Summary report, 20 September 2019
51st Session of the Intergovernmental Panel on Climate Change (IPCC-51)
2019年9月24日火曜日の午後、気候変動に関する政府間パネルの第51回会合(IPCC-51)は、変動する気候における海洋及び雪氷圏に関する特別報告書(SROCC)の政策決定者向けサマリー(SPM)を採択し、その基となる報告書本文を受理した。
SROCCは、海洋、沿岸、極地、高山の生態系、並びにこれらの生態系に依存する人間社会に対し、気候変動が与える影響、及びその自然科学上の根拠に関する最新の科学知識を評価する。この特別報告書は、これらの生態系の脆弱性、適応能力、さらには気候耐性型の開発経路達成に向けたオプションも評価する。
この報告書には、一部、警告メッセージが含まれる。世界の海洋は、1970年以後、緩まることなく温度を上昇させており、気候系の過剰な熱量の90%以上を取り込んでいる。IPCC副議長のKo Barrettが報告書公表の記者会見で述べたとおり、「水はこの惑星の命の源である(water is the lifeblood of the planet)」、さらに世界の海洋及び雪氷圏は数十年にわたり気候変動から「熱を取り込んできた(taking the heat)」ことで、自然及び人類に「多大かつ深刻な(sweeping and severe)」影響結果をもたらしてきた。
この報告書は、海洋及び雪氷圏における「前例のない(unprecedented)」変化、耐える必要のある変化に対応する行動を優先する緊急性に焦点を当てる。同報告書は、いかなるものであれ温暖化の追加は、(世界の)多くの地域で、歴史的には1世紀に一度発生してきた現象が、今世紀半ばには毎年のように発生すると指摘する。たとえばカリブ海における最近のハリケーン発生は、このことの証明である。
While 現在の海水面上昇は、20世紀中の上昇率の2倍となっており、さらに加速しているが、この報告書では、排出量を大幅に削減し、気温の上昇を2℃以下で抑えたとしても、2100年までの予測上昇率よりもさらに30-60センチ上昇すると指摘する。この数値は、排出量が緩和されることなく上昇し続けるなら、さらに大きなものになるとみられる。加えて、山岳部の氷河が後退することで、水の利用可能性も変化し、川下の水の質も変わることから、農業や水力発電など、多くの部門に影響を及ぼす。
SROCCの作成には、36か国、104名の執筆者が関わった、このうち31名が女性であり、19名は開発途上国または経済移行国出身者であった。この報告書には、6,981件を超える参照文献が含まれる。執筆者チームは、専門査読者及び80か国の政府から受けた31,176件のコメントを考察しており、このうちの3,037件は、最終政府案に関するものであった。この報告書は、IPCC作業部会(WGs)I及びII合同の指導の下、WGIIの技術支援ユニット(TSU)の支援を受けて作成された。
IPCC-51は、2019年9月20-24日、モナコで開催され、114を超える国及びオブザーバー組織から400名以上の参加者が集まった。この会議は、本来9月23日に終了する予定だったが、その夜は徹夜となり、翌日の午後1時半に閉会した。この会議の主催者はモナコ政府及びモナコ基金のアルバートII世公であった。
IPCCの簡略史
IPCCの原点及び構成
IPCCは、1988年、世界気象機関(WMO)及び国連環境計画(UNEP)により設立された組織で、人為的な気候変動とその潜在可能な影響、適応及び緩和オプションを理解するための科学的、技術的、社会経済的な情報を、総合的、客観的、オープンで透明な形で評価する。IPCCは、195の加盟国を有する政府間の科学的組織である。新規の研究は行わず、気候関係のデータをモニタリングすることもない、むしろ公開されピアレビューを受けた科学技術文献に基づき、気候変動の知識の状況を評価する。IPCC報告書は、政策関連的であることを目指すが、政策規範的ではない。
IPCCは、次の3つの作業部会(WGs)を有する:
- 作業部会I (WG I)は、気候変動の自然科学的根拠を扱う;
- 作業部会II (WG II)は、気候変動の影響、適応、脆弱性を扱う;
- 作業部会 III (WG III)は、温室効果ガス(GHG)排出量を削減し、気候変動を緩和するオプションを扱う。
各WGは、2名の共同議長及び7名の副議長を有するが、WG IIのみは8名の副議長を有する。共同議長は、テクニカルサポートユニット(TSUs)の支援を得てパネルから与えられたWGsの義務を全うすべく、指導する。
加えて、IPCCは、IPCC国別GHGインベントリ・プログラムを監督するための国別温室効果ガス・インベントリに関するタスクフォース(TFI)も有しており、これもTSUの支援を受ける。このプログラムの目的は、国別GHG排出量及び除去量の計算及び報告のための国際合意した手法論及びソフトウェアを開発し、整備することであり、さらには、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の締約国に対し、その利用を奨励することである。
パネルは、IPCC評価報告書の作成を含める評価報告サイクルごとに、そのサイクルの全期間を任期とする議長団を選出する、この評価報告サイクルは約7年間である。この議長団は、全ての地域を代表する気候変動の専門家で構成され、IPCC議長及び副議長、WG共同議長及び副議長、並びにTFI共同議長が含まれる。IPCCは、スイスのジュネーブに本部を置き、WMOが主催する常設の事務局を有する。
IPCC制作品
IPCCは、その創立以来、国際社会に対し、気候変動に関する科学情報を提供すべく、一連の包括評価報告書、特別報告書(SRs)、テクニカルペーパーを作成してきた。
IPCCは、1990年、1995年、2001年、2007年、2014年に完成した5つの評価報告書を作成した。第6次評報告書(AR6)は、2022年に完成予定である。評価報告書は、各作業部会に1部という3部構成をとる。各作業部会の報告書は、政策決定者向けサマリー(SPM)、テクニカルサマリー、及びその基礎となる評価報告書本文で構成される。各報告書は、専門家及び政府による徹底的で集中的な査読プロセスを経る、これには次の3段階がある:専門家による第1回査読、専門家及び政府による第2回査読、及び政府による第3回査読である。その後、各SPMは、担当のWGによる行ごとの承認を受ける。
統合報告書(SYR)は、評価報告書全体に対して、作成されるものであり、3つのWG報告書及び当該サイクルのSRsにおける関連要素を統合する。その後、パネルは、SYRのSPMについて行ごとの承認を行う。
IPCCは、気候変動関連問題に関する一連のSRsも作成してきた。第6次評価サイクルには次の3つの特別報告書が含まれる:
- 1.5℃の地球温暖化(SR15)、これは2018年10月のIPCC-48で承認された;
- 気候変動及び土地(SRCCL)、これは2019年8月のIPCC-50で承認された;
- 変動する気候における海洋及び雪氷圏(SROCC)、これは2019年9月のIPCC-51で承認された。
加えてIPCCは、各国のGHG報告作成を支援する指針となる手法論報告書を作成する。グッドプラクティス・ガイダンス報告書は、2000年及び2003年に承認され、国別GHGインベントリに関するIPCCガイドラインは2006年に承認された。国別GHGインベントリに関する2006年ガイドラインの精緻版(2019年精緻版)は、2019年5月のIPCC-49で採択された。
2007年、IPCCは、「人為的な気候変動に関する多くの知識を構築し、広め、そのような変化への対処に必要な基礎を敷いた」その業務及び努力に対し、アル・ゴア元米国副大統領と共に、ノーベル平和賞を授与された。
第6次評価サイクル
IPCC-41からIPCC-43:IPCC-41(2015年2月24-27日、ケニア、ナイロビ)では、第6次評価サイクルに関連する決定書を採択した。IPCC-42(2015年10月5-8日、クロアチア、ドブロブニク)では、第6次評価サイクルの議長団を選出した。IPCC-43(2016年4月11-13日、ケニア、ナイロビ)では、第6次評価サイクル期間中に、2件のSRs(SRCCL及びSROCC)及び2019年精緻版の作成作業を行うと合意し、UNFCCC第21回締約国会議(COP 21)の招請に応じ、産業革命前比1.5℃で地球温暖化を抑制した場合の影響に関するSR(SR15)を作成することで合意した。さらにパネルは、第7次評価サイクルの一環として都市に関するSRを作成することでも合意した。
IPCC-44:この会合(2016年10月17-21日、タイ、バンコク)において、パネルは、SR15及び2019年精緻版の概要を採択するとともに、特に気候変動と都市に関する会議についての決定書を採択した。
IPCC都市と気候変動の科学会議:この会議(2018年3月5-7日、カナダ、エドモントン)では、気候変動とその都市部への影響、及び気候問題への対処において地方当局が果たせる重要な役割に関し理解を深めるという研究課題が策定された。
IPCC-45からIPCC-47:IPCC-45(2017年3月28-31日、メキシコ、グアダラハラ)は、SRCCL及びSROCCの概要を承認し、特に次の項目を議論した:第6次評価サイクルの戦略計画スケジュール;短寿命気候強制力(SLCFs)考察の提案;IPCCの資金調達オプション。IPCC-46(2017年9月6-10日、カナダ、モントリオール)は、AR6における3つの作業部会報告書の各章概要を承認した。
IPCC-47(2018年3月13-16日、フランス、パリ)において、パネルは特に次のことで合意した:ジェンダーに関するタスクグループの設置;パリ協定の下でのグローバルストックテイク(GST)に鑑みたIPCCの将来作業の構成に関するタスクグループへの委任条件案;IPCC奨学金プログラムを拡大し、各章の科学者に対する資金支援も含める。
IPCC-48:この会合(2018年10月1-6日、韓国、Incheon)において、IPCCは、SR15及びそのテクニカルサマリーを受理し、そのSPMを承認した。WGs合同会合は、SPMを行ごとに審議し合意に至った、これは3つのWGsが学際的な形で、IPCC SRに関し協働を行った初めての機会となった。このSPMは、特に次のように結論付ける:地球平均気温の上昇を1.5℃で抑えることは今でも可能である、しかしこれには社会のあらゆる面での「前例のない」転換が要求される。
IPCC-49:この会合(2019年5月8-12日、日本、京都)において、IPCCは、2019年精緻版の概要の章を採択し、その基となる報告書を承認した。扱われた問題には、2006年IPCCガイドラインとの関係、及び2019年精緻版に特有の発展が含まれる。
IPCC-49は、ジェンダーに関するタスクグループの委任条件、及び第7次評価サイクルにおいて完成させるべきSLCFsに関する手法論報告書についての決定書も採択した。
IPCC-50:この会合(2019年8月2-7日、スイス、ジュネーブ)において、IPCCは、SRCCL及びそのテクニカルサマリーを受領し、そのSPMを承認した。TFIの協力を得たWGs合同会合は、SPMでの合意に達すべく、行ごとの考察を行った。
IPCC-51及び第2回WGs I及びIIの合同会合の報告
IPCC事務局長のAbdalah Mokssitは、2019年9月20日金曜日の朝、モナコのアルバートII世公閣下、及びIPCC-51参加者を歓迎した。同事務局長は、モナコ政府及びモナコ基金のアルバートII世公に対し、IPCCへの豊富な資金支援及び科学面での支援に感謝すると共に、特に開発途上国の若い科学者に対するIPCC奨学金プログラムへの支援に感謝した、さらに他の参加者に対し、モナコの例を見習うよう奨めた。
IPCC議長のHoesung Leeは、SROCCはIPCCのマラソン年における大きな一里塚だと称し、関係した全てのものに感謝した。同議長は、2018-2019年において4つの報告書を完成させたことで、9月23日の国連事務総長による気候行動サミットでの行動に弾みをつけるほか、UNFCCCの第25回締約国会議(COP 25)をも刺激すると述べた。
WMOの事務次官のElena Manaenkovaは、WMOの海洋及び雪氷圏関係の作業に焦点を当て、これには次が含まれると述べた:グローバル雪氷圏ウォッチの設置;近く開催される10月のWMO高山地帯サミット;2019年WMO総会における海洋の協力枠組設立;南極における新しい地域気候センター。
UNEP専務理事のInger Andersenは、ビデオメッセージを通し、海洋及び雪氷圏における既知の課題について説明した、たとえばサンゴ礁における脅威、魚類の枯渇、プラスチックごみの流れ込み、海水面の上昇、氷河の損失、永久凍土の融解などがあると述べた。しかし同専務理事は、この流れを変える機会にも注目し、IPCC-51の作業の重要性を強調し、いかなる解決策でも科学に見合うだけの良さしかないと主張した。
UNFCCCの適応プログラムのマネージャーであるFlorin Vladuは、IPCCの作業は気候行動を強化する幅広いプロセスにとり極めて重要なものだとして、これを歓迎し、SROCCはUNFCCCの下での次回の国家決定貢献(NDCs)に情報を提供し、支援すると指摘、このうちの60%は、既に海洋関係の適応及び緩和行動に言及していると述べた。
チリの科学技術イノベーション省大臣のAndrés Couve Correaは、気候変動への対応では知識を共有し、行動を強調することが重要だと述べた。同大臣は、チリは南極の研究を支援しており、海洋保護地域の割合も大きく、2040年までに石炭をなくすと約束し、2050年までにはカーボンニュートラルを実現すると強調した。同大臣は、IPCCの作業は高まりつつある一般の期待感に応えるものだと付け加え、科学的証拠と気候行動のリンクを強調した。
モナコのアルバートII世大公閣下は、このパネルはその透明性及び科学的専門性の意味で重要なものだと強調した。同閣下は、気候変動と取り組む上での政治的な障害に焦点を当て、自己中心的で短期的な利益が追及されていると指摘、厳しく、またバランスの取れた科学的手法に基づき緊急の行動をとるよう求め、そうすれば環境を守ろうとするものの助けになれると述べた。同閣下は、共に行動するよう全てのものを説得する必要があると強調した。同閣下は、排出削減の優先性を強調し、世界は影響を明確に行動のオプションを明らかにする必要があるとし、海洋学者Sylvia Earleの言葉を引用し、「最悪の時ではあるが、最善の時でもある、何故ならまたチャンスがあるからだ(It is the worst of times, but also the best of times because we still have a chance)」と述べた。
暫定議題書の採択:議長のLeeは、暫定議題書(IPCC-LI/Doc.1, Add.1)及び作業構成書草案(IPCC-LI/INF.1)を提示した。
フランスは、最近サイクロンの被害を受けたバハマとの連帯感を表明し、この現象はIPCC及びSROCCの重要性を如実に示すものだと指摘した。
その他の業務の議題項目では、議論すべき課題として、多数の要請が出された:
- フランス、ベルギー、英国は、SYRプロセス、執筆者の選出、TSUの募集に関する最新情報を求めた;
- サウジアラビアは、SYRに関する科学者の選定における先進国と開発途上国とのバランスを議論するよう求め、南(開発途上国)出身の科学者で北(先進国)に居住するものは「南側(Southern)」の科学者とみなすべきではないと提案した;
- フランスは、SR15を6つの国連用語に翻訳するプロセスの最新の状況も議論するよう求めた;
- 英国は、気候変動評価用のデータサポートに関するタスクグループ(TG-Data)の進捗状況についての情報を求めた;
- ジンバブエは、少人数の代表団でもこのプロセスへの意味のある参加ができるよう、重要問題について開発途上国向けの特別なブリーフィングを開催する件の議論というIPCC-50での提案を、再度述べた。
これらの項目が提案通り議論されるとの理解の下、この議題書及び作業構成書は承認された。
中国は、共同議長に対し、IPCC-51の作業はIPCCの原則及び手順に則り指導するよう促した。
生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム(IPBES)の事務局長のAnne Larigauderieは、初めてIPCCで演説し、最近承認した生物多様性及び生態系サービスに関するグローバル評価報告書を想起し、この報告書では、生物多様性が前例のない速さと規模で失われていることが明らかになったと述べた。同事務局長は、気候変動は生物多様性喪失の5つの重大推進要素の一つであると指摘し、生態系は適正に管理されるなら気候の緩和にも貢献できるとし、気候変動と生物多様性に共に対応する必要があると強調した。同事務局長は、共同活動に関するIPBESプレナリーの要請を想起し、これにはUNFCCC COP 25及び生物多様性条約の第15回締約国会議(CBD COP 15)の両方に情報を提供する共同ペーパーが含まれると述べた。
IPCC-50報告書の採択:IPCC議長のLeeは、この時点で、受け取ったコメントを反映させるべく改定されたIPCC-50報告書案(IPCC-LI/Doc.2, Rev.1)の承認に向け、会場からの意見表明を求めた。
スイスは、IPCCとIPBESとの協調に関するセクションではIPBES事務局長のLarigauderieが提案する共同努力の計画に向けた次の具体的なステップに焦点を当てるべきだと提案した。
ジンバブエは、重要なIPCCの議題に関する開発途上国向けの特別会合開催という自国の提案はジャマイカの支持を得たが、報告書には書かれていないと指摘した。
ベルギーは、SPMsは10頁ほどの短いものにする必要があるとのIPCC-50での自国の意見発表を指摘し、この意見を報告書に反映させるよう求めた。
議長のLeeは、提案された変更を取り入れることに同意し、その理解の下、報告書草案は受け入れられた。その後、同議長は、WGs I及びIIの第2回合同会合の作業開始を可能にすべく、火曜日の午後までIPCC-51を中断した。
SROCC SPMの審議及び承認
WGs I及びIIの合同会議開会:WG II共同議長のDebra Robertsは、金曜日の朝、この会合の開会を宣言し、SROCC は3年前、第6次評価サイクルでの3つの特別報告書作成をパネルが決定したことで始まった長い旅路の終点であると想起した。その後、合同会合は、議題書(WG-I & WG-II: 2nd/Doc. 1)を採択した。
WG II共同議長のHans-Otto Pörtnerは、SROCCを提示した。同共同議長は、このSPMは期待されたものより長文であり、報告書を審議する時間も限定されていると認識し、焦点を絞った短い意見発表を求めた。
日本及びエクアドルは、報告書の長さは概要の議論で合意されたものを超えていると指摘し、将来はこのようなことは避けるよう求めた。
その後、参加者は、SPMの行ごとの承認を開始した、これには観測された変化及び影響、予測される変化及びリスク、海洋及び雪氷圏の変化への対応実施という3つのセクションが含まれた。各サブセクションについて、参加者は、まず冒頭の文章をレビューし、この冒頭の文章での合意に戻る前に、そのサブセクションのパラグラフについて合意した。合意が困難な問題についてはハドル及びコンタクトグループでの審議に委ねられた、これらの会合では政府代表及び執筆者が文章について議論し、その後プレナリーに提案を持ち込んだ。
序:このセクションは、SROCCの原点及びSPMの構成を紹介するもので、SROCCの報告書本文との一貫性を保ち、明確性を得るため、多少の修正を加えた上で、提示された通り合意された。
スタートアップボックス:人々にとっての海洋及び雪氷圏の重要性:このボックスは、初め金曜日に議論され、土曜日に合意された。過去及び現在の人為的なGHG排出量及び現在進行中の地球温暖化に対する海洋及び雪氷圏での予測された反応に関する文章について、フランスは、気候系のフィードバックの源への言及を要請し、特に雪及び氷に焦点を当てるよう求めた。気候フィードバックプロセスについて、より一般的な言及を行うという執筆者の提案を受け、この文章は合意された。
人間社会は、沿岸の環境、極地域、高山域と密接に結びついているとの文章に関し、トリニダード・トバゴは、セントクリストファー・ネービス、グレナダ、モルディブ、フィジー、ハイチ、オーストラリアの支持を得て、小島嶼開発途上国(SIDS)への言及は、脚注から本文へと格上げするよう求め、SIDSには50か国及びテリトリーが含まれ、6千万人の人口と特別な経済的、社会的、環境上の脆弱性があると説明するよう求めた。
セントクリストファー・ネービスは、ハリケーンを理由とするバハマの欠席を嘆いた。ボリビアは、アンデスに暮らす先住民への言及を求めた。タンザニアは、アフリカの高山地帯の氷河に対する気候変動の悪影響を強調した。
ジンバブエは、海洋及び雪氷圏の変化を原因とする干ばつ及び極端な現象が内陸国に与える影響に言及するよう求めた。執筆者は、内陸国については別な個所で、地球上の全ての人々は海洋及び雪氷圏に依存しているとの記述で言及していると答えた;しかし、ジンバブエ、イ^スワティニ、タンザニアは、海洋への依存とその変化の影響に対する脆弱性とを区別した。
エクアドルは、インドの支持を得て、高山地帯を説明する脚注の中に、先住民人口の割合を入れるよう求めた。
IPCC副議長のYouba Sokonaが進行役を務めるハドルでは、これらの問題について追加審議をし、土曜日の朝、改定文書を提出した。この改定文書では、変化の影響を受ける人間社会のリストにSIDSを含める小島嶼諸国への言及が加えられた。このグループは、次の表現の文章も承認した:北極地域には約400万人が暮らしており、そのうち10%が先住民である;低高度の沿岸地帯は6億8千万人ほどが定住しており、2050年までに10億人を超えることが予測される;SIDSには6500万人が居住する。
ハドルが提案した新しい記述は、沿岸から離れた地域社会も、たとえば極端な天候現象によるものなど、海洋の変化に曝されると指摘し、ジンバブエの懸念に応えようとしている。
先住民への言及が加えられたのは、南極を除く全ての大陸の高山地帯には約6700万人の先住民が居住するという文章である。2050年における先住民の人口の範囲を予想する記述は承認された。
低高度の沿岸地帯の人数計算に関する脚注も承認された。
欧州連合(EU)及びスイスのコメントに応え、サービスに関するパラグラフは、再構成され、海洋及び雪氷圏が人々に提供するサービスの2つのタイプを区別した:炭素吸収量などの気候変動関係のタイプ、及び食料や水の供給など気候変動と関係しないタイプである。ベルギーは、海洋及び雪氷圏は持続可能な開発目標(SDGs)に反映される持続可能性の各方面と相互作用しあうとの論述は過剰な表現の可能性があると指摘した。しかし、執筆者は、海洋と雪氷圏がSDGsに与える影響だけでなく、SROCCに記述する課題への対応能力にSDGの進捗状況が与える影響も対象としているため、この記述は正しいと応じた。
最終文書:序文の最終文書は、SROCCは第6次評価サイクルにおいて3つの特別報告書を作成するとの2016年のIPCCパネルによる決定を受けて作成されたと記述する。この序文は、SROCCがSR15及びSRCCLに続くものであり、IPBESの生物多様性及び生態系サービスに関するグローバル評価報告書に続くものでもあると指摘する。
序文では、SPMの3部構成を紹介する、具体的には:観測された変化及び影響;予想される変化及びリスク;海洋及び雪氷圏の変化への対応策実施である。さらに、アイコンを用いて、SPMを読む際にどこに何が書かれているか、具体的には高山雪氷圏、極地帯、沿岸部と海水面上昇、海洋などを示していると説明する。
序文は、主要な結論の確信度はIPCCの尺度を用いて報告されており、それぞれの結論の科学的な根拠は報告書本文の関連セクションを参照することで示されているとも説明する。
序文の脚注では、影響結果または結果が起こる可能性の評価を次の形で説明する:ほぼ確実は99-100%の確率、極めて可能性が高いは90-100%、可能性が高いは66-100%、可能性は半々は33-66%、可能性は低いは0-33%、可能性は極めて低いは0-10%、ほぼ可能性がないは0-1%。
スタートアップボックスは、地球上のすべての人々は海洋及び雪氷圏に直接または間接的に依存していると説明する。特に沿岸、小島嶼国、極地、高山地帯で、海水面上昇や極端な現象、及び雪氷圏の縮小などの現象と接している地域社会の曝露を強調する。さらに、海洋及び雪氷圏が人々にもたらす利益も指摘する、この中には、食糧や水の供給、再生可能エネルギー、健康や福利面の利益、文化的価値、観光、貿易、輸送などが含まれる。
A:観測された変化及び影響
このセクションは、初め、金曜日朝に議論され、さらにプレナリー、コンタクトグループ、非公式ハドルでも議論された。ここでは、観測された物理的な変化、生態系で観測された影響、人々及び生態系サービスで観測された影響を論じる。
観測された物理的な変化:A1.このサブセクションは、雪氷圏の縮小を論じる、この中には氷床及び氷河の質量の喪失、積雪面積の削減及び北極海の氷の面積や厚みの減少、永久凍土の温度上昇が含まれる。冒頭の文章に関し、カナダは、より明解にすべく、「永久凍土の融解(permafrost thaw)」への言及を「永久凍土の温度上昇(increased permafrost temperatures)」に変更するよう提案した。この提案は受け入れられ、冒頭の文章で合意した。
A1.1:世界各地の氷床及び氷河の質量損失に関するパラグラフについて、その数値及び海水面上昇への換算をより明確にすることが提案された。執筆者は、氷の損失量のギガトンを世界の平均海水面(GMSL)に換算する方法について脚注を加えることを提案した。この数値にはグリーンランド及び南極の両方の氷床周辺の氷河も含まれると明記する脚注を追加することでも合意された。
基となる報告書本文と同様、2012-2013年という最近の期間についても言及するとのサウジアラビアの提案に対し、執筆者は、信頼性を考えると10年という長い期間を志向すると述べた。2つの脚注を追加した上で、提示された文章での合意がなされた。
A1.2:このパラグラフは、積雪面積及び積雪期間の減少を論じる。6月の北極域の陸上積雪面積減少に関する文章について、EU、スイス、その他は、メッセージの明確性を高めるため、積雪面積の減少が陸地表面ではどのくらいの面積に相当するのかを追加するよう提案した。多様な諸国も、北極の地表温度が世界平均と比べて2倍以上も上昇しているとの記述を含めるよう求めた。執筆者は、この問題は北極の海氷面積に関するパラグラフで取り上げると確約した。
A1.3:このパラグラフは、1980年代以後の、永久凍土の温度上昇を論じる。2007年から2016年にかけて極地域及び高山地域を横断しておきた0.29± 0.12°Cの平均気温上昇に関し、スペインは、インド及びカナダの支持を得て、地域による違いを説明するよう提案した。この文章は、このデータは世界の極地及び高山地帯全体の平均値であると明記するよう修正された。インドは、高山地帯の平均値に反対し、特にヒマラヤについて差異化を求めたが、執筆者は、ヒマラヤの永久凍土についてはデータが不十分だと答えた。
欧州海洋理事会(European Marine Board)は、フィンランドの支持を得て、海洋のメタンは二酸化炭素の25倍の地球温暖化ポテンシャルを有することから、重要であると指摘し、この点を反映する文章の追加を求めた。しかし、このパラグラフは、追加されることなく承認された。
A1.4:このパラグラフは、北極及び南極の海氷面積の縮小を論じる。執筆者は、サウジアラビアの提案、及び北極海の海氷面積縮小に関係する確信度水準についての質問に応え、北極海の氷面積が縮小する「可能性が極めて高い」ことを反映する文章は「確信度が極めて高い」と再構成することに合意した。一部の国は、この変更に疑問を呈したが、共同議長のPörtnerは、これは統計学上の表現であると説明した。
執筆者は、フランスの提案通り、積雪の役割への言及を加えることでも合意した。
海氷の損失のフィードバック及び中緯度の天候における影響結果を論じる文章について、ノルウェー、ロシア、米国、ドイツ、インドは、遠隔相関(teleconnections)、すなわち長距離を隔てて相互に関係しあう異常気候に、明確に言及するよう要請した。執筆者は、北極海の海氷における変化は中緯度の天候に影響を及ぼす可能性があるが、特定の天候現象タイプへの影響の検知に関する確信度は低いと記述することを提案し、このグループも同意した。
On a sentence on changes in 南極の海氷面積の変化に関する文章について、英国とオーストラリアは、最近観測された顕著な変化への言及も加えるよう提案したが、執筆者は、気候の変動性だけではなく気候変動に明確に起因すると判断するには2016-2018年というのは期間が短すぎると述べた。執筆者は、代わりに、地域的な兆候と年間の変動性の大きさは相互に相反する傾向を見せていることから、南極の海氷面積全体では統計的に有意の傾向がみられていないと記述することを提案した。
これらの変更及び一貫性や明解さのための他の変更事項を加えたところで、このパラグラフは合意された。
図SPM.1:海洋及び雪氷圏における過去の変化及び将来の変化:この図は、金曜日午後に初めて審議されたもので、海洋及び雪氷圏において観測された変化及びモデル化された過去の変化、さらには代表的濃度経路(Representative Concentration Pathways (RCPs))の低経路及び高経路、具体的にはそれぞれRCP2.6及びRCP8.5の下で予測される変化を示している。
ルクセンブルグは、UK, 英国、フランス、セントクリストファー・ネービス、ベルギー、オランダ、ドイツ、トリニダード・トバゴの支持を得て、GMSL上昇のパネルは2300年までの予測を示すように延長するなら、政策決定者にとり一層有用なものになると論じた。インドは、この図のパネルを1850年まで過去にさかのぼるよう求めた。日本は、北極海の海氷面積に関するパネルの縦軸には絶対変化量ではなく、相対的な変化割合を用いるよう求め、現在の方式では政策決定者が誤解する可能性があると指摘した。
EUは、GMSLのパネルは海洋の熱含有量、グリーンランド及び南極の氷床の損失量のパネルの集合であり、どれも海水面水準に換算して表現されていると指摘した。同代表は、これらの関係性をより明確に図示するよう求めた。さらに米国は、相互の関係性をわかりやすく表現するため、パネルを再グループ化するよう求めた。サウジアラビア及びエクアドルは、RCP2.6及びRCP8.5という「極端なシナリオ(extreme scenarios)」のみを記載することは誤解されやすいとして、RCP4.5のようなより現実性のあるシナリオも示すよう求めた。米国は、トリニダード・トバゴの支持を得て、この図において、海の熱波の定義づけを行うよう求めた。
執筆者はさらなる作業を行い、この図の改訂版を土曜日の夜に提出した。この改訂版には、GMSLで予測される変化を2300年まで含める提案を取り入れたほか、大きな不確実性を示すため、傾向に幅を持たせ、さらに次の項目を含める:RCPsをわかりやすく説明するため、ラベルや脚注を用いる;パネル相互の関係性を示すビジュアルや文章;多数のパネルの縦軸に変化割合を用いる。
セントクリストファー・ネービス及びドイツなどの数か国は、改訂版を全面的に支持すると表明した。
執筆者は、エクアドル及びサウジアラビアの提案に応えて、RCP4.5パラメターの多くで情報が欠如していると説明した。執筆者は、インドの提案に応えて、1950年以前のデータはわずかな変化しか示しておらず、これらをパネルに入れると有意のデータが圧縮され、パネルの持つ情報の価値が下がると述べた。
この図は、その後、時間枠が2300年まで延長されたことで2100年前後のGMSLに関する詳細が失われたとして、これらの情報の挿入を求めるドイツ及びフランスの提案に対応して更なる変更が行われた。この図は、他の改定を行うことなく、月曜日に受け入れられた。
ボックスSPM.1:SROCCにおける気候変動シナリオの利用:SROCCにおけるシナリオの利用に関する新しいボックスは、政府コメントに応じて導入された。日本、米国、ドイツ、スウェーデン、サウジアラビア、ルクセンブルグ、アイルランド、デンマーク、カナダ、インド、フランスなど、多数の国は、提案されているボックスの表現の複雑さ、及び数値が明確でないことに懸念を表明した。これら諸国は、次を求めた:基となる報告書本文への参照可能性を高める;2つのシナリオを選択した背景についての説明;2つのシナリオにあてはめた想定条件の明確化;単純な想定条件によるシナリオと特定の排出経路とのリンク付けの回避。
サウジアラビアは、SR15への言及、さらにはその報告書で用いられた低排出シナリオへの言及に反対し、インドと共に、再度、中間シナリオに関する情報を求めた。
執筆者は、このボックスの改訂版を提示した。執筆者は、次のものなど、変更点について説明した:RCPsに関する広範な説明;表の単純化;利用可能な場合は、GHG排出量が中間レベルの他のRCPsにも言及する;他の期間とのリンク。
RCPsについては長時間議論が行われた、特に温暖化を1.5℃までで抑制する機会を高めるとされる低排出経路 (RCP1.9)について文献の欠如を理由として評価しなかったと記述する脚注が議論の的となった。サウジアラビアは、評価されなかった経路としてRCP1.9に言及するなら、他のRCPsについてもSROCC全体を通して言及されるべきだと述べた。ドイツ、ベルギー、カナダ、フランス、フィジー、その他は、これに反対し、RCP1.9はRCPsの元となる気候モデル予測に含まれていなかったと単純に記載するとの共同議長案を支持した。
執筆者は、緩和と共に適応にも言及するとのサウジアラビアの提案に応えて、RCPsは大気中のGHG濃度にのみ関わると説明した。サウジアラビアは、さらにRCP8.5を説明する際の「緩和」という言葉の使用にも疑問を呈し、「気候変動政策なし」のシナリオとしてRCP8.5に言及することを提案した。ベルギー、フランス、ドイツ、英国、その他は、反対し、RCPは「緩和なし」に焦点を当てるものだと発言した。
サウジアラビアは、SR15への言及に対する反対意見も再度述べ、SR15を引用する場合は、その報告書における全ての知識のギャップにも言及するよう要請したが、フランス、ルクセンブルグ、カナダ、その他は反対した。
ボックスに関する議論はハドルでも続けられ、結果として、「緩和」ではなく「気候変動と戦う政策」に言及し、SR15及びSRCCLには言及しないという、ボックスの改定がなされた。これらの変更を行った上で、ボックスSPM.1は承認された。
A2:このサブセクションは、海洋の温暖化、海の熱波、海洋酸性化、海洋の酸素損失を論じる。冒頭の文章は、ドイツ及び英国が提案した「より多くの(more)」CO2による酸性化傾向の「高まり(increasing)」を明言する表現を追加し、合意された。
A2.1:このパラグラフは、海洋温暖化の割合を扱う。フィンランドは、スペイン、英国、エストニアの支持を得て、海洋温暖化の進行度の表現にゼタジュールを用いることに疑問を呈し、文章をわかりやすくするため、摂氏に換算するよう提案した。執筆者は、海洋の各層では温暖化が異なる速度でおきているとし、海洋全体の平均水温を含めることは誤解されると説明した。
ノルウェーは、海洋温暖化の傾向に関し、導入文を入れるよう要請し、ドイツは、それは人為的な強制力(GHGs及びエアロゾル)に起因するとの表現を要請した。執筆者は、両方の要請に同意した。
A2.2:南の海洋での熱の蓄積に関するパラグラフについて、インドは、インド洋の温暖化とのリンクを求めたが、執筆者は、文献に記載された通りで保持することを希望し、それで合意された。
A2.3:海洋での熱波に関するパラグラフについて、執筆者は、熱関連現象のサブセットとして言及するとのトリニダード・トバゴの提案に同意し、海の熱波の定義を加えるよう提案した。
さらに、海の熱波を人為的な影響に起因することも議論された。サウジアラビアは、1850-1900年以後の気温上昇のみに言及し、起因については言及しないことを希望したが、ノルウェーは、人為的な影響を明確にするのが重要だと強調した。執筆者は、海の熱波の人為的な起因への言及を提案し、このグループも同意した。
A2.4:海洋密度の層化に関するパラグラフは、多少の改定を経て承認された。
A2.5:海洋の熱吸収及びその結果である酸性化に関するパラグラフについて、米国は、海洋のpH低下範囲に関するデータは15年以上の実際の記録のみから引用されると指摘し、この点を文章中で明言するよう要請した。これについて合意がなされ、このパラグラフは承認された。
A2.6:海洋酸素の損失に関するパラグラフについて、カナダは、明解さを高めるため、酸素最少層の「質量(the volume)」拡大への言及を加えるよう提案した。この提案は受け入れられ、このパラグラフは承認された。
A2.7:このパラグラフは、大西洋南北鉛直循環(Atlantic Meridional Overturning Circulation (AMOC))の弱体化. を論じる。スペインは、AMOC定義づけの脚注を付し、用語集を参照するよう提案し、執筆者も同意した。ドイツは、モデルの結果は人為的な要素に左右されていると特記することを提案した。執筆者は同意し、第5次結合モデル相互比較プロジェクト(Coupled Model Intercomparison Project 5 (CMIP5))のモデル化で得られた結果だと特定する表現を提案した。さらなる若干の変更を行ったところで、このパラグラフ及び脚注は承認された。
A3:このサブセクションは、GMSL上昇の加速化及び極端な海水面上昇現象及び沿岸の被害の悪化を論じる。冒頭の文章に関し、インドは、加速化要素として南極及びグリーンランドの氷床の役割は重要視されているが、氷河は重要視されていないとしてその理由を尋ねた。執筆者は、氷河の質量損失及び熱膨張は加速化要素ではないと説明した。セントクリストファー・ネービスは、このサブセクションにはサイクロンに関する新しいパラグラフが加えられており、熱帯のサイクロンにさらなる重要性を与えるような表現を要請した。この点では合意がなされた。別な多少の改定を行ったところで、このパラグラフは受け入れられた。
A3.1:このパラグラフは、過去1世紀にわたる前例のないGMSLの上昇を論じる。執筆者は、オーストリアに応じて、陸地での水の貯留があることから、氷床の融解及び熱膨張によるGMSLの上昇の合計は数字の合計と一致しないと説明する脚注を加えた。ノルウェー及び英国に応じて、1970年以後のGMSL上昇の主要な原因は人為的強制力であると指摘する最後の文章が加えられた。このパラグラフは、改定された通りで受け入れられた。
A3.2:グリーンランド及び南極氷床での氷の質量損失を原因とする海水面上昇の加速化に関するパラグラフは、多少の改定を経て受け入れられた。
A3.3:南極における氷の流れの加速化に関するパラグラフについて、議論の中心となったのは、不可逆的な氷床の不安定化が発生する可能性にどう言及するかであった。セントクリストファー・ネービス、ドイツ、ベルギー、オランダ、チリなどの数か国は、不可逆性の可能性について明確なメッセージを出すことが重要だと強調した。この文章の確信度が低いのは次の結果であることをどう伝えるか、多様なやり方が検討された:不十分な観測;氷床プロセスを示すモデルの不適切さ;海洋と氷床の複雑な相互作用に関する理解が限定的。合同のWG会合は、結局、評価の不確実性に関する表現で合意し、不可逆性との関係では回復に数百年から数千年の時間規模を要すると説明する不可逆性に関する脚注についても合意した。
A3.4:海水面上昇の地域変動に関するパラグラフは、参加者の間で混乱を起こさせており、これらの参加者は、次の項目に関して質問した:海水面上昇と陸地の垂直移動をどう区別するか;この両方の間の違いをどう捉えるか;垂直の陸地移動をもたらす人間の活動の例。
執筆者は、表明された懸念に応えようとしたが、このことは、新たな疑問点を生じることとなった、すなわちこの文章は継続的な海水面上昇に言及するかどうか、氷河の回復が認識されるかどうかという疑問である。ドイツ及びルクセンブルグは、時間規模ではなく、空間規模への言及を希望した。非公式なハドルの後、改定文書が提示され、追加コメントなしで受け入れられた。
A3.5:波高の上昇を扱うこのパラグラフに関し、タンザニア及びスペインは、波高の上昇が極端な海水面現象とどう関係するかを明確にするよう求めた。執筆者は、波高の上昇は多数の悪化要素の一つであり、他にも潮やサイクロン、高潮といった要素があると答えた。トリニダード・トバゴは、ジンバブエ、エクアドル、セントクリストファー・ネービス、タンザニア、フランス、ジャマイカ、ケニアの支持を得て、熱帯サイクロンをこのパラグラフの一文における小項目として扱うことに反対し、多数の熱帯地域の国にとり、サイクロンは極めて重大な脅威であると指摘し、執筆者に対し、基となる報告書本文に豊富な情報があることを想起した。同代表は、この問題に関する別個のパラグラフを作成し、このセクションの冒頭の文章に入れるよう求めた。ジンバブエは、影響を感じているのは沿岸国だけではないとし、最近の沿岸部の嵐により自国では干ばつが起きていると指摘した。ハドルでの協議の後、熱帯サイクロンに関する新しいパラグラフが追加された。
A3.6:ハドルでの議論の後、熱帯サイクロンを扱う新しいパラグラフが提示された。ハドルで提案されたパラグラフは、改定なしで受け入れられた。
生態系で観察された影響:A4:このセクションは、雪氷圏における変化が陸上及び淡水の生物種や高山や極地の生態系に与える影響を論じる。生態系で観察された影響に関する冒頭の文章では、「攪乱レジーム(disturbance regimes)」という表現が、英国が提案した「生態系のかく乱(ecological disturbances)」という表現に代えられた。
フランスは、水文学サイクルは海洋及び雪氷圏のシステムでは主要な構成要素であるが、SPM全体では十分に言及されていないと指摘し、水文学上の変化に関する表現の追加を提案した。執筆者は、「雪氷圏及びこれに伴う水文学的変化(cryospheric and associated hydrological changes)」への言及に同意した。
ドイツは、多数の海洋生物種に対する悪影響を指摘し、「生物多様性の喪失」への言及挿入を求めたが、執筆者は、この場合は、証拠がまちまちであるとして、高い水準の文章を希望した。冒頭の文書は合意された。
A4.1-A4.3:このサブセクションの3つのパラグラフは、それぞれ一部の植物種及び動物種の個体数の増加、生態系のかく乱の頻度及び強度の変化、生物の生産性を論じており、多少の改定を経て承認された。
A5:このサブセクションは、海洋生物種の分布範囲及び季節的な活動のシフトを論じる。執筆者は、ノルウェーに応えて、季節学への言及を「季節的な活動(seasonal activities)」に換えた。さらにドイツに応えて、生物物理化学的変化の例として、「生息地での酸素損失(oxygen loss to habitats)」への言及追加を提案した。これらの変更は両方とも受け入れられた。
漁業の対象である海洋生態系への影響、及び気候と漁業の相互作用に関する文章では長時間の議論が行われ、その後、この文章は、IPCC副議長のKo Barrettを進行役とするハドルに送られた。最終文書は、漁業及び気候変動の両方の効果に影響される一部の海洋生態系の生物種に言及する。
A5.1:このパラグラフは、生物種の分布の極地方向へのシフトを論じており、コメントまたは改定なしで受け入れられた。
A5.2:このパラグラフは、海氷の変化及び栄養素の利用可能性が海洋生態系に与える影響結果を扱う。ドイツは、生物多様性に関する正味の一次生産量が変化する影響に言及するよう要請し、同意された。
A5.3:海洋の酸性化及び主要な湧昇流システムにおける酸素の損失の影響に関するパラグラフは、提示された通りで受け入れられた。
A5.4:漁業及び漁獲量の可能性に関するパラグラフでは、海洋温暖化は一部の魚種の資源量の乱獲と「シナジー的な(synergistic)」相互作用を生じるとの文章を変更し、乱獲「による悪影響の相乗効果(compounding negative impacts from)」に言及した。
地球温暖化及び生物地学化学的変化による魚類及び貝類の資源量減少に言及する文章について、執筆者は、外来種の移動が減少に寄与していると付け加えるサウジアラビアの提案を受け容れなかった。その後、このパラグラフは、更なる変更なしで受け入れられた。
A6:このサブセクションは、多数の気候関係推進要素が沿岸生態系に与える影響を対象としており、これには海洋温暖化、海の熱波の強まり、酸性化、酸素の損失、塩分の侵入、海水面上昇が含まれる。冒頭の文章に関し、ドイツは、初期の草案では沿岸生態系は「影響される(affected)」としていたが、執筆者は「ストレスを受けている(under stress)」と変更したことに疑問を呈し、これは表現を弱めていると指摘した。執筆者は、影響はプラスの場合もあればマイナスの場合もありうると説明した。冒頭の文章は、提示された通りで承認された。
A6.1:このパラグラフは、マングローブ、海草の草原、ケルプ(昆布類)の森といった植生のある沿岸生態系を対象としている。米国は、英国、ベルギー、オーストラリア、EU、メキシコ、チリの支持を得て、湿地が失われた場合のカーボン放出について明確性を求めた、すなわち、この放出は炭素貯留量の損失で起こるものか、それとも吸収能力の損失によるものかである。執筆者は、明確さのため文章を修正し、「カーボンの貯蔵(carbon stores)」が失われると明記した。インドは、カーボン放出の推計値範囲が桁違いであるとして、この数値への言及は適切かどうか質問したが、執筆者はこの数値であると確認した。
執筆者は、米国の要請を受け、英国、ルクセンブルグ、ベルギー、ノルウェー、EU、メキシコの支持を得て、気候以外の要素も含める沿岸湿地喪失の推進要素を説明し、沿岸地帯を嵐や浸食から保護するという湿地が提供する便益をリストする文章を、以前の文章に戻した。
米国は、熱波の後に、海草の草原及び昆布の森の36-43%が失われたとの言及は、1件の研究論文を引用したものだとして、疑問視した。この文章は、特定の数字は削除した上で、経験上支持されている効果であると説明する文章に改定された。これらの改定を経て、このパラグラフは承認された。
A6.2:このパラグラフは、海水の侵入増加、生物種の分布変更、低炭素区域の拡大を論じており、多少の修正を経て承認された。
A6.3:このパラグラフは、海水面上昇が沿岸生態系に与える影響を扱う。GMSLの上昇率とマングローブ及び湿地帯の縦方向の成長率を比較した文章について、米国は、ここで用いたGMSLの上昇率は、現在の速度かどうか質問し、執筆者は、現在の速度であると確認し、この点を文章の中で特定すると述べた。この変更をもって、パラグラフは受け入れられた。
A6.4:温暖水域のサンゴ礁及び岩礁海岸の生態系を扱うパラグラフでは、多数の懸念が示された。ノルウェーは、ドイツの支持を得て、この文章では前回の文章に記載されていた「世界的なサンゴ礁の劣化(worldwide reef degradation)」に言及していないと嘆いた。執筆者は、この言及を復活させた。
グレナダは、観測されたサンゴの白化は「前例がない(unprecedented)」と記述するよう求めたが、執筆者は、観察記録はそのような記述を認めるには短期すぎると述べた。オーストラリアは、白化を経験したサンゴ礁の回復の期間を示すよう求めた。「ゆるやかな(slow)」回復期間を示すという執筆者の提案には、多数の国が不満であり、より特定するよう要請した。その後、「15年の時間枠(a 15-year timeframe)」への言及が挿入された。ベルギーからの質問を受け、この文章は、不可逆の可能性を反映させるよう修正された。
IPCC副議長のBarrettは、ストレス要因としての酸性化への言及を提案、これは温暖化と同等もしくはそれ以上の影響があると述べた。
カナダ及びニュージーランドは、「長時間の乾燥化現象(prolonged desiccation events)」の意味を明確にするよう求め、執筆者は、これは引き潮の際に発生すると説明した。このグループは、長期にわたる高温及び水分不足(dehydration)は岩礁海岸の生態系に高リスクを課すというハドルの提案する表現で合意した。このパラグラフは合意された。
図SPM.2:海洋及び雪氷圏の変化で観測された地域的な影響:この図は、最初、土曜日の朝に議論された。表現の明確化、追跡可能性、確信度の明確化、特定の地域または範囲への言及について、多様な提案がなされた。
フランス、スペイン、モロッコ、ベルギー、イタリアは、地中海に関するコラムを求め、フランス及びスイスは、欧州アルプスへの別個の言及を求めた。スウェーデン及びエストニアは、バルト海のような限界海域への言及を提案した。
非常に多くの人数が影響を受けると指摘したブータン、インド、中国は、ヒマラヤ地域に対するリスクにも別途言及するよう求めた。
トリニダード・トバゴ、ハイチ、フランスは、熱帯地域でのホンダワラ類(sargassum)への言及がないことに異議を唱えた。
タンザニア、エクアドル、ベネズエラは、データが評価されていない場合と、データが入手可能でない場合とを区別するよう求めた。インドネシアは、このような場合はIPCCガイドラインに従うことを提案した。
ルクセンブルグ、オランダ、ベルギーは、他の図で用いられた方法に合致させ、確信度ではなく影響に言及するよう図の色の変更を提案した。カナダは、確信度は傾向ではなく起因に係わるものだと強調し、より明確にするよう求めた。
日曜日の朝、これらの懸念を反映させた改訂版が提出された。
セントクリストファー・ネービスは、この図は、少数の数字しか強い確信度を示していないが、基となる報告書本文では、極めて強い確信度が示されていると指摘した。これに対し、執筆者は、問題は規模であり、地球規模から小地域規模にすると確信度は減ると説明した。
ホンダワラ類の海藻の侵出に関し、執筆者は、元となる報告書での表現を指摘する一方、これらはこの図の評価の一環ではないとし、熱帯西太平洋の観光業に影響を与えるものでもないことを確認した。
これらの改定に対し、フランス及びイタリアは、地中海に関する表記が欠如しているとして失望感を表明し、イタリアは、「限界海域(marginal sea)」という表現の変更を求めた。
ブータン及びインドは、同様に、ヒンズークシ・ヒマラヤがアジア高山地帯の分類に入れられたことを嘆き、この地域は違いがあるとし、既に気候変動に極めて脆弱になっている多数の人口に影響を与える可能性があると指摘した。
セントクリストファー・ネービス及びトリニダード・トバゴは、自国の地域の観光及び他の部門はサイクロンや極端な天候現象から劇的な影響を受けているにも関わらず、評価がなされていないのは遺憾だと表明し、トリニダード・トバゴは、これらを評価するよう懇願し、そうすれば、この地域での適応行動がとりやすくなる可能性があると述べた。これら諸国は、SIDSの人間社会に与える影響を示す特別なコラムを入れるよう求めた。
月曜日朝、この図に対する追加の改定案が提出された。執筆者は、特に熱帯太平洋及び熱帯大西洋地域の観光に対する影響に関する情報を追加し、それに合理的な確信度を付し、さらにこの図のラベルもより分かりやすいようにした。
米国、チリ、エルサルバドルは、移住に対する影響がプラスかマイナスかを地理的な分布で示すことに懸念を表明し、誤解される可能性があると述べた。ボリビアは、生態系のサービスと共に、その機能にも言及するよう提案した。
ハドルでの議論が続けられ、この議論の観点からさらなる調整を行った後、月曜日の夜、この図は承認された。
人々及び生態系サービスにおいて観測された影響:A7:このサブセクションは、食料安全保障、水の質、暮らし、健康及び福利、インフラ、輸送、観光、娯楽に関し雪氷圏の縮小が与える圧倒的にマイナスの影響を論じるほか、人間社会の文化、特に先住民の文化に対する影響も論じる。20世紀半ば以後の雪氷圏縮小に関する冒頭の文章について、フランス及びチリからの意見発表を受け、このグループは、北極及び高山地帯における雪氷圏の縮小でマイナスの影響を受けるもののリストに「水資源」を加えることで合意し、このパラグラフを承認した。
A7.1:食料及び水の安全保障についてのパラグラフに関し、フランス及び米国は、氷河の後退及び積雪面積の変化が一部の高山地域の農業収率での局地的な低下を招いているとの文章に、米国西部への言及がない理由を質問した。執筆者は、研究論文の不足及びこの地域での影響に関する確信度の低さを挙げた。
執筆者は、インドの要請を受け、「ヒンズークシ・ヒマラヤ(Hindu Kush Himalaya)」への言及に合意した。中国は、広い意味でのヒマラヤへの言及保持を希望したが、執筆者は、全ての研究がヒンズークシ・ヒマラヤに関するものだと答えた。この変更を受け、パラグラフは合意された。
A7.2:雪氷圏の変化が人間の健康に与える悪影響を扱うパラグラフに関し、カナダは、精神面の健康に対する影響についての元々の研究は主に先住民に焦点を当てていたと指摘し、この点を反映する表現を求め、これに対し執筆者は同意した。フランスは、ベルギー及びモロッコの支持を得て、水の質と同様、水の「量(quantity)」への影響にも言及するよう求め、氷河からの流出量削減は、それに依存する川下の地域社会に健康上の影響を与えると指摘した。執筆者は、人間の健康の観点からこの問題に取り組んだ研究は不十分だと指摘した。その後、パラグラフは承認された。
A7.3:北極域の住民及び組織が行う適応に関するパラグラフは、提示された通りで合意された。
A7.4:夏季の北極域における船舶ベース輸送に関するパラグラフについて、英国は、北極海の生態系及び沿岸の地域社会が船舶輸送から受けるリスクについて説明を求めた。執筆者は、外来種及び地域汚染の例を挙げることを提案し、このグループも同意した。
A7.5:スイスが提案した、人々及びインフラの自然災害への曝露増大、及び雪氷圏の変化とのリンクに関する新しいパラグラフが挿入された。そのようなリンクが発生する特定の高山地域の数をリストするパラグラフは、提案された通りで受け入れられた。
A7.6:水力発電の影響に関するパラグラフについて、執筆者は、雪及び氷河の変化は積雪を中心とする河川流域及び氷河から流れる河川の流域の流量及び季節性を変化させるとの文章を提案し、このグループも同意した。さらに同グループは、フランス及びチリの提案どおり、流量の減少が水資源に与える影響への言及も加えることで合意した。この変更を受け、パラグラフは承認された。
A7.7:このパラグラフは、高山の美観や文化面、観光及び娯楽を扱う。スイスは、ブータンの支持を得て、2つの別々の文章を提案した、一つは美観及び文化活動を対象とし、影響を受ける高山地域をリストする、もう一つは、高山での商業活動、たとえばスキー、ハイキング、登山などを対象とする。サウジアラビアは、中国の支持を得て、この分離に異議を唱えた。このような仕分けをすることで異なる地域を特定できるとの説明を受け、このパラグラフは2つの文章と共に承認された。
A8:このサブセクションは、海洋の変化が海洋生態系及び生態系サービスに与える影響を説明する。一貫性のため多少の改定が行われた後、冒頭の文章は受け入れられた。
A8.1:このパラグラフは、一部の魚類及び貝類の個体数の地理的分布及び豊饒性に対する影響を論じる。執筆者は、米国からの質問に応え、サンゴや海の哺乳類、海藻など広範な生命体グループを含めるなら、高い確信度の記述はできないだろうと説明した。
先住民に対するマイナスの影響結果に関する文章について、セントクリストファー・ネービスは、地域社会への言及も要請し、合意された。他に1件の些少な修正を経て、このパラグラフは承認された。
A8.2:このパラグラフは、有害な藻類ブルーム(algal blooms:赤潮など)を論じる。グレナダは、セントクリストファー・ネービスの支持を得て、サンゴの損失が人々の文化的なアイデンティティに与える影響への言及を求め、基となる文書から文章を挿入するよう提案し、英国は、Vibrio(ビブリオ菌)など水を介する病原菌を論じるよう提案した。執筆者は、この両方の題目での予測はセクションBで論じていると答える一方、現在観測されている影響に関する文献はセクションAに含めるほど十分でないと述べた。このパラグラフは提示された通りで承認された。
A9:このサブセクションは、低高度沿岸部の人間社会におけるリスクを論じる。沿岸部地域社会の多岐にわたる気候関連ハザードへの曝露に関する冒頭の文章について、セントクリストファー・ネービスは、主要ハザードの中に熱帯サイクロンを入れるよう求め、執筆者も同意した。この変更を経て、冒頭の文章は同意された。
A9.1:沿岸部の影響の起因に関するパラグラフは提示された通りで承認された。
A9.2:沿岸部保護措置、沿岸部の延長、後退に関し、海水面上昇のリスク及び反応に関する図SPM.5にリンクする文章においてセントクリストファー・ネービスは、海水面上昇に対する「適応」ではなく「反応(responses)」の効果性に言及するよう提案し、受け入れられ、このパラグラフは承認された。
SPMの最終文書:セクションAは、観測された変化及び影響を論じる。
サブセクションA1は、地球温暖化に対応する雪氷圏の広範な縮小を論じており、次の点を指摘する:
- 世界中の氷床及び氷河の質量損失;
- 北極の6月の陸上積雪面積は、1997年以後、約250万平方キロ縮小した;
- 永久凍土の温度は、最高レベルまで上昇しており、永久凍土には大気中の2倍のカーボンが含有されていることから懸念されている;
- 1979年以後、北極海の氷床面積は、一年の全ての月で前年を下回る可能性が極めて高い。
サブセクションA1は、図SPM.1を含んでおり、これはGMSL、海面及び海面上の気温、海の表層のpH、北極海の結氷及び積雪面積、永久凍土の面積、海洋の熱の含有量、氷床の質量損失のこれまでの変化を示す。さらに、RCP2.6及びRCP8.5のシナリオの下でのこれら変数の将来の傾向も示す。
ボックスSPM.1は、IPCCの作業におけるRCPシナリオの利用について説明し、各シナリオに伴う温度上昇として可能性が高いものを図示している、さらにこの報告書は主に高い緩和シナリオ(RCP2.6)と緩和なしシナリオ(RCP8.5)の比較を用いており、これは将来可能な範囲を示すためであると指摘する。
サブセクションA2は、地球の海洋温暖化を論じ、下記を強調する:
- 1970以後、海洋は、大気中の余剰熱の90%以上を取り込んできた;
- 人為的な強制力に主導され、1993年以後、吸収率は2倍以上となった;
- 深度2000m以上の深海も温暖化している、特に南洋域で温暖化している;
- 1982年以後、海の熱波は頻度が倍増しており、その期間も長期化し、強度も増し、範囲も広がっている;
- 表面の温暖化及び新たに融解した水の増量により、表層の海水及び深海の海水の自然な混合が止められている;
- 海洋は、1980年代以後、人為的なCO2排出量の20-30%を吸収しており、顕著な酸性化を招いている;
- 海洋上層は、1970年から2010年の間に酸素の3.3%を失っており、酸素極少層は3-8%、拡大している可能性が高い;
- AMOCは1900年と比較して弱まっている証拠があるが、これを人為的な強制力に起因させるだけの証拠はない。
サブセクションA3はGMSLの上昇を論じており、下記を指摘する:
- 2006–2015年のGMSL上昇率は、年3.6 mmであり、過去1世紀に例をみないものである、さらに1970年以後では、これは主に人為的な強制力を原因とする;
- 南極氷床の質量減少は、2007-2016年の10年間でその前の10年間の3倍となり、グリーンランドの氷床では2倍となった;
- 南極のもの(氷床質量減少)だけでも、数世紀中に数メートルの海水面上昇を招く可能性がある;
- 極端な海水面現象、沿岸の浸食、洪水の可能性を高める極端な高波は、南大西洋では、1985年以後、年1.0cm近く上昇してきた;
- 人為的な気候変動は、一部の熱帯サイクロンに伴う降水量、風、極端な海水面現象を強めてきた。
サブセクションA4は、氷の融解、積雪面積の後退、永久凍土の融解が高山地域及び極地域の植物相及び動物相に与える影響を論じており、下記を強調する:
- 高山地域及び極地域の植物種及び動物種は、影響を受けており、一部のものはその生息範囲を拡大し、他のものは、絶滅の危機に直面する;
- 植物の生産性はツンドラ地域全体で増加しており、寒帯林では減少している。
サブセクションA5は、海洋生物種に対する影響を論じ、下記を観察している:
- 1950年代以後、海洋生物種はその生息範囲を極地方向に移動してきた可能性が極めて高く、その速度は10年間で29-52 kmの範囲であり、生態系の構造及び機能に影響を与えている;
- 北極の春季の植物プランクトンの異常増殖(blooms)は、氷の無い水域(ice-free waters)では発生時期が早まり、増加している;
- 極地の海氷の減少は、これに依存する海の哺乳類及び鳥類の生息域を縮小させており、狩の成功率及び餌の分布に影響を与えている;
- 酸素の減少及び酸性化の高まりは、海洋におけるもっとも生産性の高い湧昇流システムの二つ、すなわちカリフォルニア海流及びフンボルト海流の両方において、バイオマスの生産量及び生物種の構成にマイナスの影響を与えている;
- 海洋の温暖化は、最大漁獲可能量の全体的な現象に寄与しており、乱獲による影響を増幅させている。
サブセクションA6は、多数の気候関連推進要素による沿岸生態系への影響を論じており、この中には、海洋の温暖化、海の熱波の高まり、酸性化、酸素の減少、海水の侵入、海水面上昇が含まれる。ここでは下記を指摘する:
- 海草の草原やケルプの森及びマングローブが失われることは、顕著なCO2の排出の原因となり、嵐に対する沿岸の保護機能を削減する;
- 海洋の温暖化は、人類の発展の効果を悪化させ、低酸素海域(いわゆる「死の海域(dead zones)」)の拡大を招く;
- 海水面上昇は、沿岸の生態系における生物多様性及び生態系の機能性の損失を意味し、沿岸湿地帯(marshes)及びマングローブを内陸方向へ移動させる場合が多い;
- 海の熱波は、大規模なサンゴ白化現象を発生させ、その頻度を高め、1997年以後、世界各地のサンゴ礁の劣化の原因となっている。
サブセクションA6には、図SPM 2も含まれ、海洋及び雪氷圏で観測された変化を地域別に示している。
サブセクションA7は、雪氷圏の縮小が地方の人口、特に先住民に与える影響を論じ、下記を強調する:
- (動物の)群れ作り、狩猟、漁業、集合は攪乱され、北極域の住民の食料及び水の安全保障、くらし、文化的なアイデンティティに悪影響を及ぼす;
- 氷河の後退及び積雪面積の変化は、ヒンズークシ・ヒマラヤ及び熱帯アンデスなどの高山地帯における農作物の収率の局地的な低下に寄与してきた;
- 北極における影響では、特に先住民の間で、食事及び水を媒介する伝染病、栄養不足、負傷、精神的な健康面の課題におけるリスクが増大している;
- 一部の高山地帯においては、氷河の融解及び永久凍土の融解で放出された水銀により、水が汚染されている;
- 北極の住民及び産業は、それぞれの活動のタイミングを適応させ始めており、多数の課題はあるが、気候関係のインフラの機能不全にも取り組み始めている;
- 氷結なしの北極海での船舶輸送は増加しており、これにより北極の生態系及び沿岸の地域社会では局地的な汚染が増加し、外来種侵入のリスクが高まっている;
- 雪及び氷河の融解の時期及び質量の変更は、主要河川の流域に影響を与えており、この中には水力発電施設への影響も含まれる;
- 高山地域における氷河及び積雪の減少は、観光及び娯楽部門にとり痛手となり、美観的及び文化的な影響を及ぼす。
サブセクションA8は、海洋の変化が海洋の生態系及び生態系サービスに与える影響を論じ、次のように記述する:
- 温暖化に起因する生物種の分布及び豊饒性の変化は、漁業に依存する先住民や地方のコミュニティに悪影響を及ぼす;
- これらの変化は、生態系の十全性を確保し、漁業資源を共有する目的での漁業規制に責任を負う国際的な統治体制に課題をつきつけている;
- 気候関連の推進要素は、1980年代以後、沿岸地帯での有害な海藻の異常増殖の範囲及び頻度の増加に寄与しており、食糧安全保障、観光、地方経済、人間の健康に悪影響を与えている。
サブセクションA9は、沿岸コミュニティが曝されている多数の気候関連ハザードを論じ、下記を指摘する:
- ハザードには、熱帯サイクロン、極端な海水面の異常、洪水、海の熱波、海氷の損失、永久凍土の融解が含まれる;
- 気候変動は、これらのハザードを推進する多数の要素の一つである、これ以外の要素は地下水からの取水、汚染、生息地の劣化、サンゴ礁及び砂の採掘である;
- 沿岸防備には、インフラの構築と生態系の作用の組み合わせを用いる場合が増えている;
- 適応策としての沿岸の人々の内陸移住が見られるが、通常、少人数のコミュニティに限られている。
B:予想される変化及びリスク
このセクションは、予測される物理的な変化、生態系において予測されるリスク、人々及び生態系サービスで予測されるリスクを論じる。エクアドル、タンザニア、インドの要請を受け、この報告書がRCP2.5及びRCP8.6の排出シナリオに専ら注目している理由を説明するため、このセクションの初めに脚注が挿入された。文章作成のハドルでの議論を経て、この脚注は承認された。
予想される物理的な変化:B1:このサブセクションは、予想される氷河の質量損失、永久凍土の融解、積雪面積及び北極海の氷の面積の減少を論じる。参加者は、GHG排出量における「野心的な(ambitious)」削減に言及するかどうか、冒頭の文章において、特に氷床の変化に関する新しい文章を反映させるべきかどうか、反映させる場合は、どのように反映させるかを議論した。非公式な議論の後、冒頭の文章は、この追加を行ったうえで合意された。
B1.1:予想される氷河の質量の減少及びこれに対応した海水面への上昇影響に関するパラグラフは、提示された通りで承認された。
B1.2:ドイツの提案を受け、執筆者は、新しいパラグラフを追加した、これはグリーンランドの氷床で予想される海水面上昇寄与分と南極氷床で予想される寄与分とを比較する文章である。この文章は、現在では、グリーンランド氷床の海水面上昇寄与分の方が大きいが、2100年までには、南極氷床の急速な後退の結果、南極の寄与分が大きくなる可能性があると指摘する。さらにこの文章は、RCP2.6及びRCP8.5の下で予想される数字を示す。多少の修正を経て、このパラグラフは承認された。
B1.3:北極の秋季及び春季の積雪面積で予想される減少に関するパラグラフは、若干の編集上の変更を経て、承認された。
B1.4:広範な永久凍土の融解に関するパラグラフについて、カナダは、今世紀で予想される永久凍土融解の変化の規模に関する確信度の文章を追加するよう提案した。
永久凍土の融解によるCO2及びメタンの放出に関する文章について、Friends World Committee for Consultationは、永久凍土のカーボンが100億トンから1千億トン放出されるなら、気候変動を「顕著に(significantly)」悪化させる可能性があるとする表現を提案した。サウジアラビアは、そのような大量の放出を予想しているのはRCP8.5のみであることを明確にする文章を求めた。インドは、低排出シナリオでは予想される放出量が小さいとする言及は、「多少の汚染は受け入れ可能(polluting a little is acceptable)」であることを意味する可能性があるとして、懸念を表明した。これらの問題は執筆者の方で議論する。
月曜日、執筆者は、改定案を提示、メタンについては、RCP8.5の下で大気中に放出されるものとしての議論に限定し、低排出シナリオは永久凍土地域からのカーボン排出量の放出をゆるやかにすると明記する。さらに執筆者は、 2007-2017年からの化石燃料および土地利用変化に起因する毎年のCO2排出量について新しい脚注を提案した。さらなるハドルでの議論及びサウジアラビア並びにオランダのコメント発表の後、この脚注には化石燃料及び土地利用への言及はせず、代わりに2003年から2012年の間の人為的なメタン排出量の年間平均値を明記し、さらに2007年から2017年での年間CO2排出量を示す数値も明記することで同意した。
B1.5:山岳地域ハザードに関するパラグラフは、提示された通りで同意された。
B1.6:高山の盆地における河川の流出(runoff)に関するパラグラフについて、フランス及びインドはそれぞれ、その例のリストの中で、欧州アルプスとピレネー山脈、及びヒマラヤを特定するよう提案した。一人の執筆者は、アンデス及び欧州アルプス以外の地域に関する研究は、もしあったとしても、極めて少数であると答えた。
WGI副議長のCarolina Veraを進行役とするハドルでの議論の後、RCP8.5シナリオの下で2100年までに予想される氷河からの流出量低下は、数か所の大河の流域において、融水期の少なくとも1か月間、盆地からの流出量を10%以上削減する可能性があり、特に、アジアの高山地帯の乾季にこれが起こると記述する新しい文章が承認された。
B1.7:2050年からの北極海の海氷で予想される損失量の差異 に関するパラグラフについて、フランスは、2℃を超える温暖化水準の情報追加を要請した。数名の参加者は、2050年以後の喪失量にのみ言及することに疑問を呈した。非公式協議の後、執筆者は、これに応じて、北極海の海氷の質量損失は世紀半ばまで続くと予想されると特定する改定文書を提出した。別な細かい変更を行った上で、このパラグラフは合意された。
B2:このサブセクションは、前例のない海洋の状況に対する海洋の転換を論じており、これらの状況には、層化、酸性化、頻繁なエルニーニョ現象が含まれる。執筆者は、冒頭の文章にラニーニャ現象やカーボンの輸出への言及を追加し、サブパラグラフでの最近の変更点を反映させるよう提案した。サウジアラビアは、全ての状況が実際に「前例がないもの(unprecedented)」かどうか疑問視し、執筆者は、カーボンの輸出への言及を取り下げ、これは表示に値しないと指摘した。このような変更を行った上で、この文章は承認された。
B2.1:フランスは、海洋の年平均密度で予想される層化により栄養素及び酸素の垂直方向のフラックスは停止するという文章で、カーボンの浸透に言及するよう提案し、これをうけ、 海洋温暖化に関するパラグラフは合意された。
B2.2:海洋の酸素含有量に関するパラグラフは、海洋に向けてのカーボンの輸出減少に言及するというフランスの要請を受け入れた後、承認された。
B2.3:外洋の海面pHに関するパラグラフについて、多数のものは、政策決定者にはテクニカルすぎる表現が用いられているとして嘆いた。2100年までの海洋によるカーボンの吸収継続で海洋の酸性化が悪化することは、ほぼ確実であるいう前回のSPM草案にある文章に戻し、読みやすさを高めるなどの修正を加えた上で、このパラグラフは承認された。
B2.4:このパラグラフは、海洋酸性化、温暖化、酸素の損失の同時発生という外洋生態系に対するリスクを論じている。米国は、このパラグラフで言及する3つの推進要素がRCP8.5シナリオにおいて海洋表面の「60%以上(over 60%)」に影響を与えるかどうか疑問を呈し、基となる報告書の統計では正味の一次生産量および硝酸塩含有量にも依存していると指摘した。ハドルでの議論ののち、執筆者は、5つの推進要素全てが海洋生態系の変化に影響を与えると記述する文章を提案、修正されたパラグラフが承認された。
B2.5:海の熱波に関するパラグラフについて、トリニダード・トバゴ、ポルトガル、米国のコメントを受け、「規模(magnitude)」の増大を「強度(intensity)」の増大に置換した。地球温暖化の下では、海の熱波はその頻度、期間、空間規模、強度をさらに増大させると記述する新しい文章も追加された。
B2.6:極端な現象の頻度及び強度で予想される増加に関するパラグラフは、前回の草案ではエルニーニョ現象のみに言及していたが、スペイン、タンザニア、チリ、ジンバブエ、ケニア、ニカラグア、その他の提案通り、ラニーニャ現象への言及も含めるよう改定された。ケニア、ジンバブエ、その他は、インド洋ダイポール現象への言及も含めるよう求め、執筆者も同意した。
執筆者による追加の改訂を経て、新しい文章が提示された、この文章には、極端なラニーニャ現象の予測、およびインド洋ダイポール現象が地域の気候変動性を推進するとの追加の記述が含まれた。両方のRCPシナリオの下で、極端なエルニーニョ現象の発生予測頻度は21世紀中では20世紀中の2倍になるとの記述に関する長時間の議論ののち、この文章が保持され、パラグラフは合意された。
B2.7:AMOCの予想される弱体化に関するパラグラフは議論を招いた、この中にはAMOCの「全ての実質的な(any substantial)」弱体化の説明要請も含まれた。執筆者とのハドルでの議論、およびベルギーの提案に基づき、そのような変化は地球温暖化のシグナルに追加的なものであると指摘する文章が追加された。追加の確信度文章を挿入し、このパラグラフは合意された。
B3:予測される海水面上昇および極端な海水面現象に関するサブセクションは、最初、プレナリーで議論され、その後コンタクトグループで議論された、ここでは極端な海水面現象に関する図SPM.4も議論された。ノルウェー、英国、オーストラリア、アイルランド、ベリーズ、その他など、多数の国は、情報の一部はAR5以後の新しいものであると指摘し、その政策関連性に注目し、RCP2.6およびRCP8.5シナリオの違いに関する文章の明確化、および2100年以後の海水面上昇の議論を求めた。
米国は、文章の中で、さらには関連するSROCCの図において、海水面上昇および極端な現象への暴露に言及するよう求めた。
サウジアラビアは、中間レベルシナリオという自国の提案を再度示した。さらに同代表は、緩和への言及に疑問を呈し、SROCCはWG I及びIIの報告書であるとし、「人為的な沈下(human-induced subsidence)」という用語の明確化を求めた。
このサブセクションの全パラグラフの議論はコンタクトグループで続けられた。
このサブセクションの冒頭の文章は、さらなる大きな変更なく合意された。
B3.1:RCP2.6及びRCP8.5の下で予測されるGMSLの上昇に関するパラグラフは、コンタクトグループでの議論に基づく改定を経て承認された。
B3.2:予測されるGMSLの地域的な多様性に関するパラグラフは、コンタクトグループでの議論を経て、改定されることなく合意された。
B3.3:このパラグラフは、GMSL上昇率を扱う。執筆者は、コンタクトグループで改定された文章、およびオーストラリアに応えた文章を提示し、懸念材料としての西南極氷床への言及を変更し、「南極氷床の一部(parts of the Antarctic Icesheet)」に言及することとした、この改定されたパラグラフで合意された。
B3.4:GMSLの上昇が極端な海水面現象の頻度に与える影響に関するパラグラフは、コンタクトグループで修正され、RCP8.5、RCP4.5、RCP2.6シナリオの下での歴史的な世紀規模の現象での予測頻度に関する表現を含めることとした。その後、このパラグラフは、提示された通りで合意された。
B3.5:波高、沿岸の潮汐差およびパターン、沿岸ハザードに関するパラグラフは、コンタクトグループで修正され、熱帯性サイクロンおよび沿岸ハザードに関する文章は新しいパラグラフに移された。
B3.6:熱帯性サイクロンによる沿岸ハザードの悪化、および高潮の強度と規模の増大による沿岸ハザードの悪化に関する新しいパラグラフは、コンタクトグループでの議論を経て、提示されたとおり承認された。
生態系で予測されるリスク:B4:このセクションは、高山地帯及び極地域における陸上雪氷圏の変化が生物種および野火に与える影響を論じる。冒頭の文章は、サブセクションの残りの部分との一貫性を高める文章にするという若干の変更を経て合意された。
B4.1-B4.3:次に関するパラグラフは、コメントなし、または多少の修正を経て受け入れられた:高山地域における多数の高山生物種の個体数減少;北極の陸地部における世界的にユニークな生物多様性喪失の予測;北極及び山岳の水文学及び野火に対し、永久凍土の融解及び雪の減少が与える影響。
B5:このサブセクションは、海洋動物コミュニティ、その生産性、漁獲量ポテンシャルを論じる。冒頭の文章に関し、ドイツは、生物多様性の最終的な喪失に言及するよう要請したが、執筆者は、文献からそのような結論を引き出すことはできないと述べた。より明確にするための修正を経て、このパラグラフは承認された。
B5.1:海洋生態系のバイオマス、生産、コミュニティ構造への影響を論じるパラグラフは、改定されることなく承認された。
B5.2:層化の強まり、及び栄養分の供給削減への影響を論じるパラグラフに関し、スペインは、氷河の融解による栄養分供給に言及する可能性はどうかと問うた。執筆者は、これは重要な動力学だが、文献はこれを含める根拠とするには文献が少なすぎたと応え、この文章は改定なしで承認された。
B5.3:温暖化、酸性化、季節的な海氷面積の縮小、多年海氷の損失が極地の海洋生態系、たとえば鳥類、魚類、海の哺乳類などに与える影響に関するパラグラフは、議論や改定なしで受け入れられた。
B5.4:このパラグラフは、海面から深海に至る海洋において、海洋温暖化、酸素の損失、酸性化、有機カーボンのフラックス低下が冷水サンゴに与える影響を論じる。ノルウェーは、海洋酸性化の影響も議論するよう提案したが、執筆者は、暖水サンゴに対する影響は文献で証明されているが、冷水サンゴでは証拠がないと指摘した。このパラグラフは、提示された通りで受け入れられた。
図SPM.3:気候変動の結果として予測される海洋生態系の変化、影響、リスク:この図は、火曜日のプレナリーで議論された。執筆者は、参加者からのコメントに基づき改定された図を提示した。執筆者は特に次を指摘した:「燃える炎(burning embers)」の図という手法のトレーサビリティを高め、初期のSRsへのリンクをつけるという、ドイツ、米国、ロシア、カナダの要請;地図の見やすさ及びシャドーのコントラストを改善する努力;燃える炎の図におけるリスク評価の時間枠を明確化;確信度レベル及び不確実性用語の使用。
ハドルでの議論を受け、図のさらなる改善に向けた改正及び修正を追加し、この図は合意された。
B6:このサブセクションは、沿岸部生態系の生物多様性、構造、機能に関し予測される深刻な影響のリスクを論じる。一定の議論及び明確化がなされたのち、海草の草原及びケルプ(昆布類)の森など脆弱な生態系への言及は、1.5oC(の温暖化)におけるものから、2oCにおけるものへと変更された、これは図SPM.3によると、計算の根拠が海面温度ではなく、地球規模表面気温に基づくものとなったためである。
サウジアラビアは、暖水サンゴは1.5oC以下の地球温暖化でも極めて高いリスクを経験すると予想されるとの記述について、余剰な表現であり基となる報告書と合致するかどうか疑問であるとして、この文章の削除を提案したが、セントクリストファー・ネービス、フランス、ノルウェー、フィジー、ベルギー、オーストラリア、メキシコ、その他は反対した。執筆者は、これは確信度が高く、特異性もあるとして記述された通りの文章保持を希望した。
ハドルでのさらなる議論ののち、この文章は合意された。
B6.1:沿岸生態系で予測されるリスクレベルに関するパラグラフについて、執筆者は、1.5oCの温暖化であっても海草の草原、昆布の森、サンゴ礁にはリスクがあるとする文章に関し、同様の表現が冒頭の文章に移されたことを理由に、この削除を提案した。改定されたパラグラフで合意された。:
B6.2:沿岸の植生及びこれに伴う炭素貯留の損失リスクに関するパラグラフでは、執筆者は、ドイツの提案に応じ、リスクはさらなる温暖化で増すことになるとする文章を追加した。改定された文章で合意された。
B6.3:このパラグラフは、浅い河口部の鹹水化及び低酸素状態の拡大が生物相に与えるリスクを扱う。ルクセンブルグは、このパラグラフの中の二つの文章は低排出シナリオと高排出シナリオの間の違いで矛盾があるようだとし、懸念を表明した。このパラグラフは、対立するシナリオについての言及を全て削除する改定が行われ、合意された。
B6.4:ほぼ全ての暖水サンゴ礁は地球温暖化が1.5 C以下のままでも面積の顕著な損失及び局地的な絶滅を被ると予想されると記述するパラグラフについて、サウジアラビアは、以前の文章では地球温暖化が2oC以下のままでも面積の顕著な損失及び局地的な絶滅が予想されるとなっていたが、この文章では、1.5°C以下のままでもとなっているとし、その理由を問うた。執筆者は、基となる報告書での誤記に起因するとした。サウジアラビアは、基となる報告書を引用し、「1.5oC以下(below 1.5oC)」は誤りだと主張、執筆者はこれに応えて、「たとえ地球温暖化が1.5oCまでで制限されていても(even if global warming is limited to 1.5oC)」、サンゴ礁には損害があると予測する文章を引用した。非公式協議後、このパラグラフは提示されたとおりで合意された。
人々及び生態系サービスで予測されるリスク:B7:このサブセクションは、水資源及びその利用に対し予測されるリスク、及びインフラ、文化、観光、娯楽用の資産に対するリスクの増大を論じる。冒頭の文章は提示された通りで承認された。
B7.1:高山地帯及び北極における人間の居住リスク及び生活のオプションを論じるパラグラフは、スイスからの要請を受け、新しい文章が追加され、顕著なリスク軽減及び適応戦略は山岳部の洪水及び土砂崩れハザードの影響拡大の回避を進めると記載された。このパラグラフは、この追加をもって合意された。
B7.2-B7.3:北極及び高山地帯のインフラ、及び高山での観光、娯楽、文化的資産に対する永久凍土融解の影響に関するパラグラフは、提示された通りで合意された。
B8:このサブセクションは、魚種の分布、資源量、漁獲ポテンシャルの将来的なシフトが海洋依存型地域社会に与える影響を論じる。冒頭の文章はコメントなしで承認された。
B8.1:RCP2.6と比較したRCP8.5シナリオの下での世界の海洋動物のバイオマス及び漁獲量ポテンシャルの地理的なシフト及び現象の予測に関するパラグラフは、提示された通りで承認された。
B8.2:サンゴ礁で予測される減少に関するパラグラフでは、ノルウェーの質問に応え、「暖水(warm water)」サンゴ礁が特定された。サウジアラビアへの対応として、このパラグラフの視点(引用リスト)からSRCCLへの言及を削除した。
B8.3:地球温暖化が海産物の安全性を損なうことに関し、執筆者は、リスクが高まるものとしてコレラを特定するとのスペインの提案、あるいはビブリオ菌(Vibrio )の病原菌の極地方向への拡大に言及するとのエストニアの要請に同意しなかった。このパラグラフは、変更されることなく承認された。
B8.4:海洋生態系及びそのサービスへの影響からリスクを受ける生命及び生活の重要な文化面に関するパラグラフは、提示された通りで承認された。
B9:このサブセクションは、低高度沿岸地帯の人間社会におけるリスク及び、そのリスクを削減することが期待される転換型のガバナンスなど野心的な適応を論じる。冒頭の文章は提示された通りで合意された。
B9.1:このパラグラフは、海水面上昇及びこれに伴う極端な現象に関係するリスクを論じる。フィジーは、セントクリストファー・ネービスの支持を得て、熱帯性サイクロンへの言及を求めた。執筆者は、この挿入に合意した。
セントクリストファー・ネービスは、土地の損失への言及を含めることも求め、結局、合意された。
これらの文章は、これに続くパラグラフでの適応の限界に関する別な文章とともに、ハドルで議論され、結局、このグループが提示した通りで合意された。
B9.2:このパラグラフは、サンゴ礁の環境、都市化された環礁島、低高度北極地方の脆弱なコミュニティが海水面上昇から受けるリスクを論じる。オーストラリアと米国は、適応の限界への言及について、どういうタイプの限界を意味するか質問した。執筆者は、これは適応の限界の全範囲を対象としており、このため一般的な記述が適切であったと説明した。この文章は、以前のパラグラフの文章とともにハドルで議論され、追加コメントなしで、グループの提示した通り合意された。
B9.3:このパラグラフは、気候に関係する海洋及び雪氷圏の変化が緩慢であれば適応の機会は高まることを論じる。ベリーズは、人口密度の高い都市部での投資は一般的には費用効果が高いが、農村部及び貧困層の地域でそのような適応投資を行うことには課題があり、一部の小島嶼では毎年のコストが国内総生産(GDP)の数%に及ぶと記述する文章を提案した。この文章はハドルに送られ、結局、追加のコメントなしで、ハドルで改定された通り合意された。
図SPM.4:極端な海水面現象:ベネズエラは、ナイジェリア、エクアドル、ブラジルの支持を得て、この図にある多数の沿岸部の空白部分、たとえばアフリカ及び中南米の大部分は、データがないこと、あるいは既存のデータの評価に基づくと影響がないことを示しているのか質問した。カナダは、歴史的な世紀単位の現象に関するパネルの中に垂直方向の陸地移動のためそのような現象が起きる可能性が低い場所を示すよう修正することを求めた。サウジアラビアは、RCP2.6シナリオと比較し、RCP8.5シナリオの下では、このような現象が毎年発生するようになるのが10年早くなると予測される地域を示すパネルに、確信度を付けるよう求め、これら二つのシナリオのみの表示に異議を唱えた。
A ハドルでは、多数の改訂が行われた、この中には、シナリオの違いに関するパネルの中に、歴史的な世紀規模の現象に関し、2100年以前に海水面上昇を経験しないという新しい場所の分類が含まれる。執筆者は、グラフの中にRCP4.5を含めるようにとの要請にこたえていないが、これはRCP2.6とRCP8.5の差でも目立たない場合が多く、RCP 4.5の結果を入れてもほとんど何の新しい情報も加わらないためであると説明した。改定されたグラフは追加の変更なしで承認された。
図で改定された表題には次のものが含まれる:空白の地域は、影響なしを示すのではなく、むしろデータの欠如を示すと明記する文章の追加;基となる報告書の第4章に記載されるRCP4.5のデータで海水面上昇及び低高度島嶼部、沿岸部、コミュニティに関するものの参照。表題は多少の編集上の変更を経ただけで承認された。
SPMの最終稿:セクションBは、予測される物理的な変化、予測される生態系への影響、予測される人々及び生態系への影響を論じる。
サブセクションB1は、近未来における地球規模の氷河の質量損失、永久凍土の融解、積雪面積及び北極海の結氷面積の縮小を論じるもので、下記を強調する:
- 2015年から2100年の期間において予測される氷河の質量減少及び損失の範囲;
- 小規模氷河が主である地域では、RCP8.5シナリオの下、2100年までに現在の氷河の質量の80%以上が失われると予想され、将来の排出量に係わらず、多数の氷河が消滅すると予想される;
- 2100年までに、グリーンランド氷床は、GMSL上昇に7 cm (RCP2.6)から15 cm (RCP8.5)寄与すると予想され、南極氷床の寄与分は4 cm (RCP2.6)から12 cm (RCP8.5)であると予想される;
- 北極の秋季及び春季の積雪面積は、RCP2.6シナリオの下では近未来に1986-2005年比で5-10%縮小すると予想され、RCP8.5シナリオの下では2100年までにさらに15-15%縮小すると予想される;
- RCP2.6シナリオ及びRCP8.5シナリオの両方においては、今世紀及びそれ以後で永久凍土が広範に融解すると予想される;
- 高山地帯では、氷河の後退及び永久凍土の融解が予想され、傾斜部の安定性が損なわれるほか、氷河湖の数及び洪水や土砂崩れ、雪崩が増加する;
- 全ての排出シナリオにおいて、氷河からの流水量は2100年またはそれ以前にピークに達すると予想され、熱帯アンデス及びアルプスなど、氷河の面積が小さい地域ではすでにピークに達したとみられる;
- 積雪が中心または氷河を源泉とする高山の河川域における河川の流量で予想される変化;
- 北極海の海氷は2050年まで失われ続けると予想される、それ以後は、地球温暖化の規模により、異なってくる。
サブセクションB2は、予想される海洋の前例のない状態への転換を論じ、下記を強調する:
- 海洋は、21世紀を通して温暖化し続け、2000メートルまでの深度では1970年以後観測された海洋の累積熱吸収量と比し、RCP8.5シナリオでは5-7倍、RCP2.6シナリオでは2-4倍の熱を吸収すると予想される;
- 海洋の酸素含有量、海洋上層の硝酸塩、正味の一次生産量、炭素の拡散は、2081-2100年までに2006-2015年比で世界的に減少すると予想される;
- 海洋酸性化は、2100年までの海洋による炭素の吸収継続で悪化する;
- 海洋外洋の生態系のリスクは高まっており、これは現在展開している前例のない気候条件が理由である;
- 1850-1900年と比し、海の熱波は、2100年までに頻度を増すと予想され、RCP8.5シナリオでは50倍、RCP2.6シナリオでは20倍と予想され、その強度はRCP8.5シナリオで10倍増加すると予想される;
- 極端なエルニーニョ現象及びラニーニャ現象は、21世紀において頻度が倍増する可能性が高く、既存のハザードを一層高めると予想される;
- AMOCは、全てのRCPsシナリオにおいて、21世紀中の衰弱が予想される、ただしその崩壊の可能性は極めて低い。
サブセクションB3は、継続的な海水面上昇率の増加及び極端な海水面現象の頻度増加に関するもので、下記を強調する:
- 2081-2100年の間、RCP2.6シナリオ及びRCP8.5シナリオの両方でGMSLの上昇が予想されており、南極氷床での氷の質量損失が大きいと予想されることから、AR5での予測より大きくなる;
- 海水面予測は、GMSLを取り巻く地域差を示しており、重要な地域差は気候以外のプロセスで動かされる;
- GMSLの上昇率は、RCP8.5シナリオでは2100年で年15mmに達すると予想され、その後は年数センチとなる、南極の氷棚及び氷床の不安定性により海水面が相当程度高い数値で上昇する場合、海水面上昇に対する南極の寄与分はさらに高まる;
- GMSLの上昇は、大半の場所で、極端な海水面現象の頻度を高める原因となり、歴史的には100年に一度発生してきた局地的な海水面現象が2100年には全てのシナリオで毎年発生することになる;
- 顕著な高波は、一部の地域では増加するが、他の地域では減少し、海水面上昇及び沿岸の適応措置で局地的な沿岸ハザードが強化される、または緩和されることから潮汐の振幅及びパターンも変化する;
- 沿岸ハザードは、高潮の強度及び規模の平均値が高まり、熱帯サイクロンの降水率も高まることで悪化する。
サブセクションB4は、将来の陸地雪氷圏の変化から陸上生態系及び淡水生態系で予想されるリスクを対象とする。下記が強調される:
- 低地の生物種によるさらなる上層方向への移動、生息範囲の縮小、死亡率の増加は、高山地帯での高山生物種の多くの個体数減少を招く;
- 一部の高山―北極の生物種では、限られた避難場所しかないことから、世界的に特異性のある生物多様性が失われると予想される;
- 永久凍土の融解及び積雪面積の減少は、北極及び山岳部の水文学、野火の発生に影響を与え、植生及び野生生物にも影響を与える;
- 野火は、ツンドラ地帯及び寒帯、さらには一部の山岳部の大半で、今世紀の残りの期間、増加するとみられる。
サブセクションB5は、海洋動物コミュニティのバイオマス、その生産量、漁獲ポテンシャルの世界的な減少を論じるほか、21世紀中の生物種の構成比転換も論じる。下記に焦点が当てられる:
- 予想される海洋温暖化及び正味の一次生産量の変化は、2100年までに、海洋生態系のバイオマス、生産量、コミュニティ構造を変化させ、最大漁獲量ポテンシャルも変化させる;
- 成層化が進んだ場合、栄養分の供給量削減は、熱帯の海洋における正味の第一次生産量を2100年までに16%以下減少させ、温暖化及び海氷の変化は、北極及び南極近辺の海洋における正味の一次生産量増加の原因となり、世界的には、海洋表層部の有機物の沈降フラックスが減少すると予想される;
- 温暖化、海洋酸性化、季節的な海氷面積の縮小、多年海氷の継続的な損失は、生息地や個体数及びその生存能力に関する直接間接の効果で、極地の海洋生態系に影響を与えると予想される;
- 海洋温暖化、酸素損失、酸性化、海洋の表層から深海までの有機カーボンのフラックス減少は、冷水サンゴの生息地提供能力を損なうと予想される。
サブセクションB5には図SPM.3も含まれる、この図は気候変動の結果としての海洋生態系の変化予想、影響、リスクを示す。
サブセクションB6は、高排出シナリオの下での気温上昇が沿岸生態系の生物多様性、構造、機能に深刻な影響を与えるリスクを論じる。このセクションは下記を記述する:
- 評価した沿岸生態系は全て、リスク度の高まりに直面すると予想される;
- 沿岸の植生及びこれに伴う炭素貯留は、1.5°Cの地球温暖化では中程度のリスクを有し、さらなる温暖化では増加する、沿岸部湿地の20-90%は2100年までに失われると予想される;
- 海洋温暖化、海水面上昇、潮汐の変化は、入り江や河口部において鹹水化及び低酸素状態を拡大すると予想され、一部の生物相に高いリスクを与える;
- 暖水サンゴ礁のほぼ全ては、地球温暖化が1.5°Cまでで制限されたとしても面積の大幅な損失及び局地的な絶滅となると予想される。
サブセクションB7は将来的な陸上雪氷圏の変化を論じており、このような変化は水資源や水の利用に影響を与えると予想される。下記を強調する:
- 高山地帯及び北極域での人間の居住及び生活オプションに対する災厄的なリスクは、洪水、火災、土砂崩れ、雪崩、氷及び雪の不安定な状況、人々及びインフラの曝露増大という将来的な変化のため、大きくなると予想される;
- 永久凍土の融解に誘起される陸地表面の沈降は、北極及び高山地帯における都市部及び農村部のコミュニケーション及び運輸インフラに影響を与えると予想される;
- 高山の観光、娯楽、文化資産は、将来の雪氷圏の変化で悪影響を受けると予想される。
サブセクションB8は、魚類の分布の将来的な転換、魚類の個体量及び漁獲量ポテンシャルの減少による、海洋資源依存型の地域社会の所得、生活、食糧安全保障への影響を論じる。下記を記述する:
- 世界の海洋動物のバイオマス及び漁獲量ポテンシャルで予想される地理的なシフト及び減少は、RCP8.5シナリオの場合、RCP2.6シナリオと比較し、より顕著なものになり、依存型人間社会の所得及び生活におけるリスクを高める;
- 暖水サンゴ礁の減少は、これらのサンゴ礁が人間社会に提供するサービスを大きく損ねると予想される、この中には、食糧の供給や安全性、沿岸の保護、観光などが含まれる;
- 地球温暖化は、海洋性の植物や動物に含まれる持続性の有機汚染物質及び水銀の生物性蓄積の高まり、水星のビブリオ菌の繁殖の高まり、有害な藻類ブルームの可能性の高まりに人間が曝露されることで、海産物の安全性を損ねる;
- 海洋生態系及びそのサービスに対する気候変動の影響は、生命及び生活の重要な文化面をリスクにさらすことになる、この中には、文化や地方及び先住民の知識の急速かつ不可逆的な喪失の可能性が含まれる;
サブセクションB9は、海水面上昇、海洋温暖化、酸性化の平均値の上昇及び極端化により低高度沿岸地帯の人間社会におけるリスクを悪化させるとの予想を強調する。下記に力点が置かれた:
- 平均海水面の上昇及び極端な現象により、リスクは、現在の傾向では野心的な適応努力がとられない限り、今世紀を通して顕著に増加すると予想される、毎年の沿岸地帯の洪水被害は、2100年までに2倍から3倍にまで増加すると予想される;
- サンゴ礁の環境、都市型環礁島嶼部、低高度の北極域の脆弱な地域社会は、高い排出量シナリオの下、2100年よりかなり前に海水面上昇から受けるリスクが高いから極めて高い水準に近づき、一部の島嶼国は、居住不能となる可能性が高い;
- 地球規模では、気候関連の海洋及び雪氷圏の変化が緩慢に進む場合、適応の機会が大きくなるが、転換型の変化に向けたガバナンスなど野心的な適応により多くの地方でリスクが軽減される可能性がある一方、そのような有益性は、地方により異なる可能性がある;
- 地球規模では、沿岸の保護策により、21世紀の間に洪水リスクの規模を2-3倍も削減できるが、これは数千億ドル規模の投資ができるかどうかにかかっており、多数の国にとっては問題となるレベルの投資である。
C:海洋及び雪氷圏の変化に対する対応策の実施
このセクションは、課題や対応オプションの強化、可能にする状況を論じる。
課題:C1:このサブセクションは、適応策の策定及び実施に向けた現在のガバナンス努力に対する課題の増大を論じる。冒頭の文章は、変更なく合意された。
C1.1:気候影響の時間規模をガバナンスのそれと比較し説明するパラグラフは、即、意見対立を招き、参加者は、「ガバナンス(governance)」という用語の使い方について、異なる意見表明を行った。サウジアラビアは、スイスと共に、この削除を主張、これは政策規範的であるとの確信を述べたが、米国は、トリニダード・トバゴの支持を得て、他の国連用語では「政府」と翻訳される可能性があると警告した。しかし、他の国は、他のIPCC報告書でのこの用語の使用を指摘した。
WG II共同議長のPörtnerは、IPCC副議長のSokonaを進行役とするコンタクトグループでの追加審議を提案した。サウジアラビアは、プレナリーで詳細な審議がされていない文章をコンタクトグループに送ることに強く反対した。長時間の議論の後、コンタクトグループが開催され、ガバナンス「システム(systems)」を「アレンジ(arrangements)」に置き換えた後、影響の時間規模の水平軸は計画サイクルや公的及び企業の意思決定サイクル、資金手段など、ガバナンスのアレンジの水平軸よりも長いと記述する新しい文章が執筆者から報告された。このパラグラフは改定されたとおりで合意された。
C1.2:このパラグラフは、現在のガバナンス・アレンジの限界を論じており、執筆者は、前述のパラグラフ同様、ガバナンス「システム(systems)」を「アレンジ(arrangements)」に置き換えるよう提案した。サウジアラビアは、子のパラグラフにはガバナンス・システムのタイプのうち合意された例を含めるよう求めたが、執筆者は、それは現在の内容では適切でないと指摘し、代わりに、「海洋保護区域、空間計画、及び水の管理体制(marine protected areas, spatial plans and water management regimes)」とするよう提案した。インドとトリニダード・トバゴは、高山地帯及びSIDSがそれぞれ直面するガバナンス上の困難への言及を求めた。執筆者は、SIDSに言及する文章を提案し、さらにガバナンス・システムが直面する課題のリストに「アクセス不能(inaccessibility)」を加えるよう提案した。これらの変更を行った上で、このパラグラフは合意された。
C1.3:このパラグラフは、生態系における適応への障壁及び限界を論じており、グレナダの要請で追加され、基となる報告書の第5章から直接引用された文章で構成される。(変化する海洋、海洋生態系、海洋依存型コミュニティ)このパラグラフは提示された通りで承認された。
C1.4:このパラグラフは、効果的な適応に対する資金、技術、制度、その他の障壁を扱う。グレナダは、このパラグラフには生態系の適応に対する障壁と限界への言及が含まれるのかどうかを質問し、執筆者は、これに特化した新しいパラグラフの追加を提案した。米国は、適応の限界というのは固定概念ではなく、内容により異なるものだと指摘し、オーストラリアの支持を得て、この点を文章に反映させるよう求めた。この文章はハドルでの議論に送られ、その結果、障壁が適応の限界として作用するかどうかは内容ごとの状況に依存すると指摘する文章に改定された。これらの改定を経て、パラグラフは合意された。
対応オプションの強化:C2:このサブセクションは、海洋及び雪氷圏に関係する生態系が提供するサービス及びオプションのサポートを論じる。海洋の保護、回復、生態系ベースの予防的管理に関する冒頭の文章について、サウジアラビアは、生態系ベースの適応は地球温暖化が1.5oCまでで抑制された場合にのみ効果があるとする文章に反対した。エストニアは、「1.5℃で抑制された地球温暖化(global warming limited to 1.5oC)」ではなく「最も低いレベルの温暖化(the lowest levels of arming)」という表現を提案した。この変更を受け、パラグラフは承認された。
C2.1:このパラグラフは、保護区域のネットワークが、いかにして山岳部の生態系サービスを助けるかを説明する、この中には、生態系内での生物種の生息範囲のシフトも含まれる。インドは、チリの支持を得て、北極への言及はあるが、国際的な保護区域の重要な例である南極条約への言及がない理由を質問した。執筆者は、同条約が生態系サービスの維持で果たした役割に関する文献の欠如を指摘し、北極を特定する言及を、より広範な「極地域(polar land regions)」への言及に替えることを提案した。この修正を経て、パラグラフは受け入れられた。
C2.2:このパラグラフは、生態系ベースの適応を高める上で局地的には効果的でありうる行動を論じており、この中には、陸上及び海洋の生息地回復、並びに生物種の移動支援やサンゴのガーデニングといった生態系管理ツールが含まれる。そのような行動が成功した理由に注目する文章について、サウジアラビアは、1.5°Cでの地球温暖化抑制ではなく、低排出シナリオへの言及保持を主張した。執筆者は、サンゴのガーデニングなど、一部の行動は気温が1.5°C以上上昇すると効果がないと応え、例としてサンゴの高温に対する敏感さを指摘、各国政府は可能な限り特定するよう指示したと述べた。
フィジー、セントクリストファー・ネービス、グレナダ、フランス、チリ、ルクセンブルグ、英国、モルディブ、ベリーズ、ニュージーランド、ドイツ、カナダ、メキシコ、キューバなど多数の国は、1.5°Cへの言及を支持し、°ベリーズは気温の上昇を2°Cまでで抑制したとしても、ほとんどすべてのサンゴ礁は、現在の状況より劣化すると警告した。
執筆者は、視界(line of sight)にSR15を加えるよう提案し、これはサンゴ礁も対象にしていると指摘した。サウジアラビアは、他のSRsの引用に反対したが、ニュージーランド及びその他は、この引用を支持した。サウジアラビアは、SR15を引用する場合はSR13におけるすべての知識のギャップにも言及し、その質を定義すべきだと述べた。他のIPCC報告書を引用する手順に関する疑問は、法律チームに回された。
月曜日の朝、IPCC法律官のSophie Schlingemannは、IPCC報告書を含め、承認され受理された報告書の引用には制限がないと報告した。サウジアラビアは、SROCC SPMにSR15を引用する場合は、SR15にある全ての知識のギャップを引用するようにとの自身の要請を再度述べた。
さらなる協議ののち、最低レベルの温暖化の下で最も成功する行動に言及する一方、サンゴは既に高いリスクを抱えていることから、サンゴ礁の回復オプションは温暖化が1.5℃を超える場合は効果がない可能性があると説明する文章で合意された。
C2.3:予防的な手法の強化及び既存の漁業管理戦略の対応性の強化に関するパラグラフについて、執筆者は、スペインの要請に応じ、「乱獲または枯渇した漁業資源の再構築など(such as rebuilding overexploited or depleted fisheries)」の手法に関する以前の草案の表現を回復した。この追加を経て、パラグラフは合意された。
C2.4:植生のある沿岸(ブルーカーボン:blue carbon)生態系の回復は緩和を助けると記述するパラグラフについて、ノルウェーは、英国及びグレナダの支持を得て、たとえそのような生態系が緩和に大きく寄与しない場合でも、その生態系を回復及び保護する必要があると指摘した。英国は、沿岸コミュニティの回復力、沿岸の保護、及び水の質を改善するなど、共同便益の表現を求めた。ブラジルは、スペインの支持を得て、「ブルーカーボン(blue carbon)」の定義で国際的に認められたものがあるかどうかを質問した。共同議長のRobertsは、このパラグラフを、改定した文章を提示した執筆者とのハドルの議論に回し、この改定された文章は受け入れられた。
C2.5:海洋の再生可能エネルギーを論じる新しいパラグラフは英国が提案したもので、アイルランド、ドイツ、エストニア、スペイン、ルクセンブルグ、米国、チリ、ノルウェー、ベルギー、メキシコが支持を表明した。サウジアラビアは、この挿入の合理性に疑問を呈した。英国は、これは適応における海洋と雪氷圏の役割に関する以前のパラグラフの議論に従ったものだと説明した。この文章は、米国の提案を受け、海洋からの再生可能エネルギーの生産ポテンシャルは気候変動の影響を受ける可能性があると指摘する文章が加えられ、このパラグラフは受け入れられた。
C2.6:総合的水管理手法に関するパラグラフは、そのような手法はマルチな規模にまたがる影響への対処に効果的でありうるとする表現に修正された
C3:このサブセクションは、沿岸コミュニティの対応策を論じる。冒頭の文章は提示された通りで合意された。
C3.1:海岸保護に関するパラグラフについて、執筆者は、インド及びスイスの要請を受け、ハードな海岸防護(hard protections)を費用効果のある対応オプションと位置付ける文章とし、特定の概念を考慮したと保証する表現を付した。
C3.2:このパラグラフは、多様なタイプの沿岸設備対策の有効性を論じる。タンザニアは、インドの支持を得て、「設備対策(accommodation measures)」という用語に異議を唱えた。執筆者は、この用語は文献では標準のものだと指摘し、AR5に対応する分類があるが、そのような対策の具体例を追加すれば明確さが改善すると付言した。トリニダード・トバゴは、用語集にある通り、「計画移転(planned relocation)」を言い直すため、「後退(retreat)」という表現を求め、合意された。セントクリストファー・ネービスは、トリニダード・トバゴ、ジャマイカ、ベリーズの支持を得て、海岸からの後退がオプションであるかのごとく暗示する表現に異議を唱え、これは適切で安全な土地が利用可能な場合のみのオプションであると主張した。ハドルで議論し、このような要請に応じ改定された文章の提示を受け、このパラグラフは、追加のコメントなしで合意された。
C3.3:海水面上昇に対応するガバナンスの課題及びこれに伴うリスク軽減に関するパラグラフは、「世代間の(inter-generational)」平等とともに「世代内の(intra-generational)」平等も加えるというサウジアラビアの提案を受け、修正された。
C3.4:海水面上昇に対する沿岸部の対応策の計画策定及び実施に関するパラグラフについて、EUは、リスク許容性が高い利害関係者の例として、「予想のつかない状況にも極めて容易に適応できる投資計画を立てるもの(those planning for investments that can be very easily adapted to unforeseen conditions)」への言及追加を提案した。この変更及び明確化のための他の多少の変更を経て、このパラグラフは合意された。
図SPM.5:海水面上昇のリスク及び対応策:参加者はこの図の4つのパネルについてコメントをした。当初の議論において、セントクリストファー・ネービス、トリニダード・トバゴ、ジャマイカ、フィジー、モルディブ、グレナダは、英国の支持を得て、適応には多数の障壁があることを認識し、「高い適応(high adaptation)」という分類を「理論上可能な最大の適応ポテンシャル(maximum theoretically possible adaptation potential)」という名称に替えるよう求めた。トリニダード・トバゴは、一部の島嶼はリスクが軽減されて初めて適応を達成できると述べた。ベリーズは、グレナダとともに、1.5°Cを超えるとサンゴの回復は不可能になることを想起した。カナダは、示された対応範囲は包括的なものではないと明記するよう提案した。
サウジアラビアは特に次のコメントをした:「資源が豊富な大都市(resource-rich megacities)」という新しい用語について質問した;「適応なしから中程度(no-to-moderate adaptation)」は、適応シナリオの広い範囲を対象とすると指摘した;資金面の実施可能性に疑念を呈した。
フィジーは、グレナダ及びモルディブとともに、移住及び転居は損失及び損害に関係し、十分な土地が利用可能かどうかに依存すると述べた。米国は、逆に、都市計画者及び他のものにとり、転居及び再構築は重要であると強調した。
共同議長のPörtnerは、IPCC副議長のKo Barrettを進行役とするハドルを提案、これに続いて、執筆者は、日曜日の午後、変更案を提示した、この草案は特に:
- 強制的な移住を示すため、2100年のリスクに関するパネルの中で適応と転居を差異化する;
- 「高い適応」を「最大限可能な適応(maximum potential adaptation)」に置き換える;
- リスク軽減を示す曲線、及び異なる概念の下での適応及び緩和により得られた時間を示す曲線は、リスク全体の曲線の形に近い近似値として面上昇を用いると明記する;
- 平均及び極端な海水面の上昇への対応に関するパネルでは、表題にある「沿岸の適応及び後退(coastal adaptation and retreat)」の記述を削除し、「移転(relocation)」から「立ち退き(displacement)」を分離する。
ニュージーランドは、ノルウェーの支持を得て、適応オプションとしての後退の排除に反対し、後退を2行に分け、1行は強制的後退とし、1行は適応オプションとしての後退にするよう提案した。米国は、後退をどう行うのか、より良い情報が必要だと指摘した。
WG II副議長のSergey Semenovは、対応オプションの効果性にのみ確信度を与えている理由を問うた。
英国は、海水面上昇を他の影響の近似値として用いることに疑問を呈し、高い適応には極めて大きな費用がかかわり、これが障壁となっていると指摘した。ドイツは、高い適応ではコストは考慮されていないと明白に認めることを提案した。
グレナダは、熱帯サイクロンなどの現象は考慮されていないと表題に反映させるよう提案した、考慮されるとリスクがさらに顕著に大きくなることを意味する。
共同議長のPörtnerは、WG II副議長のJacqueline Pereiraを進行役とするハドルを提案、続いて執筆者は、図SPM.5の第3版を提示した。WG II副議長のSemenovは、異なるリスクレベルが実際は何を伴うものかを説明する凡例の追加を提案した。
さらなるハドルでの議論ののち、執筆者は、下記を含める追加の変更について説明した:
- 対応策としての「後退(retreat)」を「計画移転(planned relocation)」と「強制立ち退き(forced displacement)」の小分類に分ける;
- 「適応(adaptation)」ではなく、「対応策(responses)」に注目;
- リスクの軽減及び適応と緩和により得られた時間に関するパネルの名称を変更し、海水面上昇と緩和への対応の便益に焦点を当て、近似値は用いない。
この図と表題は両方とも、さらなる議論なしに承認された。
可能にする条件:C4:このセクションは、海洋及び雪氷圏の変化に対する効果的な対応策の実施を可能にするものを論じる。ノルウェーは、データ及び知識の共有化を可能にする者のリストに入れるよう要請した。サウジアラビアは、視界(line of sight)にSR15を入れることに強く反対した。当初のコメントののち、このサブセクションのパラグラフについて、コンタクトグループでさらなる議論をし、その後、冒頭の文章に一つの文章を挿入し、この報告書は「以前のIPCC報告書及びIPBES報告書で評価されたとおり、低レベルの地球温暖化(1.5℃)における海洋及び雪氷圏の科学的な状態を反映する(reflects the state of science for oceans and cryosphere for low levels of global warming (1.5ºC), as also assessed in earlier IPCC and IPBES reports)」と指摘する。
C4.1:適応の課題を論じるパラグラフについて、サウジアラビアは、SR15への言及は全て、知識上のギャップの完全な説明を伴わなければならないと主張した。
米国は:
- 適応が課題である理由を説明する表現を含めるよう要請し、これは能力だけの問題かどうかを問うた;
- 「適応の限界(adaptation limits)」という用語の使用に異議を唱え、これはそのような限界は既知の量であると想定するが、実際はその内容により大きく異なると論じた;
- 「野心的な(ambitious)」緩和への言及に対し、懸念を表明し、これもそれぞれ独自の国内の状況で定義されるべきだと指摘した;
- 転換は「必須(necessary)」と説明する文章は政策規範的であり、改定すべきだと指摘した。
コンタクトグループでは更なる改定が行われ、「野心的な(ambitious)」緩和への言及に関する米国の懸念表明を除き、ほぼすべての懸念表明を反映するよう改定され、その後、このパラグラフは、追加コメントなしで承認された。
C4.2:このパラグラフは、適応の推進役としての統治権力者間の協力及び協調を論じる。サウジアラビアは、国内政策と越境の地域政策との一貫性に関する文章は政策規範的すぎると述べた。コンタクトグループでの議論ののち、この文章は改定され、「一貫性(consistency.)」の代わりに「協調及び補足性(coordination and complementarity)」への言及を含めることとなった。このパラグラフはこの変更を経て承認された。
C4.3:短期の政策決定を行う際は、長期的な視点の影響を可能にすることに関するパラグラフは提示された通りで承認された。
C4.4:リスクの軽減及び回復力の強化を目的とする教育及びキャパシティビルディングへの投資に関するパラグラフは、前のパラグラフとの一貫性のため、サウジアラビアの提案通り、適応型ガバナンス「システム(systems,)」を「アレンジ(arrangements)」に置換する修正が行われ、このパラグラフは合意された。
C4.5:このパラグラフは、海洋及び雪氷圏における変化のモニタリング及び予測を論じる。各国の意見発表に基づき、文章が追加された:スイス(データの共有(sharing of data)に関し);ハイチ(情報と知識に関し;フィジー(極端なエルニーニョ現象/ラニーニャ現象及び熱帯性サイクロンを予報する早期警戒システムの改善)。このパラグラフは、これらの追加とともに承認された。
C4.6:このパラグラフは、社会的な脆弱性及び平等に対応する措置の優先を論じる。意味のある参加及び議論の必要性を強調する意見、国内及び国際的な気候資金の顕著な増額を求める声が述べられた。執筆者は、前者の意見には従えるとし、これを反映させるよう文章は改定されたが、気候資金への言及を入れるには、基となる報告書本文のサポートがないと指摘した。その後このパラグラフは合意された。
C4.7:このパラグラフは、持続可能な開発に対する野心的な緩和及び効果的な適応の便益、および行動遅延によるコスト及びリスクの増大を論じる。文書草案では、SROCCはSR15、SRCCL、さらにはIPBESの生物多様性及び生態系サービスに関する世界評価報告書の結論を強めると指摘した。月曜日のプレナリーで最初に議論された際、サウジアラビアは、現在の評価サイクルにおける他のIPCC報告書への言及に強く反対し、可能な気候耐性型開発経路に関する表現、および前例のない緩和努力に関する表現にも反対した。米国は、緩和を野心的と特徴づけることに再度異議を唱えた。WG I副議長のPanmao Zhaiは、このサブセクションの他のパラグラフとともに、このパラグラフをコンタクトグループに送った。
コンタクトグループでの議論の結果は、火曜日のプレナリーで報告された。サウジアラビアは、再度、他のIPCC SRs、特にSR15へのいかなる言及にも強く反対すると述べたが、パラグラフの改訂版にはこの言及が残った。ロシアも、言及の削除を希望した。フランス、ドイツ、メキシコ、セントクリストファー・ネービス、オランダ、カナダ、ルクセンブルグ、英国など多数の国は、削除に反対し、SR15の重要性及び関連性を強調したほか、IPCC自体の作業を引用しないというIPCCの矛盾を指摘した。
プレナリー及びハドルの両方で長時間の議論が続けられ、サウジアラビアは、「手順上の道を進む(go the procedural route)」意志があると発言し、自国の懸念が報告書及び関連の決定書に記録された京都での2019年精緻版の時と同様にすると発言した。これを避けるべく、SROCCとSR15、SRCCL、IPBES生物多様性及び生態系サービスに関する世界評価報告書との関係性を説明するための多数の方式が提案されたが、その中には、「強める(reinforces)」、「反映する(reflects)」、「拡張する(expands on)」、「と合致させる(is consistent with)」、「以前のIPCC報告書でも見られる(also found in earlier IPCC reports)」が含まれた。
ロシアは、WG II共同議長のPörtnerが提案した「この評価は低レベルの地球温暖化(1.5ºC)及びIPBESの生物多様性及び生態系サービスに関する世界評価報告書の結論を強めると記述し、SR15及びSRCCLは視界から外すという方式に同意した。サウジアラビアは、これに代わり「この評価は低レベルの地球温暖化(1.5ºC)の結論に留意し、この報告書に伴う科学および知識のギャップを認識する」との記述を提案した。
カナダは、この種の議論はIPCCが頼りにしている科学者を遠ざけるものだと警告し、科学者は自分たちの作業の科学的十全性が確保されない可能性を恐れ、IPCCの今後の作業へ参加しなくなると述べた。
結局、執筆者は、SPMにおいて同様なメッセージが別な箇所でも伝えられているとの考えから、この文章の削除を希望すると表明した。これをもって、このパラグラフは合意された。
SPM最終稿:セクションCは、海洋及び雪氷圏の変化に対する対応策の実施を論じる。
サブセクションC1は、海洋及び雪氷圏に対する気候関連の影響に対応する現在のガバナンスの努力における課題, を論じ、下記を指摘する:
- 気候変動の影響の長期的な時間規模と多数のガバナンス・アレンジの短期的な視点はミスマッチである;
- 海洋及び雪氷圏のガバナンス・アレンジは、影響を受ける地域または影響自体の境界と行政上の境界が一致しないことから、課題を抱える、部門を横断する統合がなされておらず、システミックな効果に必要とされる責任の面でも課題がある;
- 生態系における適応には多くの理由で課題がある、たとえば気候関係以外の推進要素の多様性、生態系の適応可能性や回復率が気候関連で削減されること、技術や知識、資金援助の利用可能性の限界などである;
- 海洋及び雪氷圏の変化による現在のハザード及び将来のハザードに対する曝露及び脆弱性が最大である人々は、適応能力が最も福井もの、特に低高度島嶼部や沿岸部、北極や高山地域という開発に問題のある地域の人々である場合が多い。
サブセクションC2は、海洋及び雪氷圏に関係する生態系が提供するサービス及びオプションの支援に利用可能な対応策を論じており、下記を強調する:
- 保護区域のネットワークは、生態系サービスの保持を進められるほか、将来の生態系ベースの適応オプションを可能にする;
- 陸上及び海洋の生息地回復、および生態系管理(たとえばサンゴのガーデニング)は、生態系ベースの適応を強化する上で局地的には効果がある可能性があるが、そのような政策は、高排出シナリオの下では効果性を失う;
- 漁業管理政策などの分野における予防的手法は、地域経済や生活に利するが、その底流にある生態系の変化に対応する能力には限界がある;
- 海草の草原や昆布の森、マングローブなど、植生のある沿岸生態系の回復は、現在の地球規模CO2排出量の0.5%までを吸収でき、嵐から防護し、水の質を改善し、生物多様性及び漁業に利益をもたらす;
- 海洋ベースの再生可能エネルギーオプションは緩和に寄与することができる;
- 総合的な水管理手法は、高山地帯の雪氷圏の変化による影響に対応し、機会を作る上で効果がありうる;
- 観光活動の多様化は、高山地帯の経済の適応を支える。
サブセクションC3 は、海水面上昇に対し、その内容に特化した総合的な対応策を策定する上で、沿岸コミュニティが直面する課題多き選択肢を論じる。下記の記述がある:
- 海水面の上昇が高ければ高いほど、海岸の防護は多くの課題を抱える、これは主に技術的な限界というよりは、経済的、資金的、社会的な障壁が理由である;
- 一部の沿岸設備対策は、現在の海水面からすると低コストで費用効果の高い場合が多いが、予想される海水面上昇及び沿岸ハザードの増大においては、他の対策と組み合わせない限り、一部の対策の効果は薄れてくる;
- 影響を受けるコミュニティが小規模な場合、あるいは災害の後始末である場合、計画移住によるリスクの軽減は考慮する価値がある、ただし安全な代替地が利用可能な場合である、しかしそのような移住は多様な課題で制約を受ける可能性がある;
- 海水面上昇への対応及びこれに伴うリスクの軽減は、将来の海水面上昇の規模や速度及び他の課題に不確実性があることから、大きなガバナンス上の課題を社会につきつける、しかし状況が変化する中、時間をかけて調整される手法を現地に適して組み合わせをなら、容易になりうる;
- 現在、数十年から1世紀に及ぶ時間軸での沿岸防護が決定されようとしており、利害関係者のリスクの許容を考えることで、改善できる可能性がある。
セクションCには海水面上昇のリスク及び対応策に関する図SPM.5が含まれる。この図は、4つのパネルを用いて、異なる海水面上昇及び対応シナリオの下での2100年のリスク、海水面上昇及び緩和への対応の便益、平均の海水面上昇及び極端な上昇への対応、海水面上昇対策の選択及び可能にするものを示している。
サブセクションC4は、気候耐性及び持続可能な開発を可能にするには、緊急かつ野心的な排出削減、及びこれに合わせての協調した持続的で野心を高める適応行動に大きく依存していることを論じる。ここでは次のように記述する:
- 多くの国は、たとえ野心的な緩和を有していても、海洋及び雪氷圏で観測され、予想される変化からすると、適応面で課題に直面する、しかし低排出経路は、リスクを限定し、より効果のある対応を可能にする;
- 規模や管轄権、部門、政策ドメイン、計画策定面を横断する統治組織の間では、協力及び協調を高めることで、海洋及び雪氷圏の変化、並びに海水面上昇への効果ある対応を可能にする;
- これまでの経験で明らかになったことは、短期の決定を行う際に長期的な視点をとりいれ、複雑なリスクに取り組むガバナンス能力を構築するなら、可能にする効果があることである。
- 多様なレベル及び規模での教育及びキャパシティビルディングへの投資は、社会学習(ソーシャルラーニング)を推進し、それぞれの状況に特化したリスク軽減及び回復力強化の対応をとる長期的な能力を向上させる;
- 海洋及び雪氷圏の変化に対し、状況に特化したモニタリング及び予測作業を行うなら、適応の計画策定や実施に情報を提供するほか、短期的な利益と長期の利益とのトレードオフについて、確固とした決定を行いやすくする;
- 社会的な脆弱性及び平等に取り組む措置を優先させるなら、公平で正当な気候回復力を推進し、持続可能な開発に向けた効果ある適応を推進する努力を支えることになる;
- 気候耐性型開発経路を作図する可能性は、海洋、高山、極地域の地域内においても、地域間でも異なり、転換的変化の有無に依存する、このことは、タイムリーで野心的、協調した、耐久性のある行動の緊急性に焦点を当てる。
WGs I及びIIの第2回合同会合の閉会
火曜日の朝、WGs I及びIIの第2回合同会合は、SPMを承認し、その基となる報告書を受理し、全てをIPCCプレナリーに送った。合同会合は、午前11時頃閉会した。
WGs I及びIIの第2回合同会合でとられた行動の受容
火曜日午後のIPCC-51再開時、IPCC議長のLeeは、パネルに対し、SPM (IPCC-LI/Doc. 3)を承認し、基となる科学技術評価報告書、及びSPMとの整合性を確保するための多数の些少な変更(IPCC-LI/Doc.4)を受理するよう招請した。
米国は、SROCCはパネルによる行ごとの承認の対象ではないため、自国によるSROCCの受け入れはその結論の支持を意味するものではないと述べた。
ベルギーは、承認をしやすくし、正確さを確保し、政策決定者による受け入れをしやすくするため、SPMsの長さを削るよう求めた。
韓国は、SROCCは気候変動の影響を理解する上で、極めて重要な構成要素であると述べた。
WG I共同議長のValérie Masson-Delmotteは、この作業のWGを横断する特性の有益性を認識する一方、3つのSRsを1年未満で完成させるための作業負荷の重さを批判した。同共同議長は、WG共同議長、副議長、TSUsにそのような重い作業負荷を課すことが二度とあってはならないと述べた。
議長のLeeは、一つの評価サイクルにおいて3つのSRsを作成するというのはIPCCでも初めてであると付け加えた。
グローバルストックテイクの観点から見たIPCCの将来作業の構成に関するタスクグループの進捗状況報告
パリ協定の下でのグローバルストックテイクの観点から見たIPCCの将来の作業構成に関するタスクグループの共同議長、María Amparo Martínez Arroyoは、このタスクグループの作業に関する進捗状況報告をプレゼンした。どう共同議長は、将来作業の目標に関するインプットを提供するよう各国政府に招請し、IPCC-50の期間中、これに関する会議を開催し、21か国、2つのNGO代表が出席したと述べた。同共同議長は、受け取った回答の予備分析を終えたと発表した。同共同議長は、広範な協議の必要性に対応し、電子コンサルティングプロセスを用いたと指摘し、10月にシンガポールでタスクグループの進捗状況及び活動を議論する会議を、IPCC議長団会議と並行して開催すると述べ、最終報告書はIPCC-52で提出されると述べた。
サウジアラビアは、これまでの作業に対する感謝を表明し、評価は定性的なもので、統計学的ものであってはならないと再度述べた。同代表は、サウジアラビアは異なるプロセスの政治でIPCCが「反撃を受ける(sullying)」ことは好まないとし、IPCCが科学を他の組織の圧力から解放していることに満足の意を表した。
パネルは、進捗状況報告に留意した。
IPCC利益相反委員会の報告
IPCC副議長で利益相反委員会委員長のYouba Sokonaは、利益相反の事例は特定されていないと報告した。パネルは、この報告に留意した。
他の全ての業務
SYR作成スコーピング会議に関する最新情報:火曜日午後、IPCC議長のLeeは、2019年10月21-23日にシンガポールで開催される予定のSYRスコーピング会議の準備作業について、IPCC-50以降の進捗状況を報告した。同議長は、SYRスコーピング会議の科学運営委員会がこれまでに5回開催されたと指摘し、スコーピング会議の詳細な議題書は今後2,3週間で入手できるようにすると約束した。同議長は、この会議の出席者を指名するよう各国政府に招請する2019年4月23日付の書簡に対し、事務局には合計80の空席に対し549名分の候補指名が届いていると指摘した。6月30日、同議長は、WG共同議長に推薦を求め、現在は、最終的な候補者の選抜が行われている。
フランスは、スコーピングを準備しているチームとWGsとの協力に向けたビジョンについて質問し、この第6次評価サイクルではWGsに例外的なほど多くの負担がかかっていると指摘した。
議長のLeeは、英国からの質問に応え、スコーピング会議の初期の指名では、開発途上国出身者が52%、女性が34%、研究機関のものが74%、含まれていたと指摘した。同議長は、政府機関のものは13%であり、残りの87%は、非政府組織や政府間組織、そして民間部門の代表であったと述べた。
中国は、窓口はそれぞれの指名候補の状況を聞きたがっていると強調、タンザニアは米国の支持を得て、選抜されなかった候補者にも通知するよう求めた。議長のLeeは、これは行われると確言し、IPCC-52で完全な報告を行うと約束した。
SR15の翻訳及び発行の最新情報:議長のLeeは、SR15を6つの国連用語に翻訳する作業の進捗状況を報告した。
WG I共同議長のMasso-Delmotteは、SR15が最終決定されて一年近くたつが、公式のフランス語訳が入手可能となっておらず、発行されてもいないとして、極めて大きな焦燥感を表明し、これは執筆者が引用できないことを意味すると述べた。同代表は、民間の翻訳グループはフランス語訳を作成したが、いまだにこれが唯一のオンラインにあるフランス語訳であり、アフリカで利用されていると述べた。コミュニケーション及びメディア関係の長であるJonathan Lynnは、翻訳は現在WMOの契約プロセスの途中であると報告した。
フランスは、WGI共同議長のMasson-Delmotteの発言に共感し、フランスはWG I TSUに資金を提供していることから、この問題には神経質になっていると指摘した。同代表は、引用可能なデジタルコピー及びハードコピーが必要だと述べた。
TG-データの進捗状況報告:TG-データは、口頭での進捗状況報告を行い、IPCC議長団がTG-データのメンバーを指名できるよう、このタスクグループの委託条件を修正し、2019年11月6-8日に最初の顔合わせ会議を行うと指摘した。
閉会プレナリー
IPCC事務局長のAbdalah Mokssitは、IPCC-52は2020年2月24-28日、ジュネーブで開催されると発表した。米国及びIPCC資金に関するタスクチーム共同議長のHelen Plumeは、ジュネーブでの会議開催に関する費用面の懸念について意見を発表した後、Mokssit事務局長は、他のオプションも議論されており、可能な限り早期に追加の情報を出す予定だと述べた。
閉会にあたり、IPCC議長のLeeは、IPCCの歴史上最も野心的な一年において、科学的な厳格さに不断のコミットメントをするとともに、バランスも追及した全てのものに感謝した。同議長は、SROCCにインスピレーションを提供したモナコに感謝し、この報告書の内容は、チリのサンチャゴでのCOP 25で共有されることになると述べた。同議長は、事務局、通訳者、そしてすべてのもののハードワークに感謝した。議長のLeeは、午後1時59分、会議閉会の土を打った。
IPCC-51の簡易分析
“「海、偉大なるまとめ役、人類の唯一つの希望である。今や、過去になかったほど、古いフレーズが文字通りの意味を持つ:だれもが同じ船に乗っている。」Jacques Yves Cousteau
2019年9月20日金曜日、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)がモナコで第51回プレナリーに集まる中、400万人以上の人々が世界中で通りに繰り出し、気候変動の行動を求めた。デモの参加者が声にしたスローガンの一つは、「科学のもとで一つになろう(United behind the science)」。4日後、徹夜の会合を終え、科学者自身が一つになり、パネルは、変動する気候における海洋及び雪氷圏に関する特別報告書(SROCC)を最終決定した。36か国の計104名の科学者が7000件近くの論文をレビューし、海洋や氷床、氷河における気候変動の影響について、一般に、特に政策決定者向けに、情報を与えるため、評価報告書を作成した。
よくないニュースがある。人為的な気候変動は既に、海の熱波の増加や海洋の酸性化、海水面上昇、そして氷河や永久凍土の融解を引き起こしているーそのすべてが植物や動物、生態系、そして何百万人もの人々に災厄をもたらしている。このような影響は、最低レベルの緩和シナリオでも継続し強まると予想される。変化の速度も今は極めて速く、IPCCの評価報告書のように、厳格な科学的健全性指針のもと、ピアレビューされた文献を対象とし、人為的な気候変動と明確にリンクする観測結果を必要とするような報告書は、間違いなく保守的な傾向になる。
この簡易分析は、モナコでのIPCC会合を検証し、SROCCの主要結論に焦点を当てるとともに、そのSPM承認プロセスにも光を当て、気候変動との取り組みで現在進行中のIPCC及びUNFCCCのプロセスという広範な観点から、この報告書の立ち位置を考察する。
SROCC:なぜ、どうやって
海や氷は地球表面の80%以上を覆っており、地球の気候系に不可欠でダイナミックな部分である。このため、SROCCは、我々の惑星の変動して行く気候の物語を理解する上で、極めて重要な報告書である。海は、過去数十年にわたり余剰熱の90%を窮してきた、今、その結果が目に見えるものになっている、海洋の酸性化、層化、酸素の損失が進んでいるのだ。このような影響はの結果、氷床や氷河の急速な融解、海水面の上昇、極端な天候現象の頻度、強度、期間の増加を招き、生態系をかく乱する、そのような影響に見舞われるのは、特に沿岸や積雪、氷結に依存する人々であり、その多くは世界でも最も脆弱で回復力のない人口である。
変化は広範にわたり、前例のないものである。変化は今後も続くと予想され、これまでになく強いものとなる。こういった変化に対処する費用は、行動を遅らせれば遅らせるほど高いものとなる。
SPMは、その土台となる技術的に長文となる主要メッセージを抽出してまとめたものである。この報告書及びサマリーの草稿の作成は極めてインタラクティブなプロセスであり、モナコでのIPCC-51で議論の土台となった草案は、すでに、専門家査読者及び政府から31,000件以上のコメントを受けていた。SPMは、この段階で初めて行ごとの承認プロセスの中で政府による集団レビューに直面する。このプロセスでは、部屋の中の全ての国の代表が執筆者に直接質問し、執筆者はSPMの核文章について、科学的根拠をチェックし、再チェックをせざるを得なくなる。
モナコでの議論の中心は、結論をどのように示すかであり、政府のコメントは通常、メッセージの明確さとトレーサビリティに着目する。このやり方は、多くの点で、通常の科学者のやり方とは対照的である、科学者は自身の研究の詳細を注意深く表現し、再現性を確保する。これは、明確なメッセージを作成し、政策決定者が理解でき、行動の根拠として使えるよう中たちで主要な結論やその意味合いに焦点を当てる方式とは大きく異なる。
多くの点で、SPMの承認プロセスは、翻訳のプロセスである、この訓練を受けた科学者は数少ない:用いたシナリオとか、海洋―大気のインタラクションという複雑な動力学の違いなど、技術的な詳細を政策決定者に十分理解できる表現にする一方で、基となる科学に対しては真実であり続けるという翻訳プロセスである。
モナコの会議では、この翻訳の瞬間が多数見られた。単純な言葉の修正の場合もあった、たとえば海洋温暖化は「乱獲とシナジー的な相互作用がある」という代わりに、「乱獲の悪影響を重ねる(compounding negative impacts from overfishing)」とすることなどである。他の場合、政策決定者の現実世界の政治課題に関連性のある結論にしようと懇願に等しいものもあった。たとえばSROCCのレビューにおいて、執筆者は、気候の影響を受ける人々の「沿岸からの後退(coastal retreat)」を、ある厳しい現実を反映するような形に言い換えるよう求められた:これは全ての事例で課題があろう、場合によっては、計画的な転居というより強制移住となる可能性がある、他の場合でも、たとえば、人口密度が高い小島嶼では、まさに不可能となる。
このような集中審議ののち、多数の参加者は、この報告書は読みやすく、正確で、関連性を有するという点で意見を一致させた。科学は綿密に調べられたが、疑問視されることはなく、主な争点は、特定の表現が国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の下で政治的な重みを持つ可能性があるとの受け止め方に対応するものであった。1.5 ºCの地球温暖化に関するIPCC特別報告書(SR15)への言及削除というサウジアラビアの要請は、一部の参加者からすると、科学的な結論のサマリーに対する誤った法的手法からきているとみなされた。しかし、ある参加者がスペイン語のフレーズを使って指摘したとおり、これは、「立てた親指で太陽を遮ろうとする(block out the sun with an upraised thumb)」ようなものであった。
結局、このSPMは、主に4名の作業部会共同議長の大胆な努力のおかげで承認された、共同議長たちは、24時間のマラソン会議ののち、満場の意見の一致を達成したのである。これにより、IPCC-49における手順上の成果の繰り返しを避けたのである、IPCC-49では、サウジアラビアは、2006年国別GHGインベントリ・ガイドラインの2019年精緻版について全面的に受け入れたわけではないことが記録された。そのような結果をモナコでも繰り返すなら、UNFCCCにスピルオーバーする危険性がある、SROCCは、UNFCCCでの交渉に情報を提供する法的な根拠として、挑戦を受ける可能性があるためだ。究極的に承認で意見が一致したのは、執筆者が見せた柔軟な姿勢によるところが大きい、執筆者たちは、結論の科学的十全性というIPCCがよるところの大きいものを損なわない限りにおいて、自分たちの文章の変更に忍耐強く応じていた。作業部会IとIIの合同会合の閉会時に、IPCC副議長のKo Barrettが(SPMを引用して)表明したとおり、執筆者の姿勢は、言葉を超えて、「タイムリーに協調した野心的な行動を優先する(prioritize timely, coordinated and ambitious actions)」必要性を実演したのである。
より広いプロセスとの結びつき(そして断絶)
SROCCは、より大きなものの一部に過ぎない、そしてこれは今年、IPCCが作成した他の特別報告書を合わせてみることが重要である:1.5℃の地球温暖化の影響に関するSR15;気候変動と土地に関する特別報告書;さらには2006年GHGインベントリ・ガイドラインの精緻版である。これら兄弟分の報告書と同様、SROCC は、第6次評価サイクルの重要な一部であり、気候変動とその影響、適応及び緩和オプションに関する現在の知識を示す第6次評価報告書(AR6)にとっても極めて重要である。AR6は、パリ協定の下でのUNFCCC締約国の行動約束(国家決定貢献:Nationally Determined Contributions, or NDCs)で現在行われている改定作業にも情報を提供する。この新しいバージョンは引き上げられた野心レベルを示すことが期待される。SROCCは、IPCCの作業の広範な集まりの一部であり、このような更新された約束が、科学に対する豊かで深い理解―すなわち、全ての適切な気候政策の基礎でなければならない理解―から情報を得ていることを確実にする。
しかし、SROCCは、断絶という問題も引き起こす、特に海洋と大気のGHG濃度の影響という数十年から数世紀の時間規模のものと、現在の大半のガバナンス制度における短い時間軸での政策決定や計画策定サイクルとでは、時間規模上のミスマッチがある。このことは、金曜日の若者が率いるデモにみられるように、多くの人々が行動を求める声を上げているのに対し、翌週月曜日の国連気候行動サミットでの精彩を欠いた宣言とでは、この断絶が鮮明に示されている。
成果と影響
IPCC評価報告書の成果において最も有用なもののひとつは知識上のギャップを明らかにすることである。このようなギャップは、科学から注目されることの少ない開発途上国や小島嶼途上国及び遠隔地にみられる傾向があり、気候変動の影響に最も脆弱なものであるのは皮肉である。IPCCの報告書は、世界各地を対象としており、評価プロセスも明確にされていることから、科学者による研究が最も必要とされる分野及び地域の特定を可能にする。
この意味で、IPCC奨学金を受けた開発途上国出身の若い学者たちが、IPCC-51の開会前夜に、モナコのアルバート大公主催で行われた歓迎式典において、栄誉を受けたのはふさわしいことであった。これらの学者たちこそ、必要とされる科学研究を担っていく。これらの若い科学者は、金曜日のデモで明らかにされたとおり、先進国と開発途上国の垣根を越えて世界中に広がっている行動を求める人々のサポートを受ける。
国連気候行動サミットでのスピーチで、Greta Thunbergは、「好むと好まぬとにかかわらず変化は」きている(Change is coming whether you like it or not)」のである。IPCC SROCCは、海洋と雪氷圏は既に変化しており、悪化する一方であることを明らかにした。モナコで、IPCCは、グレタが話していた変化が一般の理解を得、望むべくは効果ある行動へと向かうように変化するよう、役割を果たした。
将来の会議予定
IPCC WG III AR6第2回代表執筆者会議:IPCC作業部会IIIの第2回代表執筆者会議は、AR6の作成作業を続ける。 日付:2019年9月30日―10月4日 場所:インド、ニューデリー www: http://www.ipcc.ch/calendar
海洋地域フォーラム2019:海洋地域フォーラムは、「健康な海洋を達成―2020年以後の地域海洋ガバナンス(Achieving a healthy ocean - Regional ocean governance beyond 2020)」をテーマに開催され、SDG 14の「水面下の生命(Life Below Water)」を支援する強力な地域海洋ガバナンスのため、明確な提案をし、行動可能なアウトプットを勧め、パートナーシップ構築を目指す。このフォーラムは、世界中の政策決定者、科学者、市民社会に、海の健康のための解決策を議論する場を提供する。 日付:2019年9月30日-10月2日 場所:ドイツ、ベルリン www: https://www.prog-ocean.org/marine-regions-forum/
適応基金理事会第34回会合:適応基金(AF)は、京都議定書の下で設立され、開発途上国の脆弱なコミュニティによる気候変動への適応を支援するプロジェクト及びプログラムに資金を提供する。この基金は、AFBが監督及び管理をする、このAFBは16名のメンバーと16名のメンバー代理で構成され、一年を通して会議を開催する。世界銀行は、暫定的にAFの評議員を務める。 日付:2019年10月7-11日 場所:ドイツ、ボン www: https://www.adaptation-fund.org
2019年北極圏議会:この会議には、各国の首長、政府、閣僚、国会議員、専門家、科学者、起業家、ビジネスリーダー、先住民の代表、環境主義者、学生など、北極の将来に関心を持つものが集まる。 日付:2019年10月10-13日 場所:アイスランド、レキャビク www: http://www.arcticcircle.org/assemblies/future
SYRスコーピング会議:IPCC第6次評価報告書のSYRスコーピング会議は、シンガポールで開催される。これに続いてIPCC議長団の第57回会合が開催される。 日付:2019年10月20-23日 場所:シンガポール www: https://www.ipcc.ch/calendar/
2019年われらの海洋会議:第6回われらの海洋会議は、将来の経済成長を持続可能なものにする行動及び政策の根拠として、知識の重要性に注目する。この会議には、政府、ビジネス、市民社会、研究機関の指導者が集まり、それぞれの経験を共有し、解決策を明らかにし、クリーンで健康、生産性のある海洋に向け行動すると約束する。 日付:2019年10月23-24日 場所:ノルウェー、オスロ www: https://ourocean2019.no/
損失と損害のためのワルシャワ国際メカニズム第10回執行委員会会議:気候変動の影響に伴う損失と損害のためのワルシャワ国際メカニズム執行委員会(ExCom)第10回会合は、このメカニズムの機能を実施すべく指針を提供する。 日付:2019年10月23-25日 場所:ドイツ、ボン www: https://unfccc.int/wim-excom
WMO高山会議:この会議は、ハイレベルダイアログを促進し、政策決定者及び現地の行動家が、山岳部や川下の流域における持続可能な開発及びリスク軽減をサポートする、科学に基づく、利用者にやさしい知識及び情報のシステム構築に向けたロードマップの開発に参加できるようにする。WMOが招集する会議。 日付:2019年10月29-30日 場所:スイス、ジュネーブ www: https://highmountainsummit.wmo.int/en
サンチャゴ気候変動会議(UNFCCC COP 25):サンチャゴ気候変動会議では、UNFCCC第25回締約国会議(COP 25)、第15回京都議定書締約国会議(CMP 15)、第2回パリ協定締約国会議(CMA 2)が開催され、合わせてUNFCCC補助機関会合も開催される。会合前期間は2019年11月26日から12月1日。 日付:2019年12月2-13日 場所:チリ、サンチャゴ www: https://unfccc.int/santiago
IPCC WG II AR6第3回代表執筆者会議:WG IIの第3回代表執筆者会議は、AR6の作成作業を続けるため開催される。 日付:2020年1月27-31日 場所:TBD www:http://www.ipcc.ch/calendar
IPCC-52:この会議は現在、ジュネーブでの開催が予定されている。しかし他のオプションも探っている。 日付:2020年2月24-28日(TBD) 場所:スイス、ジュネーブ (TBD) www:http://www.ipcc.ch/calendar
追加の会議については、右記参照:http://sdg.iisd.org