水量、干ばつの「確率(probability)」明らかにするよう要請した。チリは、トリニダード・トバゴと共に、「農業及び生態系の干ばつ(agricultural and ecological droughts)」だけでなく、「あらゆる種類の干ばつ(every kind of drought)」に言及するよう要請した。米国は、農業及び生態系の干ばつの測定に用いた指標は何かを問うた。インドは、前例のない極端な現象の例を追加するよう要請し、(温暖化が)2℃や3℃に達した場合に出現する現象を問うた。
出現がまれな現象の頻度増大という予測される変化の割合に関する文章について、中国及びサウジアラビアは、「よりまれな(rarer)」とは「低い確率(low probability)」という意味かと尋ねた。サウジアラビアは、このような変化はどういう証拠ラインに基づいているのか、どのシナリオが適用されたのか質問した。メキシコは、用語集に「まれな現象(rarer events)」を追加するよう要請した。執筆者らは、異なる極端な現象にはそれぞれ異なる確信度レベルが適用されており、まれな現象の変化について、頻度は少なくなるが極端さを増すと強調した。
ノルウェーは、ベルギー及びその他の支持を得て、このパラグライダーの中で、B.2.1で行ったと同様に、地球温暖化の影響継続という考えを反映するよう提案した。
ケニアは、タンザニア、トリニダード・トバゴ、サウジアラビア、その他の支持を得て、他のタイプの干ばつ、特に気象学上の干ばつを入れるよう要請した。ボツワナは、農業の及び生態系の干ばつは気象学上の干ばつの結果として生じると指摘した。執筆者らは、このパラグラフは極めて小さい増分での地球温暖化に伴う変化に限定しており、水性学的な干ばつに関しては証拠も文献も少ないと指摘した。ボツワナは、気象学的干ばつについて、増加及び減少の両方の方向に変化し、地域により異なると述べた。トリニダード・トバゴは、いずれにしても、このパラグラフには他のタイプの干ばつへの言及を含めることが奨められるとし、低い確信度でも、重要情報を含める必要性を否定するものではないと指摘した。最終的に承認されたパラグラフでは、地球温暖化に増分が追加されるたびに、極端な現象での変化が大きくなり続けると述べる。その後、このパラグラフは、地球温暖化が0.5℃加わるたびに生じる変化を例示する。特に、農業、生態系、水性学、気象学的な干ばつの強度及び頻度の変化を紹介する。
B.2.3:暑い日及び寒い日の気温変化で予想される地域差の例を示すパラグラフに関し、サウジアラビアは、この予測に関係するシナリオ及び証拠ラインは何かを質問し、地球温暖化の速度の数値化を要請した。インドは、主要な海盆の温暖化への言及を要請した。フランス及びノルウェーは、海洋の熱波の定量化を求めた。トリニダード・トバゴは、「海洋関連の極端な現象(marine-related extremes)」という一般的な言い方を要請した。このパラグラフは、多少の修正を経て承認された。
B2.4:豪雨現象、激しい熱帯性サイクロン、農業での干ばつ及び生態系での干ばつの強度増大に関するこのパラグラフについて、参加者は次を要請した:言及している熱帯性サイクロンのカテゴリーを特定する;ステートメントに定量的な情報を示す;降水量の増大や極端な豪雨に関する情報を含める;サブセクションの冒頭ステートメントに熱帯性サイクロンの情報を入れる。執筆者らは、農業の及び生態系の干ばつに関する文章に、「水性学的干ばつ(中程度の確信度)(hydrological droughts (medium confidence))」の増加で影響を受ける地域が増えると指摘するよう提案し、さらに次の文章を加えるよう提案した:「地球温暖化が高まるにつれ、気象学的な干ばつの変化も高まり、より多くの地域が減少よりも増加で受ける影響が大きい(中程度の確信度)(changes in meteorological drought also increase with increasing global warming, with more regions affected by increases than decreases (medium confidence))」。執筆者らは、気象学的な干ばつは農業の干ばつ及び生態系の干ばつを推進する要素の一つであるが、影響に直接関係するわけではない、このため詳細にわたり評価されていない、これは最も影響の大きい気候影響推進要素(climatic impact-drivers (CIDs))が焦点となっているためであると指摘した。気象学的な干ばつが一つだけ別な文章になっている理由を追求する長時間の議論がなされ、少数のアフリカ諸国及び小島嶼開発途上国(SIDS)は、他の支持を得て、自分たちの国では気象学的な干ばつの影響が顕著であると強調した。これら諸国は、水の欠乏、エネルギー不足、観光部門への影響を強調、気象学的干ばつと持続可能な開発とのリンクに焦点を当てた。SIDSにとっての気象学的干ばつの政策関連性を強調したトリニダード・トバゴは、これらをB.2.2及びB.2.4の両方に入れるよう促した。承認されたパラグラフでは、熱帯性サイクロンのカテゴリーが特定されたが、干ばつのタイプへの言及はなかった。
B.2.5:永久凍土の融解、季節性の積雪面積、陸上の氷、北極海の氷を扱うパラグラフについて、少数の参加者は、温暖化のレベル及びそれが永久凍土に与える影響について、さらなる定量化情報を求めると共に、「より高い温暖化レベルでは発生頻度がます(more frequent occurrences for higher global warming levels)」の明確化を求めた。さらに参加者は、季節性の降霜、追加温暖化のタイミングの情報も入れるよう提案した。カナダは、脚注で北極の9月の月平均海氷面積をよく使われる「海氷範囲(sea ice extent)」ではなく「海氷面積(sea ice area)」とした理由を明らかにするよう求めた。執筆者らは、「海氷面積(sea ice area)」の方が有用な表現であるとし、この用語の利用は文献でも支持されていると説明した。CLIMATE ACTION NETWORK (CAN) INTERNATIONALは、FWCCの支持を得て、永久凍土の融解の効果を明らかにするため、永久凍土の融解はCO2及びメタンの放出量を増やし、そのことで温暖化が高まると特定するよう提案した。最終的なパラグラフは、「全ての評価されたSSPシナリオ(all assessed SSP scenarios)」への言及を、「この報告書で考察された5つの例示シナリオ(five illustrative scenarios considered in this report)」に置き換え、脚注では、月平均海氷面積が百万平方キロ以下における「氷の無い(ice free)」という表現は「1979年から1988年で観測された9月の月平均海氷面積の約10%(about 10% of the average September sea ice area observed in 1979-1988)」を意味すると明示する。
図SPM.5:この図は、地域平均気温、降水量、土壌水分量の変化が地球温暖化の上昇で増大することを示す。サウジアラビアは、この表題に定量化情報を加えるよう提案したが、ノルウェーは反対した。1850-1900年と比べた年間平均気温の変化を示すパネル(b)に関し、ベルギーは、北極地域の温度変化は7℃を超える可能性があると指摘するよう要請した、これはこの図で示された上限の数値である。パネル(c)は1850-1900年と比べた年間平均降水量の変化を示しており、高緯度、熱帯の海洋、モンスーン地帯の一部では降水量が増加し、亜熱帯の一部では減少すると指摘したトリニダード・トバゴは、熱帯の海洋と亜熱帯とを明確に定義づけるよう要請した。執筆者らは、要請案の多くは、アトラスで取り扱っていると指摘した。
インドは、インタラクティブ・アトラス(Interactive Atlas)への言及に反対し、その役割や立場を尋ねた。執筆者らは、地球温暖化レベルでの降水量及び気温の変化に関する情報は報告書本文のセクション4.6にある図4.31及び図4.32に示されていると指摘し、インタラクティブ・アトラスを参照する代わりに、これらを参照できると指摘した。Masson-Delmotteは、インドからの発言に応え、このアトラスは新しい情報を提供しはしないが、報告書本文に基づいたものだと述べた。少数の国は、表題でのアトラスへの言及維持を支持した。サウジアラビアは、これがSPMを反映しているかどうか疑問視した。Masson-Delmotteは、これはAR6で用いられたデータセットを変更することなく、反映しており、レビュープロセスの一端であったと述べた。
IPCCの法務担当官は、2018年5月に開催された地域別気候情報評価に関する専門家会議の成果の一つは、基礎となるデータの追跡を可能にすることを目的に、地図や説明書き、評価支援ツールなどを含めるWG I インタラクティブ・アトラスを作成するとの決定であると明言した。同法務官は、このことは2017年に開催されたAR6のスコーピング会議で議論されたクロスカッティング・イシュ―の一つであり、インタラクティブな構成は報告書で評価されたデータを示すツールでもあると述べた。
インドは、これはインタラクティブ・アトラスが報告書の一部になったプロセスを説明しているが、決定が行われた後のアトラスの状況は語っていないと指摘した。インドは、この時点で進捗を止めることは望まないとして、この問題に戻る権利を留保した。さらなる議論ののち、参加者は、執筆者らの案で合意し、図SPM.5は承認された。
図SPM.6:この図は、地球温暖化の増分が追加されるたびに、極端な現象で予測される変化は、頻度及び強度を増すことを示す。サウジアラビアは、増分の特定を求め、この図全体に確信度を追加するよう求め、執筆者らは、この図は予測の範囲を示すものだと強調した。フランスは、「人間の影響がない(without human influence)」気候への言及の言い方を変えるよう求め、1850-1900年を提案し、50年に一回の現象における変化について、高い気温での変化のみを示し、豪雨や干ばつでの変化が書かれていない理由を尋ねた。執筆者らは、これは簡潔さのためだと指摘した。
乾燥地帯における農業面の干ばつ及び生態系での干ばつに関するパネルについて、トリニダード・トバゴは、乾燥地帯での「干ばつ(droughts)」の変化への言及を、データ的に可能なら、より一般的な干ばつの変化に言及するか、気象学的な干ばつに関する情報を入れるよう要請した。
タンザニアは、ケニアやトリニダード・トバゴと共に、報告書本文の第11章では気象学的な干ばつを含め、「干ばつ(drought)」と記載する場合が多く、異なる温暖化レベルにおける気象学的干ばつの情報もあり、アフリカではこの干ばつの頻度が増していると指摘した。執筆者らは、評価は農業での干ばつ及び生態系干ばつに特定されていると述べた。ケニアは、なぜ気象学的干ばつ及び水性学的干ばつが含まれていないのか、その理由を表題で説明することを要請した。ケニアは、第11章及び第12章での「降水量不足(precipitation deficits)」への言及を強調し、文献数が少ないとは言え、これらを含めるよう促した。執筆者らは、全ての干ばつのタイプに関する一般情報を図に入れることはできないとし、その理由は、異なるタイプの干ばつは地球温暖化に対する反応も異なるためだと指摘、しかし他のタイプの干ばつに関する資料へアクセスできるようにしたと指摘した。執筆者らは、農業での干ばつ及び生態系での干ばつは気象学的干ばつに関係するが、温暖な気候では悪化し、蒸発散を理由とする悪化もあると指摘した。
承認された図は、地球温暖化レベルで予測された変化を、人間の影響のない気候を表す1850-1900年との比で示して。さらに気象学的干ばつ及び水性学的干ばつで予測される変化の評価について、第11章へのアクセスを提供する。
B.3:このサブセクションは、地球温暖化が世界の水循環に与える影響を扱う。
冒頭ステートメントは、さらなる地球温暖化は世界の水循環を強めることが予想されると記述するが、サウジアラビアは、「強める(intensify)」及び「さらなる地球温暖化(further global warming)」の数値化を要請した。ガンビアは、地域的な降水量の影響、特にサヘル地域での影響に関する情報を要請し、執筆者は、サブセクションのパラグラフにこの点の詳細を示していると指摘した。執筆者らは、「継続的な(continued)」地球温暖化は世界の水循環を「一層(further)」強めると予想されるとの記述を提案した。ステートメントには「世界のモンスーン降水量(global monsoon 降水量)」への言及が追加された。これらの変更を経て、冒頭ステートメントは承認された。
B.3.1:このパラグラフは、地球の気温上昇に伴う世界の水循環の激化を扱う。トリニダード・トバゴは、降水量は高緯度及び「熱帯の海洋(tropical oceans)」で増加が予想されるとのステートメントにある「熱帯の海洋(tropical oceans)」の明確な説明を求めた。サウジアラビアは、再度、全てのシナリオを含めるよう促し、報告書本文の第8章では全てのシナリオが調査されていると指摘した。最終的に承認されたパラグラフでは、5つ全ての排出量シナリオにおいて、世界の陸上の年間平均降水量は増加が予想されると記載し、さらに降水量は高緯度、太平洋赤道付近、一部のモンスーン地域で増加すると予想されるが、一部の亜熱帯地域及び熱帯の限定的な地域では減少すると予想されると記載する。
B.3.2:このパラグラフは、非常に湿潤な天候現象及び季節、並びに非常に乾燥した天候現象及び季節の激化を論じる。サウジアラビアは、「将来の(future)」変化よりも、「予想される(projected)」変化という表現を希望し、エルニーニョの「増幅(amplified)」の数値化を要請した。執筆者らは、インドの発言に応え、モンスーンと関係する大規模な西風の変化の可能性が高いとの記述に同意した。このパラグラフは、これらの変更を経て承認された。
B.3.3:モンスーン降水量の増加及びモンスーン時期の遅れを論じるパラグラフに関し、参加者は、モンスーン降水量の発生及び後退により特定した情報、及びモンスーン期間の変化に関する情報を要請した。承認されたパラグラフは、北米と南米及び西アフリカでは、モンスーン発生の遅れを経験すると予想され、西アフリカはモンスーン時期の後退の遅れを経験すると予想されることが明示される。
B.3.4:南半球の夏季の中緯度暴風雨及びこれに伴う降水量について、経路の南方向への移動及び降水量の激化が予想されるとのパラグラフに関し、ロシアは、北大西洋の暴風雨経路を、適切な確信度記述とともに含めるよう要請した。執筆者らは、北大西洋の変化は確信度が低く、このため、除外されたことを明らかにした。フランスは、このパラグラフの中でこの点を指摘するよう要請した。このパラグラフは、この点を追加した上で、承認された。
B.4:このサブセクションは、海洋及び陸地の炭素吸収源を扱う。冒頭ステートメントは、修正無しで承認された。サブセクション全体について、インドは、「基幹シナリオ(core scenarios)」など、新しい用語について質問した。日本は、人為的な排出除去量の計算に入れたのは、自然の吸収源のみか、それとも陸地吸収源も入れたか、明らかにするよう求め、この問題の扱い方は明らかな不一致が見られると指摘した。アイルランドは、陸地及び海洋の吸収源で「除去された(removed)」排出量を、「吸収された(taken up)」とすることを提案したが、サウジアラビアは反対した。
B.4.1:高排出量シナリオにおける陸地及び海洋のCO2吸収源に関するパラグラフについて、スウェーデンは、ケニア及び欧州連合(EU)の支持を得て、このパラグラフの要点は吸収源の弱体化であると発言し、この点をより明確に示すよう求めた。これら諸国は、CO2排出量が高いシナリオの下では、低いシナリオの場合と比較し、陸地及び海洋のCO2吸収源に吸収されるCO2の絶対量は大きくなるが、その効果は弱まるとする表現を提案した。フランス及びスイスは、サウジアラビアの支持を得て、排出量のうち大気中に放出される割合の変化に関する情報の数量化を求めたが、オランダは反対した。共同議長のMasson-Delmotteは、吸収源で除去される歴史的な除去量の情報はパラグラフA.1.1に記載されることを明らかにした。
サウジアラビアは、この文章ではデータが観測データか予測データかを特定すべきで、さらに陸地及び炭素吸収量に対するCO2の直接効果の大きさに関する不確実性も記載すべきだと述べた。共同議長のMasson-Delmotteは、このパラグラフは将来の排出量に関する記述であり、予測に基づくことを明らかにした。
陸地及び海洋のCO2吸収源がより多くの量のCO2を「吸収するであろう(will take up)」との表現に関し、米国は、これがモデルに基づくものか、それとも観測データに基づくものかを尋ねた。同代表は、インドの支持を得て、これがモデルに基づくものなら、「吸収するであろう(will take up)」は、「吸収すると予想される(projected to take up)」に置き換えるべきだと述べた。
少数の国は、このパラグラフに含まれるプロセスは物理的、生物学的、化学的、またはその全てなのか明確にするよう求めた。EUは、このパラグラフの内容における吸収源の定義を明らかにするよう求め、これは海洋や陸地の自然のCO2吸収能力を指し、新規植林などの人間の干渉は別な箇所で扱うのかを尋ねた。執筆者らは、このパラグラフは自然の吸収源を対象としており、土地利用は除外する、さらに物理的、生物学的、化学的なプロセスの全てが含まれることを明らかにした。最終的に承認されたパラグラフでは、「自然の(natural)」土地及び海洋の炭素吸収源に言及、これらの吸収源は「吸収するであろう(will take up)」ではなく、「吸収すると予想される(projected to take up)」に置換、吸収源弱体化の点も明らかにする。
B.4.2:異なる排出量シナリオの下で陸地及び海洋の吸収源に吸収されるCO2に関するパラグラフについて、少数の国は、SPM全体を通し、記述が少ないSSPの数字ではなく、極めて高い、高い、中程度、低い、極めて低い排出量シナリオへの言及を求めると再度述べた。一部の国は、ここでのステートメントは観測ではなくモデル予測に基づいているとより明確に示すよう求めた。他のコメントは次に関係するものであった:より低い排出量シナリオの下では、陸地及び海洋の吸収源は2100年までに弱体化するとの文章に確信度を追加する:排出源―吸収源の力学における地域的な多様性を指摘する;このパラグラフは「直接的な(direct)」土地利用に言及することを明らかにする;排出量を「除去した(removed)」とするよりも、「吸収された(taken up)」と表現する。承認されたパラグラフは、陸地及び海洋に「吸収された(taken up)」CO2の割合に言及し、異なる排出量シナリオを確信度とともに考察したと明言する。
B.4.3:このパラグラフは、気候変動と炭素循環のフィードバック効果、及び温暖化に対する生態系の追加的な反応として可能性あるものを論じる。サウジアラビアは、CO2ではなくGHGsに言及するよう求め、GHGsの全リストを掲載するか、さもなければ一切掲載しないよう求めた。執筆者らは、この文章は炭素循環のフィードバックを扱っており、このため、特にCO2に特に関係すると説明した。米国及びドイツは、特定の生態系または山火事などの現象で全てのモデルに必ずしも含まれていない項目に関する説明情報を要請した。執筆者らは、簡潔なSPMに何もかも入れるわけにはいかないと述べた。Masson-Delmotte共同議長は、米国の発言に応え、シミュレーションでは排出量に反応する炭素循環モデルを用いたと確認した。執筆者らは、このパラグラフはテクニカル・サマリーのボックス5に描かれる通り、海洋と他の区域とを比較できるよう、排出量で変化する濃度を比較していると述べた。アイルランドは、ドイツとともに、湿地及び永久凍土の融解で生じるCO2及びメタンの排出量の「増加(increased)」は「それぞれの(their)」GHG濃度をさらに増加する可能性があると明記するよう提案した。
承認されたパラグラフは、気候モデルには未だ十分に取り入れられていない生態系の温暖化に対する追加的反応との関係において、山火事に言及し、さらに気候変動と炭素循環の間のフィードバックの「規模(magnitude)」はより大きくかつより不確実になると明言する。
図SPM.7:5つの基幹排出量シナリオの下で、1850年から2100年において、陸地吸収源及び海洋吸収源で吸収される人為的なCO2排出量に関する図について、インドは、サウジアラビアの支持を得て、「基幹シナリオ(core scenarios)」への言及に異議を唱え、この表現は政策規範的であるとし、SPMの他の箇所とそぐわないと述べた。SPM全体を通し、「基幹(core)」シナリオへの言及は「例証(illustrative)」シナリオに変更された。
セントルシアは、ベルギーの支持を得て、この図の前回バージョンに含まれていた1850-2015年の期間に関係する歴史的情報を再度記載するよう求めた。英国は、ルクセンブルグ、ベルギー、アイルランドの支持を得て、2015-2100年の期間も論じるべきだと述べたが、インドは反対した。執筆者らは、1850-2100年を入れると決定した理由は将来の吸収源が過去の排出量により異なり、このため期間全体を考察することが重要と考えたからだと明言した。執筆者らは、歴史的な排出量はパラグラフA.1.1に含まれると指摘した。さらなる議論の後、歴史的な期間(1850-2019年)に陸地及び海洋の吸収源に吸収されたCO2排出量の数量及び割合に関する歴史的な情報を含めることとなった。
土地利用変化への言及について、アルゼンチンは、この図が直接的な土地利用変化のみに関係することを明確にすべく「直接的な(direct)」という言葉を追加するよう要請した。
サウジアラビアは、化石燃料の排出など人為的な排出源への言及に異議を唱え、これはWG Iのマンデートを超えるとし、マンデートでは排出源ではなく、排出量のみの考察が求められていると述べた。同代表は、この図では観察されたものであれ、予測されたものであれ、データのタイプと情報源も明らかにすべきだと述べた。共同議長のMasson-Delmotteは、承認された第5章の概要及びWG I AR5報告書の両方において、関係ある場合は情報源に関する情報が記載されていると明言した。承認された表題では、化石燃料などの人為的なCO2排出源への言及が削除され、代わりに、人為的炭素排出量全体は、CMIP6 シナリオのデータベースからの世界的土地利用の実際排出量に対し、規定のCO2濃度で気候モデルのシミュレーションをして計算された他部門の排出量に加算して、求められたと記述する。これに加えて、陸地及び海洋の炭素吸収源は、過去、現在、未来の排出量に反応し、このため、ここでは1850-2100年の累積吸収量が示されると明言する。
B.5:このサブセクションは、過去及び未来のGHG排出量を理由とする不可逆的な長期変化を論じる。ルクセンブルグは、冒頭ステートメントについてコメントし、「不可逆的な(irreversible)」と「不可避な(unavoidable)」の違いを尋ね、人類は今でも影響をかえることができると強調した。オランダ、ルクセンブルグ、ブータンは、「緩慢に発生する(slow onset)」プロセスを特定するよう要請し、不可逆性には特定水準にとどまることが含まれると指摘した。サウジアラビアは、過去と将来の排出量の差異化を要請し、それぞれの定量的な影響の差異化、気候要素、不確実性、歴史的な気候移行期間への言及を要請した。ドイツは、数カ国の支持を得て、転換点への言及を要請したが、インド及びサウジアラビアは反対した。執筆者らは、そのような言及はB.5のパラグラフを反映するものではなく、報告書本文を反映するものでもないと述べた。冒頭ステートメントは、修正されることなく承認された。
スイス及びメキシコは、サブセクション全般についてコメントし、過去のGHG累積排出量による温暖化と、将来の排出量で予想される温暖化を区別するよう求めた。スイスは、皆が即時排出を停止したら、2100年はどのようになるのかを尋ねた。執筆者らは、このセクションは、気候系の他の変化を論じており、将来の温暖化を論じるものではないと述べた。執筆者らは、ブータンの発言に応え、山岳部氷河の変化は数十年間で元に戻れるため、ここでは省いたと述べた。CAN INTERNATIONALは、CO2の高濃度及び温暖化が海面上昇に与える影響にについて、古生物学的証拠の情報を求めた。
B.5.1:このパラグラフは、海洋における不可避な変化、具体的には温暖化、成層化、酸性化、脱酸素化という意味での変化を論じる。米国は、未知の将来の放射バランスにより変化は変わってくるとして、「不可避な(unavoidable)」の削除を提案した。
韓国は、中国とともに、海洋成層の「上層(upper)」を特定するよう要請した。同代表は、海洋「深層(deep)」の温暖化のみに言及している理由を尋ね、執筆者らは、循環の時間規模が遅いからだと指摘した。執筆者らは、サウジアラビアの発言に応え、脱炭素化の確信度は高いがその速度の確信度は中程度であると述べた。
予想される将来の海洋温暖化に関するステートメントからSSP 1-1.9を省いた理由に関し、執筆者らは、文献の欠如を指摘した。サウジアラビアは、将来予想される変化を1971-2018年と比較する理由について尋ね、中国とともに、その不確実性及び確信度を問うた。EUは、1971-2018年の絶対量の増加や変化率を比較したのか尋ねた。執筆者らは、再度、文献の入手可能性を指摘した。
加えて、過去のGHG排出量は世界的な海洋深層の将来の温暖化を「不可避な(unavoidable)」ものに導くとの表現は、1750年以降の過去のGHG排出量は世界の海洋の将来的な温暖化を確実なものにしているとの表現に置き換えられた。このパラグラフは、これらの修正をし、さらに海洋「上層(upper)」の成層化は21世紀も継続するとの中国の表現を加えて、承認された。
B.5.2:世界の気温が安定化しても、氷河は数十年かそれ以上、融解を続けると予想されるという確信度が極めて高い文章について、チリは、ブータン、タンザニア、ペルーの支持を得て、「氷河(glaciers)」ではなく、「山岳部及び極地の氷河(mountain and polar glaciers)」と特定するよう要請した。ブータンは、氷河の融解が世界的なのか、それとも山岳氷河のみなのか、明らかにするよう要請し、氷河の動力学は地域により異なると指摘した。
スイスは、ドイツとルクセンブルグの支持を得て、パラグラフに永久凍土を入れるよう提案した。ドイツは、言及されている不可逆的で突発的な現象は「転換点(tipping points)」とも呼ばれると指摘し、ルクセンブルグとともに、この用語をパラグラフに入れるよう要請した。
参加者は、次の項目も要請した:定量化情報を含める;「数十年間(several decades)」の明確化;どのシナリオ予測に基づいているのかという情報;継続する氷の喪失の確信度を明確化。
執筆者らは、次の点を明らかにした:永久凍土に言及していない理由は、永久凍土の物理的な変化が短期間で元に戻る可能性があるからだ;氷河は、地球の気温が安定化しても融解を続けるため、予想される変化はいかなる将来シナリオとも無関係である;「氷河(glaciers)」は、大規模氷床以外の、全ての陸上の氷質量を指す;「転換点(tipping points)」は、専門用語であってSPMでの複雑な説明を必要とすることから、簡潔さのため外され、代わりに概念としてわかりやすい「不可逆的な変化(irreversible change)」が用いられた。
転換点への言及をいれるかどうかの議論が続けられた。執筆者らは、「氷床の不安定なプロセスの結果としておこること(outcomes resulting from ice sheet instability processes)」という文章の中に、「転換点が関わる可能性(potentially involving tipping points)」と言及し、その上で、転換点を脚注で定義づけることを提案した。インドは、「転換点が関わる可能性(potentially involving tipping points)」は推測似すぎず、これを含めることは支持しないと述べた。執筆者らは、「場合によっては転換点が関わる(in some cases involving tipping points)」との表現を提案した。執筆者らは、転換点要素が考えられている南極の西部及び東部の例を挙げ、SR1.5では南極西部の氷床の不安定さにおける閾値を中程度の確信度でも1.5-2°Cに近い可能性があると評価し、その場合、RCP2.6のみが1メートル以下の海面上昇という長期予測に結びつくとされたと指摘した。執筆者らは、この種の転換点の考えは入れる価値があると強調した。インドは、高いGHG排出量シナリオの下では、何世紀にもわたり南極の氷床での氷の喪失が大きく増加するという「可能性が小さく、影響結果が大きい(low-likelihood, high-impact outcomes)」ものへの言及に反対し、影響はWG IIの範疇であり、これらの現象は憶測に過ぎないと述べた。共同議長のMasson-Delmotteは、この用語は「気候変動への適応を進めるための極端な現象及び災害のリスク管理(Managing the Risks of Extreme Events and Disasters to Advance Climate Change Adaptation)」に関するIPCC特別報告書で使用され、さらにリスク評価と削減に関するIPCCの文献などの文献でも使用されえていると説明した。他の多数の国はこの文章を支持した。米国は、これはモデル化が可能な科学プロセスであり、過去の証拠が存在する可能性がある、このため、問題は、これが発生しうるかどうかではなく、どれだけの発生可能性があるかであると述べた。承認されたパラグラフには、参加者が提案したとおり、山岳氷河や極地の氷河、永久凍土の融解、転換点への言及が含まれる。
B.5.3:このパラグラフは、21世紀において、シナリオを横断して予想される海面上昇を論じる。エジプトは、このパラグラフで人間の活動に言及していない理由を尋ね、図SPM.8は、「特に将来の数世紀における人間の活動及びそれが気候系に与える影響(human activity and its impact on climate systems especially regarding future centuries)」に関する図であると指摘した。セントクリストファー・ネービスは、数値化情報を入れるよう求めた。中国は、図SPM.8と同様に、参照年度として1995-2014年ではなく1900年の数値を用いることを提案した。スウェーデンは、既に含まれている2150年に加えて、2100年での予測を入れるよう求めた。
ドイツは、21世紀中は海水面が上昇し続けるのはほぼ確実であるとするステートメントを指摘、ここでは事実を示すステートメントにするよう要請した。数か国の参加者は、確信度レベルを追加するよう求め、SSP1-1.9とSSP5-8.5だけでなく、全てのシナリオを含めるよう求めた。執筆者らは、正確さを目指し、従来の手法に合わせて、最も極端なシナリオを含めたと説明した。確信度の表現追加に関し、執筆者らは、「深刻な不確実性(deep uncertainty)」は評価の表現であると指摘した。このパラグラフは、全ての排出量シナリオを記載し、さらなる明確さのため、細かな修正を加えて、承認された。
B.5.4:このパラグラフは、2100年以降の海面上昇に焦点を当てる。海面上昇の影響は1.5°Cの温暖化でも深刻なものとなると強調したトリニダード・トバゴは、米国の支持を得て、世界の平均海水面は報告書本文の第9章に示す通り、温暖化を2°Cで抑えても2から6メートル上昇すると予測するステートメントに、「中程度の意見の一致、証拠は限定的(medium agreement, limited evidence)」とする定量化表現を加え、これに続く確信度の低いステートメントとの差異化を図るよう求めた。5°Cの温暖化では、海水面は19から22メートル上昇すると予測され、その後の千年紀を通して上昇を続けるとのステートメントを取り上げたインドとサウジアラビアは、SPMに確信度の低いステートメントを入れることの関連性に疑義を唱えた。ドイツは、そのような政策関連性のある情報の重要性を強調した。執筆者らは、確信度の低いステートメントはB.5.3に必要な内容を提供し、一部の国にとり特に重要であると強調した。このパラグラフは、明確さを高める修正を行ったのち、承認された。
図SPM.8:この図は、地球規模の変化を示す少数の指標がどう変化するかを図示化する、具体的には、地球表面温度、9月の北極海の海氷面積、世界の海洋表面のpH、1900年比の世界の平均海水面の変化、及び2300年での世界の平均海水面の変化という指標の変化である。フランスは、北半球春季の積雪面積の情報を追加するよう提案した。スイスは、3つの十分に混合したGHGs(CO2、メタン、亜酸化窒素)の大気濃度に関する情報の追加を提案した。米国は、全てのパネルを横断し、観測上の制約条件が用いられたかどうかを尋ねた。英国は、歴史的な観測が含まれていない理由を尋ねた。
海面上昇に関する第1のパネルについて、セントルシアは、SSP 8.5の下での可能性は低いが影響は大きいストーリーラインの情報を保持するよう求めたが、インドは反対した。軌跡の確信度の低さに注目したカナダは、これを削除し、2100年におけるシナリオを横断する範囲を示すよう提案し、デンマークと共に、「ストーリーライン(storyline)」よりも、むしろ「結果(outcome)」への言及を要請した。米国は、予測図において古気候の証拠が考察されているかどうかを尋ねた。日本及びデンマークは、2300年の世界の平均海水面の変化における予測に最善の推計値を入れるよう求め、執筆者らは、そのような情報は入手可能でないと述べた。
執筆者らは、歴史的な観測が含まれていないのは、この図の目的が人間の活動による気候系の全ての構成要素への影響を図示するためであり、数十年にわたり反応する構成要素もあれば、数世紀にわたり反応する要素もあること、さらにpHなど全ての変動要素について観測が利用できるわけではないと指摘した。執筆者らは、9月の北極の海氷面積に関するパネル、及び世界の海洋表面のpHに関するパネルは、予測のみに基づいたものであり、他のパネルには複数以上の証拠ラインを含めるものもあると指摘した。この図及び表題は変更なく承認された。図の頭書きは、「基幹(core)」を報告書で用いられた5つの「例示(illustrative)」シナリオとの表現に変更された後、承認された。
C. リスク評価及び地域的な適応に関する気候情報
C.1:自然の推進要素及び人為的な変化を調節する内部変動の役割に関するこのサブセクションについて、プレナリーで第1回の一般コメントが発表された際、ロシアは、関連する時間規模が一年以内なのか、10年単位なのか、それとも他の時間規模なのかを明らかにするよう要請した。自然の推進要素及び人為的な変化を調節する内部変動、特に地域規模や近未来でのこれらの要素は世紀単位の地球温暖化に与える影響が小さいとする冒頭ステートメントは、修正無しで承認された。
C.1.1:このパラグラフは、基本的な人為的長期変化を高める、または隠す十年単位の変動性を論じる。ベルギーは、内部の10年単位変動性、及び太陽光や火山による推進要素の変動が 1998-2012年における地球表面の人為的な温暖化を部分的に隠していたとするこのパラグラフの記述に注目し、この期間であっても、クロス・チャプターのボックスBox 3.1に説明する通り、陸地では極端な現象が発生しており、その旨記載するよう要請した。サウジアラビアは、このパラグラフで1998-2012年の期間のみを用いた理由を尋ね、パラグラフ全体で定量的な情報を増やすよう求めた。執筆者らは、1998-2012年を用いた理由は、AR5で評価された期間だからだと明言した。このパラグラフは、 1998-2012年において陸地では極端な高温現象の増加が続いたと指摘する修正を行った後、承認された。
C.1.2:このパラグラフは、平均的な気候で予測される変化、及び内部変動性で増幅または減衰するCIDsを論じる。ボツワナは、脚注に記載するCIDsのリストを指し、激しい雷雨が外されている理由を尋ね、執筆者らは、風のCID要素の中で扱われていると明言した。インドは、脚注の2にリストされる主要な内部変動現象にインド洋ダイポール現象を追加するよう要請した。執筆者らは、この脚注に記載される現象は10年単位及び数十年単位の時間規模で大きな影響を及ぼすものであり、これ以外は報告書本文に記載されていると説明した。他の参加者は、「増幅または減衰させる(amplified or attenuated)」などの問題を明らかにし、CIDsの定義を明確にするよう、このパラグラフの書き直しを提案した。このパラグラフは、CIDsに関する脚注での若干の変更、及び関連するアトラスの章への言及など、関連付けの変更を経て、承認された。
C.1.3:このパラグラフは、自然の及び人為的なエアロゾルの強制力が降水量の変化に与える影響における不確実性及び内部変動性の役割を論じる。ドイツは、以前のSPM草案にあった水循環の変化に関するステートメントが削除された理由を尋ねた。執筆者らは、これは全面的に世界の水循環を論じるB.3に移されたと述べた。英国は、内部変動性が変化のパターンにどう影響するかを質問し、増幅や減衰は、異なる時間規模で変化する可能性があると指摘した。執筆者らは、変動性は主に年間のもの、10年単位のものだと指摘した。執筆者らは、このパラグラフで特にモンスーンに言及している理由を尋ねた米国の質問に応じ、モンスーンは大規模な内部変動性を有し、その大規模な調節もあることから、極めてふさわしい現象だと指摘した。さらに、執筆者らは、近未来は2021年から20年間と定義されると指摘した。このパラグラフは、「数十年単位(multi-decadal)」の平均降水量の変化ではなく、「10年単位から数十年単位の(decadal-to-multi-decadal)」変化に言及し、承認された。
C.1.4:このパラグラフは、21世紀中に大規模な火山の噴火が起きる可能性、及びそれが与えるであろう影響を論じる。ロシアは、このパラグラフが古気候学だけでなく歴史的な証拠に基づいていると特定するよう提案し、執筆者らもこれを確認した。日本とインドネシアは、「大規模な(large)」噴火の意味を特定するよう要請し、日本は、火山噴火指標(Volcanic Explosivity Index)を指摘した。ロシア、日本、インドネシアは、そのような噴火が起きる「だろう(will)」ではなく、「かもしれない(may)」と記述するよう求めた。スウェーデンは、このパラグラフは近未来及び長期の影響を特定していると指摘、中期的な影響の情報を要請した。執筆者らは、米国への回答として、モンスーン周期の近未来での変動は、地球規模のモンスーン体系に関係すると明言した。このパラグラフは、21世紀中に少なくとも1回の大規模な火山の噴火が起きる「であろう(would)」可能性の評価に情報を提供するものとして、古気候学の証拠だけでなく、「歴史的な証拠(historical evidence)」に言及し、脚注において大規模な噴火の頻度及び規模の平均値を示す。人為的な気候変動を一時的及び部分的に覆い隠すそのような噴火の役割に関し、多少の編集を行った上で、このパラグラフは承認された。
C.2:このサブセクションは、地域レベルで予測されるCIDsの変化を2°Cと1.5°の地球温暖化で差異化して論じる。さらなる地球温暖化は、全ての地域においてCIDsの同時かつ多角的な変化を増加させ、2℃の地球温暖化では1.5℃の地球温暖化と比較し、この変化がより広範囲に起きると予測する冒頭ステートメントに関し、タンザニアは、「さらなる地球温暖化(further global warming)」のベースラインについて質問した。ドイツは、少数のCIDsで「広範な(widespread)」変化がおきるというのは、2℃と1.5℃ではどのような差があるのかを尋ねた。執筆者らは、これは地球温暖化のレベルが高くなると、より多くの地域でより多くのCIDsが明白になることを意味すると説明した。執筆者らは、地球温暖化が高くなった場合、CIDの規模の変化にどのような影響を与えるかについては十分な評価がされていないとし、このため冒頭ステートメントは事実を述べるだけで、影響範囲への言及を含めるわけにはいかないと述べた。共同議長のMasson-Delmotteは、図SPM.9により定量的な情報が示されていると指摘した。
サウジアラビアは、「2℃かそれ以上(2°C and above)」という表現に反対し、より高い範囲を要請した。執筆者らや共同議長Masson-Delmotteは、報告書本文には異なる温暖化レベルでのCIDsの変化に言及していると指摘し、たとえば3-5°C、さらには6.9°Cまでの温暖化レベルへの言及を挙げた、その後、冒頭ステートメントは、CIDsでの変化は温暖化レベルが高くなればなるほど、広範囲にそして/または明白になると指摘した上で、承認された。
インドは、サブセクション全体についてコメントし、このサブセクションで1.5˚Cと2˚Cのシナリオにのみ注目している理由を問い、これらの閾値間の違いの意味あいを明確にするよう求め、現在の排出率では、世界の温暖化は将来2℃を超えると指摘した。同代表は、サブセクションのパラグラフに追加の定量的情報を入れるよう要請し、確信度が報告書本文で保証されたものよりSPMでは高くなっているように見えるとしてその理由を尋ねた。執筆者らは、地域別の内訳及び全ての地域で確信度が同一でない場合の確信度をまとめている2つの脚注を指摘し、テクニカル・サマリー及び報告書本文にはさらなる詳細が示されていると指摘した。執筆者らは、全てのCIDsが全ての地域に影響を与えているわけではないと明言し、CID枠組はWG IIでのリスク評価の基礎を築く上で、有用であると指摘した。
C.2.1:このパラグラフは、CIDsで予想される変化、変化の中でも例えば極端な高温閾値を超過する頻度は1.5℃温暖化の場合よりも2℃温暖化の方が大きいこと、さらに全ての地域に影響を与えることに関係する。共同議長のMasson-Delmotteは、SPMの中のどの結論に注目すべきかを特定するのは課題が多いと指摘、その理由はAR6の対象である文献の量がAR5の文献の量を大きく上回っているためであり、特に特異的なものと一般的なもののバランスをとるのは課題が多いと指摘した。ドイツは、「全ての(all)」地域において、高温CIDsのさらなる増加、低温CIDsの減少を経験すると予想されるとの表現について質問し、気温が高くなると極端な高温閾値の強度と頻度の両方が増加するのかどうかを尋ねた。執筆者らは、タンザニアの質問に応え、「極端な高温閾値を超える頻度が増える(exceeding extreme heat tolerances more frequently)」は、年間で閾値を超える日数が増えることを意味すると述べた。インドは、2つの地球温暖化レベルではどのような変化が置き、どのような変化が置きないのかを明らかにするよう求めた。ある執筆者は、一つの地域で観測された変化は1.5℃の温暖化の場合よりも2℃の温暖化の場合が大きくなると述べた。執筆者らは、チリに応え、南極での海氷の喪失に言及していない理由は南極での海氷に関する全体的な傾向については低い確信度しか無いためだと説明した。このパラグラフは、多少の編集上の修正と見解を追加することで、承認された。
C.2.2:このパラグラフは、1.5°Cの地球温暖化において、豪雨及びこれに伴う洪水、さらには異なるタイプの干ばつで予測される変化に関係する。セントクリストファー・ネービスは、トリニダード・トバゴの支持を得て、利用可能な地域的評価に示される地域はアンバランスな状態が続いているとして嘆き、カリブ海及び太平洋諸島に関する情報の追加を求めた。トリニダード・トバゴとジャマイカは、2℃温暖化での変化に関するパラグラフC.2.3には、カリブ海地域の情報が記載されていると指摘し、一方を記載し、他方を記載しない合理性を問うた。タンザニアは、ボツワナの支持を得て、SPMのどこかで気象学的干ばつに関するメッセージを入れてほしいとの自国の要請を再度述べた。執筆者らは、報告書本文の第12章を指摘、このパラグラフは農業の及び生態系での干ばつを考察しているが、その理由は、これらが部門を横断する影響に直接関係しているからだと説明した。インドは、時間規模も参照期間も複数以上あることから、「強度(intensify)」は何を意味するかを尋ね、証拠ラインはアトラスについて議論していようといまいと、いくつかのアトラスの章を参照していると指摘した。共同議長のMasson-Delmotteは、アトラスの章は既に査読の対象とされていると述べた。執筆者らは、このパラグラフに記載する変化は全て、特に断らない限り、現在のベースラインに対する変化であると述べた。このパラグラフは、2,3の地域で予測される気象学的干ばつの増加への言及を加えた後、承認された。
C.2.3:このパラグラフは、2°C及びそれ以上の温暖化における豪雨やそれに伴う洪水、異なるタイプの干ばつで予測される変化を論じる。タンザニアは、ケニア、チリ、アルジェリアの支持を得て、このパラグラフの中に、既に言及されている農業上の干ばつ及び生態系の干ばつに加えて、気象学的干ばつ及び水性学的干ばつへの言及を入れるよう求めた。執筆者らは、気象学的干ばつはこのパラグラフの内容に関係していないため言及しておらず、水性学的干ばつは証拠が限定的なことから言及していないと説明した。スイスは、エジプトの支持を得て、気温上昇の影響結果は既に経験済みであると指摘し、気温上昇はこのような影響結果が「継続する(to continue)」原因となるとの記述を提案した。サウジアラビアは、2˚C「及びそれ以上(and above)」への言及削除を求めた。Masson-Delmotte共同議長は、次を指摘した:各国政府は、最終査読でこの記述の追加を要請した;執筆者らは、この記述が自身の評価及び証拠を反映するものだと確認した;サウジアラビアは、コンタクトグループで、この表現に同意した。サウジアラビアは、これに同意し、今後は、この表現の使用を明確にするよう求めた。このパラグラフは、独立したメッセージとしての明確さを高めること、水性学的干ばつ及び気象学的干ばつに関する情報の追加、及び証拠ラインの追加を目的とする編集上の修正を経て、承認された。
C.2.4:このパラグラフは、異なるタイプのCIDsの変化に関係する。中国は、「1.5℃の地球温暖化と比較した場合、2℃及びそれ以上の地球温暖化では、より多くの地域を横断し、より多くのCIDsが変化すると予想される(changes in more CIDs across more regions are projected at 2°C and above compared to 1.5°C global warming)」という最初の文章は理解するのが困難だと述べ、パラグラフC.2.3の文章表現を用いるよう提案した。執筆者らは、この文章がこのように構成されているのは、1.5℃と比較し、2℃及びそれ以上では「より多くの地域でより多くのCIDs(more CIDs in more regions)」が変化すると予測されるとの考えに焦点を当てているためだと述べた。スイスは、「他のCIDsにおいて将来可能性がある変化の確信度は低い(low confidence in potential future changes in other CIDs)」に関する文章は地球温暖化と合致する変化と関係するのか、それとも合致しない変化に関係するのか、質問した。執筆者らは、低い確信度は証拠の不十分さに関係すると述べた。米国は、熱帯サイクロン「そして/または(and/or)」熱帯外の嵐と表現し、単なる「または(or)」を置き換えるよう提案し、一部の地域では両方を経験していると指摘した。このパラグラフは、最初の文章を次のように再構成したのち、承認された:明確さを高める;米国の提案を取り入れる;他の一部のCIDsにおける将来可能な変化に関し、「大半の地域では(in most regions)」確信度が低いと特定する。
C.2.5:このパラグラフは、予想される海面上昇及びそれに伴う極端な現象に関係する。読みやすさを向上させるため、ケニアは、最初の文章を、地域平均の相対的海面上昇が21世紀を通して継続することは「極めて可能性が高い(very likely)」か「ほぼ確実(virtually certain)」であると指摘することで始めるよう提案した。インドは、現在、どの地域において海面上昇の加速化が見られるか、その情報を追加するよう要請し、執筆者らは、このパラグラフは将来予測に焦点を当てていると明らかにし、海面上昇加速化の問題はこの報告書の別な箇所で地球規模の観点から取り上げられていると述べた。セントルシアは、海面上昇率は排出量シナリオを横断して異なると明示するよう提案し、基礎となる評価からこれに関する情報を入れるよう求めた。共同議長のMasson-Delmotteは、世界の平均海面上昇の予測はB.5.3で取り上げられていると指摘した。このパラグラフは、多少の編集面での修正や証拠ラインを追加したのち、承認された。
C.2.6:このパラグラフは、都市の気候に対する都市化と気候変動との相互作用を論じる。韓国は、極端な海水面に関係する頻度という表現での混乱を表明、パラグラフC.2.5及びSROCCとの一貫性を持たせるべく、極端な海水面現象との表現を提案した。タンザニアは、影響効果は都市開発の形式により異なると強調した。ブラジルは、先進国の都市と開発途上国の都市の差異化を求め、インフラや適応能力の違いを指摘した。共同議長のMasson-Delmotte及び執筆者らは、このパラグラフは自然科学に根差していると強調、その例として都市の形態、水資源フラックス、風のパターンなどを挙げ、適応の側面はWG IIで扱われると指摘した。
インドは、スイスやブラジルと共に、脚注で「都市化(urbanization)」を定義づけるよう要請した。Masson-Delmotte共同議長は、「都市化(urbanization)」の辞書での定義は「町や都市が作られるプロセス(the process by which towns and cities are formed)」であると指摘した。執筆者らは、都市化は、自然の区域から都市の区域への転換だと付言した。参加者は、この言葉を用語集に入れるとするMasson-Delmotte共同議長の提案に同意し、このパラグラフは、パラグラフ全体で「都市開発(urban development)」を「都市化(urbanization)」と言い換えた上で、承認された。
C.2.7:複合現象の発生確率で予想される増加に関するパラグラフについて、米国は、報告書本文では熱帯雨林地域及び沿岸の都市では多数の影響が関連性を持つことを示していると指摘、この点をパラグラフに取り入れるよう求めた。インドは、熱波や干ばつに加えて、雷雨や稲妻に言及するよう求めた。FWCCは、2°Cと1.5°Cの比較を歓迎、さらに3°C及びそれ以上での影響も明らかにするよう求め、これは「我々が現在どこへ向かおうとしているかの重要なリアリティチェック(important reality check of where we are currently heading)」であると指摘した。執筆者らは、熱波及び干ばつに特に言及している合理性、及び耕作面積に言及している合理性は、これら同士の結びつきがあるからだと説明した。このパラグラフは、多少の編集上の修正や証拠ラインの追加を行った後、承認された。
図SPM.9:この図は、CIDsの変化が予想される地域で、AR6 WG Iで参照された多数の地域の統合を示す。米国は、全ての地域は少なくとも5つのCIDsにおいて変化を経験する「であろう(will)」ではなく、「と予測される(projected to)」と記述し、これは「2℃温暖化(at 2°C warming)」の場合であると特定することを提案した。ルクセンブルグは、地域の数を示す上限が考察された陸地及び海洋地域の最大の数に沿うように、可視化を調整するよう要請した。カナダは、各CIDが適用可能な地域の数を特定するよう求め、たとえば一部の地域だけに雪の氷河があると指摘した。韓国と米国は、変化というのは頻度や強度、または期間の増加に関係するかどうか、明らかにするよう要請し、この点が全てのCIDsで明確にされたわけではないと指摘した。オランダ、スペイン、メキシコは、政策関連性を高めるため、より地域別の形で情報を提示するよう求めた。他のコメントは次に関係するものであった:この図で考察した地域を示すアトラスを再度入れる;気象学的干ばつを含める、「海洋の(oceanic)」CIDsではなく、沿岸の及び「開かれた海洋(open ocean)」CIDsに言及する。米国は、農業上及び生態系の干ばつではどのタイプの評価が行われたのかを尋ね、一部の指標は極めて気温に左右されると指摘した。執筆者らは、気温に基づく計測法は使用しておらず、主に土壌湿度に依存していると指摘した。この図は、CIDが関連する地域の最大数を示す「覆い(envelope)」の追加などの修正を行った後、承認された。
C.3:このサブセクションは、可能性が低い影響結果を扱う。可能性が低い影響結果は除外することは不可能で、リスク評価の一部であるとする冒頭ステートメントについて、インドは、そのような推測の表現に反対した。サウジアラビアは、不確実性は有用でないと述べた。 said the uncertainty was unhelpful. デンマークは、ノルウェー、ルクセンブルグ、ドイツ、セントクリストファー・ネービス、メキシコ、フランス、スペインの支持を得て、可能性が低いが影響は大きい現象は極めて政策関連性があると強調した。少数の国は、「転換点(tipping points)」を特定するよう要請し、デンマーク、ルクセンブルグ、英国は、アマゾンの立ち枯れ(diebacks)など、さらなる例示を要請した。日本は、「リスク評価(risk assessment)」よりも「検討されるべきリスク(risk to be considered)」や「リスク(risk)」の方を希望した。ドイツと米国は、冒頭ステートメントに自然の原因で大きな影響を及ぼす現象を追加するよう要請し、これはC.3.5で登場していると述べた。冒頭ステートメントは、証拠ラインを追加したのち、承認された。
C.3.1:このパラグラフは、高い温暖化の影響結果に関係する。スペインは、このパラグラフで特定されたCIDは「地域の降水量(regional precipitation)」のみであると指摘し、これが最も重要ということかと尋ねた。地球温暖化が特定のGHG排出量シナリオで極めて可能性が高いとされた範囲を超える場合、CIDsは評価された極めて可能性の高い範囲を超える、さらに人間や生態系にきわめて大きな影響及び高いリスクを与える可能性があるとする文章について、ドイツとインドは、「極めて大きな影響(very large impacts)」について尋ねた。インドとサウジアラビアは、「影響(impacts)」というのはWG Iのマンデートの外だと述べた。共同議長のMasson-Delmotteは、第12章で地域の影響及びリスク評価に関する気候変動の情報を評価していると述べ、WGs間でのリスク評価の議論を引用した。このパラグラフは、「可能性が低い(low-likelihood)」高温暖化の影響結果の例、たとえばより強くより頻繁な熱波及び豪雨などを例示する修正を加えた後、承認された。
C.3.2:全てのGHG排出量シナリオにおける可能性が低いが影響結果は大きい現象の発生を扱うパラグラフに関し、参加者は次を求めた:定量化情報を含める;異なるシナリオでの確率をより特定する;確信度情報を加える。議論の中で、このパラグラフは、次のように改定された:可能性の指摘では、大きな影響結果は発生「するかもしれない(may)」よりも「する可能性がある(could)」とし、「気候系の(of the climate system)」転換点の記述を特定する;突発的な反応のもう一つの例として森林の立ち枯れを追加する。このパラグラフは、執筆者らが「除外できない(cannot be ruled out)というのは可能な限りの最善の推測値であると明言し、これは南極氷床の融解の高まり及び増大など、実際の可能性の評価ができない不確実性の大きい問題だからであると述べた後、承認された。
C.3.3:このパラグラフでは、過去及び現在の気候において可能性が低い現象が発生する頻度は地球温暖化の上昇により増加すると予測しているが、参加者は、次のことを求めた:現象の「頻度が増加し(become more frequent)」、さらに強度が強く、期間が長く、そして/または空間的にも広がる「機会が増える(higher chance)」というのは、何を意味するか明らかにする;これらの複合現象の例を挙げる;このパラグラフは、複合現象を扱っているのか、それとも極端な現象を扱っているのかを明らかにする。執筆者らは、現象は数多くあり、全てをSPMでリストするのは困難だが、報告書本文の第11章には少数の例が記載されていると説明した。執筆者らは、複合現象には極端な現象が含まれるとも説明した。このパラグラフは、地球温暖化が進むに「つれ(as)」ではなく「もし(if)」地球温暖化が進むならとし、「機会(chance)」が増えるではなく「可能性(likelihood)」が高まるとの状況設定をすることで、承認された。
C.3.4:大西洋南北鉛直循環(Atlantic Meridional Overturning Circulation (AMOC))の低下または停止(collapse)に関するこのパラグラフについて、インドは、2100年以前のAMOC停止は極めて遠い可能性しかなく、発生しても、アフリカ及びアジアのはモンスーンにしか影響を与えないと述べた。EUは、AMOCの低下に関するさらなる情報を求め、停止する可能性より低下する可能性の方が大きいと指摘した。ドイツは、「欧州への影響(impacts on Europe)」を示すよう要請し、報告書本文の第9章で論じる通り、将来のAMOC低下は少なくとも2060年代までは排出量シナリオに依存することに言及するよう要請した。AMOCは「弱まる(weaken)」よりも「低下する(decline)」可能性が極めて高いと指摘、 「地球規模(global)」の水循環の代わりに水循環と記述し、AMOCの突発的な停止の結果、「欧州の乾燥化(drying in Europe)」への言及を加えて、このパラグラフは承認された。
C.3.5:このパラグラフは、予測不可能で稀な自然現象による可能性は低いが影響は大きい結果、たとえば火山の大規模で爆発的な噴火の連続などを論じる。米国は、このパラグラフの目的を尋ね、インドは、その意味や政策関連性を明確にできない場合は、削除するよう提案した。スペインは、何が起こりうるかを明らかにするため、このような火山の噴火と気候の相互作用を特定することを求めた。このパラグラフは議論の中で大幅な改定がなされ、特に「予測不可能で稀な自然現象(unpredictable and rare natural events)」に言及し、「数十年以内(within decades)」での大規模で爆発的な火山の噴火の連続に関する過去の発生や影響の内容を追加する。
オランダは、「人為的な排出量と関係しない(not associated with anthropogenic emissions)」の代わりに、「気候に対する人間の影響に関係しない(not related to human influence on climate)」現象への言及を提案し、この報告書で「評価された(assessed)」よりも「言及する(referred to)」シナリオの例示に言及するよう提案した。共同議長のMasson-Delmotteは、このパラグラフの意図に関し、C.1.4での火山の噴火への言及を指摘し、C.1.4では自然の変動性の一部として近未来において、単独の噴火がおきる可能性を論じるが、このパラグラフは極めて大規模な火山噴火の「連続(sequence)」により世紀規模で顕著な影響がある現象など、可能性は低いが影響は大きい現象を論じると説明した。さらに、同共同議長は、単独の噴火という可能性を推定できる現象とは異なり、連続する現象は本来予見不可能であるため、シナリオに基づく予測には入れられていないと明言した。執筆者らは、このパラグラフは自然科学全体の評価を行うことで、WG IIの作業に情報を提供する役割を果たすと強調した。このパラグラフは、オランダの提案と共に、承認された。
D. 気候変動の抑制
「社会経済経路(socio-economic pathways)」へのインドの異議を受け、セクションDの冒頭文は「気候及び大気汚染の展望(projections of climate and air pollution)」という表現に改定された。
D1:このサブセクションは、自然科学の観点からすると、人為的な地球温暖化を制限するには、何をするのかを論じる。人為的な地球温暖化を特定のレベルで制限するには少なくともCO2排出量を実質ゼロとし、他のGHG排出量の強力な削減が必要であると指摘する冒頭ステートメントに関し、ロシア、南アフリカ、中国、サウジアラビアは、「強力な(strong)」排出削減の必要性への言及に反対し、これは政策規範的であると指摘した。タンザニアは、「強力な(strong)」排出削減と「大幅な(deep)」排出削減の違いを明らかにするよう求め、用語での一貫性を求めた。ケニアは、大幅な排出削減という考えの数値化を求めた。南アフリカは、「GHG排出量実質ゼロ(net zero GHG emissions)」ではなく、「CO2実質ゼロ(net-zero CO2)」にのみ言及している理由を尋ねた。サウジアラビアは、「実質ゼロ(net zero)」は政策規範的であるとし、中立的な表現に置き換えるべきだと強調した。
2番目の頭書き文章である、強力で急速、持続的なメタン排出量の削減は、エアロゾル汚染の削減による温暖化効果を制限し、大気の質も向上するという文章について、アイルランドは、メタンとエアロゾルのトレードオフという印象を生むとして警告し、エアロゾルは温暖化を覆い隠すと指摘、その排出量は削減されるべきだと指摘した。インドは、サウジアラビアの支持を得て、CO2排出量の抑制への言及をカーボンバジェットに加えるよう求めた。冒頭ステートメントは、「CO2累積排出量の抑制(limiting cumulative CO2 emissions)」が必要だとの推測を付け、「エアロゾル汚染削減の温暖化効果(warming effect of reducing aerosol pollution)」ではなく「エアロゾル汚染の低下で生じる温暖化効果(warming effect resulting from declining aerosol pollution)」に言及することで、承認された。
このサブセクションに関する一般コメントで、インドは、過去の排出量が残余カーボンバジェットに与える影響を強調した。中国は、「カーボンバジェット(carbon budget)」の定義を明確にするよう要請し、報告書本文では、ある場合は排出源と吸収源のバランスとし、別な場合は累積排出量を考慮し、人間がいまだに排出できる量としていることを指摘した。さらに同代表は、「実質ゼロのCO2(net-zero CO2)」と他の排出量の削減との関係を明確にするよう求めた。サウジアラビアは、特定の概念での特定のガスを取り出すのではなく、全てのGHGsを論じるべきだと述べた。メキシコは黒色カーボンを論じるよう求めた。
D.1.1:このパラグラフは、人為的なCO2の累積排出量と地球温暖化との間の近直線関係を論じる。サウジアラビアは、ロシアと共に、D.1サブセクションで特定した一般的な問題に言及した。スイスは、CO2は大半の国でGHG 排出量の85%を占めると強調し、気候変動を動かすというCO2の役割や、大半の国の排出量で最大の割合を占めるという事実を考えると、CO2への言及に反対する意見は疑問だと述べた。英国は、他のGHGsが温暖化の抑制で果たす役割の説明を加えるよう提案した。同代表は、セントクリストファー・ネービス及びブラジルの支持を得て、実質ゼロという表現はWG Iのマンデートの範囲内であり、政策規範的ではないとも述べた。執筆者らは、地球表面温度の上昇はCO2にのみ当てはまるとし、それがこのパラグラフでCO2に言及している理由であると述べた。
議論の中心となったのは次の問題であった:人為的なCO2累積排出量とそれを原因とする地球温暖化との近直線の関係の意味合い;世界の人為的な気温上昇をいかなるレベルであれ安定化させるには人為的なCO2排出量を実質ゼロにする必要がある;温暖化を特定のレベルで制限することはカーボンバジェットで数値化できる。インドは、実質ゼロの達成は前提条件だ、気温上昇を安定化するには「しかし十分ではない(but insufficient)」と強調し、この文章をその次の文章と合体させ、「温暖化を特定レベルで制限することはCO2累積排出量をカーボンバジェットの範囲内に抑えることを意味する(limiting warming to a specific level implies limiting cumulative CO2 emissions to within a carbon budget)」とすることを希望した。オランダは、ここには次の二つのメッセージがあると述べた:実質ゼロを達成する;特定の温度に達するため、カーボンバジェットの範囲内にとどめる。執筆者らは、実質ゼロの達成は人為的な気温上昇をいかなるレベルであれ安定化する場合の前提条件である、しかし特定のレベルで気温を抑制するには排出量はカーボンバジェットの範囲内にとどまる必要があると述べた。執筆者らは、いかなるレベルでも気温を安定化させるには実質ゼロCO2の達成が必要条件であるのは、AR5以降の文献で構築された新しい識見であり、これらの文献はCO2排出が停止した後に何が起きるかを数値化していると述べた。フランスは、ルクセンブルグ、オランダ、米国と共に、実質ゼロCO2は温度レベルの安定化には十分でないと明言するよう要請し、メタン排出量増加が与える可能性がある影響を指摘した。多数の国は、「前提条件(precondition)」ではなく、「地球科学的必要条件(geophysical requirement)」にするというカナダの提案を支持した。サウジアラビアとインドは、実質ゼロ達成は、「前提条件だが不十分(precondition but insufficient)」であるとの表現を希望した。
ロシア及びインドは、「カーボンバジェット(carbon budget)」の概念を明らかにするよう求めた。スイスは、アイルランドの支持を得て、カーボンバジェットの「名称変更()」に言及するよう提案し、この言葉は排出量が現在の排出量レベルから開始して、特定のレベルに至るまでの排出量を指すと指摘し、詳しい情報を示す脚注の追加を求めた。参加者は、脚注での定義を付けることに同意したが、その表現について長時間議論し、インド及びブラジルは、歴史的な累計のCO2排出量の役割を強調した。一つの提案は、産業革命前から始まる「カーボンバジェットの合計(total carbon budget)」と、特定の温暖化の上限レベルと比べた特定の日における「残余のカーボンバジェット(the remaining carbon budget)」との差異化を図ることであった。用語集からの言葉や、基となる章についての(FAQ(よく聞かれる質問)の文章を用いること、これらの多様な組み合わせや変更など、多様な提案が提起された。参加者は、結局、包括的な脚注の追加に意見を集約、この脚注には:承認された図SPM.4にある、歴史的なCO2の累積排出量がこれまでの温暖化の大きな部分を決定づけるが、将来の排出量は将来の追加の温暖化の原因になる;他の人為的な気候強制力を論じる、さらに産業革命前との比較で表現されたカーボンバジェットと残余のカーボンバジェットの差異化を論じる。
日本は、AR6で特定された地球表面温度上昇で可能性が高いものの範囲は、AR5より狭いだけでなく、SR1.5よりも狭くなっていると明示するよう求めた。ドイツは、セントクリストファー・ネービスと共に、執筆者らがカーボン累計排出量に対する気候の暫定的な反応(TCRE)の中央値を提供できるかどうか尋ねた。
このパラグラフは、脚注の追加、およびSR1.5への言及、TCREの最善の推計値である1.65°Cを加えた上で承認された。
D.1.2:残余のカーボンバジェットの推計値に関するパラグラフについて、サウジアラビアとドイツは、参照した不確実性を特定するよう求め、ドイツは、これらの不確実性をまとめて表SPM.2に入れることも求めた。アイルランドは、非CO2排出量「に伴い(of associated)」予測される温暖化というこのパラグラフの表現を明確にするよう求めた。インドは、このパラグラフで指摘する依存性の変化に関係する、残余のカーボンバジェットでの可能性ある増減範囲の推定値を特定するよう求めた。執筆者らは、このパラグラフを簡素で読みやすくし、詳細情報は表SPM.2に残すことを意図したと指摘した。このパラグラフは、「選択した温暖化レベル(chosen warming levels)」ではなく「地球の気温の限界(global temperature limits)」とし、「CO2排出停止後(after cessation of CO2 emissions)」ではなく、「地球の人為的なCO2排出量が実質ゼロに達した後(after global anthropogenic CO2 emissions reach net zero)」の地球表面温度の変化とし、非CO2排出量「から(from)」予測される温暖化とした後、承認された。
表SPM.2:この表は、歴史的なCO2排出量及び残余のカーボンバジェットの推計値を示す。中国は、この表に記載される産業革命前比の多様な気温上昇が異なるシナリオに関係するのかどうかを問うた。ドイツは、この表の中で不確実性を特定するよう求め、脚注にある不確実性の説明は不明瞭だと述べた。韓国は、1.5°Cと2°Cの温暖化レベルはパリ協定目標と密接に関係すると指摘し、1.7°Cの温暖化レベルを含めたことに疑念を呈し、このレベルは政策関連性が限定的だと述べた。ロシアは、この表はより明解なものにする必要があり、特に2020年1月1日から推計される残余のカーボンバジェットを示すコラムのパーセンテージについて、明解さが必要だと述べ、これらのパーセンテージが選択された理由を尋ね、さらには17%ではなく15%にする、33%の代わりに30%にするなどの端数処理がされていない理由を尋ねた。これらのパーセンテージに関し、インドは、「地球温暖化を制限する可能性(likelihood of limiting global warming)」に言及するのではなく、コラムを「目標気温に制限する可能性(likelihood of limiting to target temperatures)」とすべきだと提案した。執筆者らは、次のように説明した:1.7°Cの温暖化レベルを入れたのは1.5℃と2℃の間の中間のステップとして入れてほしいとの各国政府の要請である;3つの中間パーセンテージ(33%、50%、67%)はAR5で示されていた;追加された2つのパーセンテージは、政府の要請によるものであり、不確実性を反映するため、これまでのパーセンテージの範囲の両側(低い方に1段階、高い方に1段階)にそれぞれ1つのレベルが要求された。この表は、明確さを高め、不確実性の定量化を目指した改定がなされ、さらに残余のカーボンバジェットの推計値は2020年初めから計算され、「地球のCO2排出量が実質ゼロに達するまで延長(and extend until global net zero are reached)されたと特定した上で、承認された。
D.1.3:過去の報告書と比較した残余のカーボンバジェットの再評価に関するパラグラフについて、日本は、カーボンバジェットの推計値がSR1.5のそれと類似している理由について、明確な説明を入れるよう求め、英国は、SR1.5とAR6の間でのカーボンバジェットの違いの数値化を求めた。サウジアラビアは、この said the パラグラフはバジェットでの類似性を生じた正確な要素を詳述すべきだと述べた。同代表は、テクニカル・サマリーの第5章では残余のカーボンバジェットは550 GtCO2分増加、または減少しうると記述していることを指摘、このパラグラフの中にこのバリエーションを入れるよう提案した。
執筆者らは、SR1.5とAR6でカーボンバジェットが相互に類似しているが、AR5と比較すると大きくなっている理由を説明、 AR5とSR1.5の間では、多数の新手法や証拠が出てきたため、残余のカーボンバジェットの評価を改善できたと指摘した。執筆者らは、これらの新手法及び証拠はSR1.5で使われたが、SR1.5以降の改善や変更は多くないと述べた。このパラグラフは、AR6において、1.5℃及び2℃の温暖化制限と合致する残余のカーボンバジェットの推計値をAR5と比較した違いに関する脚注を追加した上で、承認された。
D.1.4:このパラグラフは、人為的な二酸化炭素除去量(CDR)に注目する。サウジアラビアは、政策規範性に警告し、「実質ゼロのCO2排出量または実質ゼロのGHG排出量(net zero CO2 or net zero GHG emissions)」への言及に反対し、CDRはWG Iのマンデートの外であると述べた。インドは、CDR手法は何に「利用可能(could be used)」かという文章の削除を求め、これは政策規範的であると指摘、WG Iのマンデートの外にある緩和の議論を進めることに警告した。ドイツは、この文章を書き直し、CDR手法は何を達成しようと目指しているかという目的ステートメントに置き換えるよう提案した。カナダは、英国、ドイツ、その他の支持を得て、このパラグラフの価値を強調し、地球表面温度がピークに達した後、これを引き下げる上で、CDRが果たせる役割を一層強調するよう提案した。英国は、CDRが「大規模に(at a larger scale)」実施されたではなく、「除去料が排出量を上回る場合に一定規模で(at a scale where removals exceed emissions)」実施されたとの表現を提案した。少数の国は、CO2を除去する「手法(methods)」への言及に異議を唱えた。執筆者らは、「CDR手法(CDR methods)」は評価で用いられる表現であり、特に第5章で用いられていると明言し、一貫性を保つため、この表現の保持を希望すると述べた。
参加者は、生物地学化学的循環及び気候の副効果で広範になる可能性があるものについて、長時間議論した、これは水資源の利用可能性や水の質、食料生産、生物多様性に影響を与える可能性がある。英国は、CDRの副効果のうちどれがプラスの効果があり、どれがマイナスの効果を生じるか明らかにするよう執筆者らに求めた。サウジアラビアは、CDRのプラス及びマイナスの効果の情報提供はWG Iのマンデートの範囲外であるとし、このパラグラフは不完全な情報しか提供していないとのべ、その削除を求めた。ドイツは、CDR副効果の情報を入れたことについて、執筆者らに感謝し、気温目標をオーバーシュートする近未来のリスクに関する情報を追加して、CDRに伴うリスクの情報と関係づけるよう求めた。執筆者らは、生物地学化学循環に関するCDRの副効果はAR6 WG I報告書の承認済み概要に記載されていると明言、このため、WG Iの範囲に入ることも明言した。執筆者らは、数カ国の政府及び専門査読者からの強い要望に応え、他の副効果に関する情報も記載されたと想起した。執筆者らは、スイスに応え、WG Iは水資源の利用可能性及び水質、食糧生産、生物多様性に関するCDRの効果のみを評価していると明言、ただし評価されていない副効果も他に多数存在すると述べた。
フランスは、EUの支持を得て、「広範な可能性がある効果(potentially wide-ranging effects)」を「大規模なCDRの副効果(side effects of CDR at large scale)」に置き換えることを提案した。執筆者らは、以前に長時間の議論が行われ、「副効果(side effects)」を削除するに至ったと指摘した。執筆者らは、生物多様性、水、食糧生産に対する「CDRのプラスまたはマイナスの可能性ある効果(potential negative and positive effects of CDR)」とするよう提案した。フランスは、現在の表現ではCDRが気候変動の解決策となる可能性がある、または解決策に近いという考えを招くとし、これは科学や報告書本文が記述することとは異なると指摘、これらの記述では大規模なCDRはマイナスの効果を及ぼすとされる。
他のコメントは、次に関係するものであった:自然ベースの解決策に関する情報を記載する、チリは、データが利用可能であると指摘、これらの手法はリスクが低いとも指摘した;太陽放射光管理(solar radiation management (SRM))を論じる;持続可能な開発目標(SDGs)に言及する。執筆者らは、CDRは純粋に技術的な解決策というだけでなく、自然ベースの解決策も含まれるとし、ここでは特に論じていないが、報告書本文の第5章で詳細を議論していると明言した。執筆者らは、SDGsは評価の一端ではないとして、言及しないことを希望した。共同議長のMasson-Delmotteは、SRM関係要素の統合はテクニカル・サマリーのボックスTS.8でみることができるとし、SRMは人間や自然、倫理、ガバナンスに与えるリスクなどを含め、WG II及びIIIで詳細を扱う予定であると述べた。
CLIMATE ACTION NETWORK INTERNATIONAL及びFWCCは、CDRに依存するよりも排出量削減に焦点を当てる必要があると強調し、CDR技術はまだ新しい技術であり、特定のCDRのタイプは相当量のエネルギーインプットを必要とすると指摘した。
さらなる議論の後、このパラグラフは、CDRにはCO2を貯蔵庫に永続的に貯蔵する可能性があり、人為的な除去量が人為的な排出量を超える規模で実施されるなら、地球表面温度の低下を目指せると特定した上で、承認された。現在の脚注は、生物多様性、水、食糧生産のためのCDRの「副効果の可能性(potential side effects)」ではなく、「マイナス及びプラスの効果の可能性(potential negative and positive effects)」に言及する。
D.1.5:このパラグラフは、CDRの効果を論じる。インドは、CDRで隔離されたCO2の量に対し大気中CO2の減少はごく少量であるとし、これは大気中からのCO2の除去量が土地及び海洋からのCO2放出量で一部(のみ)相殺されるからであると説明した箇所について、その技術的な根拠を尋ねた。同代表は、このことは土地及び海洋の炭素吸収率の低さを意味するかどうか尋ねた。アイルランドとベルギーは、海洋の脱ガスや陸地からの放出が人為的なCO2排出量により大気中のCO2を少量増加させることと実際に相似しているかどうかを尋ねた、このパラグラフでは、排出量の一部は陸地と海洋の吸収源で吸収されるとなっている、さらにこれら代表は、そのような放出の定量化及び定性化を要請した。サウジアラビアは、このパラグラフは気候変動の自然科学に関する明確な情報を提供するというWG Iのマンデートの範囲内ではないと述べ、パラグラフのあいまいな表現の例を挙げた。執筆者らは、このパラグラフはCDRの気候変動への影響をWG Iで評価するよう求めた承認済み概要の範囲内であると述べた。執筆者らは、定量的情報は欠けているが、ステートメントでは一般的な情報を提供しており、テクニカル・サマリーの関連セクションを参照するよう読者に求めていると述べた。さらに執筆者らは、このパラグラフではマイナスのCO2排出量を想定しておらず、このため大気中からのCO2の除去は土地及び海洋からのCO2放出の一部を相殺するというステートメントは正しいとも述べた。
ロシアは、このパラグラフでどのような一般的な信号を発しようとしているのかを尋ね、明確なメッセージになるよう文章の改定を提案した。ドイツは、CDRオプションの効率に影響を与えるような炭素循環の非対称問題を明らかにすべきだと強調した。スイスは、土地及び海洋の炭素吸収源で吸収される排出量の「割合(a proportion)」のみに言及するよりも、定量化された推計値を特定するよう強調した。
数回の議論において、執筆者らは文章案を提起、参加者は次の修正案で意見を集約させた:初めに、人為的なCO2の除去は地球の実質マイナスの排出量に結びつき、大気中のCO2濃度を低下させ、海洋表面の酸性化を逆転すると明記する。続いてこのパラグラフは、土地及び海洋のカーボン・プール「から、または、への(from or to)」「放出及び吸収(release and uptake)」に関するフラックス(fluxes)の考えを強調し、人為的なCO2除去による大気中CO2の減少量は、等量のCO2排出量による大気中CO2増加分の10%以下の可能性がある、ただしこれはCDRの総量により異なると記述する。このパラグラフは、修正された通りで承認された。
D.1.6:このパラグラフは、地球規模の実質マイナスCO2排出量の下でも、地球表面温度上昇以外の気候変動のコースを逆転するための長期の時間規模を論じる。カナダは、そのような変化は、数十年から千年紀も続く可能性があるのが「現在の軌道であり、逆転は不可能だ(on their current trajectory and cannot be reversed)」と明記することを提案した。サウジアラビアは、CO2排出量のみを抜き出したパラグラフに異議を唱え、CDRの議論はWG Iのマンデートの外だと述べた。アイルランドは、地球規模の実質マイナスCO2排出量の維持は地球表面温度のコースを徐々に逆転するだろうとし、このことは「非CO2のGHGsを補うために必要とされるレベルを超えている(beyond levels required to compensate for non-CO2 GHGs)」と記述するよう要請した。執筆者らは、コースの逆転は地球規模の「CO2が引き起こす表面温度の上昇(CO2-induced surface temperature increase)」に関係するとの記述を提案した。このパラグラフは、執筆者らの提案を取り入れ、他の気候変動は「現在の方向性(n their current direction)」が数十年から千年紀も続くであろうとの注記を付けて、承認された。
D.1.7:このパラグラフは、人為的なエアロゾル及び非CO2のGHG排出量の削減効果を論じる。インドは、緩和の領域に入ることに警告し、次の2つの文章の削除を求めた:一つはメタン、エアロゾル、オゾンの変化による温暖化の合計量は大気汚染の制御及びメタンの緩和持続を伴うシナリオでは低くなると指摘する文章;2番目の文章はメタンの緩和はエアロゾルの削減による地球温暖化を部分的に相殺し、地球表面のオゾンを削減して大気の質の改善に貢献すると指摘する文章。サウジアラビアは、これらの文章をWG IIまたはIIIに移すことを提案した。共同議長のZhaiは、CDRはWG Iの承認された概要及びスコープの範囲内であり、概要の第6章は大気の質及び地球の表面オゾンに言及すると述べた。スイスは、このパラグラフはおそらく過剰な情報を「統合している(synthesizes)」、しかし政策立案者は緩和に取り組むための科学情報を必要としていると述べた。同代表は、WG Iのマンデートは全ての相互作用の複雑さを理解するため、科学的な根拠を提供することだと指摘する一方、執筆者らに対し、このパラグラフの要素をよりわかりやすい記述にするべく検討するよう求めた。メキシコは、WG IがWGs II及びIIIに対し、大気汚染の気候変動への影響に関する情報を提供することが重要だと強調した。
参加者は、パラグラフで明記すべき多様な側面に焦点を当てた、次の項目などである:大気中のガスの放射強制力を原因とする温暖化は、メタン及びエアロゾルで部分的に隠される可能性があり、隠し効果は温暖化自体により異なる;短寿命のエアロゾルの削減は急速な影響を示す。アイルランドは、メタンとエアロゾルの問題を合わせることに警告し、メタンの排出削減は、エアロゾルとは関係なく、温暖化の削減を進めると指摘した。オーストラリアは、メタンとエアロゾルは大気中寿命の短さが類似しており、このため相互に作用しあうと指摘した。執筆者らは、「メタン排出量の強力かつ持続的な削減(strong and sustained methane emission reductions)」の数値化に関するアイルランドの発言に応じ、「持続的な(sustained)」とは10年以上の持続を意味し、「強力な(strong)」は10年間で20%ほどの削減を意味すると述べた。参加者は、次のように再構成されたパラグラフを承認した:実質的な温暖化効果及び寒冷化効果に関する異なるメッセージの明解さを高める;メタン及びエアロゾルの両方は短寿命であることから、これらの気候への影響は部分的に相殺しあうと明記する;「5つの例示シナリオ(five illustrative scenarios)」への言及。
D.1.8:このパラグラフは、CO2が引き起こす地球表面温度の上昇を安定化させるには、地球規模で実質ゼロのCO2排出量を達成する必要性及び実質ゼロCO2排出量と実質ゼロGHG排出量の違いを論じる。数名の参加者は、このパラグラフは複雑すぎ、技術的すぎると述べ、簡素化を要請した。サウジアラビアは、実質ゼロ排出量を要求するステートメントは政策規範的だと述べた。インドは、パラグラフ全体の必要性に疑問を呈した。執筆者らは、この場所はSPMの中でも実質ゼロCO2の概念と実質ゼロGHGを区別する唯一の場所だと説明した。サウジアラビアは、インドの支持を得て、CO2が引き起こす温暖化の安定化には実質ゼロCO2排出量の達成が必要であるとの文章、及びこれと実質ゼロGHG排出量達成との違いに関する文章という最初の2つの文章の削除を提案したが、米国は反対した。米国は、GHGsの実質ゼロ達成には実質マイナスのCO2排出量を伴うことを追加するよう提案した。ブラジルは、この報告書は排出量計算を推奨しないとの脚注を、本文に入れるよう提案した。執筆者らは、このパラグラフは政策規範的ではなく、WG Iの付託範囲内であると確認した。
ルクセンブルグは、オランダの支持を得て、最後の2つの文章の削除を提案したが、インドネシアは反対した、この2つの文章は、100年地球温暖化ポテンシャルで定義される、及び短寿命のGHGsの排出量の変化率と長寿命のGHGsの排出量の変化率を組み合わせる新手法で定義される、実質ゼロを達成し持続する排出経路に言及する文章。セントクリストファー・ネービスは、米国の支持を得て、新手法に関係する文章の削除を提案した。新手法についてはさらなる詳細が必要だとのコメントに関し、執筆者らは、このパラグラフは既に十分詳細にわたると述べ、さらなる詳細を示すことと技術的過ぎることとのトレードオフを指摘した。インドは、次のステートメントにある「気候反応(climate response)」という用語の明確化を求めた:特定のGHG排出経路では、個別のGHGsの経路が最終的な気候反応を決定づけ、他方、異なるGHGsの合計排出量及び除去量の計算に用いる排出量計算方法の選択は、GHGs全体が実質ゼロになると計算された場合に影響を及ぼす。執筆者らは、用語集でのこの言葉の定義を脚注に入れることで合意した。定義明確化というインドの追加要請に対し、共同議長のMasson-Delmotteは、文書中に挿入された用語集の定義は変更しないのが従来からの手法であると指摘した。このパラグラフは、脚注を挿入したほか、構文を変更し、新しい手法による定義付けで気温がほぼ安定する実質ゼロのGHG排出量を達成し、持続する経路には言及することなく、承認された。
図SPM.10:多数の国が、CO2累積排出量と地球表面温度上昇の関係に関するこの図の明解さを称賛した。日本は、累積排出量と気温上昇の関係が一貫性のある形で評価されたかどうか明確にするよう求め、特に将来の排出量に関し、そのような評価がなされたかを問うた。ドイツは、用語を一貫性のある形で使用する必要があると強調し、「地球表面温度の上昇(global surface temperature increase)」または「地球温暖化(global warming)」への言及を促した。インドは、シナリオのラベル変更という自国の要求を再度述べた。インドは、「我々が大気中に入れるCO2の1トンごとに地球温暖化が追加される(every tonne of CO2 we put in the atmosphere adds to global warming)」という図の表題に関し、「我々が(we)」の削除を求めた。ドイツは、CO2の1「トン(tonne)」と特定する表現に違和感を覚えるとし、それより小さい量でも影響があると指摘した。サウジアラビアは、非CO2のGHGsは温暖化のみでなく、累積排出量についても考察されるべきだと述べた。
執筆者らは、ここで言う温暖化は人為的な温暖化を指し、ある一つの時点で計算される、このため他の計算方法とは異なってくると指摘した。執筆者らは、この図はCO2に焦点を当てているが、これはCO2が最も優勢な人為的気候強制力であり、このため広範なシナリオを横断して真となるからであると指摘した。この図が良く使われる2100年という時間規模ではなく、2050年までしかない理由を尋ねた中国とインドからの質問に対し、執筆者らは、CO2累計排出量と温暖化の関係で確信度が高いのは2050年までであると明言し、確信度が高い範囲の図示を志向したと強調した。実質マイナスのCO2排出量に対応する温暖化の進展に関する証拠は限定的であるとするステートメントについて、カナダは、温暖化の「進展の比例(the proportionality of the evolution)」に関する証拠は限定的であると特定するよう提案した。執筆者らは、「実質マイナスのCO2排出量の下でのTCREの定量的応用をサポートする(supporting the quantitative application of TCRE under net negative CO2 emissions)」証拠は限定的であるとの表現を提案した。この図は、執筆者らの提案を入れて、承認された。
D.2:このサブセクションは、低い、または極めて低いGHG排出量シナリオから生じる効果を論じる。「CO2及び非CO2排出量の強力、急速、かつ持続する削減(strong, rapid, and sustained reductions of CO2 and non-CO2 emissions)」に言及する冒頭ステートメントについて、サウジアラビアは、南アフリカ、中国、インド、ブラジルとともに、政策規範的な表現を指摘、シナリオを横断するオプションの全範囲を示すよう求めた。ブラジルは、異なる責任及び衡平性を強調した。中国は、より科学的な表現を促し、執筆者らは、「強力、急速、持続する(strong, rapid and sustained)」とは最も排出量の低い2つのシナリオを述べていると指摘した。南アフリカは、さらなる推敲と数値化を求め、「CO2及び非CO2の排出量(CO2 and non-CO2 emissions)」を「GHGs」と言い換えられないか尋ねたが、インドとメキシコは反対した。メキシコは、この文章は規範的ではないが、参考になり、意思決定者にとり有用だと述べた。米国は、どのシナリオに言及しているか、特定することを支持した。英国は、いくつかの時間規模で変化は起こると強調し、排出量の大気濃度は短期でも検知されるが、気候変動は長期のものだと指摘した。ノルウェーは、排出削減の重要な共同便益を指摘し、SDGsへの言及を促した。冒頭ステートメントは、「強力、急速、持続する排出削減(strong, rapid, and sustained emissions reductions)」ではなく、特定の排出量シナリオに言及するよう改定され、さらに地球表面温度及び他のCIDsの傾向はこれら対象的なシナリオの下で明らかな違いを示していると強調するよう改定された。
D.2.1:このパラグラフは、COVID-19の感染拡大を防ぐ措置に伴う排出量の動向における変化の一時的なものを論じる。少数の国は、エアロゾルの効果とその短期の特性について、政策立案者たちがその影響を理解できるよう、適正な説明を求めた。執筆者らは、COVID-19が評価期間の極めて遅い時期に発生したため、これに関する文献は限定的であると指摘した。「合計の放射強制力の一時的で小さな増加(small temporary increase in total radiative forcing)」への言及について、執筆者らは、「一時的な(temporary)」とは封じ込め措置が終了すると排出削減量がなくなることを意味し、「小さな(small)」は、この報告書で議論された他のタイプの強制力の全体規模、すなわち人為的な放射強制力の全体効果を指すと説明した。このパラグラフは、エアロゾルの効果について再構成し、大気中のCO2濃度は2020年まで継続して上昇しており、観測されたCO2の増加率には検知可能な減少が見られないとの指摘を追加して、承認された。
D.2.2:GHG排出削減と大気の質の間のリンクに関するこのパラグラフについて、多数の参加者は、「急速な脱炭素化(rapid decarbonization)」への言及に反対し、一部のものは、気候変動の「緩和(mitigation)」への言及にも反対した。多数のものは、地球規模の大気の質の向上を招く特定の排出量シナリオに言及するよう求め、これは受け入れられた。オランダは、既存の技術に依存する大気汚染防止策の実施推進は、大気の質を「気候変動の緩和よりも(than climate change mitigation)」急速に向上させるとの表現を、「最も排出量の低いシナリオよりも(than even the lowest emissions scenario」に言い換えるよう提案した。インドは、大気汚染物質とGHG排出量を削減する努力の組み合わせで予想される改善に関してコメントを提起した後、執筆者らは、このパラグラフの最後の文章を書き換え、より特定する情報にすることを提案、参加者らはこれを受け入れた。このパラグラフは、次を指摘して承認された:2040年以降、大気汚染物質及びGHG排出量を削減する努力を組み合わせるシナリオでは、さらなる改善が予想される、ただし、規模は地域により異なる。さらに、「近未来(near term)」を2021年から2040年と定義する脚注も加えられた。
D.2.3:このパラグラフは、内部及び自然の変動性を考慮した上での、低いまたは極めて低いGHG排出量シナリオの下での気候系の反応の発生に関係する。多数の国は、温度の変化より遅れて出てくる他の気候変動要素の反応を明らかにするよう求め、世界の気温を覆う近未来の効果について詳細な説明が必要だと強調した。スウェーデンは、問題はいつ効果がでるのか、それを検知することは可能かどうかだと述べ、気候変動要素の中には他の要素より早く、検知可能な変化を示すものがあるだろうと述べた。ノルウェーは、最初に、地球表面温度の傾向が減らされる効果を指摘し、その後、これらの効果が自然の変動性で隠される可能性を説明するよう提案した。サウジアラビアは、「強力、急速、持続される(strong, rapid, and sustained)」排出削減は特定のシナリオとリンクされると述べ、全てのシナリオに関連する情報を求めた。執筆者らは、自然の変動性と比べた緩和の考察のための大規模アンサンブル・モデル研究は新規のもので、その文献は最も低い排出量シナリオ及び最も高い排出量シナリオに注目すると述べた。このパラグラフは、構成を改定し、承認された。
D.2.4:このパラグラフは、2040年以降の排出量シナリオを横断するCIDsの変化の規模における違いに関する。インドは、サウジアラビアと共に、「強力、急速、持続する排出削減は、高いGHG排出量シナリオの下と比較し、2040年以降、CIDsの変化が持続的に小さくなることに結びつく(strong, rapid and sustained emission reductions would lead to substantially smaller changes in CIDs beyond 2040 than under high GHG emission scenarios)」というステートメントを、ニュートラルな表現になるよう再構成することを求めた。インドは、中間的なシナリオを入れるよう要請した。執筆者らは、極端な現象の情報は利用できる文献が限られていると述べ、高い及び低い排出量シナリオは効果の差が最大で、確信度も高いと指摘した。「持続的に小さくなる(substantially smaller)」に関するサウジアラビアの質問について、執筆者らは、これはシナリオ間の違いと多様な地球温暖化レベルの比較に根差していると述べ、「一定範囲の(a range of)」CIDsの変化と特定することを提案した。ルクセンブルグとベルギーは、CIDsの変化は2100年以後も継続するだろうと指摘した。英国は、排出削減の遅れは温度上昇をこれまで予測されたよりも10年早くするとのAR6の結論からすると、極端な現象の(変化の)サインは2040年以前に始まるかどうかを質問した。米国は、極端な現象は多数あり、言及されている海面での現象や危険な熱の閾値を超える現象だけではないと述べた。スイス及び他の者は、豪雨を指摘した。ベルギーは、「変化(change)」がプラスなのか、マイナスなのかを明らかにするよう要請した。執筆者らは、CIDsはどちらでもありうると述べ、このため評価されていないと述べた。このパラグラフは、全てのシナリオを横断する情報を追加し、豪雨及び雨を原因とする洪水への言及を加えて、承認された。
WG I-14の閉会
8月6日金曜日、共同議長のMasson-Delmotteは、WG I-14の再開プレナリーを開会し、作業部会に対し、SPMを承認し、報告書本文を受理するよう求めた。サウジアラビアは、SPM最終版の査読にさらなる時間を要請、WG Iプレナリーは草案の査読を可能にすべく、1時間、中断した。
プレナリー再開時、共同議長のMasson-Delmotteは、脚注の一部は読みにくいと指摘、承認された政策立案者向けサマリー(IPCC-LIV/Doc. 4, Rev.1)を提出、さらに科学的技術的評価報告書本文も承認された政策立案者向けサマリー (IPCC-LIV/Doc. 5, Rev.1)との一貫性を確保するため改定された。WG I-14は、SPMを承認し、報告書本文を受理、これらは、その後、IPCC-54の受理を受けるべく、IPCC-54に提出された。
IPCC-54の閉会
8月6日金曜日のWG I-14閉会の後、IPCC議長のLeeは、パネルに対し、WG Iがその第14回会合で行った行動を受け入れるよう招請した。(IPCC-LIV/Doc. 4, Rev.1及びIPCC-LIV/Doc. 5, Rev.1)
インドは、この報告書で提供されるインタラクティブ・アトラスの状況を明らかにするよう求めた。スイスは、インタラクティブ・アトラスはSPMの内容及び報告書本文を示すものだとの保証を求めた。サウジアラビアは、インタラクティブ・アトラスは行ごとの承認の対象になっていないと指摘した。 IPCC副議長のFatima Driouechは、このアトラスには新しいデータが一切含まれていないと明言した。WG I共同議長のMasson-Delmotteは、これはSPMの要素ではないが、元となる科学的技術的報告書の一部であると説明し、AR5もスタティック地図が含まれていたと指摘した。IPCC法務官は、インタラクティブ・アトラスはSPMの一部ではなく、承認プロセスの対象ではないと明言した。
その後、パネルは、AR6 WGI SPMの承認、及びその元となる科学的技術的報告書の受理に関し、WG I-14の行動を受け入れた。
韓国は、報告書全体を通し、日本列島と朝鮮半島の間の海域への言及を現在の「日本海(Sea of Japan)」ではなく、「East Sea」と称するよう要請し、このステートメントをIPCC-54報告書に添付するよう要請した。日本は、異議を唱え、「日本海」は国連の公式文書で使われている名称だと指摘した。両代表団は、それぞれのステートメントを会議報告書に記録するよう求めた。
全ての参加者は、執筆者、WG共同議長、TSUスタッフ、事務局の献身的な作業とコミットメントに大変感謝していると表明、さらにフランス及び中国のWG Iへのサポートに感謝した。多数のものが、協調と和解の精神について発言し、少数のものは「WGIファミリー(WG I family)」に敬意を表した。
参加者は、バーチャル方式での作業環境にも拘らず、会合自体は効率的に作業を進めることができたと指摘し、事務局及びTSUの優れた手配や会議の進行をたたえた。多数のものは、学習した事柄を承認会合の計画作りにいかすよう求めた。ウクライナ、カナダ、スペインは、ハイブリッド方式の承認会合開催を提案した。多数のものは、重要で政策関連性のあるアウトプットとしてインタラクティブ・アトラスに注目、特に気候のデータへのアクセスが限られている開発途上国にとり重要だと指摘した。
インドは、世界はパリ協定の目的の範囲内にとどまるための残余のカーボン・バジェットを急速に使い尽くしていると指摘し、この報告書は「気候変動への取り組みという課題に立ち向かおうと全力を尽くそうとするもの(those who seek to do their utmost to meet the challenge of tackling climate change)」に情報を与えると強調した。タンザニアは、この報告書は極端な現象に最も脆弱な諸国にとり、いかに重要であるかを強調した。アイスランドは、これは重要な里程標であるとし、トリニダード・トバゴは、これは「SIDSにとり偉大なる週間(a momentous moment for SIDS)」だと宣言した。
英国は、UNFCCC COP 26のホスト国として、WG I報告書はGHG排出量削減に関する野心を引き上げ、気候変動に適応する必要があることの圧倒的な証拠を、タイムリーに想起すると強調し、COP 26への極めて重要なインプットであると指摘した。
WG I共同議長のMasson-Delmotte及びZhaiは、報告書を完成させ、承認プロセスを可能にするために求められた驚異的なレベルのチームワークと献身に焦点を当てた。Zhai共同議長は、報告書及びSPMの作成作業中には多数のコメントが寄せられたと強調し、敬意を持ち、サポートする形で作業をしてきた全てのものに感謝すると表明した。Masson-Delmotte共同議長は、作業部会報告書に加え、この第6次評価サイクルの間では前例にないほどの数の特別報告書が作成されたことから、作業負担も増大したと強調し、各国政府に対し、これらの報告書の活用を促した。
IPCC事務局長のMokssitは、この会合は国連システムの中でも史上初めて、バーチャル方式での承認プロセスを成功させたと指摘し、これができたのは、かかわった多くの人々や組織が、優れた指導力を発揮し、協力や協調を進めるなど、多くの要素があった結果であると指摘した。同共同議長は、事務局はIPCCコミュニティと共に仕事することを誇りに思っており、優れた作品を提供することに献身的努力をしていると述べた。
IPCC議長のLeeは、報告書の完成にあたり、執筆者ら、WG I共同議長、そして関係した全ての人々に対する感謝の意を表した。同議長は、IPCCが評価報告書の科学的な厳格さをサポートしつつ、プロセスをバーチャル方式で開催できたことに満足の意を表した。同議長は、CEST午後2時45分、会議終了の槌を打った。
IPCC-54の簡易分析
未来のための金曜日(Fridays for Future)運動により「科学に耳を傾ける(listen to the science)」ことはマントラ(真言:mantra)にまで高められたため、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の評価報告書に対する一般の関心は、前回、2013年に作業部会Iの政策立案者向けサマリー(SPM)が承認されて以降、極めて顕著に高まってきた。2018年に公表された1.5°Cの地球温暖化に関する特別報告書(SR1.5)は、1.5℃の温暖化が実現した場合の影響は2℃と比較し全く異なるという「警鐘(a wake-up call)」を鳴らしたとメディアに報じられ、そして今、最新のWG I報告書は、世界が3°Cの温暖化への道筋にあると、さらに厳しい展望を示している。
このWG I報告書は、気候系及び気候変動の自然科学的根拠を評価しており、IPCCの第6次評価報告書(AR6)に貢献する3つの作業部会報告書の最初のものである。これは、3つの報告書の中でも、最も自然科学に注目する報告書であり、多くの形で、影響・適応・脆弱性に関するWG II評価報告の土台となるほか、緩和オプションに関するWG III報告書の土台にもなる。今回の会合における、WG I SPMの行ごとの承認は、他の2つのWGsでの議論がどう進められる可能性があるかを知るストレス・テストとなった、というのは、これらのWGsではガバナンスにとりはるかに直接的でしかも強力な副次効果をもたらす問題に焦点を当てるからである。WG Iの承認プロセス全体がバーチャル方式で行われたため、他の多国間プロセスに情報を提供する重要な参考資料となった、これらのプロセスの中には、まだバーチャル方式の意思決定に飛びついていないものがあるためである。
この簡易分析は、WG I SPMの承認プロセスがこの点で、いかに良く機能したかを探求するほか、この報告書の重要な科学的識見の一部に焦点を当てる。
バーチャル方式プロセス
評価報告書の作成は最善の環境の下でも膨大な作業となる。自然科学ベースのWG I報告書は、14,000件以上のピアレビューされた文献を参照しており、執筆者らは、報告書に関する専門査読者及び各国政府からの75000件近くのコメント、S’Mに関しては各国政府からの3,000件を超えるコメントについて議論した。SPMの最終承認も複雑なプロセスであり、執筆者らは、その場での各国政府代表団の質問や提案にその場で対応しなければならず、同時に、いかなる変更についても科学的正確さを確保する必要がある。このため、多様な執筆者らはプロセスの進行役を務めるWG共同議長らと厳しい調整作業をする必要がある。
バーチャル作業の登場で、このプロセスは新しい局面を迎えた。バーチャル方式の承認会合は前例のないやり方であり、全参加者が驚くほどの参画をし、慎重に計画し、印象的なほどの技術的なアレンジやサポート、さらには顕著な時間を費やすことで、初めて可能となった。参加者は、世界各地から会合に参加、時間外に期間を延長して作業した。大半の会議は、3時間のプレナリー会合を3回行い、並行して、同等の回数、執筆者会合やコンタクトグループでの議論が行われたことから、参加者は2週間の会議期間に一日13時間以上、作業をしてきた。会合の収量が近くなるにつれ、一日の時間数はさらに長くなった。
プロセスが可能な限りスムーズに進むよう、大変な努力が払われた。閉会プレナリーで、ノルウェーは、この会議は「パネルがこれまで行ってきた中でも最も良く組織された承認プロセス(the most well-organized approval process the Panel has ever seen)」であったとさえ、強調し、多数の参加者は、ここでの学習事項を将来の承認会合の計画に活用するよう求めた。承認プレナリーは、1週間から2週間に延期され、共同議長は、行き詰まりを打開し、意見が一致した文書を承認のためプレナリーに戻すため、対面式会合時と同様、バーチャル方式での分科会の代わりとなるハドルを招集した。
会議の進行と共に、議論の繰り返しが増え、各項目はコンタクトグループやハドルで進展が見られ次第、プレナリーでの承認作業にかけられるようになった。時には、これが問題になった。例えば、中国、サウジアラビア、米国は、それぞれ、共同議長に対し、会議時間があらゆる時間帯で通常の勤務時間を大きく超える形になっており、各代表団ではスタッフの交代制がとられているため、特定の項目の議論をする際は、関連の参加者の出席を確保すべく、最善を尽くすよう求めた。
バーチャル方式は、全体的にはプロセスを妨げてはいなかった。時には、オーディオの質が悪かったり、他の技術的な障害のため、発言者がステートメントの繰り返しを余儀なくされたり、また同室の参加者がマイクやスピーカーを同時にオンにして、機械的な鳴音(robotic echo)に見舞われたりした。しかし、これらの問題はさほど大きな混乱にはならなかった。全てのプレナリー会合では、国連の6つの公用語で同時通訳が提供された、ただし英語以外のステートメントでは完全に正確とはいかず、完全に間違っていた場合もあった、ビデオ会議プラットフォームでは会話の自動字幕サービスを提供したが、これは、発言者の提案を時々確認する際に、極めて有用であった。バーチャル方式の副次的効果としてプラスであった点は、共有スクリーン上でズームイン可能なことであり、これにより報告書の図や文章提案の多くの議論が大きく進められたため、対面式会議再開の暁には、惜しまれる機能になるであろう。
しかし、バーチャル方式にも欠点は見られた:会議は、時間帯の違いや夜間の作業のため、体力を消耗するものとなり、また対面式会議の場合に生まれてくるコミュニティ感覚は、かなり失われていた。多くのものが指摘したとおり、それぞれの夜間の時間帯に作業した参加者は、具体的な言葉を提案したいと思っても、それだけのフレッシュさや意識レベルを持たない場合が多かった。通常であれば、参加者のコメントに対応しようと執筆者が提案を机上に出すのを待機する余計なやりとりと比べると、文章を提案しようとする参加者の意思でプロセスの進行が早まる。同様に、特定の参加者同士に対象を絞った非公式協議は、一部の長時間の議論を円滑に進行させる役に立ったかどうか、熟練の参加者は疑問に思っていた。これらの長時間の議論が進行速度を遅らせたためである。しばしば指摘されるように、SPMは、科学者と政府の共同作品であり、この感覚は、世界各地のホームオフィス全体に広がるというよりは、全員が同じ部屋にいる方が明瞭となる。
SPMのストーリー
スウェーデンが会議の中で強調した通り、「SPMは過去から未来までの気候のストーリーを語る(the SPM provides a story of the climate from the past to the future)」ものであり、そのストーリーは憂慮すべきものとなっている:
- 人類の影響が気候系を温暖化してきた;
- 気候の広範で急激な変化が起きている;
- 最近のこれらの変化の規模は、何世紀から何千年にわたり、前例のない変化である;
- さらなる地球温暖化で、全ての地域は変化を経験すると予測され、豪雨などの極端な現象はその頻度と強度を高める:
- 過去及び未来の温室効果ガス(GHG)排出量を原因とする多くの変化は、数世紀から千年紀にわたり不可逆的であり、特に海洋や氷床、世界の海水面での変化はそうである;
- 地球表面温度は、考察した全ての排出量シナリオにおいて、少なくとも今世紀半ばまでは増え続けるであろう;
- 今後数十年の間に、CO2及び他のGHG排出量の削減を深化しない限り、21世紀中に(地球温暖化は)1.5°C及び2°Cを超えるであろう;
- 自然科学の観点では、人為的な地球温暖化を特定レベルで制限するには、CO2排出量を少なくとも実質ゼロにし、他のGHG排出量を強力に削減する必要がある;
- 地球表面温度の傾向という意味では、強力、急速、持続する排出削減の効果は、約20年後に表れ始める。
会議を通して、さらに報告書の中でも、執筆者らは、AR5及び第6次評価報告書サイクルでの特別報告書を発表して以降の需要な進展に焦点を当てた。中でも重要だったのは、2021-2040年の間に1.5°Cの地球温暖化レベルの線を超える可能性に関する理解が深まったことであり、これは極めて高いGHG排出量シナリオの下での「極めて可能性が高い(very likely)」から、極めて低いGHG排出量シナリオの下でさえ「可能性がないというよりは可能性がある(more likely than not)」までの範囲とされる。このことは、極めて低い排出量シナリオの下でさえ、2040年より前に、1.5°Cの地球温暖化レベルの線を超える可能性が50%以上あることを意味する。気象学上の進歩により、これまでに地球表面温度で観測された気温上昇では、より良い推計値を出せるようになり、2011–2020年では産業革命前と比べて、平均で1.09°C上昇、その範囲は0.95-1.20°Cである。執筆者らは、極端な現象で観測された変化の証拠、特に人間の影響に起因するという証拠は、AR5よりも強固になっていると指摘した。
SPMのダンス
SPMは、良くできた文書であり、その査読と承認作業全体は重要なメッセージを簡潔な形で伝えるという目的と同時に、科学的な正確さを保持することとのバランスをとっている。この栄誉は各国政府代表団のものであり、これら代表団は、用語の明確化(平衡気候感度など?)に関し執筆者らと議論できるだけの準備をして会議に参加したほか、政策立案者や一般人が最小限の定義なしで理解できるよう、科学的専門用語が過度になっていないかどうかの確認も行っている、しかし解決に最も時間を費やしたのは全く異なる性質の問題であった。参加者は、SPMのマンデートは「政策規範性ではなく政策関連性である(policy relevant, not policy prescriptive)」との発言をしばしば繰り返した。しかし、これが何を意味するかは、国により、利害関係者により大きく異なり、このことが承認プロセスの期間中に起きた多数の長時間論争の核心であった。
例えば、もともと「将来の排出量が将来の追加の温暖化を決定づけ、CO2排出量が最も優勢である(future emissions determine future additional global warming, with CO2 emissions dominating)」とされた図では、多くの議論がなされた。過去の排出量に最大の貢献をしたものと、排出量の増加が続いており、このため将来の排出量に最大の貢献をするものとの間には、かなり明確な線引がなされており、この結論が全ての国に同じ響きをもたらすわけではない。執筆者らは、SPMにおける一連の図を通してストーリーが展開されるとし、将来の温暖化及び将来の影響に目を向ける前に、観測された温暖化から始まり、今日までのGHG排出量への貢献、さらには現在の影響があるのだと指摘した。しかし、各国政府代表は、異なる国の便益及び負担という意味では、SPMの全要素自体がバランスしているかを確認することに慎重であった。現在、この図は、次のように指摘する:「将来の排出量は将来の追加温暖化の原因となり、温暖化全体は、過去及び将来のCO2排出量が最も優勢である(future emissions cause future additional global warming, with total global warming dominated by past and future CO2 emissions)」。
各国の状況により、問題の重要性が異なるのは明らかであり、このことは予想されていた。多数のアフリカ諸国及び小島嶼開発途上国(SIDS)は、気象学上の干ばつ及び水性学上の干ばつをSPMに入れるという特定のメッセージを強く主張した、SPMの原案では農業面の干ばつ及び生態系の干ばつに大きく注目していたのである。これら諸国は、例えば、気象学上の干ばつがどれほどの水資源欠乏やエネルギー不足をもたらすかを強調し、持続可能な発展に顕著な影響を与えると指摘した。気象学上の干ばつに関する情報を入れなかった理由は、考察した特定のセクションとの関連性が限定的であることから始まり、関連のセクションでの証拠及び文献が限定的であることまで多様である、しかし、関心のある諸国は強く主張し、地球表面温度の上昇を考える場合、「確信度が低いことは、重要な情報を入れる必要性を否定するものではない(low confidence does not negate the need to include critical information)」と指摘した。さらにSIDSは、地球表面温度の上昇を考える場合、「1度の何分の1ごとが問題である(every fraction of a degree matters)」と繰り返し強調し、予想される海面上昇に関する情報、さらには氷床の不安定さに関する可能性は低いが影響は大きい結果についての情報が極めて重要であると強調した。脆弱性という意味で、全ての国が等しいわけではない。一部のものには、無視できる程度の確信度の低い結論であっても、国土全体が水没する可能性を危惧する諸国にリスク評価の情報を提供する上では不可欠である可能性がある。
議論が行き詰まったのは、この報告書の基礎となる排出量シナリオのラベルである。これは特に、いわゆる共通社会経済経路(Shared Socio-economic Pathways (SSPs))に関係するもので、世界の社会、人口統計、経済が次の1世紀の間にどう変化する可能性があるか、すなわちどう発展する可能性があるか、そしてこれが温室効果ガス排出量の動向にどう影響するかを予測している。インドは、 underscored that SSPsは「世界を評価できる唯一の方法ではない(not the only way the world can be assessed)」と強調し、5つのシナリオは「同じ限定的な数の想定条件(the same limited number of assumptions)」を用いていると強調した。他の多数の国は、SSPsは科学的に厳密で、追跡可能、再現可能、政策立案者にとり関連性があり、IPCCの管理下のものではないと論じた。この問題は、今後もまた炎上するのは確実である。実質ゼロ排出量の達成や二酸化炭素除去のポテンシャル及びリスクの論議もそうであり、これらの問題はWG IIIでさらに詳しく論じられる。
将来を見据えて
ある時期、COVID-19パンデミックはWG I報告書の最終決定に水を指しかねない状況であった。しかし、この承認プロセスの完了で、AR6完成に向けたタイムラインの遅れを制限できた。期待されるタイムラインの死守は、極めて重要であり、それによりAR6はパリ協定の下で設置されたグローバルストックテイクへの情報提供を確実にする、このグローバルストックテイクは、パリ協定の目的及び長期目標の達成に向けた世界全体の進捗状況を評価することが目的であり、2022-2023年に行われる予定である。IPCCは、2020年のパンデミック発生後、既にその作業モードを調整しており、今回の会議は、必要な場合、バーチャル方式でのSPM承認は可能であると実証した。しかし、熟練の参加者は、他のWGsと比べ、「今回のは最も容易であった(this was the easiest one)」と警告し、残りのSPMsをバーチャル方式で承認するのは、さらに消耗する作業になる可能性が高いと指摘した。
気候アジェンダで次の大きなマイルストーンは、もちろん、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の第26回締約国会議(COP)であり、これは2021年11月、スコットランドのグラスゴーで開催される予定である。このIPCCの会議は、UNFCCC事務局長が開会プレナリーで表明した各国政府への要望、すなわち、2030年までに排出量の45%削減を達成し、2050年までに実質ゼロの排出量に達する戦略の提示を求める声に、科学的根拠を与えた。さらに、パンデミックが続く中、対面式COPに参加するSIDS及び後発開発途上国の能力に不確実性がつきまとうことを考えると、このバーチャル方式の承認会合は、代わりとなる会合のアレンジについて、考える材料を提供している。